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my tale  作者: Shiki
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赤ずきんちゃん

 私ことけーこは、異世界トリップを成し遂げ絶対やりたくなかった王道ナンバーワンの『謁見』を無事に成し遂げたよ! 後は平凡まっしぐらと思っていたら、何が起こるか分からない異世界。


 ついに来ましたよー。私は王道を経験している。こう言う王道は全然OK大歓迎。胸キュン。


 私が話を終えると周りから泣き声が聞こえた。王妃様方の女性陣は、思いっきり泣いている。イットおじいさんはハンカチで目元を抑えている。王様は、っと、もちろん平然と構えている。


「流石だの。素晴らしい。素晴らしいとしか言いようがない。この素晴らしき話を語ったそなたに褒美を与えるぞ。何でも良いぞ。この大国の王、王位以外だったら大概の願いを聞き入れるぞ。何を望む」


 王様はディランドと同じ系かな? 急に望みを聞かれてもない。お金にも困っていないし、洗濯機だったら欲しいけれどないしね。


「あのー、別に何もありません」


 王様が変わった表情をした。


「金銀ドレス宝石。そうだの爵位と領土。何でも良いぞ」


 ドレスは着て行く所ないし、貴族なんて面倒くさいのでいらない。


「い、いりません!」


 仕舞った。つい大声をあげてしまい、王様が何か考え込んでいる。


「そうか、急に言われると分からないものだな。それに大勢の前では言いにくい亊もあるの」


 よかった、王様は気にしてないみたい。その後、ありきたりの会話で謁見は終了した。私はドレリーにエスコートされて乙女部屋に戻る。パトリーとテモテシの元気な出迎えを受けて、ドレリーと一緒の昼食も済んだ今は、緊張感からも解放され部屋のソファーにゆったりくつろいでいる。


 テスト期間が終わった直後のような脱力感を感じている所。でも、ドレリーから、改まって話があると言われ、ソファーに座り直す。ドレリーは右膝をついて、私の左手を取った。跪いたドレリーの目は、私の視線よりもやや上にある。


「結婚しましょう」


「ぎゃー」「ぎゃー。素敵ですわ」


 この雄叫びは、決して私でない。なぜか落ち着いている私がいる。


「何かの冗談ですか?」


 はい、王道な台詞。一度言って見たかったからすんなり出た。


「いいえ。冗談ではありません」


 ドレリーの返事も、王道……まっ、まさか本気だったのねー。こう言う時の対処方法は、思い出せ雑学王の私。

確か、どこかで読んだ本のどこかにあったはず。急に鼓動が激しくなる。落ち着くのよー、私。


「あの、そっ、それはどんな意味、ですか」


 まずは、状況判断。状況じゃなくドレリーの思考把握。


「その額に傷を負わせた亊もありますが、成人の女性と二人っきりで旅をしてさらに相部屋で寝泊まりをしたなど、けーこの清らかさを問題視された場合良くありません。私に責任を取らせていただけませんか。

 私はあなたと結婚をした際には決して、妾や愛人などましてや第二婦人など持ちません。あなた一筋です。結婚しましょう」


「ぎゃー」「ぎゃー。素敵ですわ」


 叫びが、「きゃー」じゃなく「ぎゃー」だったよね。可愛いくないよ。なんですか?このプロポーズ。嬉しいくありません!


 それに、素敵な要素はありませんよー。責任なんて取らなくいい。私は全然傷物では、ありません。それより全世界の女達を敵にして早死にしたくありません。今すぐに断るとも、今すぐに。


「あのー」


「いえ、返事はゆっくりで構いません。こう言う亊は考える時間が必要です。それでは、私は母上と妹を迎えに行って来ます」


 ドレリーは、そう言って颯爽と出て行った。もちろん、暇だったら字の勉強をするように言い残した。なんで今プロポーズをしたばかりの相手にそんな亊を言うのだろう不思議要素。もちろんそんな面倒なことをする気力はない。そう、放心状態な私。


 歯を磨いた後は、ソファーに座ってボーとした。侍女の二人がプロポーズについていろいろおしゃべりをしているけれど、ミトさん秘伝を使って聞き流している。現実逃避をしよう。日本だと、床に寝っ転がってお気に入りの座布団を股に挟み、右手でポテトチップを食べて左手にポカリを持って溜め込んでいた韓国ドラマを見るのにな。まだ見ていない連ドラが気になる。テレビが欲しい。


 ドアの外が又わずらわしい。謁見が終わってから私に会いに来る貴族達がいるけれど、ドレリーが兵を部屋の前に一人立ている。その兵によって貴族達は、追い返されている。


「すみません。けーこ様のお知り合いのサイラック様がお目通りをご希望しています。どうなさいますか?」


 この兵はとっても腰が低い。そして「THE 平凡」だ。素晴らしい。妄想で私のために平凡ハーレムが近いうちに出来るかも。ドレリーは数に入れない。逆ハーは永遠の乙女の願望。異世界に来たからには、この王道パターンは経験したい。もちろん「THE 平凡’S」で。


「ええ、もちろん。あの、そのどうぞ中に入れて下さい」


 それから、すぐに部屋に入って来たサイラックさんは四ヶ月前に会った時より、若く生き生きしている。でも、爽やか美形に箔がついたような人だから、仕事以外はお付き合いしたくない人。私はぐーたらしていたショッキングピンクのソファーから立ち上がった。


 この乙女部屋、全てをピンク色で揃えているの。今朝、起床後落ち着いてから周囲を観察していて気付いたけど、広告で見かけるようなラブホテルの部屋そっくり。昨夜はよくもぐっすり熟睡できたよね、私。


 この世界の樹木も、茶色じゃなくピンクと黄色。初めてその光景を目にした時は、日本の動物園でパンダと初遭遇した時よりも感動したっけ。ひたすらその場に佇み孤児院の中庭にある木々を眺めては、感動のあまり「は~……」とか「ああ!」とか独り言を口にしたり、後々冷静になってみれば変態くさいことこの上ない。そんな私を目撃した後も家族であり続けてくれた孤児院の人達の、その懐の深さに感謝したい。


 サイラックさんは、私の目の前に来て綺麗な礼をした。そうだった、サイラックさんも貴族だったんだ。ますます近寄りがたい。もちろん、私も日本式のお辞儀を返す。そんな私を見てサイラックさんは、にっこり笑った。


「きゃー。『闇の貴公子』の笑顔ですわ。素敵」


「ええ、爽やかですね」


 背後で侍女二人の大きな話声が、聞こえる。『闇の貴公子』の部分は分からないけれど、爽やかな笑顔は同意する。私はさっきまでぐーたらしていたピンクの革製ソファーにまた座り、サイラックさんも向かいのソファーに座った。やっぱり普通は相手と対面するように座るよね。いつも隣に座りたがるドレリーは、変だ。


「私もけーこ様が謁見室にお出でになると伺い、あの場におりました。失礼だとは思いましたが、先ほどのお話を書き取らせていただいてあります。


 とても素晴らしいものでした。あの、もしよければ、この話も我が社から出版させていただけないでしょうか?」


「はい、お願いします」


 あっさり答えると、サイラックさんが驚いた顔をした。


「本当によろしいのですか? 他社でもきっと、うちよりも好条件で取引したがる所があると思いますよ」


 私はサイラックさんの、こういう裏表のない所が好き。


「ええ。ぜひ、サイラックさんの所でお願いします。あの、後他に二つ物語があるのですが、聞いて頂けますか?」


「よろしいのですか。他の社でもきっと私共よりもっと、好条件で取引する所があると思いますよ」


 私は『親指姫』と『長靴を履いた猫』の話をする。話終えて見ると、筆を持って話を書き取っていたサイラックさんが、そのままの姿で固まっている。以前みたいに「ブラボー!」と言ってくれないので、ちょっとがっかりした。私に抱きついて両頬にキスするのは、再現しなくて良いけどね。大きなため息を吐いた後、サイラックさんが言った。


「お恥ずかしながら、私は『不思議の国のアリス』と『人魚姫』を聞いた時、あなたの才能に嫉妬してしまいました。私は、人一倍勉強をしてきました。出版社も設立しました。でも私が一番したかった亊は、あなたのように素晴らしい作品を書く亊です。


 私には、その才能がありませんでした。私は、あなたもあの二つの作品以上に素晴らしいものは書けないのだと、決めつけておりました。


 しかし、あなたはいとも軽やかに次から次へと物語を生みだして行く。あなたの才能は、本物なのですね。ディランド神は、あなたに素晴らしい才能をお与えになった。これは、感謝すべきですけれど……こうも才能を見せ付けられ、凡人と気付かされた私は……。すみません。今はただ、悲しいのです」


 そんな風に言うサイラックさんを見ていると、私も本当は才能などないのだと、告白してしまたい。幼い頃から本を読むことが大好きで、クラブも陰でオタク部と呼ばれる文学部に所属していた。特に童話が好きでいつか童話作家になりたいと願い、短大は迷わず文学部を選ぶ。


 在学中、無謀にも何度も創作童話を応募したけれど、どれも一次審査で落とされた。その度に、友人の加奈子に励まされた。加奈子は、私の声が落ち着いていて優しく、その声で童話を朗読する姿が好きだと言ってくれた。短大を卒業後就職も決まらず悩んでいた時に、ふと、そのことを思い出す。その直後、目にした放送会社の社員募集の記事に飛び付いた。


 サイラックさんは自力で会社を立てているし、私なんかよりよほど立派だ。


「サイラックさん。あのね。えーと。そんなに、自分を婢下しないで下さい」


 日本人の私は、話相手と目を合わせて話すことが苦手。でも、これはちゃんと目を見て話さないといけない時だと思う。


「あの。サイラックさんには、サイラックさんにしかない才能があります」


 私の言葉に、サイラックさんが驚いている。


「ベアーさんがサイラックさんは、行動力がある人だって言っていましたよ。それにすごい人脈を持っていて、それでね。いろいろな情報をすぐに得るネットワークを持っていると言っていました。


 えと、あの、それに、私の童話を本にした時、行動力が早いと思ったし、判断力のある人だと思ったし、そう言う行動力もすごいと思うし、いろんな人と人脈を作るなんてすごいと思います。才能だと思います!」


 よく加奈子が興奮した私が「口数が多くなり一人で暴走する」と言っていた。私の話を聞きに来たのも私が、こ

の世界に来てまだ二ヶ月だったしそれから本が出版されたのも一ヶ月してからだった。


「前から言おうと思っていたんだけど、サイラックさん、新聞を作りませんか?」


 この世界には、新聞がないと聞いたときは信じられなかった。情報の交換は、今も昔も大切な物だ。だから、きっとこの世界はディランド神が五百年前に作ったと言う記録が残っているのにかかわらず生活習慣は、その時と今とさほど変わらないと歴史書に記録されている。とても不思議に思った亊が、この世界の人は紙の製作技法が誰がどこで作ったとか、印刷機の発明とかそう言う物事を疑問に持たずにそのまま受け入れている所。そんな

亊を不思議に思いヨネさんに、聞いた亊がある。


「昨日あった王都の事件をこの町の人は、今日知っているの?」


「あら、またそんな変な亊を考えていたのねー。そんなの簡単に気付くでしょう? 女性達が集まってする亊と言えば。それは、なんだと思う?」


 そ、そうだね。あまりにも簡単な答えだった。女性が二人でも集まれば雀になるね。そうなんだ、女のおしゃべりは現代社会のメールより優れているんだ。男性諸君、バカに出来ませんよ雀の井戸端会議。井戸端会議は、とっても重要な生活習慣。井戸端会議は、重要な情報センター。井戸端会議は、文化遺産だった。


「新聞。すみませんが、新聞とは何ですか」


 はあ、そこから説明をしないといけないんだ。あ、うん、で通じる日本が恋しい。私は、知ってる限り伝えた。


「えっと、それで、いろんな話を少し少し連載の形で載せると良いと思うの。あのー、私の小話載せてもいいです」


 だって、私は童話が大好きでたくさん読んだから話が豊富。イソップ物語にしようかな。日本昔ばなしも良いかも。ディランドに記憶の確保を頼んでいて良かった。


「そうだ。後は、ゴシップ欄もあると良いかも。『ゴシップ』って言うのはね、うわさ話の亊。この城の中の亊でも良いし、巷での噂も良いしね」


「素敵ですわ。そう思いませんか。パトリー」


「ええそうですね。テモテシ。ぜひ『乙女の花園』で、その欄を書きたいですわ」


 聞こえていますよ。二人は、小声で話をしているつもりなんだけど声が大きい。そんな、壁の近くに立っていないでこっちに座って話せば良いのに。


「あの、もし、よろしければこちらに座られて話をしませんか」


 サイラックさんは、スマートだね。それに、勧誘もスマート。腰の低い営業マン。


「ぎゃー。聞こえているようですわ。どうしましょう。パトリー」


「えっええ、そっそうですわね。テモテシ。どうしましょう」


 はい。さっきより声が小さくしたようだけどまだ、聞こえる。


「いいえ。私達は、侍女ですのでここに居ります。そうですね、テモテシ」


「ええ、『侍女の心得第二十三条』を守れなく、お二人様の会話の邪魔をして申し訳ありませんでした」


 出ましたー。また、意味不明の条約!


 それも、第二十三条。ヨネさんの条件と同じ数。この偶然が嬉しくなる。この世界は、なんでもいろいろ条約を作る亊が好きなのかな? ちょっとその『侍女の心得』という物を読んでみたい。読めないけど。


「ええ、それでよろしければ。ところで、どれくらいの割合で発行すれば宜しいと思われますか?」


 流石。すぐ良い所を突いて来た。うん、そうだね。今の印刷技術だと毎日と言うのは無理だし一ヶ月と言うのも間が開いているし。うん、それに紙も高いしね。日本のような新聞じゃなくてチラシみたいな感じになるかな。


「えーとね。うん、一週間で良いと思う」


 それでもきっと大変。


「初回の新聞は、無料で配ってそして次の週から有料にすると良いと思う。それで、その後、販売の割合を決めると良いしね」


 このアイデアは、地球では常識でこっちでは異常。私は、やっぱり異常者?


「それでね、パトリーさんやテモテシさんや女性のために雑誌、うーん、そうねー、新聞を出すのも良いかも。女性用はファッション記事、えーっと今の流行りのドレスとかを紹介したり、もちろん庶民の女性が楽しめれるようにいろんな料理の作り方とか載せると良いと思う。


 えーっと、男性用は、えーっと分かんない。サイラックさんだったらすぐ良い案が出てくるよ」


 はーい。また暴走してしまった。だって、女性雑誌を読みたいじゃない。まあ、私は字が読めないけどね!


 サイラックさんが立った。そえも、いきなり立った。こっちにやって来る。両足で跪いた。私の右手を掴んだ。あれ、これってさっきドレリーもしたよね。手は左手で跪いたのは右足だったけれどこれは、ヤバい亊が起きるサイン。そんな気がした私は、手に汗を感じた。汗がベトベトだから離して下さいサイラックさん。私はこの体制を拒否しまーす!


「けーこさん。私のパートナーになって下さいませんか?」


「ぎゃー」


「ぎゃー。すごいです。一日に二度もこう言う場面に出会えるなんて。『乙女の花園』の報告が楽しみです。そう思いませんか? テモテシ」


 侍女の心得第二十三は、どうなったんだろう。私だって「ぎゃー」って、可愛くない雄叫をしたいよー。でもまだ結婚のプロポーズじゃないしね。落ち着け私。本当は、手の平に『人』って書いてそれを飲み込んで落ち着きたいけど。空気中にうようよ漂っている『人』を飲み込もう。お口をパクパク。私は水中から無理やり引き揚げられた魚。


 この手を離して私を水中と言う名の乙女の布団に潜らせて下さい。


「あのー、それは、仕事のパートナーと言う亊ですね?」


 そう。そうよ。そうに決まっている。よく気付いて偉いよー、私。かねてし死んでいる頭を使うのよー。そして、上手く断るのよー。ガンバレ、私。偉いぞ、私。この世界は、結婚をする年が早い。それなのに二十歳後半のいい年をしたサイラックさんが、結婚してないのは何か理由があるはず。今から結婚なんてありえないよね。


「ええ、もちろん仕事のパートナー……」


 ほらやっぱりね。よかったー。


「もですけど……」


 その否定文の後を聞きたくないような。


「けーこさん。私の生涯のパートナーになって下さい」


「ぎゃー」「ぎゃー。素敵です!」


 私は、何も聞いてないよね。それに、一人暮らしによく有った空耳だよね。私とサイラックさんは、しばらくそのままの状態で見つめ合っていた。パトリーとテモテシのいつもの大きな声も聞こえなかった。


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