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my tale  作者: Shiki
19/62

家の精

 私の今の状態は、人生初、とってもやばい状態。乙女を失う危機なの、それともディランドに逢いにいく手前なの?


 ドレリーとドレリーのお母さんが出て行った後、私はサイラックさんに孤児院の妹のソニの所に行きたいことを伝えると、サイラックさんの馬車で、ソニの働いているパン屋さんに連れて行って貰えることになった。


 サイラックさんに皆が心配しないように、置き手紙を書いて貰った。サイラックさんと腕をからめ城を出て、門の入り口で先に従者に頼んで用意して貰っていた馬車に乗る。私とサイラックさんは、二人共無言で歩く。もちろん、紳士のサイラックさんは私の歩調な合わせて歩いてくれる。


 はじめて城に来た時は、横になっていたので街の様子を全然見ていなかった。窓から顔を出しキョロキョロと外を見ていた。やっぱりお城は、写真で見たことのあるフランスのバロック建築のベルサイユ宮殿のような城を想像していただけに、がっかりした。お城は、石で作られておりコンセントリック(集中)型の城で厚い石で作られた城壁に守られるように建っていた。


 確かに圧倒されるすごい城だけど、砦のようであまり好きになれない。かなり、がっかり。唯一、救われたのはこの世界の石がカラフルだったこと。赤色と黄赤と焦茶と濃藍と鉄紺が混ざって綺麗。周りに生えている木々も、朱鷺色と黄色の他にも焦茶と緑色と言う地球で見る普通の木もあった。サイラックさんの笑い声が聞こえたので、急いで窓から頭を引っ込ませて彼を見る。


「ははは。すみません。あなたがつい、可愛いくて笑ってしまいました」


『きゃー』


 つい、いつもの癖が出てしまった。


「失礼します」


 サイラックさんが腰を少し浮かし、右腕を私の頭の方に伸ばした。


「髪が乱れています」


 サイラックさんの細くて長い指が、私の包帯の下の髪をとかす。その仕草がとても優しい。でも、恥ずかしい。サイラックさんが私の髪をとかし終えて腕を戻そうとした時に、馬車が石か何かの上を通り、腰を浮かせているサイラックさんの体が私の方に投げ出された。


「失礼しました」


 サイラックさんが体の体制を立て直そうとした時に、サイラックさんの口と私の口が軽く触れ合う。


『きゃー』


 なっ、なっ何。今の何。きす、接吻、キスじゃないよね。


 だって、よく言うじゃない。こう言うアクシデントは、キスの内に数得ないって。こんなアクシデントで二十年間温めてきた、この私の唇を奪われるなんてありえない。


 私は、ファーストキスのまだの乙女。うん、そうだよね。大体、何。このいかにもと言う王道イベントは。なんてタイミングの良さ。絶対有り得ないって漫画を読んで、笑ってあのイベントを、今やってしまった。ショック。まさか、あのディランドが仕組んだって事ないよね。でもなんか、怪しいかも。


「すっ、すっすみません。大丈夫ですか?」


 あのスマートに話すサイラックさんが、吃る。そして、少し顔が赤い。


「うっううん、平気」


 そうそう平常心よ。平常心。こう言う時は、平然に落ち着いた態度でね。そうそういい子、私。何もなかったっていう態度で乗り切るのよ。そしたら、あっちも気にせず忘れるよね。うん、その調子。そうそう。


「結婚しましょう」


『きゃー』


 キター。ど、ど、どうしてそうなるの?


「あ、あ、あの私、サイラックさんの事、何にも知りません。結婚出来ません」


「そうですね。私とした事が早まりました。すみません」


 なぜか考え事をしているような顔をして頭を下げた。サイラックさんの髪は、今日の晴れた空のような色。人の好意を断ることは、どんな理由でも心が痛くなる。サイラックさんは、頭をあげると、


「でも、仕事のことで今後いろいろ助けていただけませんか?」


 にこりと笑って言った。きっと、サイラックさんは私の悲しみに気付いたと思う。

 

 その後、サイラックさんは私が王都に住む時は自分の家に住むことを進めた。サイラックさんの家には、お母さんと使用人夫婦とサイラックさんの乳母だった人と、二人の独身の従業人が住んでおり、まだ部屋がたくさん開いているみたい。


 会社は、同じ敷地の建物を使っている。私は、やっぱり孤児院で皆と暮らしたいと伝えたら私に何度でも逢いに行くのでゆっくりとサイラックさんを見て欲しいと言われた。私にはこの申し出を断る理由がなく、頷いた。


 馬車は石を敷詰めた街中の道をゴトゴトと進んで言った。私はただ座っている板のベンチの角を掴み、体が上に飛ぶのを防いで居た。サイラックさんは、そんな私を見て笑っている。もうこっちは、必死なんですよ。笑わなくてもいいのに。でも、笑っているサイラックさんは良い。城に居た時に、いくら笑顔を浮かべていても目は冷めて居た。何か居場所のない子供のようにも見えた。


 やっと馬車が止まって外に出たら体が揺れて、サイラックさんが慌てて支えてくれた。


「そのパン屋さんのある道は、少し狭くて馬車は通れませんので歩きになります。大丈夫ですか?」


 やっと、体のバランスを建て直しサイラックさんから離れた。


「うっ、うん。大丈夫」


 私達は、石貼りの道を歩いていた。せっかくサイラックさんから離れたのに、また腕を絡めてこのヨーロッパの下町の小路を歩いている。元はカラフルだったと思われる石は、泥や埃に塗れ鈍い色をしている。その小路には、小さな窓のある店々が連なっている。


 ピンクの木彫りの看板がなかったら、お店とは気付かないだろう。字が読めない私には、なんのお店か分からない。濁ったガラス窓も中を覗き難い。この王都に来る時に寄った街の店々は、薄いガラスが嵌められていた。こっちは庶民のお店で、あっちは貴族のお店と分かる。少し歩いたらパンの良い匂いが漂う。


 その匂いの後を歩いてすぐに、サイラックさんが文字が青色で書かれた桃色の看板の店で止まる。私達はその温かい匂いが漂う店の桃色のドアを、開けて中に入った。


「いらっしゃいませ」


 元気なソニの声が聞こえて、私達を見るとカンターから飛び出して抱き付く。


「きゃー。けーこ。どうしたの。どうして、ここにいるの。ねえ、みんなはどこ。それより、どうしたの。その頭の包帯は?」


 相変わらずソニは、お喋り。そんな、ソニが愛しい。


「もう。ソニったら」


 頭の怪我の理由を言いたくなくて、心が少し痛かったけど嘘を言った。


「えーとね。転んだの」


 私に抱き付いたままソニが私の顔をじっと見る。ソニの常磐色の目の目が緑色の宝石のようで綺麗。


「もう、相変わらずドジなんだから」


 背の高いソニが、離れる。ソニがサイトリックさんに気付き、お辞儀をする。胸がいっぱいな私の代わりに、サイトラックさんが説明をしてくれた。お城や王との謁見の事を聞い時の、ソニの興奮がすごい。いつの間にか私達は、お客さん達に囲まれている。ソニの声のせいで目立ってしまった。


「よく来てくれたね。ソニから、けーこちゃんの事をたくさん聞いているわ」


 少し肥えた優しい笑顔の白髪の混じった緑色の髪のおばさんが、私達の人垣を割って来た。そのおばさんの後ろから、さらに恰幅の良い頭の禿げた灰色の目のおじさんが立っていた。


「みなさん。こちらが『不思議の国のアリス』と『人魚姫』を書いた子よ。ソニのお姉ちゃんなの。わざわざ遠くからソニに逢いに来たから、しばらく二人きっりにしてあげましょうね」


 おばさんがそう言うと、周りの人が散らばる。


「それでは、私も行きますね。帰りは迎えに来ましょうか?」


 サイラックさんが聞く。


「今日は、ここに泊まって。私たくさん話す事が有るの。ねえ、いいでしょう?」


 困った私を見たサイラックさんが、


「それでは、私から城の方には連絡を遣わすのでご心配ありません。明日の朝にお迎えにまいります」


 私達に挨拶をして、お店を出た。


「いつ見ても格好良いわ。サイラックさん。お嫁さんになりたい」


 孤児院にいる時は、「コナックさんのお嫁さんになりたい」って言ってなかった?


「それより、けーこ。本当は二人で一緒にお話をしていたいけど、今お店がすごく混み合う時間なの。だからしばらくあそこの椅子に座って待ってて貰えないかな」


 ソニが小さな店内の窓際にある、小さな茶色の椅子と机を指した。


「うん。いいよ」


「本当にごめんね。後、一時間でお店を閉めるから。そしたら、少し休憩があるから待っていてね。本当にごめんね」


 ソニはさっきしていたレジの方に戻り、私は窓際にあるテーブルに行き椅子に腰を下ろす。その椅子は、この世界の人用には少し小さいけど私には丁度良かった。


 私はお店の外や中を見たり、お店のお客さんやさっきのおばさんやおじさんやソニを見て時間を過ごした。さっきのおじさんとおばさんは、このパン屋の人。たまに、私に声を掛けてくる優しそうなおじさんやおばさん達がいた。


 みんな私を小さな子供と、勘違いしているみたい。そして私の髪と目を見てビックリしたり、私の頭の怪我を心配してくれた。たまに小さい子供達がお母さんのスカートの影から私をチラチラ見ている。可愛い。ちょっと、孤児院のチビちゃん達に会いたくなった。


 このパン屋さんは、日本のパン屋のように明るくて広くなく、少しあっちこっちにガタが来ているけど、綺麗に掃除されていて何より温かい所だ。


 パン屋さんのおじさんやおばさんやパンを買いに来ているお客さん達は、謁見で見た人達のようなドレスを着てないけど皆、何度も洗濯をした事が分かるけど身嗜みの綺麗な恰好をしていた。みんな、普段の話をしたりしてよく笑い声が途絶えない。


 仕事帰りの人達までも皆笑顔だ。何より、ソニがとっても生き生きしている。お喋り好きなソニには、丁度良い仕事かも。ソニには、笑顔が似合っている。


 目から涙が出てきそうで、瞬きを何度もする。この世界は、地球と同じで人はこうして生きている。文化の違いや生活水準の違いがあるけど人が生きる事は、同じ事だったんだ。私はこの空間が好き。今、こうしてここに生きている事がうれしい。この世界が私の生きている世界。ディランド。私は、あなたの世界で生きている。


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