季節外れの子 3
RSP捜査官は、派遣先であるチームの刑事たちの許しもなく、勝手に警視本部を出ることは許されていない。つまり、何もない、じゃあ帰宅、というわけにはいかないのだ。
だから深雪がまだ警視総合本部にいることはわかっていた。輪が相手にするはずもないだろうから、どこかその辺りに、例えばこのフロアにいるだろうと思っていた。
ティーブの予想通り、深雪はフロアにいた。だがその横に、派手な頭をした青年がいた。同じ制服を着て、仲良く談笑している。周囲の刑事たちの剣呑な視線にも全く気づかずに、2人で楽しそうに笑い合っていた。
RSP捜査官は銀河連邦のどの惑星に着任したとしても、必ず制服の着用が義務づけられていた。
色は黒。惑星の気候によって素材など多少の違いはあったがそれも、同じ制服であると誰にでもわかる程度の違いだ。
惑星メイルのように冬の星では防寒着が与えられる。だがこれももちろん制服で、色は当然黒だ。
ケープと呼ばれるこの防寒着は、膝まである一枚の大きな布である。
右肩の内ボタンと、左肩の金色の外ボタン2つで留めるだけで着用されるケープは、前の合わせ目を手繰って手を出すしかない。
機能性で言えば非常に面倒だと思えるが、その出で立ちが目立つということだけにデザインの重点が置かれていることを知れば、誰もがなるほどと納得する代物だった。
左肩の金ボタンは大きくて、黒一色の制服の中にあって目を引く。
その装飾にはRSP捜査官であることを示す紋章が刻まれ、ケープを脱いだ制服のボタンも同じように目立つ形で紋章が刻まれている。
そしてそれは、どの惑星の制服も同じだという。
さすがに暖かな建物の中、深雪ももう1人もケープは脱いでいた。だが丈の短い上着もその下も黒一色で、上着のボタンはケープと同じ金ボタンに紋章付き。
RSP捜査官が集団でいるところをティーブも一度見たことがあるが、あの制服は周囲を威圧するためにあるのかと感じた。黒い服を身に纏い、どいつもこいつも感情を消した顔で立っていた。周囲を睥睨するその視線は、忌々しいほどぞっとするものだった。
黒い制服を着る深雪は、髪も目も黒だった。肩で切り揃えた髪は艶やかな黒で、大きな目は漆黒。いつもへらへらと笑っている奴だが、その目が笑っているのをティーブは見たことがない。
だから、信用できないのだ。顔が笑っているのに目が笑っていない者を、人は警戒する。
深雪と談笑している青年の頭は緑だった。目は赤。名は、フェン・コマンド。ティーブも2度、派遣を受けたことがある捜査官だ。
こちらもいつも笑っている奴だった。ただ深雪と違って、フェンは目も笑っている。
「俺たちが、この寒空の中駆けずり回っていたというのに、温々と談笑か。いいご身分だな」
ティーブが上から威圧的に見下ろすようにして声をかけると、深雪がびくりと肩を跳ね上げた。
「まあ、そう言うなら今度は連れていってやってよ」
フェンが宥めるようにそう言い、深雪の細い腕をさする。小さな体からほっと力が抜けたのを、ティーブは目の端で捉えた。
フェンは20才前後にしか見えないが、確か60才を超えていると聞いたことがある。そのためか、ティーブが凄もうと意に介す様子は全くない。
若造が。
そう言われているような気がして、フェンの余裕がいつも不愉快だった。
「黙れ。お前には関係のないことだ」
自らの長身を生かして押さえつけるように言ってやったがフェンは案の定、苦笑して肩を竦めただけだった。
「ティーブ、深雪ちゃんを置いていったのは俺らなんだから、そんなこと言っても仕方ないだろ。ここで深雪ちゃんにできることなんて何もないんだし」
いつの間に戻ったのか、ライオネルに取りなされ、ティーブは苛々とした息を吐き出す。
「……もういい。早く来い」
急かされ、深雪は腰を上げる。深雪の去り際、フェンがその小さな白い手を握ったのを、ティーブは冷めた目で見ていた。
6人目の被害者が発見されたのは、それから三日後のことであった。




