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#0 五人の生存者

 


 監視者は言った。


 ──一人だけ、解放してやる。



 ◆



 そこには、夥しい数の死体があった。ただ切り刻まれているものから、四肢をもがれ未だ血液を溢し続けている者、あるいは身体の半分がどろどろに溶けそれでもなお蠢いている者。

 人種も、性別も、はたまた話す言葉すら違うそれらの死体に共通しているのは、非合法な手段で集められた、禁忌とされる【人体干渉】の実験の被験者にして失敗作だということ。

 そしてその全員が、まだ……年端もいかぬ子供だと言うことだった。


 その見るからに地獄のような空間に、生き残った五人の子供たちが黒塗りの台座を囲むように佇んでいた。

 そう、この地獄のような世界を造りだしたのは、他でもない彼らだ。


 ひび割れた分厚いコンクリート壁の隙間から風が(いなな)き、その空間に溜まった淀んだ空気をかき混ぜた。何処か遠くの方からは断続的に爆発音が轟き、床を微かに震わせている。


「──誰が使う?」


 内の1人が発した唐突な問いかけには、ただの子供とは到底思えないほどの殺気を孕んでいた。

 けれども、他四人もただの子供ではない。

 鍛え上げられた屈強な男ですら卒倒しかねないそれを軽く受け流すと、発言した子供の方を見た。

 ()もまた、長く不揃いな前髪の隙間からそちらを見る。


 その子供には、腕が無かった。返り血で真っ赤に染まったシャツは、本来腕があるはずのしわしわの袖をだらりと垂れ下げている。

 だが、その少年の腕は先の戦闘で失ったものではない。ここの逝かれた研究者によって奪われたのだ。

 ただし、それはその少年だけでなく、他の四人も、いやここに転がっている被験者たち全員がその少年と同じく何かを壊され、奪われた。

 腕や脚、目をもがれ、そしてそれでもなお被検体として壊され続けた。そうして最後には失敗作となり、それでもなお生き残った者はこの施設に棄てられる。


 その時、彼らは安堵したことだろう。

 ようやくその地獄から開放されることに。

 だが、本当の地獄はそこからだった。


 この施設で子供達に配給される食料は明らかに少なく、そこに収容された子供達全てに食べ物は行き渡ることは無かった。

 故に、生きるためには殺し合わなければいけない。何より最低だったのは、被験者だったころの方が何倍もましな食べ物を毎日食べることが出来たことだった。


 食べ物への乾いたどす黒い欲求は、この地獄のなかで出来た数少ない友達を裏切り、殺し、力のあるものに取り入ることで満たされた。

 勿論、自分自身にも同じことが起こるのだから、誰に対しても弱みを見せてはならない。


 そんな地獄で生きてきた故にか、その腕のない少年は、外面では無表情を取り繕おうとしているようだったが瞳には血を求める狂喜の光が宿っていた。

 ()は少年の後方を見やる。

 四肢をもぎ取られた同類たちが、無惨な姿でそこかしこに転がっている。そして他の三人の背後を見ても、同じように死体が積み重なっていた。

 だが、それぞれの死体の姿には違いがあった。それは、彼らの力そのものに決定的な違いがあるからだろう。


「……私はいらないわ」

「僕も必要ない……ね」

「……いらない」


 少年の問いかけにやっと口を開いた()以外の三人は、視線を少年から元の台座へと戻した。

 いや、正確には、台座の上の銀色の電子キーに。それは、この地獄から脱出するための唯一の鍵。

 それを彼らはいらないと言ったのだ。

 普通なら正気を疑うような言葉だったが、()は別に驚かない。半ば予期していた答えだったのだから。

 文字通り、その()以外の四人にそれは必要ないだろう。

 監視者の言った「一人だけ」とは即ち、キーを使って外に出ることの出来る数。つまり、キーを使う必要がない者からすれば関係がない。

 だからこそ、自然と四人の視線は()へと集まった。

 そして()もまた分かっていた。

 自分の力では、あれだけはどうにもならない事を。


 ()が頷くと、それを合図に他の四人はそれぞれ別の方向へと向かう。そして()は台座の元へと。

 ()がキーを手にした直後、背後でコンクリートの粉砕音が四回轟いた。


 彼らがやったのだろうか……?


 既に回答を得ている疑問を浮かべながら、()はこの施設で唯一のドアへと歩を進めた。

 行く手を阻む邪魔な死体を踏みつけ、乗り越えながら。

 コンクリートと金属を幾重にも重ねて造り上げられた、ありえない強度を誇る灰色の壁。そしてそれに埋まるように取り付けられた、あまりにもミスマッチな金属の扉。

 これを、()の力では壊すことは出来なかった。


 ()がその脇にある白色の機器にキーを読み取らせると、コンクリートの粉塵を巻き上げながら扉の三分の一ほどが開いた。おそらく、四人の空けた穴が建物自体を歪めてしまったのだろう。

 だが、()もまだ子供だ。このくらいの隙間なら十分に通り抜けられる。

 強く目をつむり、大きく息を吐き出した。

 暫くその状態でいた()はやっと目を開ける。

 そして()は、この地獄の外に一歩踏み出した。



 ◆



 ──この地獄で生き抜くためには、ただ圧倒的な力を手にいれるだけではダメだった。

 強すぎる力を手にいれた子供達は施設の監視者によって必ず殺されてしまうのだから。脱出を試みても、施設から抜け出す前に子供達の知らない未知の化学兵器の餌食となるだろう。

 そして、それを分かっていたために、力のある限られた者は機会を伺っていたのだ。


 故にここで求められた力とは、日々を生き延びるために、施設に棄てられた同胞を確実に殺す力。

 そして、その無慈悲な力を臆病な監視者に気付かせない力だった。

 けれど、それは言うほど簡単なものではない。


 自分以外の子供たちも同じように本気で殺しにくるのだから、手加減すれば自分が死ぬ。

 そんな極限状態のなかで、修得に困難を極めるこの力を手にいれたのが、この時生き残った五人だった。


 ()もまたその一人。

 禁忌とされる【人体干渉】という悪魔の実験の被験者だった()は、不可思議な因果の果てに、手に入れてしまったのだ。


 地獄を生き抜くための、禁忌の力──絶対禁忌【人体干渉】を。


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