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テンションの差


繁華街のエリアは夜になっても店の明かりのせいで昼のように明るい。逆に学校を挟んだ反対側にある住宅エリアは街灯がほのかに灯っているだけだ。時折仕事を終えて帰宅する人がいるくらいで、全体的にひっそりとした暗さを保っていた。

 その隅にある小さな煉瓦屋根の家にファラは住んでいた。ギルドでの報告を終え、簡単な夕食も終えた彼女は現在リビングで本を読んでいる。ちなみにテーブルはない。

「……駄目だ、いないよ」

 最後のページの隅の隅までくまなく目を走らせ、ファラは本を閉じた。本には「魔物図鑑・初版」と書いてある。

「そんなうっすい本に載ってるわけねえだろ。頭悪いのかアンバランス娘」

 勝手にファラのベッドに座っているヴォルフが心底呆れたように言った。ファラから視線を向けられたが、「腹立ててんじゃねえよ」と一蹴する。

 ファラは文句を言おうとして、それより気になることがあって、

「てゆーかアンバランス娘って何?」

と聞いた。

「そのまま。表情と感情が合ってねえからアンバランス娘」

「どうして分かるの? 感情読めるの?」

「あー、そんな感じだな。常に分かるわけじゃないが」

「へえ……凄いね」

 凄い凄いと手放しでほめるファラに、ヴォルフは妙な居心地の悪さを感じた。どうにもやりづらいと視線をそらすが、ファラはまだパチパチとつたない拍手をしている。

「もうやめろ!」これ以上はたえきれないとヴォルフはベッドを叩いた。

「つーかお前ずれた所に注目しすぎだ! 論点はそこじゃねえ!」

「でも凄いものは凄いもの」

「もういい、もういいから。――それより種族を調べるんじゃねえのか」

「うん、それなんだけど」

ファラは立ち上がりながら言った。ようやく話が元に戻ったと内心安堵したヴォルフには気付かない。

ファラは本棚に行き、薄い図鑑をしまう。別の本を取り出し、パラパラと捲った。その本のタイトルは「魔物図鑑・第六版」

「書店で売ってる魔物図鑑ってどれもこんなもんなんだよね。一応分厚いのもあるにはあるんだけど、売り出す以前に読むのにも許可がいるんだから」

「何でだよ」

「確か、写真どころかその名前を見るだけで影響が及ぶ魔物がいるんじゃなかったかなあ」

ヴォルフも立ち上がり本棚へ近づいた。ファラから本を受け取り、表紙を眺める。名こそ「図鑑」だが、初版の隣にある文庫本よりもページ数は少ない。

「じゃあそれ以外をのっけりゃいいだろうがよ」

「何か問題があるんじゃないの。書店に売ってる図鑑は全部この厚さだし、一定数以上載せたら勝手に追加されるとか」

「んだそりゃ、面倒な魔物だな」

「魔物にまでそう思われるって相当だね」

今度はファラがベッドに向かう。座った勢いのまま後ろに倒れこみ、オレンジのワンピースがふわりと浮かぶ。ヴォルフが心底嫌そうな視線を彼女に向けた。

「お前少しは気にしろよ」

「気にしてもなるよ、どうしようもない」

「そういう話じゃねえだろ。女としてどうなんだそれ」

「てゆーかヴォルフずれた所に注目しないでよ。論点はそこじゃない」

「てめえふざけんなよ!」

怒鳴ったヴォルフとは正反対で、ファラはもうこの話は終わったとでもいうように「自分の召喚獣の種族も知らないのは駄目だよね、どうにかしなきゃ」と呟いている。感情を読み取ってみても微塵も恥ずかしがっていないのだから、本気で気にしていないようである。

ヴォルフは深く溜息をついた。

「人間に会ったのはお前が初めてだけど、絶対普通じゃねえよな」

「確かに私は普通じゃないと思うけど、大概の人が想像する普通の女の人って現実より上だよね、レベル」

「もう分かんねえよ……」

ヴォルフは本棚に背をあずけてずるずると座り込んだ。体力的にはまったく疲れていないはずなのだが、その様は長距離を走った後に似ている。

普通の人なら声をかけることすら躊躇ってしまいそうな雰囲気だが、普通じゃないファラは気にしなかった。

「そういえば、明日学校行くからついてきてね」

「ああ……あ? 何でだよ」

「図書館で図鑑見ようと思って。私一人じゃどれが正解か分からないもの」

「俺が見ても分かるかどうか微妙だぜ」

「大体それがおかしいんだよ。何で自分の種族を知らないの?」

勢いをつけて起き上がったファラの声は不満げだ。相も変わらずその顔に感情はちっとも浮かばないのだが。

「教わってねえからさ。お前らと違って親から生まれるわけじゃねえしな。いきなりその場所にぽんと放り出されて、ああ自分はどういう種族だなんて分かるわけねえだろ?」

「まあ、確かに」

「そんなわけだから、自分の種族知ってる魔物なんて数える程しかいないってこった」

「その数える方に入ってればよかったのに……まあ今更か」

ベッド脇に置いてあるショルダーバッグを取り、ボタンを外して口を開ける。中身はリングノートと筆箱、そして財布など簡単な小物のみ。入学時に配られた大量の教科書は本棚で色とりどりのインテリアと化している。

ワンピースのポケットから財布にギルドカードを移し、バッグの口を閉じた。

「よし、準備完了。明日は頑張ろうね!」

「調べものぐらいで本気になるなよ……」

グッと力強く拳を作るファラに対して、疲れたように天井を仰ぐヴォルフ。二人の温度差ははっきりとしていた。



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