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my tale  作者: Shiki
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桃太郎


 豹を見た後、サイラックさんの仕事場に寄りたかったので馬宿の方へ歩く。


「誰か、その泥棒を捕まえて。泥棒。どろぼー」


 小さい男の子の声が聞こえた方から、私と変わらない背の黄丹色の男の子がすごい勢いで、こっちに向かって走って来る。その子が私の横をぶつかり、通り過ぎた。私が少しバランスを崩した時に、ユートが支えてくれた。


「大丈夫?」


「っあ。うん」


「ぎゃー。放せ。今すぐ、はなせー。人攫い。助けてー」


 その声の方を向いたら、ボビートさんがその黄丹色の髪の男の子を片手で抱えている。ボビートさんの手に、薄汚れた灰色の袋と桜色の袋があった。


「けーこ様。これは、あなた様のです」


 私達の所に来たボビートから渡された袋は、確かにさっき買った袋だった。すごい、全然気付かなかった。これって、王道イベントだよね。いかに異世界が治安が悪いか表すためのイベントだー。かなり、感激かも。それに、なんと言う神業。すごい。


「あっ、ありがとう」


 ボビートがやっとその子を下ろしたけど、しっかりと片腕を捕まえている。


「放せよ。おやじー。誰かー。たすけてー」


 その子は、まだ一生懸命叫ぶ。もちろん、きちんと兵隊の服装のボビートから、その子を助ける人はいない。


「五月蝿い。だまれ。殴るぞ」


 ボビートがそう言うとその子は、ピタリと口を閉じた。そんな仕草の子供が可愛い。


「すごいね。どうしたら、そんなに上手に物を盗めるの?」


「……」


 その子を含めて、皆で哀れみのような目で私を見ないで下さい。


「お前、頭悪い」


 その子は私の顔を見て、初めはビックリした後に言った。


「こら」


 ボビートさんが『ポカン』とその子の頭をげんこつで打った。きゃー、何。この『ポカン』って殴るの。漫画の様だ。感激、このタイミング。でも、痛そう。


「このけーこ様は、あの偉大な本を書かれた作家様なんだよ。頭は、すごく良いんだ。『不思議の国のアリス』って、おまえでも聞いた事があるだろう」


 あのー、偉大ってなに? 大体、様付け。様。様。何様? 


「うっそだー。何で、こんなチビにあんな話が書けれるんだよ。うそだー。それより、この腕。放してくれない。おっさん」


『ポカーン』


 また、ボビートさんがその子を軽く叩いた。良い響き。


「いてー。いてっいぞ。おやじ。何度も殴るな」


「小僧。今回の盗みは警備に知らせないが、悪い事をしたんだからこれ位我慢しろ。大体、けーこ様は、お前みたいにチビじゃない。二十歳と言う立派なレディーだ」


 なっ、なっ、なんで、私の年知っているの。まさか城にいる人、皆知っているとか。いやー。女は、年を隠しミステリアスに生きる者なのよ。それを、年がバレルと魅力が半分になっちゃうよ。大体、ボビートが乙女の年をばらすのがいけないんだ。


「うっそだー。全然、胸ないよ!?」


『コロス』。


 私もボビートの真似をして右手に拳を作って頭の方に持っていった。


「やめろ。けーこ。怪我するよ」


 ユートが私の右手を取って止めた。いいえ、売られた喧嘩は買ってやりましょうよ。そうじゃないと、女じゃない。ポカ。ポカ』。ポカポカって、さっきから殴り方を密かに変えている? 流石、ボビートさん。私の仇を取ってくれました。良い。既婚者で、四十代じゃなければ……かなり、悔しい。


「謝れ。坊主。いくら本当の事といっても言って良い事と悪い事が在る」


『ボビートもコ.ロ.ス.』。


 私はまた右手に拳を作って、手を上げる。もちろん、またユートに止められた。悔しい。くやしー。誰か、私のこの無念を晴らして下さい。私だって二次元では、巨乳なのよー。


「本当なのか?」


 その子が私に聞いた。その薄汚れた顔の中にある、藤納戸色の目が綺麗。


「何が?」


「作家って言うこと。あの話を本当にお前が作ったの?」


「うん。そうよ」


「お願い。お願いします。アミーヒにその話をしてくれ。僕の持っている物、全部上げるから。お願いします。お願いします」


 アミーヒって言う人が誰だか分からないけど、この子が必死なのが伝わる。


「う、うん。良いよ。でも、君の物は何もいらない。もし、それで良いならそのアミーヒの所に連れて行って」

その子は、ポケットから汚れの着いた桃色の砂糖菓子を取り私にくれた。


「ありがとう。これ美味しいよ。お礼」


 私は手の平にある砂糖菓子を見る。


(うっ、これ食べなくて良いよね……。)


 桃色で綺麗で元は美味しそうだけど。これは、一体こんなに何がくっ付いていつのか分からない。


「えっ、えとね。今ね、お昼を食べてお腹空いてない。そ、それでね、また後で食べるね。あっ、ありがとう」



「うん。分かった。それより早く行こうぜ。おばさん」


『おばさん』。コ.ロ.ス。


 今度は、いくらユートが止めてもこの恨み晴らす! 


 ユート、止めるな。私は無念で成仏出来ない!。女の戦い、いざ出陣するぞー。


「ところで、この袋はどこで盗んだ」


 ボビートが、その子に聞く。


「お、お願いします。グジュ。誰か、僕のお金を取り返して下さい。グジュ」


 市場の騒音の中で、泣き声が聞こえる。さっきドロボーと叫んでいた男の子の声。


「おい、小僧。テメー、あんな小さい子からお金を盗んだのか?」


 ボビートがその子を掴んでいる反対の手で、その子の耳を引っ張った。


「イテー。イテイテ。そうだよ」


 ボビートが手を放して、その子を泣いている子供の方に引っ張って行った。ユートと私も一緒に後に付いて行く。私達が少し歩いた所に、店と店の間にある小さな空間の椅子に座った八歳位の小さな男の子がいた。小さな男の子は、私達とボビートに引っ張られている男の子を見ると、ビックリした顔をする。でも、ボビートが灰色の袋を渡すと、顔の涙を乱暴に拭いてその袋を受け取った。


「あ、ありがとう。ありがとうございます」


 小さいラクダ色のボサボサな頭を下げて、その灰色の袋を両手で握り締める。


「あ、ありがとうございます。これ、今日、やっと絵が売れて。ほんと、一週間ぶりに絵が売れて。だから、ありがとうございます」


 何度も私達に頭を下げる。その子の目は前髪に隠れて気付かなかったけど黒色。


「あっ、目。黒。私と同じ」


 その子は私の顔を下から見上げた。その子の黒色の目と私の黒色の目が交差する。「あっ。本当だ。同じ目の色だ。初めて。お姉ちゃんのお目々、綺麗」


「うん。同じだね。黒色、綺麗だね」


 その子がにっこと笑うと、前歯が何本か欠けているが見える。


「ちえーだ。大体、このチビが悪い。お前だって。俺に袋を取られて、すぐに追いかけて来ないのがいけないんだ。そんな所にボーと座っているのがいけないだ」


「黙れ。小僧」


『ポカン。ポカン』


 ボビートがまた叩いた。


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