対決
召喚都市パヴァーヌには、未来の召喚士を育成するための学校が存在する。年齢や位は関係なく、召喚獣を扱うだけの魔力があれば誰でも通うことができる。
心地いい空気が流れる午後、校庭には最上級生が集まっていた。校庭の真ん中には大きく長方形にラインが書かれ、二人の生徒が対峙している。その周りを他の生徒が囲み、二人の行く末を見守っていた。この学校で定期的に行われる戦闘訓練である。
対峙しているのはどちらも女生徒。腰まである金髪を靡かせる少女は自信ありげに口元をほころばせている。彼女の足元には召喚獣である白い狼がいた。狼は彼女を守るように立ち、相手に向かって唸っている。
その相手はショートボブにカットされた茶髪を持つ、無表情の少女。彼女の周りには特に何もいない。召喚士の学校に通っていながら召喚獣を出さない生徒は普通いないのだが、少女は対して慌てた様子もなく、周りの生徒も疑問の声をあげたりはしなかった。
「先手は譲るわ、来なさい!」
「……じゃあ、遠慮なく」
少女は軽く会釈し、右手に持っていた刀の鞘を前に突き出した。
首元の赤いリボンが揺れる。風の音が静かな空気を切り裂くように鳴りはじめたのと同じころに、少女の足元には青白く光る魔方陣が現れた。
風と光が行き交う中で一度深呼吸。それから長ったらしい詠唱を省いて彼女は喚び出した。
「召喚!巨大扇風機!」
「えっ!?」
予想外の召喚に、金髪の少女の声がひっくり返った。
魔方陣から出てきたそれは、まだ一般家庭が出すには早く、そして部屋に置けない程の大きさだった。
形勢逆転。茶髪の少女は、表情を変えることなく指示を出した。
「吹き飛ばせ!」
少女の声に反応し、扇風機のスイッチが入る。三枚の羽が回りだし、その速度が上がっていく。「強」に設定された巨大扇風機の風は台風も目じゃないかもしれない。目の前でそんな風を起こされて、か弱い少女が立っていられるはずもなかった。
「きゃああああっ!?」
文字通り吹き飛ばされた少女と狼の体は宙を舞い、急遽教師たちが用意したマットに落ちた。怪我こそなかったものの、もうそこはラインの外。
審判係の男性教師が拡声器のマイク部分に口を近づける。
「――勝者、ファラ!」
「ぃよしっ!」
「ちょっと待ちなさいよ!そんな勝ち方ありなの!?」
魔方陣を消し、判定を聞いてガッツポーズを決めた少女に、吹き飛ばされた少女が噛みついた。
彼女は、こちらが召喚獣を出しているのだから、同じように召喚獣で戦うべきだと考えていた。だから扇風機で場外に吹き飛ばされるなんていう結果は不満以外の何物でもない。
しかし吹き飛ばした方はそんな考えなど気にしていなかった。
「ルールは『相手を場外に出すか降参させる』だけでしょ。どんな方法で場外に出しても問題ないんだから良いじゃない」
「だからって扇風機は無いでしょ!」
「勝てば官軍負ければ賊軍、小股取っても勝つが本。勝つためには手段は問わないし、勝ったんだから何使ったって正しいんだってことだよね」
「ファラって偶にすっごい腹立つわね……!」
両手を広げる少女のすまし顔に、狼を送還した少女は拳を震わせる。
少女――ファラは、無表情のまま空高く拳を突き上げた。