幸せの王子
私こと、地球名では杉山けいこ、異世界名はけーこ、只今異世界トリップ王道イベントその名を「謁見」を体験中。
私はどれくらい乙女部屋の乙女布団に蹲っていたか分からないけれど、侍女達がそーっと部屋に入ってきたので仕方なく布団から出た。女は度胸。行動あるのみ。
「すみません。起こしてしまいましたか?」
パトリーさんが、申し訳なさそうに言った。
「い、いいえ、先ほどから起きていたので気になさらないで下さい」
テモテシさんが、窓のカーテンを開け窓を開けた。この国の冬も寒くなく気持ち良い。それより昨日の事を謝らないと。
「あの、パトリーさん、テモテシさん。昨日は、ごめんなさい。あんな態度を取って。それでね。貴族のこと怖がったりしてごめんなさい。それと、あの、もしよければ、けーこと呼んでくれないかなあ、と思ってね。えーとそれで、出来ればお友達になりたいです」
えっ、反応なし?と思ったら、パトリーさんとテモテシさんが……壊れた。
「きゃー。可愛い。萌。これが萌です。お友達。ええ、ぜひお友達になりましょう。ワタクシのことも、テモテシと呼んでね。けーちゃん」
萌って何? どこが可愛い? けーちゃん?
「けーちゃん。素晴らしい呼び名です。ワタクシの事もパトリーと呼んで下さい。けーちゃんとお友達。これは、『乙女の花園』の皆さんに羨ましがれます。どうしましょう」
乙女の花園? どっかで聞いたような。
「テモテシ、萌えている暇はありませんよ。今朝は、けーちゃんの謁見があるので急いで準備をしなくてはなりませんよ」
「ええ、そうでした。急いで準備しなくてわ。けーちゃんを磨かねばなりませんね。パトリー、久しぶりに腕がなります」
「ええ、そうですね。でも額の傷があるので、髪は結わない方が良いと思います」
「そうでした。すっかり忘れてしまいました。でもけーちゃんの黒髪は真っ直ぐで綺麗なのでそのままでも良いでしょう。それよりあの女なんて忌々しいんでしょう。スクレル子爵のバカ娘『乙女の花園』のブラックリストの一番にしましょう」
「それより噂の薔薇石鹸を、この手で堪能出来ます。それとお肌すべすべ」
「テモテシ戻って来て下さい。段々と『禁断の花園』の会員に入りつつあります」
「ええ、そうですね。『禁断の花園』から引きずり出してくれて、ありがとう」
ディランドから貰った翻訳機能が壊れたみたい。二人の会話が分からない。それよりディランドはいつ逢いに来るんだろう。すっかり存在を忘れていた。
「では、けーちゃんお風呂に入りましょうね」
ぎゃー、自分でお風呂に入れるよー。これがあの王道、羞恥プレーなのね。王道なんて嫌いだー。貴族に何て絶対ならないと決めたよー。平凡万歳。庶民万歳。どの小説でもきっぱり断れるけれど、私も抵抗なしに他人に体を見られ洗われてたまるもんですか。
はい、あっさり敗れました。ちゃんと服を脱がされる所から、きちんと王道経験しました。そして只今お風呂の中。
「この薔薇の石鹸とても泡が出て何て良い香なんでしょう」
私は泡ぶくぶくのお風呂(ヨーロッパの横になる形)で羞恥を耐えている。それよりいつ私のカバンからこの石鹸取ったんだろう? 貴族はプライバシーもないんだ。昔王子や金持ちの人と結婚したいと思っていた自分を思い出し……バカだった。
「あの、もしよければ石鹸をもう一つ、余分に持って来たからお二人で切って分けて使って下さい」
「よろしいのですか?」
「ええ、どうぞ」
えーと、この間は何。そっ、そっれは二人がまた宇宙語を話始める準備の間だった。
「きゃっ。うわさの薔薇石鹸を頂いてしました。これで、『乙女の花園』の皆様も匂いを堪能出来ますね。パトリー」
「ええ、そうですね。とても貴重な収穫です」
「本当にお肌すべすべ。殿方が夢中になる訳が分かります。ええ、それより大発見です。けーちゃんは子供かと思いきや、胸はかなり残念、いえほんのりと存在してます。
それよりきちんと女性の体をしているじゃないですか!」
「テモテシ。ちょっと、慎みなさい。侍女の心得の『主人の事を話さ無い』と言う亊を忘れていますよ。それよりお年は、気になりますね」
二人が宇宙語の交信をしている間にも私は、隅々洗われ服を着させられ鏡の前で髪を整えられて、いつの間にか朝食のあるテーブルに座った。一人で食べるのは嫌だけど二人が給仕をしながら話しかけてくるので、寂しくない。
「ところでけーちゃんは、お幾つですか?」
テモテシさんが聞く。二人共女性なのでヨネさんの「男から身を守る方法第八乗」の「もし相手が子供と勘違いしていたらそのまま勘違いさせとく」は関係ない。
「えっ、二十歳です。近い内に二十一歳になります」
やっぱり二人共固まる。もうこの反応には免疫が付いた。
「年上? ワタクシは十七歳でございます。テモテシは確か十六歳でしたよね」
「ええ。どうしたらそのように、お若い姿を保てるのですか? まさか薔薇石鹸」
「これは一大事です。テモテシ。『乙女の花園』いいえ、他にも『永遠の清らか達』に報告が先ですわ」
『永遠の清らか達』? なんかこれも聞いた覚えがあるようなないような気がする。
「それよりクムリン様と、同じ年ではありませんか?」
ドレリーと同じ年? うっそー、ドレリーって老け顔だったんだ。
「そうなるとユートリッヒ様は年下になりますね。これは新たな重大な発見ですよ。この報告事実により、ユート様派の方がクムリン様派にかなりお移りになります」
「やはり殿方が年下というのは、精神的に参ります者ね。パトリー、それよりも今度けーちゃんも『乙女の花園』に入ってもらうと言うのはどうでしょう」
二人の会話に集中しようと思うけれど、かなり理解不能なので止めるよ。だから今は食べることに集中する。
「けーちゃん、今度、ワタクシ達のお茶会に出席いたしませんか?」
うーん。お茶会? 美味しいお菓子が出るのだったら行きたいな。孤児院だとあんまりお菓子なかったし、それに今また思い出した。地球のケーキ屋さん懐かしい。
「うん。良いけど……私、後四日間しか城にいないよ?
それでもしその間にお茶会があるんだったら、時間があったら参加させて下さい」
私がまた何か変な事を言った訳じゃないのに、侍女達が固まる。
「テモテシ。人生初の失態です」
パトリーさんが拳を作って唸っている。美人が唸る。うん、絵になるかも。それよりパトリーさんは紺色の髪で目が空色で、テモテシさんは髪が薄い赤色で目が空色。目の色が同じだ。二人は対だけど血が繋がっているのかな?
「え、そうですね。けーちゃん、もうそれでよろしかったんですか。まだお腹が空いているのでしたらお替わりをおつぎますけれど。どうなさいますか?」
私はこの量で、お腹がいっぱいになったので断った。
「そうです。あんまりにも少食すぎます。終わったら歯を磨いてきて下さいませ」
確か二人共私より年下じゃない? お母さんっぽくない?




