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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔ガールズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。

銀眼の魔女と偽物の勇者 短編

作者: アマダス
掲載日:2026/04/15



少年は貧しい生まれの者だった。

両親の顔は覚えていない。気がつけば、貧民街で荷運びなどをして食いつないでいた。


仕事を頼む商家の旦那は、何やら少年の両親に恩義があると言っていたが、

恩があるなら、もっと良い暮らしをさせてくれればいいのにと少年は思った。


それでも、食えるだけましか。


少年は、今しがた荷を届けた大きな屋敷を見上げる。


石造りの長い壁、立派なアーチ門。

中にはプールだってあった。


飲み水だって安くはないのに、

飲むのでも湯浴みに使うのでもなく、ただの水遊びに大量の水を使うのだという。


少年には、にわかに信じられなかった。


どんな悪いことをすれば、こんな立派な屋敷に住めるのか。


「正直者で、善良な俺には縁のない話だ」


少年は皮肉げに呟いた。

仲間が聞いたなら、「お前のどこがだ」と唾を飛ばすだろうが、

少年自身は心の底からそう信じて疑わなかった。


「この家に何か用かね?」


不意に声をかけられ、

横を見れば、年老いた男が一人、少年の傍らに立っていた。




「いや、なんていうか、どんな悪人がこの家に住んでるんだろうって考えてたんだ」


少年は言った。


老人は豆鉄砲でも食らったような顔をしたあと、

大きな声で笑い声を上げた。


「悪人か!

そりゃあ傑作だ。

だがな、なぜそう思う?」


「だって、こんな大豪邸に住んでるんだ、悪人に違いないよ。

それに、ここに住んでる悪人は、水を飲まずに遊びに使うっていうんだぜ?」


良心があるなら、配ってやるはずだ。

――例えば、自分のように、貧しくも慎ましく健気に生きている少年に。


だから良い心を持たない、極悪人に決まっている。


少年はそう主張する。


老人はますます笑みを深くした。


「そうか、そうか、なるほど。お前の言うことは理に叶っている。もっともだ。

だがな、小僧――正直すぎると身を滅ぼすぞ?」


そこでようやく、少年は気づいた。

老人が立派なコートと、宝石を散りばめたステッキを持っていることに。


――やらかしたな。


少年はそう思ったが、

そのあたりの切り替えの早さが、彼の良さでもあった。


「立派な杖だね。

こりゃあ、善良な爺さんしか持てないやつだ」


「じゃあ、俺はこのへんで」


そう言ってそそくさと立ち去ろうとする少年を、老人は呼び止めた。



***




目の前に、色とりどりの果物と焼き菓子が並んでいた。

澄んで冷えた水もある。


「お前は大層面白い。わしの話し相手になってくれ」


やはりというか、老人はこの屋敷の主人だった。


名をレイブン。

この海沿いの町一帯を治める大領主だ。


不敬を働いた罪で罰を受けるのかと思ったが、

逆に、目の前のごちそうを食べて良いという。


毒でも入っているのかもしれないが、どちらにせよ少年に拒否権はない。


少年は無遠慮に、果物を、焼き菓子を手当たり次第にとっては口に運んだ。



「水が欲しかったんじゃなかったのか?」


「水以外のごちそうがあるのに、水なんて飲んでられないよ。

気にしなくていい。水は俺の革袋に入れてくれ。

俺は善良な人間だから、水遊びなんかに使わずに、持って帰って貧しい子供に分けてやるさ」


少年は悪びれる様子もなく革袋を差し出し、焼き菓子を摘む。


愚かというか、豪胆というか。


老人はますます気に入り、


「お前、何か望みはあるか?」


と尋ねた。



少年は顔をしかめる。

けれど、食べるのをやめる様子はない。


「そうだな――船が欲しい。

この海で一番速い船だ!」


少年の答えに、老人は満足そうにうなずいた。



「聞きたくはないか?

わしがいかにして財を築いたか」


「それと、世界一速い船は関係あるのか?」


少年は財宝について、意外なことにさして興味を示さなかった。


老人には分かっていた。

彼が望むのは、富や名声ではない。


心躍る冒険と、自由なのだ。


---


「もちろんだとも!

わしの話を聞くがいい。

海を、魔境を渡ったわしの話を!」


老人の奇妙な昔語りは、こうして幕を開けたのだった。



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