プロローグ
第一章 プロローグ
昔々、異世界から来た可愛そうな少女がいました。その少女は毎日、洗濯ばかり。それも手荒い。少女は毎日洗濯だけしていました。めでたし、めでたし。
「はあ、自分で作ってなんだけれど……何これ?
どうして童話って、『昔々あるところに』で始まって『めでたし、めでたし』で終わるんだろう」と、誰かと話しいる訳じゃなくて、独り言。最後の洗濯物のシーツを、木と木の間に結ばれた紐に干し、私こと「杉山けいこ」は、空を見る。
この空は私が前に住んでいた所で見た空と同じに見えるのに、この空の彼方に私が生まれ育った町、日本、世界に繋がる事は決してない。気持ちいいそよ風が、私の頬より少し下まで伸びかかった黒髪を巻き上げる。ここに来た時は、髪もボブカットだったのに。本当に月日は勝手に過ぎて行く。
この世界でこの先何日何年過ごしても、私が二十年間生まれ育った日本人としての思考や習慣は、きっと変わることはない。日本では決して触れることがない壮大な大自然に「この中世ですか?」と、叫びたくなる世界。
その世界に慣れている私もすごい。人間の順応性って素晴らしい。でも絶対に濯機が欲しい。洗濯機のない生活に慣れたくない。
無理なのは分かっているけれど……決して乾燥機とかテレビ電子レンジ炊飯器、いやいやその他もろもろの便利な電化製品が欲しいなんて、そんな贅沢な事は言わないから、せめてこの世界のトイレをどうにかして欲しい。
でもあの日に逢った訳の分からないこの世界の創造者に、心の中でお願いしているけれど、アイツがこの願いを聞き入れる亊がないことを知っている。アイツこの異世界の創造者に逢った日は、私が二十年間を生きて来て一番最悪な日だった。
その日は就職の面接があり、会社のラジオのナレーターの第一面接の帰り道。足どりの軽い帰り道をうきうきしていた。面接が上手くいったので自分にご褒美をしようと、バイトの給料日にしか行ったことがないケーキ屋に行くことにした。今の気分は王道のストロベリーショートケーキ。飲み物はレモンティー、ミルクティー。いやいや、やっぱり王道のストレートの紅茶かな? 私は違う種類のケーキのことを考えながら、人気のない小路を歩く。
このケーキ屋は高齢の夫婦が、旦那さんのマスターの定年退職後に自宅の一階を改築してカフェをしている所。マスターは、設計の仕事をしていたので、カフェも自分で設計した。店の壁にはマスターの描いた設計図が、木の額縁に飾られている。
それを見るだけで一日を過ごすことが出来た。ケーキも奥さんが「長年の趣味なの」って笑って言っていたけど、「絶対に、趣味を越えているよ」と、何度も褒めた『プロの味』このカフェはアットホームな感じで優しい時間が過ごせる。
私の一番のお気に入りの場所。この隠れ家のようなケーキ屋は短大に入った時に小学一年生の時からの親友『加奈子』に教えてもらった。
その日から、月に一回くらいの割合で通っている。本当はもっと通いたいけれど、自分の体型と財布の中身を考えると、ついつい行けない。食べても太らない加奈子がうらやましい。私は食べる分しっかり肉になっていく。そんな所だけしっかりしないでも良いのに。
カフェに始めて加奈子と行った時は、唯一の家族おばあちゃんが亡くなっ数日後。葬式などで忙しくしていたけど終わった後は、急に何もしたくないかった。寂しさと不安だった時に、加奈子に引きずられてこの店に来た。
「けいちゃん。このケーキ、おいしいよ」
食欲があまりなかったけれど、目の前で心配そうに座っている加奈子を見て一口食べる。ケーキを一口食べた時、「心が温まる味があるんだ」と知った。ケーキを食べながら、おばあちゃんが死んだ日から一度も泣けなっかたのに涙が次々と出た。
「けいちゃん、頑張った。けいちゃんは一人じゃないよ。皆けいちゃんのこと大好きだよ。私はけいちゃんのお姉ちゃんになるから、だからお願い寂しがらないで」
その後は加奈子に抱き締められながら泣いた。私達はそこに何時間も居座った。お店の奥さんが、何度もおしぼりと新しい紅茶を持ってくる。目を真っ赤にして会計をした加奈子の後ろに佇んでいた私に、マスターが言った。
「今日の会計はいいので、ぜひうちの店をご贔屓にして下さいな」
てっきり涙は全部出しきったと思っていたけど、また涙が出て、マスターと奥さんがおろおろし始めた。
「いつでもここにるから、またいらしゃいね」
マスターと奥さんの笑顔があるこの場所が、いつの間にか私の大切な場所になった。
だから、二人も私の面接のことを気にしていたので上手くいったことを、早く報告しようと急いでいた。この道は何度も通ったことがあったので周りを見なかった。
「えっ!」
右足がマンホールより大きい黒い穴に入って、バランスを崩す。漫画によく描写されているような落ち方したと思う。バンジージャンプ並みに落ちて、フリー落下。
気持ち悪い。もう地下に着いてもいいんじゃない? 意識を手放すのって自分でも分かるんだなっと思いながら、生まれて始めて意識を手放した。
誰かが私の頭を突っついている。微妙に痛い。まだ寝ていたいけれど、目をゆっくりと開く。ちょっと眩しい。やっと目が光に馴染んだ時に、外国人の美少年がいる。
私ってまだ夢の中? もっと寝よう。二度寝入りは、気持ちいい。
『ぽか』誰今私の頭を『ぽか』って殴った?
「ちょっとー」と文句を言おうと思って目を開けたら、金髪碧眼の美少年が私を見ている。なにそのすべすべのお肌。私に対しての嫌味ですか? と、意味不明のことをつらつら考えながら、またもや人生始めて口を開けて人の顔を凝視する。
今日は人生初めてがオンパレード。だって目の前に天使がいる。女の子なら誰だって一度は憧れる美少年。
「そのマヌケ顔、止めてもらえる」
その顔で生意気な口。絶対許せません。神様どうしてなの?
「だから私が神様だ。神って言うより創造者」
私って最近思ってること口に出したりしているみたい。やっぱり一人暮らしの人って、独り言が多いって言うしね。気を付けないと。
「お前、顔だけじゃなくて頭もマヌケなんだな」
なにこの子、しれっと失礼なこと言わなかった? それより私口固く閉じているよね。私の心の会話聞こえているの? まさか唯漏れ?
「そう、唯漏れ」
いやー、恥ずかしい! この子はエスパー?
「もちろん、創造者だから。それにこの子っていうほど子供じゃない。なんだったら姿いろいろ変えるよ。ドラゴンとか真っ白いヒゲの長いのような老人とか美青年、美少女美女後はトリップ小説に出てくる神は小動物とかね。
私のトリップ小説研究によると主人公が男だと美少女か美女で、女だと美青年か美少年。そして今のような会話をする。だから、私も金髪碧眼の美少年です。
どう王道。すごくない?
まさか自分が王道を体験する日が来るとは感激です。この記念する日を祝して願いを三つ叶えてあげよう。もちろんお願いを増やすとかないからね。
きゃ、これも王道台詞。感動。さあ王道会話しましょう。で、何を願う?」
今の状況が分からない。私も王道大好きだけれど、この人地球を作った創造者?
「やっぱり、気が合うね。これから王道会の同士だから『下僕』って呼ぶね。私は地球の創造者じゃない。一回しか説明しないからよく聞いていてね」
下僕って……いつ王道会に入った?
「はーい、アテンション プリーズ。ここは下僕がいた地球じゃない別世界。この偉大なる私が作った別世界。この世界の住民は、『ディランド』って呼んでいて私のことは『ディランド神』って呼んでいる。
下僕も私のことを呼ぶ名誉を挙げよう。あだ名で『ディー』でいいよ。それでそれぞれの世界は交わることがないけど、私は君の世界の物が大好きで良く見に行くんだ。
その時に少しの間、時空を開いたら下僕が落ちたと言うことだ。それでもすごいタイミングだったなあ。ちょうどあの時間あの場所は、無人という予定だったのにな。
それより、お前どうしてくれるんだよ。今回の事で地球の創造主にバレて地球に干渉出来なくなった。おまえのせいだよ」
えっ! まさかこの展開って悪いフラグ立っているとか……?
「まあいい。これでも私は心が広いので許しさしあげよう。と言う訳だ」
よ、よかった。最悪フラグ回避?
「それで願い事は、何か?」
願い事って、まるでイソップ物語の『金の斧、銀の斧』みたい。それよりそんな願い事じゃなくて、さっきの場所に戻して、私の前に一生顔を出さないようにお願いしよう。もちろん今のことを全て忘れるようにって、これで三つのお願いだね。
「マヌケ『金の斧、銀の斧』だったら女神だな。なんなら女神に変身しようか?」
マヌケと下僕、どっちがマシなんだろう?
「おまえの頭はマヌケだな。なんでなんだろう。下僕の創造者は素晴らしい世界をつくったのに、やはり一人くらい失敗作っているんだな。つまり二度と地球に干渉出来なくなったって言ったよね。だから下僕が元の世界に戻ることが出来ない。分かる?」
なに言ってるのこの人。人じゃないけど。二度と地球に帰れない。加奈子に会えない?
マスターや奥さんに会えない。奥さんのケーキ達も食べれないってこと?
私はこいつとずっとここにいないといけないとか?
いや絶対嫌。もしたら死んだら元の所に戻れると言うパターンかもしれない。よくトリップの最後にある展開。
「それないから」
せっかく人が現実逃避と言う名の、心のオアシスと言う所にいるのに、呼び戻すなんてひどい。
「ここは世界の狭間。下僕は仕方ないから私の世界に住んでもらう。感謝しなさい。どう、これから王道の異世界トリップ経験するの。
『私って、異世界でチートで魔物を倒し世界の勇者とか救世主とか神子いや、巫女とかになるの?』とか期待されたら困るから言うけれど、私の世界は、地球と同じで時代は中世止まり。中世ってトリップの王道でしょう?
魔物とか魔法とかないから地球の中世と同じ、だって地球を真似して中世を造ったから。私って想像力がないので真似しました。自己申請です。偉いでしょう。
私が世界を造って五百年。なぜか世界は相変わらず変わらないんだよね。私の住人は、私に似て想像力がないのかもと最近思う。他の王道展開は賛成だよ。不動第一王道展開は、やはり王子とか王に見初められて後宮で大奥異世界版するとか。後は皆の大好きな展開は前の世界の知識を使い世界を変えて行くサクセスストーリー。
私的にはこの展開をお願いすよ。いい加減に時代の変化があっても良いよね。後は恋愛要素があって、うん、そのアイデアいいね。これで私の暇潰しが出来るよ。恋愛相手は、王家はさっき言ったから、王道第一は騎士かな。
後は公爵とか貴族とか。隠された王子とか妾の子の身分の低い王子とか、陰謀に巻き込まれた王子とか。なぜか奴隷にされた王子とか。かなり良い線だと思わない?
それと村長の息子でもいいし、最強の剣士も良いかも。魔法がないから魔術師って線は消えたね。盗賊の頭って言うのも良いね。下僕には王道で騎士と恋愛してね」
誰でも良いのでこの人を抹殺して下さい。盗賊頭って何?
結婚は、普通のサラリーマンが一番。最近は、公務員?
「下僕よ、私が一応神っていうこと忘れているの。まあいいわ。そうそう下僕の今後異世界トリップの王道の道を歩むためのシナリオね。やはり王道は逆ハーね。
後は悪女が出て来て、健気に耐えてヒーローに助けられてハッピーエンドね」
私は出来るだけ地味に生きたい。大体この平凡を描いたような容姿で、どこをどうやったら王子を引っ掛けられるの?
まして逆ハーレムなんて、それこそ無理。自分には永遠に無縁の展開。二十年間生きて、彼氏の『か』の頭文字も経験したことのない。この私には逆ハーレムとかハードルが高い。平凡人生万歳!
「キター。平凡。最近、平凡の主人公多くない?
異世界に行って異様な美形に、日本人の童顔受けてモテるとか? 後は、可愛い顔の青年が美少女に間違われるとか?
うーんいいね。やっぱり王道は、顔が平凡なのに黒髪黒目が珍しくて神秘的だとかでモテる展開。期待させて悪いけど、黒髪とか黒目の人って普通にいるから。願い事は絶世の美人にする?
傾国の美女になって、世の男を虜にして王道ドロドロって言うのは?もちろんオマケでそのぽちゃり幼児体型どうにかしてあげるよ」
ぽっちゃりって幼児体系って、酷くない? 加奈子の少し痩せたらかなり可愛いさが、アップするって言われてたから明日からりんごダイエットしようと思ったのに。
えっ、今日食べるケーキって……見逃して。傾国の美女なんてお断り。私も二十年慣れ親しんだこの顔気に入っている。
「で、願い事何にする。金持ち若さ?
後は権力とか。不治不老っとか異様な力とかは、異物で却下ね。王道は好きだけど、戦乱とかあんまり好きじゃないしね。なんたって、私は心の広いもんね。どれにする。なんだったら下僕を一回殺して転生物にする?
そして前世の記憶を持って生まれた王女とか。いいね。転生物王道」
「殺されるのは嫌なので、転生じゃなくトリップでお願いします。
それと普通の短大の文学科だったので専門知識なんないので世界を変えるとかサクセスストーリーとか期待しないで私のことはほっといて下さい。これお願いじゃなくて注意です」
始めて言葉出した。絶対に三つのお願いを叶えてもらうために、アイツにお願いした。神にお願いを叶える言われたら、すぐに、お願い事とか思い付く物だろうか?
「ディランド様。一つ目のお願いは、私がいなくなったら加奈子やマスター、奥さん、大家さんが心配すると思うので心配しないようにして欲しいです」
「さっきまで、アイツって言ってたのに急に『様』が付いた。そのお願いかなり難しいかも。さっきも言ったと思うけど地球に干渉出来ないし、まあそっちの創造者に頼んでみるよ。王道パターンでは、その人が生きてた事実の抹消とかかな?」
抹消。こいつにお願いして良いのか分かんない。このままトリップしちゃう?
「あのさー。言葉とかどうするの? 言葉オプションは、オマケで付けてやるよ。で、二つ目は何にする?」
自分の人生ってどんな思い出も大切。それと本大好きっ子としては、今後この世界の本が読めないって悲しすぎ。だから、これが二つ目のお願い。
「今までの記憶を、全て覚えてたい! それで、記憶力も良くして欲しい。それと、肌をすべすべにしてそれと……」
「おい、さっきまで謙虚だったのに、なんでお願いごと増えるの? これで締めきらせて頂きまーす。でも、すべすべの肌ってこんなお願いパターンってあるの?」
「だってー、今までずっとアトピーで悩まされていたの。お願いします。これから一生、シミもシワも無縁の肌。目指せ永遠の十代肌!」
「わっ、分かった。なんか急に疲れた。じゃ、そう言うことで。ばい、ばい」
ちょっと待って普通王道だったら、今後のサポートとかあるでしょう?
「下僕が立派に王道の道を歩んだ時、王道会の会長として夢で逢うようにするよ。きゃあ、これも王道っぽい。じゃあ、そう言うことで、またね」
ディランドの体が光に覆われて消えて、眩しくて目を閉じたら私の意識も途切れた。
(不思議の国のアリス アリスが羨ましい。私はの世界に帰ることが出来ない。)