六話 激突する特異点
エリアルヘロンがストックを握ってバーストマグナムを発射する。戦艦の主砲ほどの威力を誇る紫色のレーザーが特異点を掠める。
すぐそばにあるデブリが弾ける。
「バーストマグナム、やはりシンギュラリティか」
特異点が敢えて見つかりやすいように機体を動かす。エリアルヘロンもバーストマグナムを放ちながら特異点を追いかける。
特異点が急上昇し、こちらに向かってくる。エリアルヘロンは制動をかけて下に回り込みながらバーストマグナムで狙い撃つ。
「くそ、帰れよ!」
俺は悪態をつきながら必死で狙いを定める。だがどれもかすめるばかりで当たりもしない。
「当たらなければどうということはない」
どこかで聞いたような台詞をカガリが言う。あのシンギュラリティは棒立ちでこちらを狙っている。これなら捕獲できるかもしれない。
特異点が背中についているブースターに連結された燃料タンクを切り離す。バーストマグナムがそれを爆破。
「やったか?」
フラグのような台詞を吐いた瞬間、真横に特異点の頭部がでかでかと映る。
「ふっ」
特異点がエリアルヘロンを蹴りつける。蹴られたエリアルヘロンがデブリにたたきつけられる。
「ぐっ」
俺はキッと前を見据える。特異点がビームブレードを構えているのが見える。
ディスプレイに〈S-Mode〉の表記がされ、シートが倒れ、操縦系統が畳まれる。装甲の展開により赫く発光する内部フレームがむき出しになり、バイザーの下に隠された顔が露わになる。
「その力、見せてもらう!」
特異点が突貫するが、エリアルヘロンは肉眼でとらえるのも困難なスピードで飛び上がる。
「速いな」
カガリが赫い軌跡を目で追いながら、足元にペダルを踏みこむ。ブースターが起動し、エリアルヘロンと同等の速度で特異点が追いかける。
デブリを縫うように繰り広げられるチェイスはエリアルヘロンの射撃によってさらに激化する。
「何で避けられるんだ?」
ありえない反応速度で射撃を避ける特異点に俺は思わず口にする。
〈なぜだと思う?〉
通信が入る。恐らく特異点からだろう、涼しげな声だ。次の瞬間、特異点が驚異的な加速を魅せ、エリアルヘロンの眼前まで迫る。
エリアルヘロンの前腕部の外側が隆起し、ビームトンファーが起動する。二機のシンギュラリティが激突する。
「あんた、特異点って呼ばれてるんだっけ?」
〈まあな。俺はカガリ、この機体はエリアルSプライマルだ〉
鍔迫り合いのさなか、二人が会話を交わす。それはユカのところにも届いていた。
「シンギュラリティとやりあってる......両機が動き出しました!速すぎてレーダーで追えません!ここでデブリ帯ですよね⁉」
「はあ?レーダーで追えないとか......」
レーダー監視員の言葉に一瞬顔をしかめるが、すぐに自分の考えを訂正する。シンギュラリティ同士の戦い、凡人に測れるはずもあるまい。
「絶対に帰ってきてよ......」
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幾度となくビームブレードとビームトンファーをぶつけ合う二機。唐突に頭が尋常じゃ無く痛む。
「うぐっ!」
俺は思わず頭を押さえる。なんだ、急に頭が......!
カガリはそれを好機ととらえ、突貫しようとするが、ビーム砲によって阻まれる。
〈き、挟撃行きますよ!上昇して!〉
エリアルゴーストが特異点の真下から射撃を繰り返す。エリアルヘロンもビームマグナムを撃つ。特異点が離れていく。
〈君、名前は〉
「ハナサギだ」
〈そうか、覚えておこう。それとエリアルのパイロット、今度は確実に仕留める〉
カガリに呼ばれたヴァリュートがヒッと小さく悲鳴を漏らす。
「ちょっと待って!」
離れようとするカガリに俺は聞きたいことがあった。
「ヒナタって人、知ってるだろ?」
カガリは一瞬の間をおいて答える。
〈この機体は彼女から託された。君も同じはずだ〉
ヴァリュートはなんのこっちゃなのか疑問すら口にしない。
「ヒナタは死んでしまったよ。この機体とネックレスを託された」
〈ネックレスを......ふっ、君たちならきっとスペースウォーリャーズのシナリオをすべてクリアできるだろう。それじゃあ〉
今度こそカガリは飛んで行ってしまった。すぐに僚機たちに指示を出す。
「つきあわせて申し訳ない。撤退だ」
〈お気になさらず〉
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ピースコンパスの旗艦に帰還した俺とヴァリュートは大喝采で迎え入れられた。ヴァリュートは本当に怖かったのかギャン泣きしている。ユカがこちらに走ってくるのを見て俺は声を掛ける。
「約束守りましたよ!」
その言葉を聞いたユカが頷く。
「カガリを退けてくれるなんて、本当によくやってくれたわ。
「いや、どちらかというと見逃してもらったっていうのが正しいかな......」
そうだ、カガリは手加減していただろう。
「そうね、彼は装甲を展開してなかったものね。まあ終わり良ければ総て良しってことよ。ヴァリュートも最後はナイスアシストよ!」
ユカがヴァリュートを労う。ヴァリュートが大きくうなずく。
ユカがメニュー画面を開き、チャットを選択する。見るとヨッシーからメッセージが届いている。
「ヨッシーさんからめっちゃメッセージ来てますね」
「なんか、第八ターミナルにリスポーンしたらしいわ。ミネーとアリスもいるみたいよ。あいつらリスポーン地点をここに設定しなおしてなかったのね。ここから近いし迎えに行きましょうか」
ユカがそう言ってブリッジに戻る。こうしてスペースウォーリャーズ最強のプレイヤーをなんとか退けたピースコンパスは進路を第八ターミナルに向け、進みだすのだった。
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第八ターミナルに入港したピースコンパスはすぐにヨッシーたちを回収した。ピースコンパスの旗艦が無傷なのを見て彼らは目を丸くしていた。
「カガリと戦ったんだよな?」
ヨッシーが信じられないというように訊ねる。
「......というわけでハナサギくんとヴァリュートがカガリの撃退に成功したわ」
ユカがことの顛末を簡素にまとめてヨッシーたちに伝えていた。ミネーとアリスが俺のところにやって来る。
「ハナサギ、お前まじか!」
「特異点に勝つとかやるじゃん!」
二人にもみくちゃにされながら俺は笑う。
「ギリギリだったんだぞ、すぐにやられやがって」
「あんなもん、誰がよけれるか!」
ミネーが鼻で笑う。ひとしきり笑った後、俺は深くため息をつく。
「ゲームとはいえ、なんかどっと疲れたよ」
「そうだな、今日はもうログアウトするか」
ミネーが言うと、アリスも同意していち早くログアウトする。
「はや」
思わず声に出す。
幕を開けた俺の『第二の人生』。波乱万丈な幕開けであったが、心なしか楽しかった。このゲーム、続けてもいいかも。そんな思いを胸に俺は『第二の人生』からログアウトするのだった。




