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#1 滅びの世界

 窓から溢れ落ちる夕焼け。

 橙赤の眩しい光が綺麗に磨かれた板の間に反射し、灯りの点っていないだだっ広い薄暗い剣道場を薄く満たしていた。


 夢──。


 普段より数段低い、子供のような高さの視界に広がる、その懐かしい光景。

 身体を動かす事も、息をする事さえ出来ない。

 それが、俺に一瞬でこれが夢であると自覚させた。


 それに……

 前に幾度となく、俺はこれと全く同じ夢を見ていた。

 そして、俺が見る事の出来る唯一の夢は……

 これしか、ないのだから──。



 ◇



 目の前にはやっと小学校へと上がったぐらいの小さな女の子。

 少女は、その小柄な身体にはおよそ似つかわしくない木刀を両手で正中線でぴたりと構え、隙を伺うような真剣な目で相対する俺を睨んでいた。

 子供用の真っ白な剣道着を纏った少女は、まだ幼いながらも将来はきっと美人になると思えるほど顔立ちは整っていて、綺麗に手入れされた黒髪は白のシュシュでポニーテールで纏められていた。


 俺も少女と同じように木刀を持ち、その先端がもう一つのそれと少しだけ触れ合うような位置で構える。

 右斜め前の方には、ゆったりとした濃紺の着物を着た、服の上からでも分かるほど鍛え上げられた肉体を持つ大きな男が。

 男は厳つい顔を不機嫌そうに歪ませながら腕を組んでどっしりと構え、俺達二人を遥か上から見下ろしていた。


「始めろ……」


 男は、深みのあるしゃがれた声でそう言った。

 直後──。


「やあっ……!」


 目の前の少女は小さな気合を発し、最小限の動作で俺の木刀を払い落とす。

 そして、子供とは思えないほどの速さで刀を切り返すと、迷わず喉元へと振り抜くこうとした。

 俺は払い落とされた木刀の刃先を下に向けたまま、柄に近い方でそれを受け止める。


 剛には柔をもって対応。


 その言葉通り、ぎりぎりとおかしな音を立てる木刀を傾ける。

 途端、少女の化物じみた力で押さえ込まれていた刀は、その支えを失う。

 俺は、少女の刀の表面を削るように自分の刀を滑らせ、そのまま斬り上げる。

 けれど、少女は態勢が崩れているにも関わらず、それを完璧なタイミングで身体を捻り余裕で躱す。

 そして半歩後ろに足を引くと、まるで何事も無かったかのような冷静な顔で刀を上段に構えた。

 ほんの僅かな時間、互いに睨み合う。


 ──来る……


 感じた直後、少女は床を軋ませるほど力強く蹴り、それでいて静かに流れるような動作で一気に飛び出した。


 少女は強烈な突進に加え、さらに腕の力で刀を加速させる。

 剣先が霞んで見えるほど速く、そして左のこめかみを正確に打ち抜くように打突が繰り出された。

 俺の身体は勝手に動き、無意識の内に刀で防ぐ。


 刹那、途方もない衝撃が腕の骨を貫通する。

 俺は微かに悲鳴を上げるが、少女の攻撃はまだ終わらない。

 少女は防がれた刀を瞬時に手首を返して手元へ戻すと、雷のような切り返しで腹を斬り裂こうと次の一撃を繰り出した。

 俺は後ろへ足をもつれさせながらも、まだ痺れている腕を無理矢理に動かす。


 ──ぎりぎり、間に合うか……


 空気を震わせながら、俺の左の胴へと打ち込まれる刀。

 それを防ぐため、重たい刀を持ち上げる。

 けれど……


 迫り来る刀が俺の刀に阻まれる寸前。

 それはそこから……消えた。


 何が起こったのか……?

 その当時は分からなかった事も、全く同じ夢を何度も見ていれば嫌でも分かる。

 否、理解してしまう。

 単純に、胴に繰り出すかのように見えた一撃はフェイントだったのだ。

 消失した木刀が次に見えた時にはもう、俺の喉元には刀が突きつけられている。


 あの位置から、今の一瞬で切り返すなんて人間業じゃない。


 それでも、これは当時まだ六歳だった少女が当たり前のように繰り出した一撃。

 そして、これが天賦の才を与えられたものだけに許された常識であり、俺が絶対に超えることの出来ない壁。

 いくら努力しようと、どんな小細工をしようが、その圧倒的な才能の前には全てが意味を成さない。


 俺の絶望を嘲笑うかのように、少女の刀は俺の喉元添えられたまま動かない。

 けれど、寸止め……ではない。

 夢は、ここで終わるのだ。

 消えることのなく記憶に残った、全てがあの時と同じように。


 だけどその前に……

 世界がぼろぼろと崩れていく中、俺はその少女を……

 父親が同じで母親だけが違う、腹違いの姉を睨む。

 絶望した少年の顔を写し出す、その真っ黒な双眸。

 けれどそれは、存在そのものが邪魔で仕方がないと思っているかのような、冷徹な瞳だった。



 ◇



 机の上で、何かが振動していた。

 ぼんやりとしていた意識がゆっくりと覚醒していくのを感じながら、俺は瞼を開けた。


「またあの夢か……」


 今の今まで見ていた夢を思い返しながら白色の天井を眺めていると、明るすぎるLEDライトの光りが視界に入ってくる。

 寝起きの目には眩しい。


「はあ……」


 小さなため息を零しながら身体を預けていた黒革のソファから起き上がると、テーブルの上でさっきから振動して煩いスマホを手にとる。

 着信……

 画面の電源を入れると、無限に広がる綺麗な星空を背景に、アナログで表示された現在時と、着信相手の名前が表示される。


 薄いカーテンから見える外の空はまだ明るかったが、画面に映る時計は七時を指し示している。

 学校から帰ってきたのは確か五時くらいだったので、二時間も寝ていたのか……


 画面をスワイプして通話状態にすると、柔らかいソファに深く腰を沈めながらスマホを耳に当てた。


「出るのがおせーんだよ、おい……」

「……ごめん、寝てた」


 電話の向こう側の男は、開口一番にどこか気の抜けた緊張感のない声で、そうぼやいた。

 けれど、その後ろからは男とは対称的な緊迫した怒声が飛び交っている。


 男のそれに、相変わらずだな……なんて思いながら俺はテーブルの上に足を投げ出すと、リモコンを操作してエアコンの設定温度を調節する。

 まだ夏に入ったばかりだけれど、寝ている間に汗をかいてまだ身体が火照っていたのだ。


「それで……?」

「……(ゲート)が開いたから、来るなら早く来た方がいいぞ。

 場所は名古屋駅の近くだから、行きゃわかる」

「そっか……。で、用件はそれだけ……?」

「ったく、折角電話してやってんだから少しは……

 ああくそっ、まあいい。

 本当はまだあるが、まあ今は取り敢えずはそんだけだ。

 俺も忙しいんでな、また今度電話するさ……」

「そう……。ありがと、剛さん」


 俺はそう言って通話終了をタップすると、スマホをソファに放り出して立ち上がった。


「うーん……」


 腕を天井に突き上げて伸びをしながら、今からの予定を頭の中で組み立てて行く。


 まず、シャワーを浴びて汗を流し、飯をがっつり食べてエネルギーを補給。

 その後すぐに支度をして、(ゲート)に直行。

 急げば三十分もかからないだろう。


「よし……」


 自分に活をいれると、行動を開始した。 



 ◇



 予定通り、俺はあれから三十分と少しで名古屋駅の周辺へと赴いていた。

 あの人が言っていた通り、駅の裏路地周辺は不自然な程人の気配はなく、金曜の夜にも関わらず静まり返っていたので目的のものがどの辺りにあるかは何となく分かった。

 俺はフードを目深に被り完全に気配を消すと、黒色の防具で武装した幾つもの集団の間を上手くすり抜けていき、ネオンが怪しく輝く夜の歓楽街を一人で歩いていた。



 しきりに明滅する電灯。

 壁には無駄な才能が費やされたスプレーアート。

 遠くからは自動車の駆動音が鳴り響く。

 見上げれば、周囲に立つオフィスビルの合間から小さく覗く、よどんだ空気に投影された都市の夜空。


 そんな場所に、それはあった。

 周りをコンクリートに囲まれた、寂れた路地の行き止まり。

 けれどそこは、霧のように立ち篭める()が渦巻いていた。


 その闇は、こことは違う別の場所に行くための、不思議な回廊。

 現代と未来をつなぐ、時空の裂け目。


 そしてそれこそが、(ゲート)


 俺はゆっくりと歩みを進めていく。 

 闇の触手が足を掴み、俺の存在を飲み込もうとしていた。

 けれど恐れる事は何もない。

 その闇の先に広がるのは、強者のみが生き残る単純な世界。

 だからこそ。

 壊された俺には、それが心地よくもあり、同時に心躍る世界なのだ。



 ◇



 世界はいつ滅びるのだろう──?

 こちらが側に来ると、俺はいつもそんなことを思う。

 ノストラダムスやマヤ文明の予言。どれも、現代では実しやかに語られている世界滅亡説だが、未だに俺たち側の世界は滅亡なんてしていない。

 けれど、世界はいつか必ず滅びの時はやってくるだろう。

 今、俺の前に広がるこちら側の世界──この未来の地球のように。


 俺たちが住む地球は、エネルギーの塊というのは誰しもが知っている事だ。

 けれど、ここで言うエネルギーとは目に見える石油や石炭などのことではなく、気や魔力など呼ばれているもっと超自然的なものの事。

 そしてあらゆる生物は、そのエネルギー──【ラグナ】を取り込むことで生命活動を維持しているし、もっと視野を広げれば、【ラグナ】が世界の秩序を維持していると言っても過言ではない。


 ならばもしも、その【ラグナ】が暴走を始めたらどうなるだろうか?


 もしそうなれば世界は滅ぶだろう。大地は裂け、植物は枯れ、生物は死ぬ。そしてそれは、次元にまで影響を及ぼすことになる。

 そんな理由から、俺たちが住む世界と暴走した未来の地球は、時空を超えて繋がってしまったのだ。



 ◇



 ぼろぼろになった無人の名古屋駅から飛び出した俺は、蜘蛛の巣状に亀裂が入った道路の上を疾駆していた。アスファルトが割れ、地震が起きた後のように所々隆起していることもあってか、どうにも走りづらい。

 さらに、無数に散らばるコンクリートの破片や不自然に倒れた街灯が、まるで俺の行く手を阻むように道路を塞いでいる。


 この廃墟と化した街に、たった一人。

 それを知らしめるかのように、道路の両側に立ち並ぶ朽ち果てた高層ビル群の狭間から生暖かい風が吹き抜け、コンクリートの粉塵と一緒に微かな血の匂いを運んできた。

 時折、遥か後方で爆発と共にビルが倒壊する音が聞こえてくるが、俺がいるこの辺りは不気味なほど静まり返り、人の姿は見当たらない。


 それも当たり前だ。ここは滅亡した世界なのだから。


 けれど、人気はないと言っても人がいないというわけではない。気配を探れば、周りの廃ビルには何人もの同じ現代人が潜んでいるのが伺える。

 勿論、彼らは気配を殺しているつもりなのだろうが、少々特殊な場所で幼少の大半を過ごした俺かすればまだまだと言いたいぐらいだ。


 だがそんなことはどうでもいい。


 現代人がわざわざ気配を殺して隠れているということは、近くにいる証拠だ。

 奴ら──暴走したラグナに身体を乗っ取られた、哀れな未来人達が。


 それなら──。


 俺はもう一度気配を探り、近くの誰もいない廃ビルへと駆け込むと、鉄筋の支柱に背中を預けた。


「はぁ……」


 詰めていた息を吐き出しながら左ポケットに手を突っ込んで、黒色の携帯端末を引っ張り出す。

 一見すれば普通のスマホだが、これは核晶(レクスタス)と呼ばれるラグナが結晶化したものからつくられた、創造物(アーティファクト)だ。

【ラグナ】そのものは秩序を保つものでもあるのだが、人間が使えば奇跡とさえ言えるような現象を引き起こすことも出来る。

 自身の身体能力を向上させることは当たり前、炎や雷を作り出すことは尚の事、ラグナを物質に変換することすら可能となる。


 端末の電源を入れると、俺の目の前にこの周辺の立体マップが薄緑色で投影された。

 SF映画に出てくるようなそれは俺しか見えないように設定してあるので、スペースさえあればどこでも展開出来るという優れものだ。

 投影された未来の廃れた名古屋駅周辺のマップから、あるものを探す。


 ──結構いるな……


 投影されたマップには赤、黄、緑の三種類の光点が浮かんでいた。

 緑は俺自身、黄色は俺以外の現代人を。そしてお目当ての赤い光点は、未来人達を表している。

 俺のいる位置から一キロほど離れたところに赤い光点が十個ほど浮かんでおり、その三倍の数の黄色の光点がそれを囲むようにあった。

 まず間違いなく直に戦闘が始まるだろう。


 ならその前に──。


 端末の電源を切ってポケットに無造作に突っ込むと、フードを深く被り直す。

 顔は間違っても見られたくない。

 俺は大地がラグナを汲み上げると、全身に漲らせた。


 時間はもうない。あと二分あるかどうか……


 だが、それだけあれば充分だ。

 俺は建物の外へ出ると、気配を殺しながら建物の合間を縫うように走り出す。

 生ぬるいジトッとした空気を切り裂きながら駆ける間に、俺は黒銀の銃を二丁生み出すと、辺りに潜んでいる現代人達を気配だけを頼りに撃った。

 無音で放たれた弾丸は奴らと俺とを隔てるコンクリート壁を軽々と貫き、彼らの胸を寸分たがわずに穿つ。

 だが、これはただの時間稼ぎ。


「ここか……」


 百メートル先には、元々は全面ガラス張りだったのだろうオフィスビルが寒そうに佇んでいた。

 走りながら上を仰ぎ見ると、建物達の合間から顔を覗かせた黄金の月が、宝石を散りばめたような夜空に爛々と輝いている。こんな月は現代の名古屋では絶対に見られないだろう。

 だが今はのんびりと鑑賞している暇はない。


 脚にラグナを集中させると、一気に跳躍した。ガラスがなくなってスカスカになったビルの各階層を足場にして、上へ上へと登っていく。

 未来人達の気配があるのは、二十階もあるこのビルの真上だった。

 空気が少し冷たくなったのを感じたあたりで、俺は能力を行使する。


 ラグナは燃料だ。奇跡を起こすのはこの身体。

 そして最後はイメージ。

 それが、最大にして必要不可欠なエッセンス。それさえあれば、何だって出来る。


 例えばこんなことも。

 俺は登ってきた勢いを殺さず、そのまま空中へと躍り出た。

 月明かりが眩しいほど降り注ぐそこでは、十人の未来人達と一人の少年が戦っていた。気配を極限まで殺した、上から眺める俺に、彼らは気づく様子はない。

 パーカーのフードを被り両手に二つの銃を構えた少年は、十人の未来人達の猛攻を避け続ける。けれど、数の不利はそうそうどうにかなるような事でも無かった。

 三人の未来人達が少年へと突貫していくなか、一人の男が仲間もろとも必殺の一撃を放った。

 刃と化した数千もの稲妻が迸り、彼らを襲う。

 目も眩むような閃光と、電撃の弾ける轟音。

 だが、その攻撃の直前に飛び退いた三人の未来人達には掠りもしない。その稲妻は狙い通り少年の身体を貫き……


 そして──。

 少年の姿は、煙のように霧散した。


「残念。そっちは偽物(フェイク)


 上から降りかかったその声に未来人達が驚く……ように見えた。

 ラグナが暴走した地球では、生物は長期間生きていくことは出来ない。

 目の前にいるこの未来人達も一度死に、そしてその暴走したラグナによって蘇ったのだ。この滅んだ地球を永遠と彷徨い歩くゾンビ───未来人(エインヘル)として。

 故に、彼らには感情なんてものは存在しない。ただ限りなく人間に近いだけの、骸人形なのだ。

 男が咄嗟に、もう一度稲妻を放つ素振りを見せる。

 だが、もう遅い。


 風を起こすように、俺は空気をそっと仰いだ。


 ただそれだけで未来人達は膝をつき、力尽きる。

 これこそが、人間をいとも容易く屠れる禁忌の力──【人体干渉】。

 後に残ったのは十の砂の山と、彼らが元々身に着けていた服と装飾品。そして、その上に転がる宝石のような核晶(レクスタス)だけだった。


 核晶というのはその名の通り、超回復能力を持つある意味不死である未来人(エインヘル)に備わるある意味で心臓のようなもの。だからそれを破壊すれば奴らを殺すことは出来るが、それでは核晶は手に入らない。

 故に、手の平大の大きさでもおおよそ五十万円ほどの値がつく事はざらだ。と言っても、今回の核晶はそこまで大きくないからそれほどの値は付かないだろうけど。

 それでも取り敢えず回収しようと、俺はそれに手を伸ばす。

 そんな時だった……


「動くな!」


 いつの間にか、俺は二〇人ほどの現代人達に囲まれていた。

 いや、まあ近づいてくる気配には気付いてはいたんだけれど……


「…………」

「君は何故ここにいる? フリーの人間はこの一帯に入ってはいけない事は知っているだろう?」

「…………」

「……なるほど、答える気はないということか」


 俺を包囲しているお揃いの戦闘服に身を包んだその集団は、通称ガーディアンという組織。

 現代世界に開いた時空の扉(ゲート)を監視、隔離して未来からゾンビ達がタイムリープしてくることを防ぐのが彼らの仕事だ。

 つまり、彼ら自身がゲートを通って未来へと赴き、扉の周辺にいるゾンビ達を掃討するついでに核晶(レクスタス)を手に入れて金を稼いでいる国家公認の組織、といえば分かりやすいだろうか。


「全くこれだからフリーの連中は……。まあいい、とりあえす我々と一緒に来てもらおうか。

 力ずくでな」


 そう言いながら、隊長らしき男は腰に下げた日本刀を抜く。

 綺麗に磨かれた銀色の刀身が月の光を眩しいほど反射し、その凶悪さを一層引き立たせているようだった。

 同時に周りの奴らも各々の武器を手に取る。

 何度かガーディアンと揉め事を起こした事はあるが、今回みたいに手が早い奴らは始めてだ。


 何故だろう……?


 この殺気立った空間の中心で、俺はのんびりとそんな事を考えていると、やがて答えに辿り着く。


 ──あぁ、もしかして……


「横取りされて怒ってる、とか……?」


 その小さな呟きが聞こえたのか、隊長の構えた刀がぴくっと揺れた。どうやら図星だったらしい。


「はぁ……」


 そんな隊長に、苦笑混じりのため息をこぼす。


「随分と余裕だな、少年」


 肩を竦めて見せると、それを挑発と受け取ったのか、刀を構え直すと間合いを詰めにかかってきた。肉体をラグナによって強化した彼は、一瞬にして俺との距離を縮める。


 別に挑発した訳じゃない。ただ、彼らは最初から詰んでいただけの事だから。


 ──指を鳴らす。


 たったそれだけで二〇人近い彼らはラグナの波紋が広がるように次々と崩れ落ち、そして息絶えた。


 全く、面倒な連中だ……


 彼らのせいで拾い損なった核晶(レクスタス)を回収した所でマップを確認すると、時空の扉が消えかけていることに気付いた。


「そろそろ戻らないと危ないな……」


 (ゲート)はかなり不安定な物のもので、出来ては消えを繰り返している。

 そのため、こちら側にいる時に扉が閉じてしまうともう戻れない。だが、開いている間はずっと開いたままの状態だ。

 更に開く場所は大概同じ位置のため、ガーディアン達は一般人が迷い混まないように取り締まることが出来る。

 それに、こうして俺みたいにフリーで活動している人間もこちら側に行き来することが出来るのだ。


「さて……」


 大地からラグナを汲み上げると、屋上から飛び降りる。ここから一番近いゲートまではそう遠くない。

 少しのんびりしても大丈夫だろう。

 俺は二〇階からのスカイダイビングを楽しみながら、夜空に浮かぶ満月に見入っていた。



 ◇



「いっつ……」


 無事に現代へと戻ってきた俺は、段差に躓き盛大にコケた。

 咄嗟に受身をとったけれど肘を擦りむいて、血が滲む。現代に帰ってきてどうにも気が緩んでしまったのだ。

 けどやっぱり一番の理由は……


「ああ、もう無理。眠い……!」


 当たり前だ。

 あの人から電話がかかってきてあちら側に赴いてから、もう五日も経っているのだ。

 扉がいつ開くかも分からないと言っても、流石に不眠不休で五日間、あちら側でゾンビを狩りを続けるのは少々無理があったらしい。


「ほんと、一ヶ月ぐらいは寝てたいな……」


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