ピーターパン
私達はカムリットの後について薄暗い小路を進んで、広い広場に着く。その広場の回りには、ぽつぽつと人が色々なことをしている。その広場の回りには廃屋の建物が軒並している。その一つは、工場のような建物だった。
「こっち」
私達はカムリットの後を歩く。カムリットが木陰のベンチに座っている小さな女の子の所に行った。私は昔から子供が好きだから子供を良く観察をしていて、結構その子の年を言い当てる特技がある。
でもその子はとても小さいのに骨格や表情が、しっかりしていて年が分からない。その女の子の隣に大きな男の子が立っている。男の子は十三歳くらいできっとキミトと同じだと思う。
「アミーヒ。聞いてくれ、この人がアミーヒの大好きな『不思議の国のアリス』を書いた人だよ」
カムリットが近付いてそう言う。
「ほんとう?」
寂しそうな目をしていた女の子がか細い声で聞く。
「うん。本当だよ。僕もさっき面白い話を聞いたんだ」
女の子と男の子が、カムリットの話を聞いて興味深そうに私の方を向いた。
「お姉ちゃん。私に、お話してくれるの?」
女の子の声は、相変わらずとても小さくて聞き取りにくい。
「うん。どんな話が良いのかな」
子達にどんな話をして良いのか分からなかった。この子が、どんな話を必要にしているか分からなかった。
「あのね。私達をどっか楽しい所に連れって行ってくれる話。それでね、悪い人をやっつける話」
なんか、この子を見ているとこの子の言う悪い人が一体誰なのか気になった。
「じゃあ。ピーターって言う男の子の話をするね」
カムリットが気を利かせて、椅子をユートと私に持って来る。その間にいつの間にか、私達の周りに人垣が出来ていた。きっと、みんな新米顔に興味を持ったのかもしれない。その人達の衣服は、かなり状態の悪い物ばかり。そして、異臭が漂いあまり良い物ではない。みんな疲れている。その人達の間に子供達もたくさんいる。子供達の目は、生き生きしていたので気持ちがホッとする。
『ピーターパン』の話をした。話の途中、私の手が寂しかった。話が終わり周りの人に他の話をせがまれたけど、カムリットが私がこれからボスに会いに行くと言うと皆すぐに散らばった。
「お姉ちゃん。また、アミーセに会いに来てくれる。そして、お話をしてくれる」
小さい声に答えてあげたいけど、私はすぐにこの王都を離れる予定。
「ごめん。えとね。お姉ちゃんね、家に帰るの。マイ町の孤児院に帰るの」
孤児院と言うと、三人の顔が強張った。
「お姉ちゃん。行っちゃダメ。殺されるよ。私の足も…もう、歩けないの」
子達も、カムリットと同じで孤児院にいたんだ。隣で、大人しく聞いていたユートが優しい声で、その子達に言った。
「僕達のいる孤児院は、すごく良い所だよ。優しい院長さんと院長婦人がいて僕達のお父さんとお母さんなんだ。だから、けーこの事を心配しなくて良いんだよ」
子供達は、すごく安心した顔をする。
「そう。良かった。お姉ちゃんの頭は、その人達にされたんじゃないんだ」
「うん。違うよ」
「良かった。私も今は、ウドットのお父さんとお母さんが、私のお父さんとお母さんなの。ウドット達は、スイ国から来てその途中で妹を亡くしたの」
アミーセが隣にいるウドットの服を握った。アミーセの隣にずっと立っていた男の子が、私の手を取って手の平に木を掘って作った小鳥を乗せた。男子の手は、たくさんの小さな切り傷がある。
小鳥は、とても繊細に彫られている。この子もこんなに才能がある。生きた鳥のような桃色の小鳥は、私の手が巣であるかのように小さく体を休ませている。私はびっくりして大きな子に聞く。
「えっ」
「あっ、ウドット。話が得意じゃないんだ。それ、おばさんにあげたんだ。ウドット。こんなに大きいのにとっても器用なんだ。ウドットのオヤジとウドットは、ここで木材を扱う仕事しているんだ。それと、ウドットはアミーセを抱っこしてあっちこっち連れて行くのが仕事」
「えっ、いっつも抱っこして運ぶの?」
さっきサートがお兄ちゃんが厠に連れて行ってくれると言っていた。この世界には、車椅子がないんだ。
「ねえ。車椅子を作ったらどうかな?」
「車椅子?」
シマッタ。車って言っても分からないよね。
「えっとね。椅子に馬車みたいに車輪が付いているの」
その後、私は皆に知っている事を出来るだけ教えた。そして、皆でウドットのお父さんに会いに行った。もちろんその間も、ウドットがアミーセを抱っこしていた。
ウドットの家は、廃屋を直した小さい家だった。その家の中に入るとそこは、部屋の一室を工房にした小さな部屋でウドットに似た大きなおじさんがテーブルを作っている。私達を見ると快く迎え入れてくれた。ウドットに、似た人だ。私は、さっき説明をした通りにまた説明をする。
ウドットのお父さんが紙と筆を持って来たので、それに車輪の大きい椅子の絵を描く。一人で動かす事は出来ないかもしれないけど、誰かに押して貰えるだけでも良いと思う。ウドットのお父さんは、しばらくその紙を見ていた。そしてその紙から頭を上げると、特許について聞く。
私は、この件に関しては断然断った。それに対して、皆が納得していない。こう言う事は、いろいろ開発されて便利になって行くべきだと思う。そして必要な人、皆に広まって貰いたい。私の下手な説明で、やっと分かって貰えた。
その後、ウドットが良い物を見せてくれると言うので、その部屋を出て家の中庭に行った。その中庭には、ピンクと黄色の大きな木が一本堂々とある。一つの太い枝に、鳥の巣箱が掛かってある。でも、その巣箱と言うのか分からないけど、その巣箱はたくさんの部屋がある。
どこからどう見ても巣箱と言うより、ホテル。鳥のホテルは、たくさんの鳥が出たり入ったりしていろんな仕草をしている。すごい。どうして、蛍光灯の鳥やパステルカラーの鳥や虹色の鳥が存在するの?
やっぱり、異世界ショック。この色ショックには、かなり慣れたと思っていたけど全然慣れない。私は、いろんな色の鳥がそのホテルに入る姿が綺麗でついついまた「あー」とか「うー」とか「あっ、あー」と一人で唸ってしまった。
「やっぱり、おばちゃん。本当に、大人なの?信じられない」
後ろで変な事を言っていたカムリットが、私の様子に痺れを切らした。
「早く。ボスの所に行くぞ」
私達は、ウドットとアミーセとウドットのお父さんに別れを告げてそのボスと言う人の所に行く。別にそのボスに会わなくてもいいのにと言ったら、この場所に来た人は皆会わないといけないらしい。
相変わらずカムリットがユートの剣を両腕で抱いていて、たまにユートがその剣をチラチラと見ている。そのボスと言う人の住んでいる場所は、二階建ての結構綺麗な家。この廃屋の軒並で一つだけ浮いていた。




