勇者パーティーが“冒険性の違い”で解散することになりました
「何を申しておるのだ! お前たちは!」
玉座から立ち上がらん勢いで驚愕する国王の前に、四人の若者がいた。
その中の一人、黒髪で凛々しい顔立ちの青年、勇者アーベンは言った。
「ですから、勇者パーティーは解散することになりました」
他の三人もうなずいている。
「な、なぜだ……!? なぜ、解散するのだ!?」
「そうですね……。あえて言うなら“冒険性の違い”でしょうか」
「“冒険性の違い”……!?」
国王が驚くのも無理はない。
なにしろ、この四人は人類の期待を一身に背負った者たちだからだ。
魔界の王――魔王が人間界に現れ、人類に宣戦布告をした。
恐るべき魔族の軍勢に人類はなすすべなく、魔族の奴隷となって生きるか、それとも全滅するかを選べ、と究極の二択を突きつけられている状況だった。
しかし、人類サイドにも希望はあった。かつて世界の危機を救ったとされる“勇者”の末裔であるアーベン。彼が打倒魔王に名乗りを上げたのである。
アーベンは屈強な戦士ガスト、天才魔法使いであるペリーネ、神の声を聞けるとされる僧侶ホムリアとともにパーティーを結成。破竹の勢いで魔族を打ち破っていった。
……そんな矢先の出来事であった。
「なんなのだ、冒険性の違いとは……」
「そのままです。冒険に対するスタンスの違いとでもいいましょうか」
「そんなもの、話し合いで何とかすればいいではないか!」
アーベンは首を横に振る。
「無理ですね。四人で散々話し合いましたが、意見が交わることはありませんでした。解散するしかないという結論に至ったのです」
「むうう……」
意見を変える気はないようだ。
命令で強制しようにも、そもそもアーベンたちの方が王国軍より強いのだから、そんなことができるはずもない。
だが、こうなると気になることもある。彼らの間で、どのような“冒険性の違い”が生じたのか。
「分かった……。それでは、せめて聞かせてくれぬか。おぬしらのスタンスがどう違ったのかを」
「いいでしょう。では僕から……」
アーベンが話し始める。
「僕は、町や村で住民からよく情報集めをし、時には人助けをしつつ、数々のダンジョンに乗り込み、魔物を倒し、時には財宝を獲得しつつ、苦難を乗り越え、最終的には魔王を倒す……。こんな冒険がしたい、と主張しました」
国王はなるほどとうなずく。
「ふむ、実にオーソドックスというか、王道というか。勇者がするに相応しい冒険だな。文句のつけどころがない。いきなり正解が出てしまったような気もするが、それでも意見が分かれてしまったのか?」
「その通りです」
国王は戦士ガストに目を向ける。
ガストはアーベンよりも一回り体格の大きい巨漢である。
「では次はおぬしに聞こう。おぬしはどんな冒険がしたいと主張したのだ?」
ガストは答える。
「俺はみっちり雑魚狩りを行ってから、冒険を進めたいって言いました。雑魚を狩って狩って狩りまくって……十分すぎるほど強くなったと確信してから、ダンジョンに乗り込み、魔物や魔獣を蹂躙する! 苦戦なんかまっぴらっすからね」
「見かけによらず、慎重派なタイプなのだな。十分に経験を積み、レベルアップをしてから、圧倒的な武力で敵を制圧していく。かなり時間はかかるだろうが、魔族の手強さを考えるとこの方法も決して間違っているとは言えんな」
ガストがふふんという感じで鼻を鳴らす。
国王は魔法使いペリーネに同じ質問をする。ペリーネは露出の多いローブを着こなす、色っぽい女性である。
「あたしはせっかちなものでね。住民から得られる情報も必要最低限のものだけで十分。寄り道なんて一切なし。なるべく経験を積まず、ギリギリの戦いで魔王たちを倒す。こんな冒険がしてみたい、と言ったわ」
国王は右手を顎に当てる。
「スピード重視というやつか。危険は伴うが早く魔王を倒してくれた方が、我々としても助かるし、これもまた冒険の一種だな。天才魔法使いと称されるだけあって、なかなか大胆な発想をするものだ」
残るは僧侶ホムリアのみ。
ホムリアも同じく女性であるが、ペリーネに比べるとだいぶ地味な容姿であった。
「おぬしの冒険スタンスは?」
「わたくしは……そもそも冒険をしたいとは思いません」
「へ?」
「わたくしは神の声を聞くことができます。結果、この世の理の穴を突く方法を突き止めることができたのです」
「どういうことかな?」
「わたくしは世界の法則を打ち破るさまざまな方法を編み出しました。壁をすり抜ける方法、いきなり最高の装備を手に入れる方法、便利なアイテムを増殖させる方法……」
「何を言ってるのだ、おぬしは?」
「やがて、わたくしは知ってしまいました。このお城で特定の行動をすれば、一切冒険をすることなく“魔王を倒した後の世界”を呼び出すことができると」
「ど、どういうこと? 世界を呼び出す?」
「分かりやすく言えば、“エンディングを呼び出す方法”とでもなるのでしょうか」
「エンディングって言っちゃったよ、この娘!」
「エンディングというのはスタッフロー……」
「わーっ! わーっ! 言わんでいい! なんかメチャクチャ世界のタブーに触れてる気がするから! お願いだから黙ってて!」
「勇者様たちもそうおっしゃって、わたくしの案は絶対ダメだと却下されました」
悲しそうな表情をするホムリア。国王は「ナイス、勇者たち」と内心褒め称える。
気を取り直すため、国王は咳払いをする。
「おぬしたちの意見は分かった。同時に意見が交わらぬことも分かった。勇者パーティーの解散を認めよう」
「ありがとうございます」
「しかし、未だ魔王の脅威は健在……。どうすればよいのか……。新しい勇者パーティーを募るべきか……」
すると――
「フハハハハハ……! その必要はない!」
「……ッ! この声は!?」
玉座の間に、突如として現れたのは魔王だった。
アーベンらは国王を守るように即座に陣形を整える。このあたりはさすが勇者パーティーといえる。
そんな彼らを見て、魔王はニタリと笑う。
「そう急くな。ワシは戦いに来たわけではない……」
「では、何をしに来たというのだ!」
国王の問いに、魔王はおもむろに答える。
「実は……魔王軍は解散した。つまり、戦いは終わったのだ」
「……は?」
きょとんとする一同。
「なんで解散したのだ?」
魔王は神妙な顔つきになる。
「ワシは侵略は部下任せにし、勇者たちを玉座で堂々と待ち構えるつもりだったのだが、ある部下は『魔王様自ら攻め込むのがトレンド』とか言うし、ある部下は『弱そうな部下が実は魔王だったオチが斬新』とか言うしで、軍の方針が全くまとまらなくてな……。いわば“侵略性の違い”とでも言うべきか……」
おわり
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