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#5 生存者の言葉

 ここは──?


 灰色のドーム状のその空間。砂に覆われたグラウンドは見渡すほど広大にも関わらず、俺以外の生命は皆無だ。そして、気が狂いそうなほど異様な静寂が満ち足りていた。

 どこか死後の世界を感じさせるこの空間は、今もなお俺の頭に焼き付いて離れないあの地獄の幻影と重なり、全身を巡る真っ赤な血液の流れを加速させた。


「まさか転移陣そのものに仕掛けてあるなんて……

 これ、完全に閉じ込められてるよなぁ……」


 早鐘の様に鳴り響く心臓を無理やり押さえつけながら、俺はため息混じりに呟いた。

 なんか仕掛けてくるとは思って覚悟はしていたけど、いきなりこれはちょっと予想していなかった。


「取り敢えず、どうしようか……。電波は……来てないか、やっぱり」


 辺りを警戒しながらスマホを確認するが、分かった事はあまりない。

 ただ……。恐らく、ここはガーディアンの訓練施設だろう。何を思って黛がこんな所に俺だけ転移させたのかは知らないが、拘束だけが目的ならもっと簡単な方法がいくつもあるはずだ。


 まあそれでも、簡単に捕まってやるつもりはないが……


 その時、背後から突然気配が生まれた。

 転移だ。


「その年でそこまで落ち着いているとは……大したものですね、東君」

「何のつもりですか、黛先生?」


 背後から降りかかる声に、俺は振り向きながら投げかける。

 見れば、黒髪の美人教師はガーディアンの戦闘服に着替えていた。ピッチリと張り付くそれは彼女の見事な身体のラインを強調しており、少々目のやり場に困る。

 腰には白銀に輝く仰々しいブラスターと、機械チックな筒が二本、携えられている。


「心当たりはありませんか、東君?」

「……いや、ありませんけど?」

「──そうですか。では、あなたは一昨日の夜、どこで何をしていましたか?」


 黛の一言は、俺にある確信をもたらす。

 バレてるな……、と。

 だがそうなると、黛は何をしたいのだろうか。考えられるのは──


「……仲間の仇討、ですか?」

「残念ながらそれは違いますが……少し安心しました。ちゃんと自分のした事を覚えているのですね」

「いや、流石に三日前の事は忘れないですよ。俺、まだ若いですし。まあもう少ししたら忘れると思いますが……」

「…………」


 俺がそう言い捨てると、黛の顔から不敵な笑みが消えた。代わりに、固く拳を握ると俺を睨み付けた。


「あなたは……。あなたは、人を殺して何とも思わない人間なのですか!

 あなたは、彼等のたった一度しかない掛け替えのない人生を奪ったのですよ! それなのにどうしてそんな事を平然と言えるのですか!」


 激昂した黛の視線を、俺は正面から受け止める。だが、俺は無言のまま。

 すると、怒り心頭の黛の周りに無数の光球が生まれた。大きさはどれもパチンコ玉サイズで、なおかつその一つ一つにかなりのラグナが込められている。

 先程黛や菫が見せたあれとは比べるのもおこがましい程の凶悪さを秘めたそれは、全て俺に向けられたものだ。

 そんな黛にやれやれと頭をふった俺は、ため息をこぼす。


「何を言っても無駄ですか……。なら、仕方がありませんね。

 全力で逃げないと──」


 ──死にますよ?


 黛から僅かに漏れたラグナの機微に、俺は焦ることなく斜め前へと一歩踏み出す。直後、黛の周りの光球が残像を残しながら飛来し、俺の視界の端を掠めて行った。

 それはそのまま鋼鉄(こうてつ)程の強度があろう白色の壁に激突し、強烈な破壊音を轟かせる。


「今のを簡単に避けますか。これは少し予想外ですね……」


 黛は、ふむ……という感じで細い指を顎へ添える。


「いきなり何するんですか……。俺、一応は先生の生徒ですよ?」

「ええ、そうですね……。ですから私は教師として、あなたのその間違った考えを正さなければいけないのです……!」

「いや……それでももう少し穏便なやり方があるんじゃないですか? ……って聞いてます?!」


 俺は仕方なくラグナを全身に纏わせると、黛のお構いなしの乱射? を回避する。生身で避けるは流石に大変だった。


「仕方がないじゃありませんか、話をしようと思ってた矢先に今日みたいな事が起こったのですから。それに丁度良いですし」

「……何がです?」

「痛い目を見た方が誰だって聞き分けが良くなるのものです。ですので、少し本気で行きます……!」


 黛はさらに多くの光球を生み出すと、俺へと打ち出してきた。

 訓練施設の壁を容易く破壊するあの威力だ。当たれば間違いなく骨の一本や二本は逝くだろう。

 勿論、当たれば、だが。


 ほぼ目視出来ないほどの速さで飛来する無数の光球を、この広さを活かして避け続ける。ステップだけで躱す俺の横を光球が掠めていき、地面へ次々と穴を穿っていく。

 今まで直線的だった光球の軌道が突然ランダムへと変わり、四方から襲いかかってくる。だが、それでも俺には当たらない。


 避け続けるのは簡単だが……。さて、どうしよう……?


「どうしてっ……!」


 一分ほどそんな攻防を続けていたが、黛は苛立だし気に呟くと光球を打ち出すのを止めた。未だ周りに光球を留まらせている黛は俺を睨むが、その細い肩が微かだが上下に動いていた。今ので少し消耗したのだろう。

 大地に眠るラグナは無尽蔵だが、それを汲み上げる側の肉体には確実に限界が存在するのだ。


「余裕そうですが、どうして反撃しないのですか? まさか避けるので手一杯なんて言いませんよね?」

「そんな訳ないじゃないですか。ただ、時間を稼いでるだけです」

「時間稼ぎ……?」

「ああそれと、黛先生。俺のこと、上にまだ報告してないですよね?」

「……ええ。もしそうでなかったら、あなたは今頃もっと酷い目に合っているでしょうね……。ガーディアンには強硬派の人間もいますし」


 強硬派……昨日俺が殺したガーディアンのように俺らフリーの人間を快く思っていないガーディアンの総称。

 そんな連中に俺の事がバレたら、普通なら恐ろしい仕打ちが待っているはずだ。


「……まあ違ったら云々の話はどうでもいいですけど、それなら一応安心ですね」

「あなた何を言って……」


 俺のそれに、黛は眉をしかませた。まるで意味が分からないといった感じだ。だがちょうどその時、この広大な空間に新しい気配が生まれる。

 疑問を口に仕掛けていた黛は俺の背後に現れた人物に気付くと、一瞬にしてその細身な身体が強ばらせた。


「おーおー、これはまた派手にやったなー、シュウ」


 そんな黛の緊張とは真反対な間延びした声に、俺は振り返る。


「ねぇ剛さん……。これ、やったの俺じゃないんだけど……?」

「そんな真剣に考えるなって。そんぐらい分かってんだからさー」


 重たかった空気が一気に緩む。けれどそんな中、黛はガチガチに固まって……


「お、大嘴(おおはし)隊長! どうしてここに……!」


 赤茶の髪を短く切りそろえた長身のこの男は、大嘴(おおはし) 剛毅(ごうき)

 俺は剛さんって呼んでるが、確かここではガーディアンの戦闘班総隊長。つまりこの名古屋支部では幹部級の人間だ。

 黛が慌てるのも無理ないだろう。

 彼女の悲鳴じみた問に、剛さんは小指でぽりぽりと頬を掻いた。


「うーん、どうしてってな……。こいつの事お前に教えたのが、俺だから?」

「えっ……!」


 唐突にぶっちゃけた剛さんに、黛は目を白黒させる。

 全く、このおっさんは……


「なあ剛さん、俺の事秘密にしといてくれるんじゃ無かったっけ? つかそういう約束だよね?」

「んーそうだっけかな……って分かったからその殺気抑えろって! お前のそれマジでシャレになんねーんだから!

 それにここでは空気よんで隊長とかって呼んでくれてもいいだろ!」

「…………ジャージにビーサンっていうそのふざけた格好の時点で無理でしょ……

 ああ……もういいや。で、結局どういうことなの?」

「……ちょっと訳ありなんだよなー」


 そう言って剛さんは、一人取り残されていた黛の方を見た。上司の会話に口を挟むわけにもいかず、かといって立ち去る訳にもいかずといった感じで困っていた所のようで、黛はおろおろしていた。

 それが意外と可愛く、思わず口元が緩んでしまう。横を見れば剛さんも俺と同じようだったが、こちらは隠そうともせずに堂々とニヤニヤしていた。

 相変わらず性根が悪い。

 気付くと、いつの間にか立ち直った黛は剛さんを睨んでいた。上司に対する無言の攻撃だ。

 そのついでに俺も睨まれた。ほんと、最近とばっちりが酷い。


「それで、訳ありっていうのはどういう意味?」

「いやー簡単に言うとさ、今度の遠征で試しにこいつに指揮を任せてみようかって事になったんだけど、ちょっと心配でな。

 で、どうだ?」

「……俺はそういうのよく分からないけど、この人なら別にいいんじゃないか? 実力もそこそこあるし、頭も良さそうだし」


 実際戦ってみて思ったが、黛は相当強いと思う。一度にあのサイズであの量の光球を制御でき、なおかつあの威力だ。

 あれが手加減している物だったとしても普通の能力者同士の戦闘なら十分に強いだろうし、光球だけでなく何らかの武術も修めているはずだ。

 多くの武術者達に共通するラグナの練り方の癖が、黛のそれに僅かだが見える。


 ああ、ただ……


 俺はいつの間にか無表情に戻っている黛を見ると、彼女のさっきのセリフを思い出す。


「ただ、ちょっと真っ直ぐ過ぎるかな。それにプライドも高そうだし」

「おお、やっぱりお前もそう思うか。そうなんだよなー。若いってだけでも面倒なのに、なまじ実力はあるから厄介でさー」


 つまり……

 同じくらいの年齢の奴だと余裕で勝ってしまうし、自分より年上の──例えば剛さんに負けたとしてもそれは仕方がないと割り切ってしまう事が出来てしまう。だからプライドがどんどん肥大化していくと。

 それに、言ってる事、考えてる事が綺麗すぎるし。


「だからわざわざ俺を?」

「そーいう事だ。って事で美咲、こいつと戦え。それも全力で」

「おいちょっと……」


 ──めんどくさい!

 そう言おうとした時だった。今までおとなしくしていた黛だったが、今の一言は流石に頭にきたらしく、怖いほど無表情で剛さんへと詰め寄っていく。


「大嘴隊長……それはどういう事でしょか? 全力の私がたかが高校生に負けるとでも言うのですか?」

「……まーそうだな。だがな、これは隊長命令だぞ?」

「くっ……。分かりました……」


 どうも黛は乗り気ではないらしい。一応教え子でもあるわけだし。

 だが、そんな黛に剛さんがトドメを刺す。


「ああそれと、美咲。お前、こいつに負けたら、クビだから」

「はっ……!?」

「分かったらさっさと闘え」


 剛さんの何とも無慈悲な一言に黛は絶句する。だが、黛に反論する隙を与えずに奴は一瞬にして消えてしまい、再び俺たち二人だけとなってしまった。


 はぁ……。まったくあの人は……


 暫く茫然としていた黛だったが、目をキツく閉じて気合を入れ直すと俺の方に向き直った。そして、黛は腰に下げた円形の二本の筒を抜いた。


「負けなければ、いい話です……」


 自分に言い聞かせるように呟きながら俺を鋭く見据えると、それにラグナを注ぐ。途端、その先端から青白い光が溢れ出し、そして収束する。


「へぇ……。これはまた……」


 映画に出てきそな見事なライトセーバーが、黛の手にあった。青白い輝きを放つそれは、俺を容易く切り刻む事が出来るに違いない。

 更に彼女の周りには、無数の光球が再び生み出されている。ただ先ほどとは違い、その色は綺麗な青だった。

 高密度のラグナは、通常は無色のそれとは異なった色彩を発現させるのだ。ただし、その域に達するには相当の修練を積まなければならないが。


 さて、どうしようか……?


 黛が本気になった以上、さっきと同じ様にはいかない。近接戦闘は……流石に面倒臭いか。

 なら──


「東君……行きます……!」


 直後、黛は地を蹴る。二振りの光剣を携えた彼女が、風よりも速く接近する。

 ──速い! それでも……


「高速戦闘って、嫌いじゃないんですよね……!」


 両手に黒鉄のサブマシンガンを生み出すと、横に移動しながら射撃する。これで牽制しながらあれを準備すれば……なんて簡単に思っていた時が俺にもありました。


「ッ……! 銃弾切るってありですか、それ!」

「これくらい普通ですよ、東君!」


 さらに黛は速度をあげ、俺へと迫ってくる。それも、音速以上で飛来する銃弾を軽々と切り裂きながらだ。


 どう考えたって反則でしょ……


 光の粒子を撒き散らしながら舞い踊る光剣によって、無数にばら蒔かれた黒い雨粒が正確無比に叩き落とされる。

 そしてそれが空中を駆け抜けた後には、まるでその軌道をトレースするように綺麗な光のラインがくっきりと浮かび上がった。

 いよいよヤバくなった俺は脚にラグナを集中させると、黛と鬼ごっこを始める。

 流石にあれを喰らったら俺とて無事では済まない。


「っと、危なっ……!」


 追ってくる黛に気を取られていた俺は、危うく光速で飛来する青白い光球の餌食となりかける。

 俺を掠めていく光球達はどれもが凶悪な威力を秘めているらしく、地面や壁に大穴を次々を穿っていく。

 なんというか、もう無茶苦茶だ。

 それに……

 こんなガーディアン基地のど真ん中で人体干渉を使うなんて事はしたくない。でも、ここから自力で逃げ出すのはどうやっても時間がかかる。

 そんな面倒臭い状況を作り出しやがった黛と剛さんに腹がたつが、そんな事思っても今となってはどうしようもない。

 

 ああもう……!

 本当は使いたくないけど、あれくらいなら見られても大丈夫だろうし……

 仕方がない……か……


 俺は、胸元に吊り下げられたアーティファクトにラグナを注ぎ込み、ある仕掛けの仕込みをする。

 黛の様子を伺うが、今俺がやった事に気付いた様子はない。


「今のを避けますか。恐ろしい反射神経ですね……」

「それを言うなら先生の方がおかしいですよっ……っと」

「まあ私はこれを永遠と鍛えてきましたからね。それとも、東君の方は何か種があるのですか?」


 そんな会話をしながらも、黛は俺の銃弾を叩き落としながら追ってくるし、俺は黛のおかしな威力の光球を避けながら、銃で牽制しつつ逃げ続ける。

 手数では俺の方が圧倒的に不利だ。このままではジリ貧どころではない。

 さらに施設は見るも無惨に破壊されていく。主に黛によってだが。


「種、ね……。別にそんな大した事じゃないですよ。ただこれは……」


 あの施設では、俺は常に気配を殺しながらたった一人で生活してきた。でもそれは俺だけというわけでは無かった。収容された当初は俺よりもその技術に優れていた子供はいる訳だし、そうなれば当然彼らから命を狙われる事になる。

 故に、俺があの施設で最低限生きていくために得た最初の力は、気配を完全に殺す技術。そして──


「ラグナの流れを読んで次を予測する力、ですよ。つまり、先生が次にどの光球をどう動かそうとしているかが分かるだけです」

「そんな事が出来るのですか?」

「ええ、先生のその馬鹿げた技術よりは簡単だと思いますけど……。ただ、それを抜きにしても先生は無駄が多いですし、分かりやすいんですよ」

「ほう、それはいい事を聞きました。

 ──ですが……私は負けられないんです!」


 黛は、さらにラグナを全身に漲らせる。

 一撃断殺の如き光剣は一層輝きを増し、今までの倍以上のリーチへと変貌を遂げた。

 黛の全力だ。彼女の踏みしめた地面がその反動で小さなクレーターを造る。

 真っ青の光球が灼熱のレーザーとなり全方位から襲来する。


「これで終わりです、東君!」


 その気合いと共に幾筋もの青い光のラインが駆け巡り、俺の身体を穿ち──俺の幻影は、跡形もなく霧散した。


「ッ──……!」

「残念。こっちが本物」


 その事実に驚愕する黛は、後ろから降りかかる声に勢いよく振り向き──迷うことなく必殺の光球を殺到させた。だが、その偽物も数瞬前と同じように霧散する。


「強いですね、先生。これなら同世代の人にも負けなしなのも頷けるし、このまま行けばあの剛さんにだって勝てるかも知れないよ……

 でもさ──」

「だから何だと言うのですか!」



「──格が、違うんだよ」



 俺は右手を掲げる。

 それだけで、無数の光球を生まれた。

 黛と同じように。

 だが、黛とは違う。


「そんな……」


 黛が茫然と呟く。だが、無理もないだろう。この広大な空間全域に創り出された膨大な数の光球を見れば。


「ついでに……」


 突き上げた腕をそのままに、指を鳴らす。それだけで、白の光球が青白く変化した。それも、黛と全く同じライトブルーに。

 ラグナの色はその密度によって決まる。だが、まったく同じ色を発現させるには極めて緻密なラグナ制御が必要になる。即ち、限りなく不可能に近いのだ。

 だが俺は黛に、それを体現してみせた。

 黛が生み出せる光球の数、範囲。それらすべてにおいて文字通り格の違いを見せつけてやったその後で。


「ねえ先生、今どんな気持ちです? 悔しい? 悲しい? それとも──」

「どうしてですか……。あなたはそんな力を持ちながら、どうしてその使い道を間違えるのですか!」

「使い道、ですか?」

「あなたのその力は、決して人を殺すためのものではないのです。その力は弱いものを守るためにあるはずです。それは力ある者の義務!

 私たちがこうして()()()いる限り!」

「義務、か……」


 相変わらずな綺麗事。

 でも……


「でもね、先生。俺には俺の目的がある。

 そのためにはそんな義務なんてどうでもいい。

 弱い奴? そんなもん知るかよ。

 人殺し? 勝手に言ってろ」

「それでも……!」


 互いの視線が交錯する。

 涙を浮かべた綺麗に澄んだその瞳に映る──怒り、悲しみ、覚悟。そして絶望。

 だが、本当の絶望を知る人間だけが宿す真っ黒な光は、そこに無かった。


 闇を知らない、ただ純粋な瞳。


 そもそも、それを知っている人間というのが稀有な存在なのだから、仕方がないのかも知れない。

 絶望の深さを決めるのはその人自身の問題なのだから、仕方がないのかも知れない。


 だから、黛の考えに俺が口を挟むのは間違っているだろう。

 それと同じように、俺のエゴを黛に押し付けるのも間違ってるはずだ。


 だがそれでも、これだけは言える。

 目も眩むような光線がいくつも黛に降り注ぐ最中、俺は叫ぶ。


「本当の絶望を知ってる奴はさ、手段を選んだりなんかしないんだよ。綺麗事なんて絶対に言わないんだよ。

 だってそれじゃなきゃ、そもそも()()()ここにいないから……!」



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