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my tale  作者: Shiki
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幕間 北風と太陽


 騎士団にいると夜の館に誘われる時が良くある。始めて行ったのは、高級館だった。宿で働いている女は、流石一流だけあり容姿の優れた者が多い。


 私も一番の売れっ子と言う女に気に入られ、彼女の部屋に誘われた。部屋に入るとすぐに彼女が抱き付きキスをした時、汗の匂いと他の男の性の匂いが混じった気持ち悪い匂いがした。その匂いに耐えきれずに、彼女を思いっきり突き離す。


 彼女はそのまま丁度後ろにあったベットに倒れて初め驚いた顔をしてその後、何を勘違いしたのかにやっと笑う。獲物を獲た獣のようで気味の悪い彼女の顔より、彼女が横になっているベットが気になった。そのベットは真っ赤だったけど、あっちこっちにシミが見える。


 そのベットからする異臭がたまらない。彼女は、きっとこの匂いに慣れて気付かなくなっているんだろう。私は何も言わずその部屋から出て言った。 その後、彼女によって「立たない」という噂をされたが誰も私に面と向かって言う者が居らず無視をした。その噂は後で私に相手されなかった彼女の負け惜しみと言われるようになり、その宿の一番の座を蹴落とされたらしい。つい最近その彼女が性病で亡くなったと聞いた。


 今回陛下から勅命を受けた旅の間は、周りからの視線を避けるために部屋で食事をした。特に許せない女は食事の皿を取りに来たと思えば、服を勝手に脱いで抱いてと迫って来る女だ。もちろんその下着姿の女の腕を拘束して、宿主のところに連れて行き訳を話す。


 どの宿の亭主は夜は大抵食堂におり、私はその女を酒で盛り上がっている男共の中に放り投げる。酒を浴びたむさ苦しい男の中に下着姿の女性を放り込むなんて酷いと母上に言われそうだが、性に飢えているなら他の男に相手してもらえと言う私の慈悲だ。私の方から誘ったなどと女達も訴えるが、私は自分の身分を伝え、


「どうして、この私がこの程度の顔の女を召さないといけない」と言うと、皆納得をして宿主は謝り宿泊料をタダにすると言ってきた。宿主のせいで無いと知っていたので、その申し出を断る。只その夜に誰も部屋に入れない事と、帰りも宿に泊まるのでその時も同じようにするように頼む。



 そんな風にうんざりする旅をしてやっと目的地の孤児院に着いた私に、またうんざりする女が待っていた。作家の働いている孤児院の院長夫人。はっきり言って、こんなお喋りの気の強い女は嫌だ。さっさと作家を確保して、王都に帰るとしよう。


 部屋に入って来た少女を見た時は、いろんな意味で驚かされた。まさかあの素晴らしい作品を書いた者がこんな幼い少女だったとは誰が思っただろう。流石にこんな幼子を一人だけ王都に連れて行く事は出来ないと一瞬頭にそんな事を思ったが、この院長夫人が一緒に同行する旅を思ったら一人連れて行く事にした。


 意外にその娘との旅は、楽しいものだった。一番うれしいことは、その娘が他の女のように私をイヤらしい目で、私のことを獲物のように見ていない所。幼いからと言うかもしれないけれど、女とは小さい時から女だ。


 トリーの友達は、小さい時から私をそう言う目で見てきた。宿に泊まった時、本当は別々の部屋にするべきだが宿の他の女が私や娘に何かしてくるといけないので一緒の部屋にした。部屋の中で彼女がどんな態度を取るか気になったのも私の本音。


 娘は私と一緒にいることを別にどうも感じて居らず、ベットであっけなく眠り始めた時は少し自分の魅力が無くなったかと思った。それよりこの娘の危機感の無さがもっと心配になる。一応一緒の部屋にいるのは近衛と言え男。トリーですらその辺の危機感は十分あるはずだ。


 ましてや彼女は可愛い。あの小さい顔に目がこぼれそうな大きな目をして、形の良い小さな鼻と口が収まっている。これほどの繊細な顔形を見た事はない。きっと、トリーが羨ましくなる理想の顔だ。色々な綺麗な人や可愛い人を見てきたけれど彼女ほど神秘的な人はいないと思う。母上とは全然違う美しさだ。


 色持ちと言う人に始めて逢った。ましてやそれが黒色を所有している。黒い色を持った人は滅多におらず、ある地域では神子と祭られている所があるらしい。肌の色も南国の国の人のほど黒くなく、かと言って我が国やスイ国の人達のように真っ白じゃない。なぜかピンク色。馬の上やエスコートする時に触れた娘の肌が、なめらかで気持ちよかった。ついもっと触りたくなった。


 娘の髪は、癖がなく真っ直ぐでシルクのような触り心地だ。いつまでも触っていたく風呂の後は、なんども櫛を通した。彼女は、庶民出なのにお風呂が大好きだ。貴族の中でも毎日、こんなにお風呂に入る者がいるだろうか? そして小川を見るたびに顔や手を洗いたがり、行きよりかなり時間がかかった。


 娘からはいつも薔薇の良い匂いがしてくる。馬上で彼女が自分に体を預けてくれる時に、娘の体が暖かく柔らかく良い匂いがして、ずっと抱いていたくなる。


 彼女と一緒にいて話をしているうちに、娘が幼い子供でないと気付く。娘は見た目に反して大人なのかもしれない。でも女性に年を聞くのはマナー違反なので、聞く事が出来なかった。もしかしたら十五歳いや十六歳成人しているかもしれない。成人していたらどうするつもりなのかと自分でも分からない気持ちを旅の間、持て余している。


 その気持ちに気付いたのは、娘が怪我をしてその小さい体を抱っこした時だった。自分は娘にすごく惹かれていた。血を流す娘の傷ついた顔を見ると娘を失うのではないか心配になり、胸がはち切れると言う思いを始めて経験した。愛する者が傷付く事は自分が傷を付く事より辛いと知る。


 怪我の後の彼女は、私に心を閉ざしたようだ。その態度を受けるとなぜか身を引き裂かれる感じでどうすることも出来無い自分がいる。彼女にまた心を開いて欲しい。もちろん彼女を傷付けたバカ女にはそれ相応以上の罰を与えるつもりだ。


 彼女が欲しがったマントも母上とトリーにお願いして選んでもらう。二人共喜んで探してくれるだろう。緑はあの事件を思い出すので止めておこう。彼女には、赤が似合うはずだ。あの黒髪が映えるだろう。彼女の黒髪は光に当たるとキラキラして綺麗だ。黒髪と言うのは不思議な色だ。留めがねの所に私の紫の目の色にしてもらおう。それを着ている時に私の事を思い出してくれるとうれしい。今度、もっといろんなドレスを贈り物としよう。トリーが人形のドレスをよく替えていた気持ちが分かった。


 それより女の顔に傷をつけた責任として彼女と結婚しよう。ああ良いアイデアだ。彼女は、貴族とかそう言う身分に拘わってないようだし次男でも良いと言ってくれるだろう。王に報告をしよう。それより彼女の年を知らなくてはならない。年がまだ成人していなければ婚約でもしていた方が良い。


 彼女が会いたいと言っていた、孤児院の弟の見習い騎士に聞けばいいか。他の男に彼女を合わせるの嫌だが弟だと言うし、私も妹のトリーと会いたいしな。それより見習い騎士が来るのが遅すぎるぞ。いつまで私をこんなむさ苦しい団長室で待たせれば良いと思っているんだ。私は早く彼女の側に付いていたい。


『トントン』


「騎士見習いユートリック。お呼びのようで、只今来ました。中に入ります。失礼します」


 それから私は、人生始めて嫉妬をすると言う事を経験する。


(北風と太陽 


 例え、私が北風だとしても何が何でも奪う。)


{サイラック出版会社のウィークリーニュース第一号の小話欄で作家けーこ作 「北風と太陽」掲載}

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