吾輩は疑問に思う
吾輩は疑問に思う。
なぜ世界は、あのようにきっぱりと十二で済んだ顔をしているのかをである。
ものごとには、きりのよさというものがある。人間はそれを好む。十とか、百とか、十二とかいう、いかにも数え終えたふうの数を見つけると、そこで話を閉じたがる。まるでそこで宇宙の帳尻が合ったかのように、満足げにうなずく。だが吾輩に言わせれば、それは少々、いやかなり雑である。
十二で足りると思った、その心が、まず浅い。
鼠、牛、虎、兎、龍、蛇、馬、羊、猿、鶏、犬、猪。なるほど、顔ぶれは悪くない。あれこれ取りそろえ、空も陸も伝説も混ぜ、とにかく賑やかにはしたらしい。そこに一定の努力は認めよう。認めるが、だからといって完全とは限らぬ。寄せ集めれば名簿になるとでも思っているのなら、それは名簿に対する過信というものである。
そもそも、猫が入っていない。
吾輩はここで、別に入りたかったと言っているのではない。誤解してもらっては困る。吾輩はただ、制度の精度について述べているだけである。天下に知られ、寝姿ひとつで人心を掌握し、柔らかき腹を見せるか見せぬかで文明の温度を左右する存在が、なぜ最初から勘定に入っていないのか。その選定眼に疑義を呈しているのである。
古くから、あの選抜において吾輩の祖先は遅れたとされている。鼠に日取りを偽って伝えられたとか、寝ていただとか、いや、そもそも呼ばれていなかったのだとか、話はいくつかあるらしい。どれもこれも、負けた者について人間が勝手に整えた説明じみていて、あまり感心しない。遅れたことにしておけば話は丸い。騙されたことにしておけば教訓めく。だが、そうして丸く収まった話の外で、ひとつだけ置き去りにされる感情がある。遺憾である。
いや、遺憾というほどでもない。
少々ひっかかるだけである。
ほんのわずか、胸の奥の、毛づくろいでは届かぬあたりが、ちくりとする程度のことである。
そもそも吾輩は、数に入ることそれ自体を、そこまで名誉とは思っていない。何しろ、数えられるというのは管理されるということでもある。列に並ばされ、順番を与えられ、その年その年に引っ張り出されて、今年は君の番ですなどと言われるのは、いささかせわしない。猫はもっと、気ままでよい。暦に奉仕するために生まれたのではない。こちらは気候のよい窓辺と、やわらかな座布団と、適量のうまいもののために生きている。
もっとも、そのうまいもののせいで吾輩の生涯は少々予定が狂ったのだが、それはまた別の話である。
とにかく吾輩は、十二という数の傲慢さを見ている。選ばれた者は、自分が世界を一巡させているとでも思っていよう。年の顔になった程度で、ずいぶん大きく出たものである。年など、放っておいても明ける。季節は誰の許可も得ずに巡る。花は勝手に咲き、風は勝手に吹く。そのたびに、いちいち代表者面をされては、自然の側も落ち着くまい。
では猫は何をするのか、と問われれば、何もせぬ。
何もしないということの難しさを、人間はあまり知らぬ。役目を持てば偉いと思っている節がある。だが吾輩に言わせれば、ただそこにいて、撫でてもよく、撫でなくてもよく、気が向けば喉を鳴らし、向かねば無言を貫き、それでもなお場の空気を完成させるというのは、かなり高度な技術である。十二支の連中に、あの落ち着いた気配が出せるものか。鼠はそわそわしすぎるし、虎は肩に力が入りすぎる。犬は忠義が前に出すぎる。猪に至っては、少し静かにできぬのかと思う。
つまり吾輩は、入らなかったのではなく、入れたところで収まりが悪かったのである。
器の側が、吾輩に追いつかなかった。
そう考えれば、これはむしろ、向こうの不運というべきかもしれぬ。猫を欠いたまま完成したふりをせねばならぬのだから、気の毒な話である。十二という数は、いかにもきれいだ。きれいだが、きれいすぎる。そこには一匹ぶんの、身勝手で、柔らかく、気まぐれで、ときどき妙に愛されてしまう余白がない。余白のない世界は息苦しい。吾輩はそのことを、身をもって知っている。段ボールの中でも、家の隅でも、日向の畳でも、少し余っている場所こそ、もっとも居心地がよいのだ。
ゆえに吾輩は、あえて余る。
数に入らず、列に並ばず、年の旗も背負わず、それでも人の膝を占領し、寝床の中央を奪い、気づけば絵にも歌にも置物にもなっている。もし知名度というものに霊格が宿るなら、吾輩はかなり高位にあるはずだ。少なくとも、毎年一度だけ思い出される連中よりは、だいぶ顔が利く。
そのように考えると、干支に入っていないことも、さほど悪くない。
いや、むしろ、よい。
かなり、よい。
たいへん、よい。
吾輩はそう結論して、前脚をそろえ、満足した顔で目を細めた。ちょうどそこへ人間がやってきて、吾輩の頭を二度ほど撫でた。
「かわいいねえ。猫は干支にいないけど、いてほしかったなあ」
吾輩は、聞こえぬふりをした。
聞こえぬふりをしながら、喉のあたりで、たいへん小さく鳴った。




