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カサンドラの屈託  作者: コリー
第一章 カサンドラと太陽神
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4 訪問

朝早く、チャイムが鳴った。誰だろう、こんな時間に。

寝ぼけまなここすりながら、呼び出しに応じた。勿論のこと、チャイムに起こされたのでパジャマのまま、髪の毛ぼさぼさの状態で出た。

「はい…」

「おはよう!珠心みこちゃん」

ドアの前に立っていた、つまりチャイムを押した人物は、くだんの神木さんだった。学校の制服を着ている。

「どうしたんですか?」

「どうって、早く学校行かないと遅刻しちゃうよ」

ああ、なるほど。どうやら彼女はおっちょこちょいのようだ。

「今日、土曜日ですよ」

「え?」


「いや…ごめんね。なんか」

「いいんですよ。それくらいの間違いなんて、誰にだってありますよ」

いつまでもパジャマ姿のままではいられないので、すぐ着替えて軽く髪をかした後、とりあえず彼女を部屋に上げた。

ここから、私達が通う学校まで距離はそう遠くなく、片道10分程だ。なので2人とも歩きで登校するために、こうして神木さんは迎えに来たのだろう。

「珠心ちゃんと登校出来るって、すごい楽しみにしてたから…」

流石にただ登下校するだけなのに、神木さんは大袈裟過ぎではないだろうか。と、言いつつ、少しながら月曜日が待ち遠しくなっている私がいた。


どうせならゆっくりしていってください。と、私は彼女にお昼までここにいることをすすめた。彼女も少し遠慮したが、しばらくしたら快く承諾してくれた。

その後携帯でどこかにメールを打っている。相手は…まあ、両親のどちらかだと推測するのが妥当だろう。

「うん。連絡しておいたから」

「お昼まで時間ありますけど、なにかします?」

と、言ったものの、家(寮の自室)では普段私は本を読む以外の暇潰しをしないため、実家から持ってきた申しわけ程度の本くらいしかない。

しかし、友達が遊びに来ているというのに、お昼まで2人して黙って本を読んでいるわけにもいかない。さて、どうしたものか。

「これ…この紙、使っちゃってもいい?」

と、神木さんはおもむろに私の机の上のB5の紙を手に取った。

「どうぞご自由に」

彼女はその紙にシャーペン(同じく机上にあったもの)で何かを書き始めた。少し離れてるので何を書いているかまでは見えない。

「珠心ちゃん!」

そう言って彼女は紙を私の方に向けて来た。その紙には、白黒の私が写っていた。いや、描いてあった。精巧すぎてモノクロの写真のようにしか見えない。

「凄い…!」

「でしょ?昔から絵を描くのが好きだったの」

(…好きこそ物の上手なれとはよく言ったものですね…)

また私は彼女を少し知れた気がして、少し嬉しくなった気がした。

そんなこんなでときは進み、時計はもう11時半を指し示していた。

「そろそろご飯作りますね」

12時に食べ始めることを考えれば、お昼ご飯を作り始めるのにちょうどいい時間だろう。

「私も手伝うよ」

「いえ、お客様に料理を手伝ってもらうわけにはいきません。座って待っててください」

そう言って私は、無理矢理神木さんを食卓に腰掛けさせた。

「神木さんが来ることがわかっていればもう少しいいものが作れたんですけど…」

キッチンにトントンと牛刀とまな板がぶつかり合う音が響くなか、私は独り言のように小さく呟いた。もう既に香ばしい香りがキッチンをまたいで居間まで届いたのか、神木さんがドアから顔を出した。

「この匂い…ニンニク?」

「はい。フライパンでオリーブオイルと一緒に炒めてます」

「いい匂い…」

こうしてニンニクを使った料理にしたのは、家にあった素材だけで出来る美味しい料理を作るのに必要だったからだけでなく、この強烈な香りで神木さんの(私も)空腹度を上げておくためだ。故人は言った。空腹は最高のスパイスだ、と。

あとは私の料理が神木さんの口に合うのを祈るばかりだ。


「出来ました」

コト、コトと食卓に3枚の皿が並んだ。

「パスタ?」

「はい。アーリオ・オーリオ・エ・ペペロンチーノです。それとカプレーゼも作りました」

私と神木さんのペペロンチーノ、そしてカプレーゼ。これでちょうど3枚だ。

「イタリア料理だね」

「いつからかイタリアンが作れるようになってたんです。理由はわからないんですけど…もしかしたら前世がイタリア料理人だったのかもしれませんね」

「なにそれ」

ふふふ、と神木さんは無邪気な笑をこぼした。

「さあ、冷めないうちに食べましょう」

「いただきます」

神木さんはフォークで器用にパスタをくるくると巻きとってから口に運んだ。スプーンは出さなくても良かったようだ。

「美味しい…!美味しいよ!珠心ちゃん!」

「良かったです」

自分で食べていて美味しいとは思っていたが、他人も必ず同じとは言えない。食べてもらうまで、その人が美味しいと思ってくれるかはわからないのだ。

「アーリオオーリオを作るのにオリーブオイルが少し足りなかったんですが、何とかなって良かったです」


私が皿洗いをしている間、神木さんがその話を切り出した。

「今度はうちに来て欲しいな」

「神木さんの家…ですか…」

どうやら神木さんのお母さんもこれに賛成らしく、心待ちにしているとかしていないとか。とにかく日曜日、つまり明日に来れないか、ということらしい。

「私は珠心ちゃんみたいに美味しい料理は用意出来ないけど…」

「構いませんよ。明日で良いのならお邪魔します」

神木さんはその答えを聞いて、いかにも良かった、という顔をして笑った。

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