木枯らしの頃④
本書はフィクションです。実在の人物・団体・省庁とは一切関係ありません。また、執筆にあたり複数の公務員の取材や架空のエピソードを組み合わせて構成しています。
ご覧いただきありがとうございます。
本作は、実話をもとに再構成した「叩き上げ公務員」の半生を描くサクセスストーリーです。
学歴もコネもなく、定時制高校からスタートした主人公。
決して順風満帆ではなかった彼が、どのような葛藤や壁を乗り越え、霞ヶ関の本省、そして幹部へと駆け上がっていったのか。
実際の官僚機構や他省庁でのリアルな泥臭さ、そして人生後半での新たな挑戦までを丁寧に描いていきます。
働くすべての人、そして逆境から這い上がりたい人に届く作品になれば幸いです。
ぜひ最後までお付き合いください!
自室で放心状態に陥っていた浩一だったが、やがて少しずつ冷静さを取り戻していった。
頭の中で、これまでの中学3年間、そして高校生活の情景がめまぐるしく駆け巡る。
高校受験、中学の野球部員と交わした約束、夏休みのアルバイト、そしてあの大学生3人組……吉田さん!
家庭の事情で姫路の叔母の家を引き払い、神戸の自宅に戻ると告げたあの日の会話が、鮮やかによみがえってきた。
『そっか……。こういう時、高校生ってまだ無力なんよなぁ』
『……』
『でも、自宅から通えんことはないやろ?』
『片道2時間くらいかかります』
『んー、2時間か……厳しいけど、まぁ……もし本当に行き詰まったら定時制高校っていう選択肢もあるし。昼間働いて、夜に通うようなさ』
『定時制……それって、大学はいけるんですか?』
『大学だけがすべてやないよ。選択肢の「ひとつ」に過ぎんで』
——そうだ、定時制高校があった!
I高校や全日制の県立高校に通えなくなっても、まだ道は途絶えていない!
浩一は再び、机の上に置いてあった県内の高校案内パンフレットをたぐり寄せた。
(……本日何度目やろ、このパンフレット見るの)
ページをめくると、定時制や通信制高校の記載が目に留まった。
神戸市は居住地によって第1〜第3学区に区分されており、浩一の自宅は第3学区にある。だが、同じ第3学区の定時制に通えば、中学の同級生や知り合いに会うかもしれない。I高校に通えなくなったことを知られたくない浩一は、あえて自宅から遠く離れた第1学区にある定時制高校のページに付箋を貼った。
意を決して、その学校へ電話をかける。全日制の時と同じように、切実な思いをそのまま伝えた。
「現在、県内の私立高校に通っているのですが、家庭の経済的な事情で通い続けることが難しくなりまして……そちらへ転校することはできないでしょうか」
すると、担当者から拍子抜けするほど明快な回答が返ってきた。
「本校の転入学試験と編入学試験は、3月中旬に予定していますよ。受験されますか?」
「……! あの、転入学試験というのは、どういう試験でしょうか?」
「転入学試験はいわゆる『転校』ですね。今の高校に在籍したまま本校の試験を受け、合格後に手続きを行うため、高校生としての身分が途切れません。最大の特徴は空白期間が発生しないことで、前の学校で修得した単位や在籍期間をそのまま引き継ぐことができます」
「例えば……今、私立高校の1年生なのですが、3月の転入学試験に合格すれば、4月からそのまま2年生として通えるということですか?」
「基本的にはそうです。ただし、現在の学校で進級できるだけの出席日数と成績が必要となりますが……」
「出席日数も成績も大丈夫です! 今のところ無遅刻・無欠席で、成績も上位にいます!」
「それは素晴らしいですね。ちなみに編入学試験の方は、一度高校を退学した方が入り直す試験のことで、空白期間が生じます。修得単位の引き継ぎには一定の条件がつきますので、川野さんの場合は『転入学試験』を目指すのが良いでしょう」
「ぜひ、転入学試験を受けたいです!」
「承知しました。まだ詳細は公表していませんが、3月上旬までに願書を提出していただき、3月中旬に受験となります。転校には今の高校で無事に進級できることが前提となりますので、3学期の成績や出席日数にも引き続き気をつけてくださいね」
「わかりました! ありがとうございました!」
電話を切り、受話器を置いた浩一は、深く長い息を吐き出した。
絶望の淵で、まだ道がしっかりと繋がっていたことに、強い安堵が込み上げてくる。
(吉田さん、僕、定時制高校に転校することになりそうです。2学期が終わって、無遅刻・無欠席で、クラス3位、学年14位まで上がったんですよ……。大学だけがすべてじゃないかもしれないけれど、僕はやっぱり進学したいです。定時制に転校したら、その夢は遠のいてしまうんでしょうか……?)
一筋の光が見えた安堵感と、大学進学という夢への不安。
二つの思いを抱えながら、浩一は静かに目を閉じた。
ご覧いただきありがとうございました!
全日制の壁に阻まれながらも、決して諦めずに「定時制・通信制」という新たな可能性へと足を踏み出した浩一。
居住地から離れた学区を選ぶという、15歳ならではの繊細な自尊心や葛藤もリアルに描かれた回となりました。
制度の壁を理解し、自分の置かれた状況で最善を尽くそうとする浩一の姿は、本当に頼もしく見えます。
繋がった道と、残された大学進学への問いかけ。
冷たい木枯らしの中で、浩一がどのような決断を下していくのか、次回もどうぞお楽しみに!




