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my tale  作者: Shiki
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赤ずきんちゃん


「はじめまして。麗しき姫。私の名前は、知っていると思いますがメトニン侯爵の四男のサイラックリッヒです。サイラックとお呼びして下さい」


 サイラックリッヒって言うんだ。初めて知ったよ。名前も知らない相手から求婚しているって、どう言うこと。よし、断る最大理由をゲット。よかった。後はドレリーには責任を取らなくていいと言ってお終い。


 よかった。本当に良かった。サイラックさんがあいさつして、トリーの右手の甲にキスを落とした。もちろん、トリーの顔がすごく赤い。さっきからずっと赤いけどね。でも、オスカル様はもっと堂々と手にキスを受けるべき。オスカルと様がサイラックの手にキスをする?

「あっあ、わっ私は麗しい姫ではありません」


 声が大きくなる。私は驚いたのにサイラックさんは平然とした顔をして言う。


「いいえ。あなたは、お美しい。まだお若いので自分の美しさに気付いて居ないのですね。大根の花と同じです」

大根の花。えっ、今大根って言った。


「その黒茶の髪は大根の葉っぱ……」


 黒茶って、葉っぱ?


「その麗しい胡粉色の肌は大根の茎……」


 胡粉色ってどんな色、思い出せ短大で和色は勉強したでしょう。


「そして萌黄色の目は、大根の花。土色の大地に真っ直ぐに育つ凛々しいお姿は、あなたにそっくりです。今にもっと気高くお育ちになられる」


 はい、意味不明。ちなみに、食用の根の部分は赤だった。たまに、日本の白い大根おろしを食べたくなるけど絶対にここの真っ赤な大根おろしなんて食べる気が失せる。絶対大根おろしと言う食べ方をこの世界の人に教えません。大体、大根の花に比べられてどこに惚れる要素があった。


 大事な要素を理解出来無い。誰か、説明を。それよりサイラックさんが本を書く才能が無いと言う事が大根の花で良く分かったよ。トリーの顔が沸騰している。隣に居るお母さんが、可愛く頬を桜色に染めている。お母さんの後ろに立っているドレリーは、はい、見なければ良かった。


「あっ、あっ、ありがとうございます」


 きゃー、恋に落ちちゃった。一目惚れの現場を初めて見た。貴重な一コマ。サイラックさんとトリーは、あの王道の年の差カップルになるね。この恋の展開を見てみたいけど、孤児院に帰らないといけないから残念だー。私も井戸端会議の会員になるから、誰か井戸端会議で生中継をして欲しい。


 それより、二人共日本にいなくて良かったと思う。サイラックさんを見惚れているトリーちゃんを見てまた、ドレリーがサイラックさんを殴ろうとした。ドレリーがお兄ちゃんじゃなかったら、きっと王道パターンの三角関係が出来るのに。もちろん、BLで。


 サイトリックさんに撲りかかろうとしたドレリーをお母さんの鶴の一声で止めさせた。すごい。このお母さんは、敵にしたく無い相手かも。ドレリーは、まだサイトラックさんを睨んでいる。サイトラックさんは、何にもなかったようにドレリーを見ている。


「お茶をいれましたのでこちろの方へどうぞ」


「ええ。お冷めにならない内にどうぞ」


 二人共普段はお喋りの声が大きいけどちゃんとした侍女だったんだ。私は一人掛けのソファーに腰を下ろそうとしたら、ドレリーに引っ張られて二人掛けに座った。


「まあ」 


ドレリーのお母さんとトリーちゃんが空いているソファーに並んで座り、サイラックさんは一人掛けに座った。


「ところで、サイラック殿はもうお帰りになられてはいかがですか」


 さっきからドレリーは不機嫌だ。お母さんは、優雅にお茶を飲んでいる。トリーは、顔を赤らめて私達を見た後はサイラックさんを見つめる。私は、行儀が悪いけど空色のコップに口を付けながら二人の様子を目で追っていた。


「私は、まだ事の事でお話が残っておりますのでここで待たせていただきます」


「ええ。一緒にお話をしましょう」


 ドレリーのお母さんがコップを下ろしながら、ゆったりとした声で言った。私には、この二人の最悪なムードが分かるのにドレリーのお母さんには分からないのかな。まさか今、女性主人公の性格で一番人気の天然と言うものかも。始めて天然の人に会ったよ。うれしい。美人で天然。うん、いいね。この王道。


「それで、ご結婚の日取りをいつになさいましょう」


『ぶっー』『ごっわ。うう。ごっくん』


 飲みかけていたお茶を吐かないように慌てて口を閉じたら、鼻に飲んで居たお茶が逆流した。『ゴフォ。ゴフォ。ゴフォ』は、鼻が痛いよ。


「大丈夫ですか?」

 

 隣に座っているドレリーが、背中を擦ってくれている。両手で口を抑えながら咳を止めようと下を向いている私に、パトリーが紫色の布巾を持って来た。なに、この色は。それより、くっ苦しい。


「まあ。大丈夫ですか?」


「大丈夫ですか?」


「だ、だ、だっいじょうぶですか?」


 ドレリーのお母さんと、サイトラックさんとトリーが聞く。


「はい、大丈夫……けど、鼻が痛い。そっ、それより、結婚って何のこと?」


「だから、ドレリーとけーこさんのですわ」


「母上。まだ日にちは、はっきり決めていません。改めてご報告をします」


「あっ、あっ、あの。結婚は、しませ」「母上にはすぐに報告をいたします」


 ちょっと、人が断ろうとしているのに邪魔をしないでよ。よっし、もう一回。


「結婚は、し、し、しませ」「じゃあ、先にドレスを要しないといけませんね」


 またー。次こそ、


「結婚は」「私にデザインをさせて下さい」


 人の話を聞いて欲しいよ。それよりさっきまで、吃っていたトリーがきちんと話している。それに、オドオドさが無くなり堂々としている。


「私、服を作ることが、とても得意なんです」


 ついでに、目もキラキラしている。そんな目で見つめないで下さい。断れなくなるじゃない。どうしよう。


「けーこさん。クムリン殿とご結婚をなされるのですか?」


 サイトリックさんがいたんだ。


「いっ、いっ、いいえ」


 私は、思いっ切り首を横に振った。頭が痛い。傷に来るし、鼻も痛い。あっ、鼻水が出そう。良かった布巾が在って、ド派手な色だけどね。


「まあ、まだ返事を成されてないのね。そうよね。殿方にすぐに返事をするのは良くないはね。焦らして焦らして、ええ、沢山焦らして同意なさるのよ」


 あれ、拒否じゃなくて同意って?


「まあ、仕方ないわ。でも、ドレスは先に作り始めないと間に合いませんね。それでは、寸法を教えて頂けませんか?」


 ドレリーのお母さんの思考が、分からない。


「失礼します。クムリン伯爵婦人。それでしたら。私共が、寸法を教えて差し上げますわ。そうでしょう。テモテシ」


「ええ、そうです。隅々まで把握しております。パトリー」


 あれ、二人共いつから壁からここに来たの。なんと言う、忍び技。それより、侍女の心得二十三条なんてきっと頭から抜けているよね。はい?それって、誰のサイズ。まさか、私のサイズじゃないよね。だって、図られて無いしね。

「けっけっけいこ様。こ、こ、これ贈り物です」


 トリーちゃんは、急に立って私の前に来て人形を渡した。


 その人形は、私の貰った赤色のケープと同じ物を着ている。人形の顔は黒色の糸で形のいい目と紅赤の色の小さな口をしていて、頬に薔薇色の頬紅を塗っていた。髪は、黒色の絹糸を使った長い真っ直ぐな髪をしていた。かわいい。感激。人形を持っている手が震えて居る。


 プルプル。この世界に来て始めて物を作る才能を持つ人に、逢った。居たんだ。想像をする人達。想像力の無いディランドに似て、この世界の住人も想像力が欠けていると思って居た。人は、創造者の手を離れて進化しているのね。感動。手の振るえが止まらない。プルプルプル。これから、この世界に生きていくための楽しみが増えた。ついでに、田舎で芸術さん探しをしよう。手が……まだ……プルプル。


「どっ、どっ、どうですか?」


 シマッター。トリーちゃんが顔を青色にしてこっちを見る。一人でプルプルしている間にオスカル様を不安にさせてしまった。宝塚ファンに八つ裂きされる。


「とっ、とっ、とっても素晴らしいです」


 また、叫んでしまった。


「ありがとう。うれしい」


 オスカル様が顔を紅赤色に染めた。その顔、可愛いかも。


「トリーちゃん。私からお礼して良い」


 私は、『赤ずきんちゃん』の話をした。トリーちゃんは、顔を紅色にして目に涙を浮かべる。ドレリーのお母さんは、頬を桜色に染めている。サイトリックさんは、一生懸命に筆を走らせている。ドレリーは、いつの間にか私の右手を握って私を見ている。しまった目が合ってしまった。目を反らそう。私は、トリーちゃんを見る。


「トリーちゃん、あのね。これを世間に売り出すと良いと思うの」


「ベアーさんって名前で、優しい商人の人がいるの。それで、一度その店にお人形を持って行ったら良いよ」


 しーん。しーん。また、やってしまった、私?


「べっ、べっ、別に、お金を貰うために作ったわけじゃありません」


「うん。分かってる。あのね、きっと女の子達がこう言うお人形を欲しいと思う」


 孤児院のリタが、布切れのテルテル坊主のような人形を大事に持っている。この人形を手にした女の子の顔を想像すると、うれしくなる。


「サイトリックさん。ぜひ、トリーちゃんをベアーさんに紹介して下さい」


「ええ、もちろんです」


 トリーちゃんがサイラックさんを見て顔がまた沸騰した。偉いぞ私。二人の接点を作った。デート、いいな。私もしたいよ。


「可愛いです。私もけーちゃん人形が欲しいです」


「ええ、そうですね。きっと、『乙女の花園』でも沢山の方も、そのように思われるでしょう。テモテシ」


 どうして壁の方にいるのに、人形の顔が見れるの?第一、これって私なの?


「あっ、あっ、あのお姉様方にもお作りしましょうか?」


「まあ、声が大き過ぎましたよ。テモテシ」


 お姉様? パトリーとテモテシは、足音も立てずに私達の側に来た。侍女になるには、何か忍術の修行を受けるらしい。確か前の従者もだったよね。城に努めるのは、そんな修行を受けるのかな。


「失礼しました」


「失礼しました。すみませんが、パトリーとワタクシ達、用事がありますので少しの間席を離れてよろしいでしょうか」


 もちろん。私も、ずっと二人が一緒にいると肩が凝るしね。


「うん。いいよ」


「わっ、わっ私もご一緒に行って宜しいですか?」


「ええ、もちろんですわ」


 三人が出て行った後、私はドレリーのお母さんと孤児院の話を少し話をした。ドリーは私の横に座って、ずーとサイラックさんを睨らむか、私を見ていた。


 サイラックさんは、表情を一度も変えずに「赤ずきんちゃん」の話を見ていた。ドレリーのお母さんが帰る時に、私とサイラックさんの二人で部屋に残る事を反対したけど、ドレリーのお母さんの鶴の一言でお母さんをエスコートするために部屋から出て行った。もちろん、その時に部屋のドアを開けてドアの外に立っている兵に、何かあったら叫んで助けを求めることと何度も言われた。なんか疲れた。


(家の精


  私も、人から与えられるより与える人になりたい。)


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