表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
my tale  作者: Shiki
27/62

ピーターパン

 私こと、杉山けいこはどうしてこんな強烈な人達にばっかり逢うんだろう。えっ、名前が日本名って。たまに自分の名前を言わないと『杉山けいこ』を忘れそうになるから言っただけ。最近、ディランドが何か仕組んだかなと疑ってしまう。


サートとカムリットに『桃太郎』の話をした後、サートにもっと話を強請られた。サートは話が終わると、大きな袋から紙と墨のような筆で桃太郎が怪物を倒している絵を描いた。


 この子の想像する怪物に牛に似た顔をしていて角があった。サートのお兄ちゃんとお姉ちゃんは、きっと足の悪いこの天才の弟のために画材を無理して用意したのかもしれない。サートが生活のために貢献していると思わせるために、彼が胸を張って生きて行くために、この絵を楽しむ事を生活習慣にしてない世界で絵を売り始めたのかもしれない。この子は天才。本物の天才は、


 会った時にすぐ分かると言っていた人の言葉の意味が分かる。私は、サイラックさんにこの子の事を話そうと思う。この子が私の童話の挿絵を描いてくれたら良い作品になると思う。


 サートに紙と筆を貸して貰いユートにサイラックさん宛に手紙を書いて貰った。サイラックさんの手紙は、すぐに街にいる男の子に配達を頼んだ。こう言う配達は、結構良いおこずかいになるみたい。


 サートとカムリットが「きびだんご」を食べたいと強請られた。はっきり言って、私も「きびだんご」なんて知らない。だから、ソニのパン屋さんに頼んでドーナッツの穴を作って「きびだんご」で売って貰おうかな。良かった、ドーナッツは中学の家庭科で作ったから作り方を覚えている。これが、売れてパン屋さんが繁盛してくれたら良い。そして、あのパン屋さんでもっと助けられ人が増えて欲しい。


 ボビートには、サートの兄弟が来るまで一緒に居てもらうように頼む。ボビートは、自分の任務を放り出せないと言っていたけど、隣の布屋のおばさんのいない中で一人で待つサートの事を心配してそこに残る事にした。夕暮れにボビーとさんの行付けの食堂で待ち合わせをすることにする。


 私達は、街の中心部からかなり離れた寂しい所に歩いて行った。


「止まれ。ここから先に行くことは出来ない。帰れ」


 寂しい家の連なった所を抜け薄暗い細い小路を歩いて行った所で、さらに前に進むことをどこからか聞こえて来る声によって止められた。


「ミック。俺。カムリット」


 カムリットが私達の前に出て、大きな声で言った。


「カムリット。お前、規則を破るのか?」


 ミックと呼ばれた人の人影が見えない。どこから、声が聞こえるかも分からない。

「だって、この人。『不思議の国のアリス』を書いた作家なんだ。それで、アミーヒにその話を聞かせるんだよ」


 沈黙の後に、またどこからか声が聞こえた。声の方向が分からないなんて不思議。


「『不思議の国のアリス』。あの、今巷で有名な話を作った人なのか?」


 カムリットは自慢げに声をあげて、その声の持ち主に言った。


「うん。そうだよ。きっと、皆もその話を聞きたいと思う。それにね。さっきだって、新しい話をしてくれたんだよ。きっ


 と、ボスだって許可してくれるよ」


「ちょっと、待ってろ。今、ボスに聞いて来る」


 私とユートとカムリットは、その場にしばらくいた。


「この場所は、なんだ?」


 しびれを切らしたユートが少し険しい声で カムリットに聞く。


「もし危険な所だったら、けーこをそんな所に連れて行けない。今すぐ、帰るぞ」


「べ、別に危ない場所じゃないよ。ただ、この土地の地主のバカ息子がこの土地に住んでいる俺達を追い払うために、いろんな人を連れて来るから…だから、今は皆慎重になっているんだ」


「どうして追い出されるんだよ」


 ユートは、まだ納得していないみたい。


「別にいいだろ」


 カムリットが横を向いて足で土を蹴った。空中に舞い上がった煙が、なぜか寂しい。


「ボスの許可が出た。但し、武器は全てこっちで預かる。カムリットに渡せ」


 カムリットが、ユートに手を伸ばす。


「誰が、剣をお前らに渡すか!」


 ユートが声を張り上げ、私と繋いでいる手の反対の手を剣に添える。


「や、止めて。お兄ちゃん、お願いだ。別に盗まない。後で返すよ。お願いだ。俺がその武器を預からないとこのおばさん、アミーセの所に行けないじゃないか!」


 カムリットがとっても切羽詰まっているのが分かる。でも、どうしてユートがお兄ちゃんで私がおばさんなの?


「ユート。大丈夫だよ。カムリットを信じよう」


 ユートが私達の顔をしばらく交互に見て、腰の剣をカムリットに渡す。カムリットは、それを大切な物を預かったように丁寧に両手で抱えた。


「ここに入る事を許可する」


 ミックと言う人の声が、またどこからか聞こえた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ