人魚姫
私はマイ町の半人前だけど、立派な住民として今日で半年が経った。家名は言わない方が良いと注意されたから、ただのけーこ。
それと、なぜか『けいこ』じゃなくて『けーこ』と呼ばれている。暦や植物や食物や動物など地球と同じなのに、人は白人で髪や目の色がカラフル。すごく気になってディランドに聞きたいけど、トリップ以来話をしていない。最初の頃は、ジャガイモが青だったり、ニンジンが白でレタスがピンクだったのは驚いた。
でもこの世界の人が地球に行って、ニンジンがオレンジでピーマンが緑と赤と黄色とオレンジとかだったら反対に驚くと思う。流石に馬が赤くて、牛が黄色なのは受け入れ難い。一番受け入れられないのがお花。茎も花びらもカラフルでそれは良いけど、茎と葉っぱがカラフルで花びらが緑って許せない。花びらは他にもいろな色があるから、まあ良いかな。うん、許すね。
このカイライ国は西側が海に面していて、世界十三ヶ国ある中で一番大きい大国。季節は四季があり、穏やかに過ごせて世界一豊で住み易い環境。
そんな私の日常は、午前中の日課の洗濯物を干しをする。これがかなりの重労働。洗濯物の量が半端じゃない。私の生活は日の出と共に始まり、夕暮れと共に終了。
本当に老人のよう、いいえ、農婦のような健康的な生活をしている。もちろん中世時代のようなこの世界は、電気がないので、自然とそうなってしまう。蝋燭は蜂のワックスで作ったお手製で、ワックスをユートと男の子達のグループが採りに行く時に「何事も経験」をモットーに掲げて生きている私なので一緒に付いて行った。
初めはアウトドア万歳状態で、日本のアニメソングメロディーを歌いながら楽しく歩く。子供達は私の歌をすっごく気に入っているので、子供達にもいろんな歌を教えてあげた。この世界は、音楽もあまり発達していないみたい。歩いて三十分して疲れたので「休憩しよう」と言おうか迷っている時に、第一の蜂の巣を発見!
ユートに作戦を聞こうとしたら、男の子達は棒を握り蜂の巣に突進。怒った蜂達が、私を目掛けて突進して来た!
ビックリしてボーっと突っ立ていた私は、ユートに腕を引っ張られ、それからひたすら走った。そして小川にダイビングして、水中に頭を沈めて、蜂達が去るのを待った。
息が苦しい……この世界に来て、窒息死を何度しそうになっただろう。
蜂達が去った後、川から出てユートに支えられながら川の近くの木陰で休んだ。気候も良く、ユートも温かいかったのでよかった。ユートに抱き締められた時に、彼の体が筋肉質で固い。私より年下のくせに、大人っぽくてドキッとする。
しばらくして、蜂の巣を持ってきた男の子達と合流した。皆はもっと蜂の巣を採集するらしいけど、私はもう気力と体力がなかったので、七歳の男の子と蜂の巣を持って一緒に孤児院に帰った。孤児院で女の子達と、蝋燭や蜂蜜を作った。こっちの方が数倍楽しい。
その日の夜は、何個か蜂に刺された所が痒くて、なかなか眠れない。ディランドのお願い三のおかげで、肌に後が出来なかった。ディランドありがとうと、初めてディランドに感謝した。
私の他の日課は、日の出と共にチビちゃん達を起こして、着替えや洗面を手伝い食事の手伝いをして、朝食を食べて洗濯に取りかかる。洗濯の後は昼食の準備を手伝って、昼食を食べてチビちゃん達を送り出す。ここでは五歳から十五歳まで午後に三時間、読み書きや算数を教えてくれる学校がある。
私が読み書きが出来無い事を知ったヨネさんに学校に行くことを勧められたけど、流石にこの年なので断った。ここに来て二ヶ月が過ぎた頃に、ミトさんとヨネさんには、私が異世界から来た事を告げた。お世話になって親切にしていてくれる人に嘘を付くのはかなり辛い。ここに来た経由を話した時にディランドの話をしたら、ヨネさんが暴走してしまった。
「そうよ。けーこは色持ちで可愛いし、すばらしい才能を持っているしどこか特別だと思っていたのよ。ディランド神の国から来たのね。
だから洗濯の仕方も、火のおこし方も知らなかったのね。ディランド神は、私達にけーこを下さったのね」
異世界とかの発想が出来無いみたい。ファンタジーとか溢れている日本人のように、理解してくれない。お互いの基本知識の違いで、未だにカルチャーショックを受けてしまう。私が常識と思っている事が非常識だったりするので、これはきっと月日が解決するだろうと、あまり気にしない事に決めた。
「そうだね。でも周りには、今までのように記憶喪失と言っておくよ。異国の人でも受け入れない人もいるしね。それにディランド神の国から来た事が分かると教会に連れて行かれるからね。これは三人の秘密ということにしよう」
ミトさんが食事のあいさつと、かねての生活のあいさつ以外の一言より多く喋っているのを始めて聞いた。とっても思慮深い人。ヨネさんの影に隠れていたけれど一家の大黒柱だった。言葉が話せるのに読み書きが出来ないと言う、王道パターンを私も経験している。
想像の乏しいディランドにも、悪気が無かったと思う亊にしている。初めの頃は、午後にソニが教えてくれたけれど……私がすぐに文字を覚えて始めは喜んでいた。でも、文字を綴れなくて、イライラし始めたので、途中からユートが教えることになった。私は日本語を話していて、口から出る時に勝手にディランド語に変換。そして耳にはディランド語が日本語になって入って来る。
濁った手鏡を見ながら口元に意識して見ると日本語の発音の形だったけど、ディランド語を普通に話している感じで違和感がない。ディランドを尊敬してしまった。文法が日本語でよかったと思う。これがもし英語だったら、話もまともに出来ない子になっている所だった。日本語の単語を話している私には、スペルが書けないから単語を一つずつこの文字はなにと覚える亊にする。
でも文章を書く時に、莫大な記憶の中から単語の文字を引き出すのが難しくて、文章を書くのを諦めた。読む事が必要な時は、一文字一文字日本語に変換して読んでいる。
この世界は歴史書や司法書はあるのに、娯楽本がほとんどないので読書をする気がしない。この世界は、印刷技術が発達していると聞いた時は驚いた。
紙はまだ高級品なので、書物は高級品で貴族かお金のある商人の人しか所有していない。後は、図書館で読むくらい。この町の娯楽は旅の楽団がお話を少しするくらいで、この町には毎年春に三日くらい滞在する。だから街人達は、春が来るのが待ち通しい。
孤児院で話した『不思議の国のアリス』が、子供達によって街中に広まる。噂を聞いた旅人兵士商人などが、作者の私の話を聞くために孤児院に押しかけた。困ったミトさんが、二週間に一回読書会を開いた。席は五十席で前売券はすぐ完売してした。
その後のミネさんがすごい。孤児院の食堂と居間の壁を取り外す。私の提案でパンや飲み物を売る。一ヶ月の孤児院の収入が三倍に増えてヨネさんに泣きながら礼を言われ、もちろんミトさんにも。私の方がお世話になっているから役に立ててよかった。この世界には娯楽がないから、童話でもすぐに券が完売してしまう。
ここに来て三カ月経った頃に、二十代後半の空色の淡いピンク色の目の、パステルカラーのハンサムな男の人が孤児院に来た。彼の名前はサイラックさんで、王都で出版社をしている社長。従業人は五人の小さい会社で、私の話を出版している。
この世界は、著作権がしっかりしていると聞いた時は驚く。法の方が発達が早かったんだ。本が出版された三週間後にソニとユートと後五人の子供達の成人祭があった。祭りと言うのは、根本的どこも同じらしい。屋台のお店がたくさんあり、私はチビちゃん達と一緒に見て回る。本当はユートに一緒にダンスを踊ろうと、誘われていた。
騎士になるユートは、かなりモテる。ソニも若い男の人達と、ダンスを楽しんでいた。出版した本はすぐに完売して予約が殺到しているけれど、印刷が間に合わない。私の手元に、孤児院の二年分の収入が入った。全額をミトさんとヨネさんに渡したら、断られた。
だから私を助けてくれた商隊から布を買い女の子達で、皆用に服を普段着とよそ行き用の二着作った。もちろん下着も作ったよ。靴も皆に新しく揃える。
それと、近くの農家からメスの牛を二頭と子豚を四匹買った。チビちゃん達が大喜びをして動物が来た時は、私もチビちゃん達とどろんこになって動物を納屋に入れた。初めは豚に抵抗があったけど、触ったら可愛いく見え始めた。
私を助けてくれた商隊の隊長は、卵色の髪とヒゲで熊をイメージさせる優しい人。目の色が黄色で可愛いく名前はベアードリック。チビちゃん達にとても人気で肩車をひっきりなしに迫られる。
ベアーさんは、カイライ国とスイ国の間で商売をしていて両方の王都にお店を持っている。そして、私の本の売上に貢献しているらしい。私と対面した時に「元気になってよかった」と言って、高い高いをしてくれた。ヨネさんがあきれた声で、私が「二十歳よ」と言うと、もう少しで落とされそうになった。もう、この世界の人達は、たでだでさえ背が高いのに高い高いなんて怖すぎる。
私が孤児院で『不思議な国のアリス』の話をした時に子供達から、トランプって何と聞かれたので、自分でトランプを作って、ばば抜きやポーカーとかの遊び方を教える。元々この世界の紙は厚めなので、この自家製トランプは中々良い具合に出来た。ヨネさんにトランプを作るために紙とペンが要ると言うと、すぐに用意してくれる。
ミトさんがナイフで綺麗に小さく切ってくれる。ミトさんは中々器用な人。私は書道を習っていたのでインクのペンは、それほど苦じゃなかった。驚いた事に、このトランプが広がるのも時間がかからなかった。噂を聞き付けた町の人達がトランプを欲しがって、孤児院はいつの間にかトランプ工場になった。
ミトさんの説明書付きの手作りトランプは、いつの間にか予約殺到して、私達は寝る間を惜しんで作っていたら、ベアーさんが助けてくれた。トランプの特許を取るのを勧められ、ミトさんの名前で取ろうと言ったら断わられて、私の名前で登録した。
登録の名前は、「カイライ国マイ町出身の黒目黒髪のけーこ」。とても微妙な名前。トランプの販売は、ベアーさんの商隊でしてくれて、生産は未だに復興が送れている、ここから五時間ほど北に歩いた所にある村に印刷機を運び工場を作る。
その村は、ソニとユート達の村の隣町。二人の村はもうないけど、村が復興して少しでも豊になってくれたら良い。もしベアーさんが一人身だったら、お嫁さんにしてもらうのに奥さんがいるみたい、残念。収入の全てをベアーさんの商隊とその村で分けてと言ったら、これはビジネスだと怒られた。
孤児院に十%、私に二十%で契約書を交わす。ベアーさんが私の名義で銀行にお金を振り込むこ。銀行があったのですごく驚く。異世界の基準が分からない。ユートとソニの出発前日の最後のユートとの最後の勉強会が終わった後、彼に珍しく話しかけられた。
「けーこ。三年したら、立派な騎士になって帰って来るから、待っていて欲しい」
ユートの顔が赤いけど、風邪でも引いたかな? それに変なこと言っている。
「うん。ここは私の家だし行く所も別にないし。だからいつまでも待っているよ」
返事をするとにユートの顔を更に赤くなり、顔を険しくして部屋から出て行った。
出発の朝、二人のお見送りはチビちゃん達の泣き声とヨネさんの二人の注意事項のマシンガントークで、かなり時間がかかる。ヨネさんも相当寂しいんだ。きっとチビちゃん以上だと思う。二人はベアーさんの商隊と一緒に王都に行く予定。
彼の商隊は、少し離れた所で、馬や荷物の最終点検をしている。結構大きな集団で意外なことに女の人が何人かいる。ベアーさんが一緒なので、安心。ユートとソニの二人の贈り物をあげたくてヨネさんに相談をした。ソニには、丸いルビーのペンダント。
ユートには、馬を買った。この馬も近所の農家で一ヶ月前に生まれた馬で、さベアーさんが届けてくれた。ソニのペンダントは、ベアーさんの所にあったので丁度よかった。成人女性は親が首飾りをあげるけど、孤児院は、余裕がなくてあげられなかったと言うヨネさんに、私は抱き付いて「ヨネさんは、いいお母さん。ミトさんは、いいお父さん」と伝えた。
騎士に入る貴族の子供は、皆馬を持っていると聞いた。丁度近くにある農場で、一頭の牝馬が生まれたのでその馬を買った。贈り物を渡した時は、二人共目を白黒させる。
やっと現実に戻ったソニは、さっきよりさらに大泣きして、そして私はいきなりユートに抱き付かれる。二人から「気持ちだけで良い」と断れたけど、ヨネさんに「貰いなさい!」と言われ、しばらく考えた後に笑顔で受け取ってた。ソニの顔が泣いているか笑っているか分からない顔をする。ユートの顔は、始めて自転車に乗った時の小さな子供のように輝いていた。 いってらっしゃい。私の弟と妹。ディランド神の祝福がありますように。
(親指姫 旅の途中で何を感じましたか? 私も旅立ちます。旅の終わりに良い亊がありますように。)