7 奔走
なんと、私を召喚したのは神木さんの実の妹さん、神木美月だった。
「あの、なにか御用ですか?」
なんだかこの流れ、私にとってプラスにならないパターンな気がする。妹さんの顔も、少なくとも明るくは見えない。
「ご存知の通り、私は神木家の次女、つまり神木日陽の妹です」
「ええ、まあそれは…」
「では単刀直入に言いますが…」
この妹さん、話してる途中で私の話を切った。私はあまり沢山の人と話すことは無いが、ここまで感じ悪い人は見たことも聞いたこともない。
「…姉から距離をとって下さい」
神木さん妹は、先程よりも更に静かで強い、冷徹な声で言った。
まさか、親子で同じことを言われると思わなかった。神木さんママから一体何を聞いたのか。
「…何でですか」
「母から全て聞いている筈ですが、あえてもう一度言わせてもらいます。姉さんと長く一緒にいると、姉さんは勿論、貴女ですら心に深い傷を負うことになるんです。私はこれ以上傷ついた姉さんを見たくはないんです…!」
そうだ、彼女は神木さんを最も近くで見てきた人。彼女以上に神木さんの心に詳しい人はいない。そんな人の警告は、非常に重みを感じる。
「……」
「先輩が本当に姉さんの事を思ってくれているのなら、早めに関係を絶ってください…お願いします……」
そう言って、神木さん妹はその場を立ち去った。
その時の彼女の憂いを帯びた声は、私に今の状況について深く考えさせた。
「珠心ちゃん、帰ろ?」
HRが終わるなり、神木さんに一緒に下校しよう、と言った旨のお誘いを受けた。
私はバッグに教科書を入れる手を止めて答えた。
「すみません、今日はちょっと予定が…」
「そっか……」
そう、私には行かなくてはならない場所ができてしまった。
ヒュン、パンと、規則正しい音の羅列が廊下にまで響いている。私が行かなくてはならない場所は、体育棟、2階のB室。
(ここですね…)
あの連続して発されている音は、確かにこの部屋から響いている。私は、静かにその部屋の扉を開いた。
「…」
そこには、キリキリと軋む音を立てて弓を引く女子生徒がいた。
その女子が矢を放つと、ヒュン、パン、と先程よりも大きな音が耳を貫いた。思わず耳を塞いでしまった。
「!先輩」
「こんにちは…」
静かに耳を塞いでいた手を下ろして、私は言った。
「神木さん…いえ、美月さん。少しだけお話があります」