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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。

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永瀬遥の放課後

放課後の図書室~幼馴染との密会~

掲載日:2026/03/21

夕焼けが窓から差し込み、図書室の古びた本の匂いをオレンジ色に染めていた。


図書委員の永瀬遥ながせ はるかは、貸出カウンターの奥で、誰もいない静寂に身を浸しながら、文庫本に目を落としていた。放課後のこの時間は、彼女にとって最も安らげる場所だ。


トントン、と、行儀の悪い足音が静寂を破る。


振り返るまでもない。

その足音の主は、真っ直ぐに遥のもとへと歩み寄り、カウンターに身を乗り出した。


「やっぱりここにいた」


立川茜たちかわ あかね。吹奏楽部のエースで、校内でも目立つ存在の彼女が、少し息を切らせて笑っていた。制服のシャツからは、部活でかいた汗の匂いと、微かに柔軟剤の香りがする。


「……茜。部活は?」


遥は本から目を上げずに、事務的なトーンで返した。


「休憩時間。10分だけね」


茜はカウンターの内側へ回り込み、遥の隣、ごく近い場所に腰を下ろした。遥の手元にある本を覗き込む。


「また難しい本読んでる」

「図書委員の仕事」

「嘘。ただサボって読んでるだけでしょ」


茜がニコっと笑い、遥の髪に触れる。

遥はその手を払いのけようとしたが、茜の手は滑るように彼女の頬へと移動した。


「……何?」


遥の声が、少しだけ上ずる。


「遥不足。補充しに来た」


茜の瞳が、悪戯っぽく、けれど真剣に遥を見つめる。


「10分しかないから、急がないと」


茜の顔が近づく。

遥は一瞬、周囲を気にして視線を泳がせたが、図書室には自分たち以外に誰もいない。


「……バカ」


遥が小さく呟いた瞬間、茜の唇が重なった。


本の匂いと、茜の汗の匂い。

図書室の静寂が、二人の鼓動と、衣擦れの音だけで満たされる。


ほんの数秒。

けれど、二人にとっては永遠のような、甘く、隠微な時間。


唇が離れたとき、遥の頬は夕焼けよりも赤く染まっていた。

茜は満足げに笑い、遥の唇を親指でそっとなぞる。


「よし、補充完了。戻るね」


茜は立ち上がり、何事もなかったかのようにカウンターの外へ出た。


「……次は、ちゃんと部活終わってから来なさいよ」


遥が本に顔を埋めながら、精一杯の抗議の声を上げる。


「善処しまーす!」


茜は背中越しに手を振り、足早に図書室を後にした。


再び静寂が戻った図書室で、遥は開いたままの本を閉じた。

心臓がまだ、うるさいくらいに鳴り響いている。

彼女は、茜の残り香が微かに漂う空気の中で、深く息を吐き出した。

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