* 6
「お前、その手、どうしたよ」
翌朝、僕の手を見た山下が、目を見開いて訊ねてくる。真っ赤に腫れた右手には、痛々しげに湿布が貼られていた。
「別に、腫れただけ」
「意味分かんねぇ。なんで、そんなとこが腫れるんだよ」
「叩いたからだよ、机を思いっ切り」
山下は声を張り上げて驚いていた――声がデカイ、煩いよ。しかし、あんなに思い切り叩かなければ良かった。右手、利き手なのに。
「なんで、そんなことしたんだよ」
山下が怪訝そうに尋ねてくる。なんでっていうと、くだらない理由しか思い浮かばない。
「無性に腹が立ったから」
「滝川って、意外と短気だよな」
からからと山下は笑う。僕は未だにひりひりする右手を力無く降ろしたまま、宮本を見た。彼女はやはり、窓の外を眺めている。自分を「必要のない子」だと言った彼女は、窓の外に何を見ているのだろうか。
「お前さぁ、よく宮本のこと見てるよな」
山下の言葉に、僕は反射的に彼を見た。顔が少し熱いのは気のせいだ、そうに違いないと自分に言い聞かせる。山下はニヤニヤした笑いを浮かべるのかと思ったが、彼は爽やかに笑っていた。
「いやいや、小莫迦にするわけじゃないぞ」
それから山下は盛大に溜め息を吐く。何故、そんな呆れたような顔をする。
「ただ、滝川も苦労するなぁと思って」
「――やっぱ莫迦にしてるだろ」
僕は山下の腹に、拳をぶち込んでやった。山下は低く唸って、僕のことを睨んでいた。
負傷している右手だっただけ、僕の愛だと思え。元々ひりひりしていた右手が、衝撃で更に痛い。
「お前、やっぱり莫迦だ」
痛みでしかめっ面していた僕を見て、山下は笑いだした。
――ちくしょう、僕の優しさを笑い飛ばしやがって。