あなたと見る世界は素敵と幸せに満ちている
「レサ、見て。あのご令嬢の飾り、きれいだよ」
「まあ、本当ね。繊細な飾りが重なっていてまるでコチョウランみたいでとてもきれい。それにあのオパールも太陽のように輝いていて素敵ね」
セデルにささやかれて目を向けた先には、幾重にも重なる花のような髪飾りをつけた令嬢が立っていた。真ん中には大粒のオパールがついていてシャンデリアの明かりに虹色に輝いている。
「今日は僕が先だね」と先に素敵なものを見つけて得意げに微笑むセデルに負けじと、フレサも素敵なものを探して見つけた。
「ね、セル。グラーニュ伯爵が着けているブローチは何をイメージしたものだと思う?」
「ぶどうじゃないかな。彼の領地はワインの名産地で有名だし、あの金の部分が軸と葉で宝石が実になっているように見えるな」
「わあ、そうね。あの実の部分はオニキスかしら? すごく小さいのに1つ1つ微妙に色が変わって見えるわ。でも、細かいところまで作りこまれていて、葉なんてすごくやわらかそう。すごいわ、本物そっくりね」
「そうだね、本当に良くできている。ああやって自分が愛するものをデザインして身につけるのも面白いね」
興奮のあまり熱をこめて語るとセデルもまた楽しそうに笑って見やる。その好きなものを見つけてキラキラと輝く顔をフレサはうっとりと見つめた。
フレサは交易を営むマール伯爵家の娘だ。祖父は気に入った物を集めるのが好きで、幼い頃からフレサもたくさんのコレクションに心おどらせたものだ。成長して社交界に出るようになってからは、華やかな貴族たちが身につける宝飾品をひそかに眺めて楽しんでいる。
そんなある日、同じく壁際にいたエルトーレ公爵令息のセデルに話しかけられ、気が合って婚約した。
王子様のように美しいセデルもフレサと同じく美しいものを眺めるのが好きで、まるで宝探しのように次々と素敵なものを見つけてはうれしそうにフレサに教えてくれる。そうして素敵なものについて語り合うのが2人の楽しみになった。フレサにとってはセデルの好きを楽しむ素敵な姿を見るのが何よりの幸せだ。
セデルが満足する前にフレサは次の素敵を見つけた。
「ね、あそこにいらっしゃるルオルザ伯爵夫人のネックレス。もしかして隣国で愛を司る女神様の贈り物といわれているピンクダイヤモンドかしら?」
「ああ、そうだね。なんでも伯爵が夫人の誕生日の贈り物にするために隣国を訪れて探したらしいよ。デザインも2人で考えて、お揃いのネックレスとクラバットピンを作ったそうだ」
「まあ、素敵……。あのダイヤモンドにはお2人の愛情がこめられているのね」
ロマンチックなストーリーにきゅんとする。愛の祝福がこめられた宝石を身につけた夫婦はそっくりな顔で笑いあい、キラキラと輝いている。
その素敵な姿にうっとりとしているとふいにセデルがフレサの顔をのぞきこむ。澄んだ青空をきりとったような美しい瞳に見つめられて頬が熱くなる。
「レサもああいうのに憧れる?」
「え、ええ。好きな方とお揃いのものを身につけるなんて、すごく素敵」
フレサの言葉にセデルはとろけるような笑顔を見せた。
「そうか。じゃあ、僕たちも一緒に作ろうか。僕と君が素敵だと思う物を」
愛情のこもった声にフレサは胸が喜びでいっぱいになった。
「……ありがとう、セル。大好きよ」
セデルはいつもフレサに素敵なものを見つけてくれて、たくさんの愛をくれる。フレサはそんなセデルが世界が一番素敵な人で、愛している。
セデルはにっこりと微笑むとフレサの赤くなったひたいにそっとキスをおとした。そうしてまた1つ、フレサの世界に愛が増えていった。
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セデルにとってフレサは幸せをくれる人だ。
セデルは幼い頃からきれいなものを見るのが好きで、社交場に出ると素敵なものを身につけた貴族たちに話しかけて眺めるのを楽しんでいた。
しかし、常人よりも美しいとされるセデルは成長するにつれて周りから過剰な好意と注目を寄せられるようになり、特に令嬢たちにはちらりと見ただけで自分に気があると誤解されて面倒ごとに巻き込まれるようになった。
そんなことが続くのに嫌気がさして、いつしかセデルは好きなものを探すことを諦めた。
そんな甘やかな喜びを思い出したのがフレサとの出会いだった。初めて会った彼女は青い瞳をキラキラと輝かせて貴族たちを眺めて「素敵」と幸せそうに微笑んでいた。そして、気になって話しかけたセデルにあれこれと素敵だと思うものを見つけては熱心に聞かせてくれた。
「素敵なものを見ると心がすごく幸せになるの。ね、セデルも一緒に探しましょう?」
好きなものを好きだと素直に喜ぶフレサといるうちに、いつしかセデルも子どもの頃のように好きを表せられるようになった。そして、自分をニコニコと見つめるフレサと一緒に素敵なものを探すのが最高の幸せになった。
セデルは今日も素敵なものを探す。愛するフレサの幸せな笑顔のために。




