表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星並べ  作者: 月夜
4/69

季節外れの子  4

「5人目から22日か……間隔が狭まってきたな」

「5人目までは毎月15日から17日の間だったものね。今回の死亡推定時刻は、7日午後10時から8日午前3時の間……模倣犯かしら?」

「それはないだろう。マスコミ報道は連続殺人としか言っていない。詳しい手口はどこも報道していなかったはずだ」

「そうだよなぁ……。被害者の年齢層も似ているし、やっぱり同一犯か……」


「年齢ってぇ、何歳なのぉ?」

 刑事同士で歯切れよく交わしていた会話に、間延びした声が重なる。

 こいつのこの話し方は態となのか、癖なのかよくわからない。どちらにしろ、馬鹿にされているようでティーブは苛々とした。


「20代前半です。ですがそんなことを聞いて、どうするつもりなのです? あなたに何か、いい案でもあるのでしょうか?」

「え……あ……まぁ……聞いただけですぅ……」

 輪に睨まれ萎む姿は幼児のそれだ。

 だが何とも思っていないのがありありとわかる。輪が視線を外した瞬間、べ、と舌を出したからだ。


「鑑識から詳しい結果が出なきゃ何とも言えないが、多分、今回も凶器は割り出せないだろうな」

「何も盗られてはいないのか?」

「今回も、そのようね。少なくとも金銭を盗られた形跡はないわ。スカーフとかハンカチとか、そういう小物類まではまだわからないけれど……これはやっぱり、快楽殺人じゃないかしら」

「いまのところ、被害者に共通点はないしなぁ……というより、殺害現場にも法則性が見つからない」

「自分のテリトリーではやっていないのか、テリトリーが異様に広い奴なのか……」

 ティーブは壁に貼られた地図をじっと見た。


 そこにはオータ警視総合本部管轄地域を表す地図が貼られ、今回の殺害現場を赤色で記していた。

 点在する殺害現場はどれも重ならない。少しずれたら隣の警視支所管轄内に入りそうなものまである。ここまで広い範囲を日常的に動く者は少ないだろう。


「普通、殺人のような犯罪は、安心できるテリトリー内で行われることが多いのにね」

「頭の壊れたディセのすることだ。常識で考えられるわけがないだろう」

「……ティーブ」

 ディセである深雪の前で言う言葉ではない。ライオネルの目がそう言っていたが、ティーブも輪も黙殺した。


「今回も、犯人に繋がる遺留品はなかったのか」

「ええ。どの犯行も、被害者の手が届く距離で行われたのではないのかもしれないわね」

「刃先の長いナイフを使ったということか?」

「そういう可能性もあるだろうけれど。でも、ディセならどれだけ離れていても、人を殺すくらい簡単にできるじゃない」


「それは違うよぉ。ディセなんて言ってみーんな一緒くたに呼ばれているけど、普通のディセは、ほんのちょこっと普通の人とは違う力を持つだけだよぉ。それにどっちかっていうとぉ、体の能力の方が多くてぇ、ちょっと高くジャンプできたり、ちょっと耳がよかったりするくらいでぇ、念動力なんて特殊なものは、ものすんごく珍しいんだからぁ」

 ぷん、と頬を膨らませて深雪が反論した。


 確かにこいつが言うとおり、いままでティーブが逮捕してきたディセは、RSPの助けなど必要としないような者たちばかりだった。 

 犯人が常人以上の2mを軽々と飛べたからといって、どうということはない。飛んだところをレーザー銃で撃てば終わりだ。

 深雪の言いたいこともわかったが、輪はそういう一般論を話しているのではなかった。

 今回の事件を起こしているだろうディセについて話しているのだ。つまりは深雪曰く、特殊能力である念動力を持つディセだ。

 なので3人とも、深雪の反論は完全に無視した。馬鹿な子供に言い聞かせようとする努力は、随分と前に放棄したのだ。


「被害者の手が届かない範囲から切りつけていたとしたら、容疑者を見つけるのは難しいだろうな。被害者の体に、容疑者に繋がるような物証が残る可能性も無くなるからな」

「物証など関係ない。ライオネル、忘れたのか? 容疑者と目されたのがディセであった場合、証拠など必要ないということを」

「そうよ。我々刑事が容疑者だと断定すれば、それでいいのよ」

「まぁ、うん、それはわかっているんだけど……冤罪の可能性は……」

「裁判があるだろう。違うというのなら、裁判で自らの無罪を証明すればいい」

 と言いつつも、ティーブはディセが被告となった裁判に出廷したことはない。


 ディセではない、普通の犯罪者であれば捜査を担当した刑事として、検察に呼ばれたことは何度もある。

 だが不思議とディセは、自らの無罪を主張したり、罪を軽くするために戦ったりはしないのだ。

 送検した後も、担当刑事として出廷を命じられることがある。裁判が長引けば、参考人として何度も呼ばれるために通常業務が阻害される。

 ディセが犯罪者で助かることがあるとすればただひとつ、逮捕後の面倒さがないということだった。

 もっとも、常人である刑事の手に負えないと上が判断すれば、RSP捜査官が派遣されてくるというそれ以上の面倒さはあるのだが。


「まあ……そうだよな。犯罪を立証するのは検察だし、ディセが関わっているような特殊な事件で、証拠云々まで突き詰められるほど暇じゃないもんな」

「そうよ」


 鑑定結果が出て、3人の刑事はまた寒空の下へと出ていく。もちろん、煩い子供はちゃんと置いていった。


 深雪はいつも、へらへらとしていた。何が面白いのか顔はにやけているし、体にも芯が感じられない。服装はだらしないというものではないが、姿勢がだらしない。

 椅子に座ったときに前に机があれば大概、顎を乗せている。何も無ければ背を丸め、足をぶらぶらさせていた。

 立たせておいても、ふらふらと体が揺れる。とにかく、じっとしていられない子供なのだ。


 しかし体以上にその口が、じっとはしていない。常に何かをしゃべっているし、そうでなければ歌っている。

 何を歌っているのかティーブには判別不可能だが、何かを歌っているのだ。多分、流行の歌なのだろう。街中で聞いたことのある軽い感じの、歌詞が聴き取りにくい歌だった。


 邪魔にしかならない子供に無駄だと知りつつも言い聞かせる。じっとしていろ、面倒を起こすな。

 わかっているのかいないのか、深雪はへらへらと笑って頷いた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ