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my tale  作者: Shiki
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家の精


 ソニのパン屋に来て一時間した頃、窓から優しい夕日の赤橙色の光が差し込む。


「ごめん。またせたね。こっち、こっち」


 ソニがレジから出て来て、窓際の反対にある小さなドアを開けて私を招いた。私達は小さなドアをくぐり狭い廊下を手を繋いで歩いて、また小さなドアを潜った。ドアの中の部屋は、お店と同じ位のキッチン。ソニに手を引っ張られながら、また外に行くドアを通る。


 茶色の木の柵で囲まれている小さな中庭。その中庭の柵に沿って、小さな畑があった。ソニが家に沿って置かれているピンクのベンチに座たので、私も横に座る。一本の木が小さな庭の角に立っていて、私の座っている所は木陰。


 私達は、どれくらいそうしていただろう。私達は、お互いの事や孤児院の事やパン屋の事を、唯々思い付いた事をお互いに話した。でもソニが、ほとんど一人で話していたけどね。優しい夕日の光が墨色にほとんど塗られた頃に、私達の細やかなお喋りの時間が終わった。


「ごめん。けーこ。まだ、一緒にこうしていたいけど、夜のお手伝いをしないといけないの」


「夜のお手伝い?」


「うん。お店をね、閉めた後にね、売れ残りのパンを買いに来る人達がいるの」


 売れ残りのパンを買うって、どう言う事なんだろう。


「えとね。とっても、貧しい人達が残り物のパンを買いに来るの。特に、スイ国からの移民者」


 ソニがスイ国の事を話す時は、いつも声が低くなる。


「ねえ。どうしてスイ国の人って分かるの。だって見た目と言葉も一緒でしょう」


 ソニがすごくビックリした顔になる。


「えっ、けーこは分からないの?」


「何が?」


「言葉よ。少し話す時に後ろの方にアクセントを強く言うでしょう」


 これって、ヤバいサイン?


「まあ、普通はそのアクセントでそんなに分かる理由じゃないんだけど、さりげない行動かな。うーん、うまく説明出来ないんだけど。私ってスイ国の人と結構関わって来たから分かるの。

 スイ国から来た人って、学校に行ってないから字が読めないでしょう。それで、なかなか良い仕事に就けないの。それで結構、浮浪者が増えているみたい」


 そうなんだ。島国の日本とは全然違う。


「ほとんど、ただの値段でパンを渡すの。ただであげると貰わない人達が居るの。きっと、誇りが在るんだろうねっておじさんが言っていたの。でも、そのお金も無い人達には無料でパンを渡すの。それでね。おじさんもおばさんも、何日も体を洗って無い人達に握手や、肩を抱きしめたりするの。


 そ、それでね。髪の毛が油でベトベトした子供達の頭をね、いい子いい子って撫でるの。だから、手が汚れるからパンを渡すのは他に誰かいないといけないの。


 シーレ姉さんは、もう出産の日にちが近いからほとんどベットに横になっていてお店に出られないから、私しかいないの。後で、夕食の時にシーナ姉さんも部屋から出て来るよ。もう、けーこにすっごく会いたがっていたよ」


「うん。私もシーナさんに会いたい」


「ごめん。もう行かないと」


 ソニが慌ててベンチから立ち、勢いよく私に聞く。


「けーこはどうする。一緒に来る。それとも、ここにいる? 中で待っていても良いし、どうする?」


 ベンチを立ち上がり、お尻の辺りのスカートの汚れを払った。全然汚れなんてないのに、ついつい癖でやってしまう。


「えとね。けーこ。本当はね。おじさんとおばさん。余り物が出るように、わざとたくさんパンを作っているの」


 夕日は顔をすべて隠して、全ての物を覆う暗闇が私達の周りに覆った。小さな家の小さな窓から、蝋燭の光が漏れている。気持ちが温かい。


 私もソニを手伝ってパンを渡す。日本のように真新しい袋なんてない。殆んどの人は手で受け取り、何人かは持参の布に包んだ。そのパンを受け取った人達は何度も何度もおじさんやおばさんだけじゃなくソニや私にもお礼を言う。


 私がパンを布に包んで渡した時、目に涙を浮かべている腰の曲がった老婆が、そのシワシワの手をカンター越しに私の頭の上に伸ばして三回ほど撫でる。頭の上で分かる訳じゃないけど、その手は温かかった。小さい子供達は、薄汚れた顔にあるカラフルの目が宝石のように輝いていた。


 一人一人と話すおじさんとおばさんは、さっきお店でパンを売っていた時よりも何十倍も幸せそうな顔をしていた。私のとってもお気に入りの童話「家の精」を思い出した。


 自分勝手な人は、幸せになれない。幸せは、皆で分かち合う物なんだ。最後のパンも綺麗になくなり、おばさんがお店の小さいドアを閉めようとした時、店の前に佇んでいる大人の人と私位の背の子供に気付いて店の中に招いた。その二人はおどおどと中に入って来た。


 二人は、色の褪せた焦茶の布を頭からすっぽりと被っている。二人共、色の褪せた灰色のロングスカートを着ていた。この世界の女性は皆ロングスカート着て殆んど肌を晒さない。でも、この二人の恰好はもっと厳密。その焦茶の布が二人を外野から守っているようだ。


「すっ、すっすみません。パンを分けて下さい」


 小さい大人の女性の声が、布越しに聞こえる。


「ごめんね。もうパンがないんだよ。良かったら、一緒に夕ご飯を、私達と食べて行かないかい?」

おばさんが、優しくその女の人に聞いた。その女の人は、しばらくして後ろに佇んでいる子を見て少し頭を下げた。


「ありがとうございます」


「さあさあ。こっちよ」


 おばさんが二人を奥のキッチンに案内しようとした時に、奥の部屋から恰幅の良いパン屋のおじさんが出て来た。小さい女の子が急にその場に座り込み振るえ始めた。


「ど、どうしたの?」


 私達は急いでその子の近くまで駆け寄り、私達もその娘と女の人を囲みながら、床にしゃがみこむ。女の人は、唯々その娘の体を抱きしめてその娘の背中を擦って上げていた。そうしている女の人の顔を隠していた焦茶色の布が、頭からずれ落ちた。よく誰も叫ばなかったと思う。


 みんな、ショックで声が出なかったのかもしれない。


 布に隠されていた顔は、頬が紫色に晴れてあっちこっちに古い痣があった。元は綺麗な顔だったと分かる顔。女の人は、綺麗な桔梗色の髪を後ろに一本に結んでいた。綺麗な勿忘草色の目から、何度も透明な涙が彼女の頬をつたい落ちる。きっとこの人は、声を出さずにいつも泣いている人。


 その腕に抱いている娘が落ちいた後、女の人に促されてその娘も立ち上がる。私達も一緒に立ち上がる。娘は、ずっと下を見ていて顔が見えない。ソニがカンターにある布を持って来て、その人に渡す。


「ありがとう」


 小さい声でその人は、言った後自分の顔を拭く。その人はまだ片手で抱き締めている、小さな娘の被っている薄れた焦茶の布を取った。涙がまだ流れている娘の顔を優しく拭いた。


 娘は母親と同じ勿忘草色の目で、向日葵色の髪の色。可愛い顔には、母親同様真っ赤に晴れた痣があった。女の人は、もう顔を隠さないでゆっくりと私達を見て言った。


「すみませんでした。この娘は、大きい男の人を見ると怖がって。よく、ああなってしまいます」


 きっとこの痣は、その太った男の人に付けられたのかもしれない。


「あら、いいのよ。もう、うちの人って大きいから近所の娘達もよく怖がってね。それより、食事にしましょうね。ほら、皆ぼーとしてないで動いて、動いて」


 私とソニは、おばさんに言われた通りに急いで奥の部屋に行った。ソニの指示で私達は急いでテーブルを整え

た。


「あのね。あの親子ね、よくうちに来るの」


「えっ、あの二人の事知っていたの?」


 私達は、二人でテーブルに皿を並べながら小声で話す。


「うん。どっかの貴族の妾とその子供なの。確か子爵って聞いたんだけど。それでね。その人、十六歳からその貴族に囲われていて、よくああ殴られてご飯を貰えないみたいでね。よく、ここにパンを貰いに来るの。


 それでね……本妻とその娘にも、いじめられているみたい。最悪よね。その子爵も自分の娘なのに、なんであんなに出きるんだろうね。やっぱり、貴族って分かん無いね。ねえ。それ、取って」


 目の前にあるコップを、ソニに渡した。


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