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my tale  作者: Shiki
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幕間 北風と太陽

 僕の名前は、ユートリック。春に十六歳になり、今は王都の城内で騎士見習いとして毎日訓練に励んでいる。僕がこんな厳しい訓練に耐えられるのも、まあ、「騎士になりたい」と言う、いつの時代でも男なら憧れる理由もあるが、愛する人を早く迎えに行きたいと思っているからだ。


 僕に愛する人が出来るとは、あの日まで思わなかった。


「ユート。大変、大事件。ベアーさんが女の子を拾って来て、今ヨネお母さんが病室で看病していて、ヨナおじいさんが診察しているの。


 あーあ、もうコナットはいないんだよね。前はよくチビちゃん達が怪我をするから診察にヨナおじいさんと来てくれたのに、王都に行っちゃって、もうしばらくは、あの顔を拝めないなんて寂しすぎる。でも、あと四ヶ月くらいで私達も王都に行くしね。すぐ会えるよね。町の女の子達がすごく羨ましがっていた。


 でもコナットは、王都でもきっとモテるんだろうな。あーあ、王都って、きっと綺麗な人が多いんだろうな。


 シーレ姉さんの手紙でね、貴族の人達はレースの縁や刺繍がたっくさん付いているドレスを何着も持っていて毎日違う服を着ているそうよ。コナットのお母さんの領主婦人もいつもドレス着ているもんね。


 でも、領主様は準男爵様でしょう。貴族様の位はあんまり分からないけれど他にもっと位の高い貴族様のドレスは、もっとすごいんだろうね。私もいつかお金をたくさん貯めてドレスを着て夜会なんて言うのに出てみたいわ。出来れば相手はコナットが良いけど、相手はまあユートでも良いよ。


 ユートも騎士になったら夜会に出る機会があるかもしれないからその時は、私を誘ってね。約束よ。それとね、騎士の仲間で良い人がいたら必ず私を紹介するのよ。


 本当に、ユートと幼馴染で初めて良かったわ」


 昔からソニが、話始めるとなかなか話が終わらない。五年前に生まれ育ったトリ村からこの孤児院でヨネお母さんと出会ってからさらにお喋りが多くなった気がする。


 最近は最年少のリタまでわずらわしくなった。女なんて、何でこんなにわずらわしい生き物なんだ。早く男だけの騎士寮に入りたい。ミトお父さん秘伝の『右耳から左耳に流し、頭こくこく方』を使って、今作業中である夕方の牛絞りをする。


「その子ね盗賊に襲われたんだって。マイ山で発見されたんだって。でも、ベアーさんに見つけられてよかったよね。スイの国の人に見つけられたら一体どうなっていたか。何か、スイ国で奴隷販売がされているみたいよ。旅の人がスエットの宿に泊まっている時そんな話をしたらしい。やっぱりスイ国なんて大嫌い!


 カイライより貧乏のくせに前の王様は、後宮を持っていて女の人をたくさん囲っていて、子供たちの王権を巡ってそのせいで五年前の内戦があったのよ。そのせいでトリ村は焼けて私たちの両親は亡くなってしまったのよ。


 シーレ姉さんがあの日私達子供達を連れて森にハチミツ採りに行かなかったら、私達も死んでいたわ。私、まだ時々村が炎に焼けて行ったあの時の夢を見るの。リタも他のチビちゃん達も、たまにその時の夢を見て夜泣きをするわ。私もシーレ姉さんが王都のパン屋に就職して出発する頃まで、毎日夢を見て泣いていたわ。でも、すっごくびっくりだと思わない?


 シーレ姉さんが王都に行ってパン屋の息子さんと一ヶ月で結婚したなんて。やっぱり王都はいい出会いがあるのね。今回もシーレ姉さんが妊娠して働き手が少なくて、私に話が来てすごく運があったと思うわ」



「ソニ、スイ国を一眼に嫌うのはよくない。キミトもスイ国から来たじゃないか」


「うん、そうだけど。キミトは、イト町出身、今はマイ町出身でカイライ国民よ。キミトは、私の弟だからいいの」


 キミトや他のスイ国から移民して来た子供達と、僕達村の子供達の間には、大人のようにスレ違いがない。シーレ姉さんは、当時十五歳でまだ成人していなく、仕事の忙しい大人のために小さい子供の面倒を見ていた。まだ乳児のリタを背中におんぶして他の子供達の遊び相手をしていた。


 僕達男の子達は朝の家の手伝いが終わると、十五歳のお兄ちゃんと毎日魚釣りや薬草採りや兎などの小動物採りなどして、野山を駆け回っていた。丁度その日は、シーレ姉さんが子供達にハチミツを食べさせたいと言い出して皆で森に行く事になった。今思うと、シーレ姉さんは大人達の嫌な空気に気が付いていて、なるべく小さい子たちを元気付けようと思っていたんだと思う。後でシーレ姉さんに聞いたけど「何の事?」とごまかされた。そんなシーレ姉さんが良い人を見つけて新しい家族ができて、今度赤ちゃんが生まれるのはうれしい。


「それでね。その子、黒い髪をしているってリタが言っていたわ。私、黒色も持っている人に始めて会うの。会うのが楽しみだわ。確か十一歳か十二歳位の子供だって。


 私も後少ししかないけれど、しっかりお世話をするわ。ユート聞いている?」


 黒髪。実際には会った事がないけれど一度変わった夢の中で黒色を持った女の子を見た。その夢の中で黒髪の小さな女の子が泣いていた。僕も皆に言わないけれど、五年前の悪夢をたまに見る。


 でも、それより五年前この孤児院に来た以来、始めて泣く切っ掛けをくれた夢を思い出す。僕は十一歳で上に何人かの年上の姉貴と兄貴達がいたけど、皆ちびっこ達の面倒に忙しかったので僕もしっかりしないといけないと思って一度も泣かなった。


 僕の心は、両親や村を一編になくしたのに、泣けず悲しみで壊れる直前だったと思う。その夢の中の女の子は、変わった小さいけど、綺麗な部屋で綺麗な服を着ていて、何か抱きしめて泣いている。


「お父さんお母さん、二人一緒にどうして亡くなるの」と言って泣いていたからきっと、僕と一緒で両親を一編にに亡くしたんだと思う。


夢の中だったから、彼女がどれくらい泣いて居たか分からない。短かったのか長かったのか。その女の子は、急に泣き止み両手に抱きしめていた物に向かって、


「お父さん、お母さん、今まで育ててくれてありがとう。二人共娘が見ていて恥ずかしくなる位ラブラブだったから一緒に亡くなってよかったのかもね。私、二人の思いでたっくさん在るから大丈夫よ。


 おばあちゃんもいるしね。もう、泣かない。二人共私が笑っている方が好きだったもん。笑って生きて行くね。お母さん、お父さんありがとう。愛しています」


 その少女は、どっちかと言うと可愛いのにその笑い顔が綺麗だった。僕も両親のために泣こう。そして、お礼をして笑って生きて行こう。僕が彼女の夢を見たのはその時の一度だけ。少女の顔は、あまり思い出せないけれどその少女が好きだった。


「はやく、その子元気にならないかな」


 そう言いながら、ソニは家畜小屋から出て行った。


 その二日後に僕は、またその女の子に会った。夢の中より少し成長している感じだけど、まだ僕より年下だ。でもその後で、その子が二十歳と聞いて驚いた。きっと、頭を打って記憶があいまいなのかもしれない。


 彼女は今まで知っているどの女の子より口数が少なく、それでいて話す時は、その話は意味があって二人ですごく時間はとても楽しかった。彼女は、皆に優しく色々な事に興味を持って、いつもあっちこっち行っていろんな事を試している。普通の子供でも興味が沸かないことを一生懸命している。「頭を打って記憶がないから全てが新鮮なんだろ」


と、ミトお父さんが言っていた。「きっと記憶がなくなる前はお嬢さんで庶民の生活が新鮮なんだろう」と、ヨネお母さんが言っている。僕の夢の中の彼女の部屋は、確かに貴族の部屋のようだったけど何か変わっていた。でも僕は、彼女がいろんな事に興味を持つのは性格だと思う。


 ハチミツを採りに行って川に落ちた時に、彼女の体が水に濡れて透けて浮かび出た時はどうしようと思った。


 彼女を抱きしめた時に、女性のくびりがあることに気付く。彼女の年齢が二十歳と言うのは、きっとそうだと思う。二十歳と確信してから、僕はがんばらないといけないと焦る。他のヤロー達に取られる前に。早く一人前になって彼女を迎えに行くんだ。


「ヒッヒーン」


「ごめん。ごめん。ケイ。強く毛をときすぎたね。許してくれ」


 ケイの赤毛を撫でると、鼻を僕の顔に擦り付けて来る。『ケイ』は、彼女に貰った馬。本当は男として女から物を貰うのは抵抗があるが、彼女の気持ちだ。今は弟としてか見られていないけれど、いつか挽回してみせる。彼女は元気だろうか?


 この国の騎士には、庶民と貴族と半分半分だ。この国は実力主義らしい。始めてケイと一緒に登録した時は、馬を所有しているので貴族と間違えられた。庶民出身の人は、皆騎士になって半年で所有するらしい。僕早く騎士になって彼女を迎えに行く。いくら田舎だといっても安心出来ない。


「ユート。ここにいたんだ。近衛兵のクムリン様がお前を探しているよ。早くいけよ。団長室に行ってこい!」


 その時の僕は、まさか彼女がこの城にいるとは思わなかった。そして、この世で誰かをこんなに憎むなんて自分が経験することになると。


(北風と太陽


 僕は、どっちになるんだろう。)

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