幕間 北風と太陽
私の名前は、ドレリーオット=セノヌリシテシ=デ=クムリン。
クムリン伯爵家の次男に生を受けた。親しい者達には、ドレリーと呼ばれている。
煩わしい女共には、『氷の王子』と呼ばれているらしい。本当の王子達がいる中でこんな名前を付けるなんて可笑しすぎる。だから女なんて、権力とお金とステータスしか考えていないバカばっかりだ。特に貴族の女はその数が圧倒的。世の中の女が全てそうじゃないと母上や義姉上や妹のトリーを見ていて分かるが私の回りに寄り付く女は、はそんな奴ばかりだ。
兄上や王子達や気心の知れた仲間達は、私のこの容姿では仕方ないと言うが、自分だって好きで昔から『傾国の美女』と言うあだ名で呼ばれ続けている母上の顔を受け継いだ訳ではない。
本当は兄上やトリーのように、男らしい父上の顔に似たかった。トリーは王女と同じ年の十四歳で小さい時は、女の自分がどうして父親に顔が似て男の私が母親に似たのかとよく泣いていた。確かに母上の娘と期待してトリーに求婚をしに勝手に来て、「がっかりした」と言って帰って行く男達がたくさんいる。愚かな奴は男も女も結局は一緒だ。そんな経験ばかりした妹を私はたくさん可愛いがっている。
トリーは確かに顔は女性独特の可愛らしさや柔らかさ増しては、母上のように一目で人を惹きつける綺麗さが無いけれど、父上のように整っていてハンサム顔だ。
ハンサム顔では、可愛いドレスが着れないと言ってドレスはいつも地味な物や控えめな物を着ている。本当はレースなどをたくさん付いているドレスが好きなのを知っているが、自分には似合わないと言い張って決して着ようとしない。
その反動か部屋は、ピンクやレースで飾り付けられ部屋中に自分で作った可愛いドレスを着た人形が溢れている。そしてなぜかちょくちょくいろんリボンを私に持って来る。
今じゃあ私の所持をしているリボンで、お店を開けるくらい増えた。男が毎日いろんな種類のリボンをつけていると笑われるかもしれないが、可愛い妹のためだ。
『不思議の国のアリス』と『人魚姫』の話が話題になって、その本を読んだ後のトリーが久しぶりに生き生きしていた。「これを書いた作家は、きっと素敵な人よ。お会いしてお話をしたいわ」とトリーと母上は、その本を何度も読み作家がどういう人かと毎日のように話している。作家の名前は、「けーこ」と言い、男か女か分からない名前。それだけの話を作るぐらいだから、相当人生経験の豊かな年配の人だと思う。
トリーがアリスと時計を持ったうさぎと、人魚姫の人形を作った時は笑った。母上とトリーの話によると、「けーこ様をお慕いする会」があるらしい。
しばらくして王から、「作家けーこ様を王と謁見をするためにお連れする」と言勅令を受けた。作家けーこ様に会いたいと思ってリクエストしたのは、王妃か王女かまさか王自身かもしれない。
この国の王は、『おこちゃま王』というあだ名で呼ばれている。政治も武力技術もあり逞しく凛々しい容姿にもかかわらず、このようなあだ名で呼ばれたのは、子供のように新しい物や面白いことに何でも興味を持つからだ。最近ではトランプと言うカードゲームにハマっており、家臣を引きずりよくやっている。確かにトランプを作った者は素晴らしいと思う。今、王がこのトランプの製作案を作った者を探している。
母上とトリーに今回の任務を伝えると二人の喜びようといったらすごいという言葉だけでは表現出来ないくらいすごかった。あのいつも控えめな存在が薄い義姉上もはしゃいで喜んでいた。作家は、スイ国との国境のマイ町の孤児院にいる。きっと、孤児院の手伝いをする使用人だろう。
それより、スイ国の近くに行くと言うのは気が重い。五年前に、外交大使の父上がスイ国に前王の葬式に出席をした時、毒殺に遭った。これは、我が国を内乱に陥れようと介入して来る何人かいる中の一人の王子の企み。もちろんそんな、馬鹿げたシナリオに陛下は引っかからない。『おこちゃま王』と言うあだ名が在るが、陛下は賢王だ。だから個人的に、スイ国の人は好きになれない。
旅の最中はマントでなるべく顔を隠していたが、泊まる宿で私の顔を見る度に誘ってくる女達が鬱陶しい。フードを被って酒場で酒を飲んで居るとオーダーに来た女が私の顔を見ると、その服からこぼれそうな大きな胸を私の顔に押し付けて来る。私は、特に胸の大き過ぎる女が嫌いだ。牛の乳と同じじゃないか。
私はよく父上と兄上について城に行って王子達や、他の高貴族の令息達と遊んでいた。私が十三歳の時王子と城で隠し部屋探しをしていた時、弟王子と離れある婦人の部屋に迷い込んでしまった。
その部屋に母上より少し年上の婦人がいた。私は、部屋に入った事を謝り、部屋を出ようとしたらその女性にお茶を一緒にしないか誘われた。人様の部屋に勝手に入ってしまった後ろめたさがあり、お茶を頂だいた。
そのお茶には眠り薬が入っていたんだろう、私は眠り目を覚ましたらベットに繋れていた。十三歳といえば性に興味がある年頃で友達と会う時はそう言う会話をしていた。さらに王子たちと女性に虜にならないようにするという名目で実技以外の教えを王子達の教師に、たまに一緒に受けたのでこの女のすることが分かった。
決して屈しないと思ったが、未熟な私の体はその女には敵わなかった。その女は、垂れ始めた大きな胸を自分の顔に押し付けて来た。窒息を始めて経験した。巨乳は武器にもなることを知った。それは生まれて始めて経験した屈辱だった。 その女は、私が訴えても誰も信じないと言った。
確かに城に個人部屋を持てる位の地位なのかもしれない。私はこのことは誰にも言わずに、いつかこの女に復讐をしようと力を付けることにした。もちろん、騎士になり近衛兵に抜擢された後、この女とその旦那には影で復讐をして社会的末梢をした。二人は、田舎に引っ込んで二度と城には、あがれないだろう。
私は伯爵の次男なので、家系を継ぐ訳でもない。只のお荷物にはなりたくなくて、騎士団に入った。城にいるといろんな女が誘って来た。たまに男もいた。男同士でそう言う亊をすると知って、騎士団でも着替えや入浴はすごく気を付けて、只ただ強くなる事だけを目標にがんばった。誘って来る女は既婚者が圧倒的に多かった。
既婚者なのに何をしているのか呆れる。私が結婚した暁には、妻が欲求不足で外で男を探さないように満足させようと、その時誓った。私が十六歳の騎士見習いの一年目にある女の子と出会った。彼女は、清楚で今にも倒れそうな可憐な感じの少女のような感じの女性。城の片隅で何度か逢瀬をした。
私は、十二歳の時に婚約をして婚約者がいる身で彼女と会うのは初め後ろめたかったけれど、彼女と会わない亊が出来ないくらい彼女の事にのめり込んでいた。だから、婚約者と婚約を破棄して彼女と結婚するつもりでそのことを彼女に伝えたら、彼女に笑われた。彼女は私の婚約の亊を知っているし、私が爵位を継が無い次男と言う亊も知っていると言った。
そしてさらに衝撃的な事は、彼女はある子爵の後妻だった。その子爵がかなり年寄りで夜の営みが出来ないらしい。そして、「あんなヨレヨレオヤジに触られるのが嫌だから、別に立たないのはありがたい」とまで言った。
「やっぱり、綺麗な私には綺麗な若い人がお似合い」とまで、言った。その時の彼女は私が婚約を破棄してまで結婚したいぐらい、すごく愛していると思っていた。
そして若い男なら体の関係を持てるなら、なんでもすると勘違いしていたので私のした質問にペラペラと答える。どうして子爵と結婚したのか聞いたら、「地位と財産」とあっけなく言った。田舎出身の薬師の娘には、領主のその夫以外の人と出会う機会が無く夫は彼女の足踏み台だそうだ。
前夫人との間に五人の息子と孫が五人いるので、自分が息子を産んでも跡継ぎになれないらしい。その子爵が早く亡くくなってくれればもっと地位の高い人と結婚するといい、私の兄上が亡くなれば私が伯爵になれるのにとまで言いきった。
彼女は田舎の薬師の娘で薬に詳しいから、彼女の旦那が亡くなれば協力をすると言われた。丁度彼女の夫は年寄りなので計画は簡単だと言う。目の前のこの女が恐ろしい悪魔のように見え、吐き気がした。私はうまくごまかしこの時別れ、その後も周りの仲間の手伝いを受け逃げ回った。
彼女の夫の子爵は、それから半年で亡くなった。丁度その時、ある伯爵家の当主が毒を盛られた事件がある。その当主は周りに内緒でイット閣下の所に隠れ弟子入りして毒の研究をしており、そのことにすぐ気がついて監査機関に連絡をした。国の監査機関は、すぐに犯人を捕まえる。
それは、爵の腹違いの弟だった。その弟は、簡単に自供を認め彼女の存在を明かす。彼女は夫の子爵殺しと両方の罪を受けた。
私の女性嫌いは、それだけでなった訳ではない。私をこれほど女嫌いにさせたのは、自分の婚約者だ。ある日偶然に私は、彼女が友達と会話をしている所を聞いた。
「バレンシアは、クムリン様が婚約者で良いわよね」
「そうでもないわ。婚約をした時は、私は十二歳で顔さえよければそれで良いと何も考えていなかったのですわ。ドレリーは、結局次男で伯爵家をお継ぎになれないんですもの。今は家を継いだ兄上にお世継ぎができないので少しは爵位を受ける機会があるけれど、もし後妻をとり跡継ぎができたら只の卿どまり。
騎士なんて言うのも結局は下級貴族ですわ。私、もっといい殿方を見つけたら別れるつもりですの」
元々彼女の事を好きとかじゃなく、親に薦められて彼女の男爵家と近所だったから承諾しただけだ。だからためらいもなく別れた。別れる時に男爵が慰謝料を請求して来たので彼女の会話の事を言うと顔を赤くしてその後に青くして承諾した。
その婚約者は、母の異母姉でデレリ伯爵家に嫁いで生まれた私の従兄弟と結婚した。私達家族はこの叔母と従兄弟が昔から大嫌いだ。母上も幼き頃、この異母姉に散々いじめられたらしい。前婚約者と従兄弟は、似た者同士でお似合いだと思う。




