幸せの王子
天井まで届くくらいある二つの扉を両脇に控えている二人の兵士が、私とドレリーに気付くと扉を開いて私たちにお辞儀をする。
部屋の中から執事っぽい従者が出てきて私たちにお辞儀をした。日本人な私は人がお辞儀をするとついつい頭を下げてしまう。決して頭を下げられ平気に素通りできる貴族になれない永遠庶民。
「近衞兵、ドレリー クムリン、王の客人の作家けーこ様をお連れしました」
「はっ!」
従者は一礼して扉の中に入り大声で言った。この世界の人はかなり皆背が高いのにこの従者は、三十歳くらいで百七十センチくらいで小型で痩せている。そんな体でよくそんな透き通った声が出ると思う。
私はドレリーに促されて部屋に入った。また典型的パターンが待っていた。今までざわざわ騒いでいたのに従者の声で静まり返る。今幽霊が何人通ったんだろう。それより恐るべし、細っこ従者。顔が平凡顔で密かに私の好みかもしれない。いや、ベアーさんが一番だけどね。
部屋はもちろん広く大きかった。日本人の私が表現するなら体育館くらいの広さ。
ドレリーの左腕に右手を添えて私達は、部屋の中に入った。部屋の中は派手だった。こんなカラフルな集団を始めて見た。まるでコスプレだ。昔、コマーシャルで観た宇宙人を思い出させる。思いっきり周りをきょろきょろ観察したいけれど今は自制の場。大人の私、TPO心得ている。
でも目の端端で観察。ドレスを着ている貴婦人達は現代のイブニングドレスに似ている。コトアルディのドレスやバニエの入ったドレスが主流みたい。男性はウエストコート(ベスト)の上にフロックコート(礼服)を着て、ブリーチ(半ズボン)が主流のようだ。こっちの世界は、一応ドレスとか着る物などのお洒落はそれなりに発達しているらしい。乙女部屋も置物や壁飾りが飾っていない物のレースなどでインテリをしている。
でもすっごく色が気になるの。黄色と赤の組み合わせのドレスは、ある国を思い出させるようで微妙だ。日本の国旗は、白と赤で良かったよ。ある国際大会で皆が白の背広と赤の蝶ネクタイをした時は、ちょっと引いて開会式の間中このユニホームの亊だけ見ていた。これはお洒落なの、それとも格好良いのと誰かに聞きたい。
ドレリーと私が前に進む度に、人々がモーゼの紅海のように別れて行く。王座に近くなる度にびびり始める。昔小説で「チキンハート」と言う表現を始めて見た時にとても感動した。この単語を始めに表現した人は、ノーベル文化賞を受けるべき。この名単語は私の名言集のメモ帳に、もちろん書きこんだ。あの大切なメモ帳が手元に無いのは寂しいよ。
それよりトリップした時に携帯していた私の荷物と、着ていた服はどうなったんだろう。時計はどうしたんだろ。トリップ系、どうして皆持ち物に携帯電話と言う電池が無くなったらお終いの物は、書いているのに腕時計を着けている人を今まで読んだ亊がないよ。ソーラーシステムの時計は、時間の進みが違っても使えると思うよ。それとも時計を着けてトリップする人って、私だけ?
今度ディランドに会ったら荷物の亊を聞いてみよう。最近異世界トリップをして、トリップについてツッコミたい所がたくさんあり、一緒に誰かと語り合いたい。
例えば「異世界には美男美女ばっかりだ」とか。この台詞が出て来たらいつも、キッターとうれしくなる。何と簡易な表現。私も使おう「ディランド世界は、美男美女ばっかりだ」どうだ! 外国に住んでる友人B子だったら「慣れれば不細工もいる亊に気付くよ」と言うに決まっている。そうかもしれないけれど、この世界は美形の比率は多いと思う。だから、平凡探しに精が出る。
バカな現実逃避をしている間に王座に到着。TPOも考えず王座をガン見してしまった。ついでにその両脇にずらーっと並んで座っている、多分王家の方々や近衛兵の方々やお偉い方々。はい、もちろん王様と王家の方々は美男美女。この表現は簡単。今の私にはこの表現しか思いつかない。動物や増してや野菜にあの顔がおを変えるなんて無理。なんだ!この迫力感は。ここで緊張して、儚いヒロインのようにプルプル震えて失神してしまいたい。あれ、イットおじいちゃん発見。王様の隣にいる。なぜなんだろう?
ドレリーが片膝を床に着いたのを見えたので、私も真似をしようとしたら、
「膝をついて礼をする必要はない。けーこ殿に椅子を持って来い」
王様の渋い深みのある声で、従者の人が椅子を持って来たの。状況に付いていけない私は、礼をし終わったドレリーに促され、その椅子に座ろうとしたが椅子が高すぎて座れない。椅子の足の間に踏み台をつけて下さい。ジャンプをして座ろうか悩んでいるとドレリーが私の腰を両手で掴み上げ座らせてくれた。
「ありがとう。ドレリー」
ニッコリしたら、ドレリーも微笑む。
「まあー。可愛いらしい」
「きゃあ、素敵。今、『氷の王子』が笑いましたか?」
「えーっと、私は孤児院の出身です。それで、両親は、院長と院長婦人で、あの、二人共他の子供達の世話があるのでお招きいただいたとしても、来ることは難しいと思います。
その、それで、お気に止まないで下さい。それと、私は、前に盗賊に襲われて、それで、記憶がなくていいえ、ちゃんと、部分的には記憶があってでも、出身地は分かりません。お答えできません。すみません」
ちゃんと言えた。
「まあ。そなたのような幼い子が可哀想に」
この国の王族の人達は、優しい人が多いようだ。
「あのー。私は、半年前に二十一歳になりました。それに、成人しているので気にしないで下さい!」
最後の台詞が大きく叫んでしまった。しーん。しーん。王族の方々を始め周りの人からの視野が痛いよ。皆さんのお目々が溢れ落ちそう。特にイットお爺さん顎が外れているよ。
ちょっと気になり後ろに控えているドレリーを見た。見ない方がよかったみたい。なぜか顔が青ざめたと思ったら顔が紅くなり目が獲物を狙うような嫌な目でこっちを見て居る。いや、別に自分を見ている訳じゃないよね? きっと。
「ああ、そういえばそうだな。立派な女性だな。女性は若く見られるとうれしいと言うしな。ふむ。可愛い女性だ。そんな可愛い顔に傷を付けられて不甲斐ないの?ドレリーオット。どう責任を取るかのう」
流石王様。回復が早かったと思ったら何が言いたいんだろう。意味不明なことを言っている。確かに若く見られるのはうれしいけれど、絶対十二歳暗いに見られていたらうれしくない。
「それでの、そなたは作家であり語り手であるとも聞いた。よって『不思議の国のアリス』と『人魚姫』を語って貰いたいと呼んだんだが、イット叔父上とドレリーオットに新しい話を語ったと言うではないか。ぜひ我にも聞かせてくれないかの。使いの者にそなたの原稿を取りに参らせよう」
急に王様のさっきの威厳が消えた。王様の目がキラキラと飴を強請る子供のような目をして私を見ている。まさかこっちが素なの? それでいいの、この国。この王様、私と同じ人種の匂いがする。周りに仕えている近衛兵達や恰幅の良いお偉いさん達が苦い顔をしている。そうだよね。そんな顔をしたくなるよね、こんな王を上司に持ったら。私には全然関係ないけどね。
「あのー。私は、読み書きがで出来ません。それで、出版社のサイラックさんが、私が話した亊を紙に書いて下さいます」
また皆固まって、お目々が飛び出している。
「サイラック。ああ、あのメトニン侯爵の四男か?」
サイラックさん、貴族だったんだ。
「まあ、あの『影の貴公子』ですわ」
『影の貴公子』? えっ、サイラックさんの亊?
一体どこにその名が付く要素があるんだろう?
サイラックさんは、ドレリーの二次元美形と反対で爽やかで現実味のある美形ハンサムだ。容姿だって、空色の紙でピンクの目のパステルカラーだ。『光の貴公子』だったら少しは頷けるけれど『影の』は、なぜ?
「つまり、そなたは『不思議の国のアリス』も『人魚姫』も口語で作ったと言うのか。ましては、それを一文字一文字覚えていると言うのか?」
「えっ。はい。読み書きが出来無いので……」
最後の台詞が、小さくなる。
「そうか……」
王様がため息を吐いた。何か考えている。
「それより話を聞かせてくれないかの。ドレリーオットに話した話しでも良いしイット叔父上に話した話しでも良いし、もし他に話があったならそれでも良いぞ」
「あっ、はい。えーっと、王様とここに居られる方々に、ぜひ聞いて貰いたい物語があります」
「ふむ。まずは席に付くと良い」
私はドレリーの手を借りて、又もや椅子に座る羞恥プレーをしましたとも。
それから私は『幸福の王子』を語った。不思議な亊に私が話す物語の中でこっちに無い単語は、きちんとこっちの単語に訳されたりして変換されている。例えば、「エジプト」と言うのは「南国」と言う具合。ディランド翻訳機は、地球大好きっ子日本の小説大好きっ子だけあって現代語ばっちりだね。
なぜ楽しい話がたくさんある中でどうして私は、この話をこの上流階級の人達を相手に語ったんだろう。多分児院でキミトがスイ国出身で、前王の時大きな後宮のため民に重い税をかけられて民はその日の食べ物も無い生活を送っていて、道の脇に飢えで死んだ死人が転がっているのは日常茶飯事だったと幼い記憶にそれがあると話してくれた。
その時のキミトの顔が寂しいやら辛いやら今までそんな顔をした人に会った事が無くてその顔が忘れられない。幼い子供のする顔じゃない。王一人の行動で国が良くも悪くも変わる。只少しでもこの話を心に収めて欲しい。
(赤ずきんちゃん
可愛い娘が悪い狼に捕まらないように。)




