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my tale  作者: Shiki
17/62

赤ずきんちゃん


『とんとん。とんとん』

「クムリンです。入ります」


 ドアの音が聞こえて私は、現実世界に引き戻された。しまった。戻って来るのが遅かったみたい。また、夢の世界に行っても良いですか。


「何をしている?」


 怒った声がしたドレリーを見て、見なければ良かったと後悔した。


「求婚です」


 な、な、な、なんですか。そ、そ、そ、その言い方は?


「ぎゃー」「ぎゃー」


 外野の野次のツッコミをしている暇が、今はないので無視。放置プレー。

 

 初めは驚った顔をしたドレリーの顔が、日本昔ばなしの挿絵に載っていた般若のようだった。見ない方が良かったと後悔した。ドレリーの顔を見て後悔したのは、何回目だろう?


 サイラックさんの方は、何もなかったようにもう一度私の右手の甲にキスを落とし、立ち上がりさっきまで座ていた私の向かい側のピンクソファーの席に着こうとした。


 そしたら、すごい勢いで近付いて来たドレリーが、きちんと上のボタンを留めていたサイラックさんの真っ白なシャツの襟元を左手で掴みあげた。ドレリーは、絶対左利きだろう。ちょっとサイラックさんより背の高いドレリーがサイラックさんを引上げた。二人が睨み合った後に、ドレリーが右肩の上で握り拳を作った。凄いです! これは、王道の殴り合いよー!


 ちょっと、こう言う時に必ず頬染めて「止めて。私のために戦わないで」と言うだけで、決して止めないヒロインがこの場面に居ないのがとっても残念。きっと二人共、良い男達なので過去に女関係でいざこざがあったのね。こんな、王道の『女の為に殴り合う』イベントに遭遇するなんて胸キュン。萌です。萌萌。


「お止めなさい」


  美声が聞こえる。天使の囁きが聞こえるようにもなったみたい。ドレリーの声も男性版美声だけど、この声は女性版。素敵、「声さえよければ顔なんて二の次」と言っていた友人A子。今、分かったよ。美声は、男女のどっちでも心を癒す、すばらしき物だったんだ。でも、その友達の理由は残念だけどね。聞きたい?


 聞いた後に後悔するよ? えとね、暗闇では顔なんて見えないし美声だと二次元の格好良いヒーローに置き換えられるだってさ。ばっかだー。聞いた私もあなたもバカだったー。ちなみに、前に話していた「体格差」の彼と同一人物だろうかと気になったけど、すごく我慢して口を閉じて居た。本当に偉かったよ、その時の私。


 その優しく綺麗な美声の持ち主の桜色のゴーントレットを着けたほっそりとした手がドレリーの上げた右手を掴んだ。綺麗な女性がそこにいた。地球で白人の絶世の美女の髪の色は、白金色だと言うみたい。その女性は、白金色の髪を上に綺麗に結い桜色のアフタヌーンドレスを着ているの。


 もちろん、ゴーントレットとお揃いの色。ドレスの縁ブチに若葉色のレースが付いている。スイートハート ネックラインから形の良い真っ白な胸元がチラホラと見え隠れしている。でも、嫌らしさが全然感じられない。ドレリーの面影に似ている二次世界のアニメやCG世界に描かれている美女の王道版が、目の前にいる。


 圧倒される。すごい。これは、見たことないけど傾国の美女と呼ばれ全世界の人を魅了する人だ。背は、百六十八センチから百七十センチの間かな。この世界の平均は、百七十三センチくらい。なんと、半端な数字と思ったのを覚えている。


「母上」


 ドレリーが言った。やはりお母さんなんだ。顔が似ているもんね。二人で、横に並んで立っていると月の男神と太陽の女神だね。


「えっ、これってよく描かれる少女漫画に出て来る容姿だ」って。


 うん、そうだね。日本人の少女達は、この容姿が好きだと思う。えっ、私は少女じゃないって。いいえ、女は何年経っても少女漫画読んで乙女を勉強している健気な『永遠の清らかな』生き物達。


 あれー、『永遠の清らか』って最近聞いた気がする。ちょっと待って、ディランドのおかげで記憶が良くなっているはずなんだけど思い出せない。まさか、老化現象。いえいえ、女にはそんな現象は一生起きない。医者にそう言われた女性はきっと摩訶不思議な乙女現象の妄想世界にトリップしているだけだよね。



「ドレリー。みっともありませんよ。その手をお離しなさい。それより、私達をこのまま立たせて置くつもりなのですか?」


 そうよね。母親だよね。母強し。でも、「親子に見えない姉弟のようだ」王道台詞だー。うん、よくヒロインの母親に会った時に必ず言う台詞。私もいつか娘の彼氏に言われたい。


 あっ、一生独身庶民を見当中だった。ドレリーはサイラックさんをキッと睨み手を離した。


「まあまあ、大人気ない子ね」


 お母さんはそう言ってドレリーに微笑みサイラックの方を向いて微笑む。『モナリザの微笑み』だ。


 レオナルド=ダ=ビンチのリザ婦人より綺麗だ。『モナリザの微笑み』を初めて見た時、その美しさが分からなかった。後で、友人C子にどこが綺麗なのか聞いたら「昔のイタリア美人なんじゃない。きっと、微笑みが良いと言ってこの豊富そうな胸が良かったのよ。最初のこの所有者って、お風呂の壁に飾って観ながらお湯につかりながらスケベなことを考えていたのよ。絶対」と言っていた。


「失礼しましたわね。確かメトニン侯爵の、四男のサイラック様でしたよね」


 さっきの話し方と違いとってもおっとりした話し方をしたドレリーのお母さんがそう言ってサイラックさんの方を見た。サイラックさんは、ドレリーに握られてできた真っ白のシャツのシワを伸ばす。


 サイラックさんが、ドレリーに捕まれた時から今まで眉毛を一つも動かさずいつもの優男の顔をしていた。私の知っているサイラックさんと少し違い、違和感がする。何でだろう。気のせいかな。


「ええそうです。麗しきクムリン伯爵婦人。このようにお会いできて、光栄です」


 そう顔にさっきの無表情の代わりに微笑を浮かべてドレリーのお母さんに近付くと、お母さんの右手を取り軽くキスを落として、模範的な完璧なお辞儀をする。


「まあ。ありがとう」


 ドレリーのお母さんはほんのりと頬にドレスと同色の桜色を着けた。これこそ映画のワンシーンだ。


「ところで、そちらに居られる方がけーこさんね。初めまして。わたくしは、ドレリーオットの母でございます」


 にっこり笑った。天使がいる。私はさっきから座ったまま見とれていたことに気付いて、あわててピンクソファーから立ち上がった。


「はっ、はっ初めまして。けーこでっです」


 私は、どもりながら慌てて頭を下げた。決してサイラックさんのようなスマートなお辞儀じゃなく面接で鍛え上げたお辞儀でもない。漫画でよく描かれる両腕を横にピシーント伸ばし頭を勢い良く下げる礼をしたから、急に頭に痛みが走った。うっ、頭が痛い。大体、まだ額の傷が少し痛い。早く包帯が取れて欲しい。聞いて、聞いて、どんな色の包帯だと思う。えっ、「赤」。うーん、いい線行っている。


 えっ、なんて言った。黒って、うーんいい線を逝ってるけど「黒」って惜しい。えっ、誰と話して入るかって、もちろん『THE 平凡’s』でウハウハして居ると思う二次元の胸の大きい私と。


 正解の包帯の色は、黒と黄色の交通記号の色。どうしてこう縞々に色をしているのか疑問。その疑問がすごく気になって、包帯を今朝替えに来てくれたイット叔父さんに聞いたら


「分からんのう。それにしても変わった事が気になるのは流石、作る者じゃのう」


 包帯は、私の頭にハチマキのように巻いている。きっと、何組って聞かれるね。そしたら、『安全組』って答えるよ。


「噂に聞いた通りに可愛らしい方ね。そうそう、この娘が娘のトリーエットよ」


 でっ、出た。感動です。感激。一応、この二十年生きてきて、たくさんいろんな人に会ったし、いろんな人を見たけどこれほでまでに感激した事は絶対無い!


 さっきのドレリーのお母さんとは違う感動。クムリン家の人々は感動の産地。他のメンバーも見て遺伝子研究をしたい。トリーエットと呼ばれたドレリーの妹はお母さんの後ろから出た。なんと、顔を赤く染めた宝塚のトップ男役の『オスカル・フランソワ様』が目の前にいる。『ベルバラ』、『ベルサイユのばら』。日本女子でこれを知らない女はいません!


 もし知らなかったら日本人女子失格を受けてるって。バラを背中に背負っていつもいるオスカル様を見落とすなんて、しかっりして自分。きっと、忘れるために頭の中の記憶のゴミ箱に入れたさっきの『求婚達』(勝手に命名したもんね)がまだ最後の悪あがきで出て来て、私の通常の思考や目を狂わしている。お戻り、求婚達。君達の今後の隠居の地になる頭の中の記憶のゴミ箱。


 ドレリーのお母さんを見た時に、どうしてその存在に気付かなかったんだろう。ドレリーの妹はお母さんより遥に背が高い。きっと、女神の光で後ろまで見えなかったんだろう。妹がオスカル様だったらお母さんは、『マリー・アントワネット』の役だね。お二人で並ぶとス.テ.キ。


 でも、目の前のオスカル様はとっても地味。どうしても、許せません。この宝塚ファンでもない私が許せなかったら、きっと過激の宝塚ファンの友人D子はもっとがっかりするだろう。さて、私の友人何子は、どれくらい出てくるのだろう。


「はっはっじめまして。とっと、トリーエットと申します。とっと、トリーと呼んで下さい。おっおっお慕い申し上げます」


 オスカル様の声はとっても低くてハスキーだ。


 きっと厳しい訓練とライバルを蹴落とさなくても今すぐに主役の役を取れるはず。その地味さを克服したらね。えっ、人の事を言えないって。私は良いの。一生田舎で暮らす予定だし、宝塚に指一本も入れてもらえない平凡顔だしね。とってもイメチェンのお手伝いをしたいけど、田舎に帰るから出来ないのが悔しい。この気弱い感じをどうにかしないといけない。


「あっあっありがとう。トリーちゃん」


 どうして、どもりは伝わるものなんだろう。ドレリーが妹は年下と言っていたから「ちゃん」付けでいいよね。私がそう呼んだら顔をもっと染めて私を見つめて来た。そんな顔で見つめられたら私も妖しい世界にトリップしてしまう。美形は好みじゃないのに、同姓だからなの。


 宝塚にハマっている友人D子が「女同士だとイヤらしさが無くて見てて綺麗」と言って、その年の宝塚卒業生の写真集をわざわざ人の家に遊びに来ているのに写真集をずっと見て居た。「何しに来たの」って聞いたら「お菓子と紅茶を飲みに」だってさ。なんで、私の家は私だけのオアシスなのに友人達のオアシスにいつなったんだろう。きっと、今頃私がいなくなって悲しむよりオアシスがなくなったことを嘆いているよね。


 それより、宝塚!


 そうそう、王道だよね。王道は、恐ろしいね。私は、平民の道、その名を『平道』をまっしぐら。『平道』に於いて緩やかな坂道は、『結婚』と『出産』と『葬式』しかない。子供の数に比例してその坂道の数も増える。なんと単調な日々。『平道』、最高。それに王道は、本や二次元の世界だけでいいよね。


 でも、恐ろしき王道。王道ストーリーはあっちこっちありふれて書かれているのに、何度も何度もちょっと違う話を読みたくなる。


 ネットに嵌っているいる友人C子も、何度も何度も似たような設定の王道話を読んでいる。もちろん、女性主人公。不幸な少女がトリップした世界で王子様と結婚のハッピーエンド。結構、相手役が王子じゃないとがっかりすると言って居た。もちろん、若い王様でOK。でも、微妙なのは騎士って言っていた。


 騎士なんて結局良いようにこき使われるサラリーマン。そうだよね。今やっと友人C子の言っていた意味が分かった。ドレリーもあんな五日もかかる田舎に私を迎えに来て怪我をさせたから責任を取って結婚なんて。ドレリーもサラリーマンだったんだ。友人c子がもし相手が王や王子だと格好良い騎士達や臣下達に守られ「きゃっ」、なんてか弱くしていたらさらに「なんてか弱く可憐な姫なんだろう。私がお守りしないと」と勘違いし逆ハーがすぐ出来るって言って居た。良かった。そんなトリップしなくてね。逆ハーなんて、ドクドクハーレークイーン要素ばっちりだもんね。


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