五話 カガリ襲来
貨物船の爆発するさまを眺めながらユカは俺に伝えてくる。
「まあ、君は大学のVRゴーグルを借りてるわけだし、ピースコンパスの一員になるしかないけどね」
「えぇ、流石にひどくないすか......」
ユカの言葉に俺は顔をしかめる。今のところスペースウォーリャーズで楽しいと思えたタイミングがほとんどないのだが。モチベーションのない状態でこのゲームを続けるのは至難の業だろう。
「まあ、あんまりログインしないでもいいなら......」
と、その時、またもや警報が鳴り響く。外に爆発が見える。
「今度は何!」
ユカがいら立ちを隠さずに怒鳴る。
「本艦付近で爆発を確認!」
「対空監視、どうなってる!」
ユカが艦長席につく。
「敵影ありません!」
「そんなわけないでしょ!攻撃喰らってるんだからどっかいるわよ!」
その間にも旗艦の周りで爆発が起きている。
「本艦直上より高熱原体接近!数は四!デブリ帯を高速で潜行中!」
「デブリ帯の中を?ミサイルじゃなさそうね」
ユカがいぶかしみながら格納庫に通信を送る。
「本艦は攻撃を受けている。アーマードスーツ部隊は出撃し、これを迎撃せよ」
おお、ホントに軍人みたいだ。
「ミネー、アリスも行ってちょうだい」
ユカの言葉にミネーとアリスが頷く。
「分かった」
「りょーかい」
ミネーとアリスがブリッジを後にする。
「熱源体は?」
「依然本艦直上より高速で接近。この速度は......!」
レーダー監視員が息を吞む。ユカがその様子を見て何かを悟る。
「先頭のアーマードスーツは後続機の......五倍の速度です!」
黄色い光の柱がブリッジを掠める。
「あ、あの、何が起きて」
俺の問いかけにかぶせるようにユカが答える。
「やばいやつと交戦中!さっき飛んできたレーザーは射程範囲ギリギリから撃たれたやつ!」
ユカが格納庫に通達する。
「敵はプライマルと思われる、まだライフルの射程範囲ぎりぎりにいるから押し返せる!」
〈押し返せるわけねえだろ!〉
誰かの怒号が耳に響く。プライマル?やばい奴らなのはみんなの反応で分かるけれど......。
〈こっちは出撃準備オーケーだ。ヴァリュートも行けると。こっちのタイミングで出るぞ〉
〈え、私逃げるんですけど......〉
ヴァリュートが訂正するが、ユカはそれをガン無視する。
「ヨッシーね、ヴァリュートも頼むわ」
〈期待するなよ〉
〈巻き込まないでぇ......〉
「カタパルトハッチ解放!アーマードスーツ隊、発艦どうぞ!」
管制官が指示を出す。
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旗艦の前方に伸びる三つのカタパルト。ハッチが開き、黒とグレーのカラーリングの、まるで特殊部隊のようなエリアルアーマードスーツが現れる。
「ヨッシー、エリアルガスター出る!」
ヨッシーのエリアルが真ん中のカタパルトから射出される。続いて左舷カタパルトデッキにピンクと黒のカラーリングのエリアルが姿を現す。
「ったく、意気地なししかいないんだから。アリス、エリアルワンダーランド行くよ!」
アリスのエリアルもカタパルトから射出される。それと同タイミングで右舷カタパルトから青と白のカラーリングのエリアルアーマードスーツが射出される。
「ま、まだ何も言ってないですうぅ!」
そんな悲鳴を聞きながら、ミネーも自機をカタパルトデッキに固定する。黒とオレンジのエリアルアーマードスーツのエンジンがうなりを上げる。
「ミネー、エリアルシュトレイン出る!」
カタパルトから射出された瞬間、敵のライフル攻撃が直撃し、カタパルトを巻き込むほどの大爆発を起こす。
「ミネー!」
アリスが冷や汗を浮かべる。
「射程ギリギリにいるんじゃなかったの⁉」
〈レ、レーダーに敵を確認、交戦お願いします!〉
「落ち着け!」
恐怖のあまり進路を変更しようとするヴァリュートをガスターが落ち着かせる。とはいえこちらは三機、相手はおそらくプライマルクランの腕利きだろう。勝てる確率はごくわずかだ。エリアルガスターがライフルを構えて射撃する。
敵の姿は依然見えない。どこから襲ってくるかも分からない。ユカがサポートしてはくれるだろうが、それすらも奴らの前では無駄なことに過ぎないのだ。
前方にブースターの青い光が見える。
「敵機のブースター光を確認!追うぞ!」
三機のエリアルが全速力でデブリ帯を駆け抜ける。その様はカガリからも視認できていた。
「エリアルが三機か、シンギュラリティを出してこないとは」
飛んでくるレーザーを避けつつ、後方にいる僚機に指示を出す。
「君たちまで出張ると過剰戦力になる。待機しておいてくれ」
〈了解しました〉
指示を終えると、踵を返し追手の方へ自機を向ける。
「シンギュラリティを出さないなら引きずり出すまで」
突如としてこちらに向かってきた敵のアーマードスーツの姿にヨッシーが冷や汗を流す。
「金と銀のアーマードスーツ!ブリッジ、敵は〈特異点〉だ!」
その通信にユカがため息をつく。尋常ではない速度で動く光点を確認した時から、嫌な予感はしていた。外れてくれることを願っていたのだが。
「何とか持ちこたえて!」
〈もって五秒だ!その間に逃げろ!〉
アリスが通信に割り込む。余裕がなくなっているのか口調も荒々しくなっている。なんせ目の前にいるのはスペースウォーリャーズで最強のプレイヤーなのだ。
二年前、クラン対抗戦というイベントの際にその機体は現れた。上位帯のクラン複数が機体を奪おうとしたが返り討ちにあい、ことごとく全滅。単機で敵の艦隊を壊滅させるなど、ゲームだとしてもあり得ないような戦果を叩き出し、付いた二つ名は〈特異点〉。
ユカが指示を出す合間にそんなことを話してくれた。特異点、シンギュラリティか。通信からはアリスたちの怒号が聞こえてくる。相当やばい状況のようだ。
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ヴァリュートが背面に装備した火力支援バックパックを起動、肩部に倒れてきたレーザー砲で特異点を狙う。赤い極太のレーザーが特異点をかすめる。特異点はデブリに紛れて姿を消す。
「き、消えた」
ヴァリュートが慌てて探すが、ヨッシーが指示を出す。
〈隊列を崩すな、このまま警戒を続けろ〉
その声はいつもヴァリュートを安心させてくれる。
〈ヨッシー、下!〉
アリスが忠告するが、それもむなしくエリアルガスターが下からコックピットを撃ち抜かれて大爆発する。
「は、早く帰ってくださいよ!」
ヴァリュートがライフルとレーザー砲を乱射する。特異点はそれを避けながらヴァリュートのエリアルゴーストの右脚を撃ち抜く。
「ギャー!」
エリアルゴーストはグルグル回転しながらデブリに激突して動きを止める。とどめを刺そうと特異点が接近するが、エリアルワンダーランドの射撃がそれを阻む。
「落ち着いてって言ってるでしょ」
〈は、はいぃ〉
アリスの言葉にヴァリュートが力なく答える。
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素人目にもかなりまずい状況ということが分かる。数的優位などお構いなく翻弄している。
「他の人は出ないんですか?」
「意気地なしだから出ないわ。肉壁が多ければ助かるんだけど」
ユカがぼやく。望遠モニターにビームブレードをぶつけ合う特異点とエリアルワンダーランドが映っている。
「俺、行ってきます」
「ちょっと、ダメよ!」
ユカが俺を止めるが、構うものか。このままじゃ全滅だ、あのピカピカのアーマードスーツを止めるにはあの機体の力が必要なはずだ。
格納庫に到着すると、プレイヤーが一斉にこちらを向く。これだけの数で攻め立てれば勝てるだろ。
「お前、出撃するつもりか?」
プレイヤーのひとりが声をかけてくる。
「そうですよ、普通戦いに行きますよ」
俺がエリアルに近づくと、ひとりでにコックピットハッチが開く。すぐさま乗り込んでコンソールを起動する。エンジンがうなりを上げ、全天周モニターが起動する。
〈何やってるの、戻って!〉
ユカから通信が入る。
〈それじゃシンギュラリティをみすみす向こうに与えるだけよ〉
「じゃあ、アリスたちがやられるのを黙って見ておけば⁉違うでしょ!」
ユカは少し黙った後、発艦許可を出す。
〈分かった。絶対に帰ってくるなら行ってもいいわ〉
「帰ってきますよ」
俺はそういうとカタパルトデッキに自機を固定する。これは機体が自動でやってくれるようだ。
〈中央カタパルトハッチ解放、アーマードスーツ発艦位置へ〉
中央のカタパルトハッチが開き、宇宙空間が見える。そういえば、この機体は何という名前なんだろう。俺のアーマードスーツと同じ名前でいいか。
「ハナサギ、エリアルヘロン行きます!」
カタパルトから純白のアーマードスーツが射出される。
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何度目かの鍔迫り合いののち、特異点とエリアルワンダーランドは更にビームブレードをぶつけ合う。
エリアルワンダーランドの持つビームブレードの付け根が赤熱し、消失する。
「ブレードの出力で負けた?」
特異点の横なぎの一閃が頭部を斬り落とす。
「アリスちゃん!」
ヴァリュートの叫びもむなしく、胴体も両断されたエリアルワンダーランドが爆発する。
「わ、私一人だけ?無理だよぉ」
ヴァリュートが弱音を吐いた時、特異点と遜色のない速さの機影がレーダーに映る。
「ついに来たか」
カガリもレーダーを確認して後退する。
「なにか撃てるものは......」
俺が言うと、ディスプレイが自動で操作され、エリアルヘロンが大型のライフル〈バーストマグナム〉を装備する。
二機のシンギュラリティが相まみえる。




