2 進展
「あの、ありがとうございました」
次の日、借りた(何故か手渡された)「大学院生生活のスゝメⅡ」をしっかりと手渡した。
「あ、いえ…」
神木さんは本を受け取ると、大事そうに抱えた。
「あの…」
私が一晩中考えて、結論にたどり着くことが出来なかった疑問を彼女に投げかけることにした。
「どうしてその本を私に?」
神木さんは私の質問に心底驚いた顔をした後、少し顔を赤らめて言った。
「その…知らない人とはいえ、私のせいで死んでしまうというのは、さすがに責任を感じちゃうから…」
死ぬ!?私が?
『今日一日それが楽しみだったのに…もう生きていけない──』
あれか……!
しかし、私はかなり冗談めかして言っていたつもりだし、本気で信じるなんて、一体どういうことだろう。彼女が純粋だということか。
「ぷっ……」
不覚にも、笑わせる気がないであろう人に笑わされるなんて思ってもみなかった。
「え!?あの…何か私変なことした…かな…?」
「私、自分の事変な子だと思ってるけど、貴女は私よりも変です!」
「…自分で変な子って言っちゃうんだ」
今まで暗い顔だった彼女が、初めて笑顔を見せてくれた。
思えばここが始まりだったのかもしれない。
「あの…」
それから暫く経って放課後、彼女から話しかけてきた。
「何ですか?」
「何処に住んでるの?」
それはどういう意図で投げかけた質問なのだろうか。流石にその数文字では意図など理解できうるはずもない。
「寮ですけど…」
「寮!私の家、寮からすごく近いの!」
神木さんは胸の前で手を合わせて、無防備な笑顔を向けてきた。
なるほど。
今は放課後。そして彼女は帰る準備を整えて既にバッグを手に持っている。これは…。
「よければ一緒に帰ろ?」
出会ってから(初めて話してから)1日しか経っていない人と共に下校するのは、ぼっちの私には流石に荷が重いと感じるのも無理はないはずだ。