四話 仲間の元へ
形態を変化させたエリアルアーマードスーツ、その姿はその宙域にいるプレイヤーたちに衝撃を与えた。
「アリス、あのアーマードスーツ見たか?」
〈見たよ、プライマルのリーダーと同じだよね〉
ミネーの問いかけにアリスが震える声で返す。目線の先では赫い軌跡が縦横無尽に走っている。
エレンはオルガをエリアルの前に向けるが、エリアルは超反応でレーザーを避けると、ビームブレードを振るってオルガを二基撃墜する。
「こいつ、リーダーと同じシンギュラリティか......!」
エレンは機体を巧みに操り、エリアルの攻撃を防ぐ。エリアルの一撃が右のバインダーウィングを切り裂く。オルガもそろそろ使用時間の限界を迎える。
何度も鍔迫り合っては離れを繰り返す。
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〈ブリッジ、聞こえるか〉
ピースコンパスの旗艦のブリッジにミネーから通信が入る。
〈地獄の番犬と交戦中の機体は、シンギュラリティだと推測される〉
その通信に艦長席に座っている女が頓狂な声を上げる。
「シンギュラリティですって⁉」
画面にでかでかと写された赫色のエリアルを見る。
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幾度目かの鍔迫り合いののち、また離れた番犬は今度こそ仕留めんとビームブレードを構える。
「はああああ!」
が、その時味方から撤退の信号弾が撃ちだされる。作戦は失敗だ、その事実がエレンの心に重くのしかかる。エレンは追撃を警戒しながら、貨物船の方へ撤退する。だが、思っていた追撃はなかった。
突如として戦場に現れ『シンギュラリティ』と呼ばれたエリアルは、装甲を閉じ力なく宇宙空間を漂っている。
〈ミネー、アリス、回収に向かって〉
「え、あれをか?面倒なことになるぞ......」
「いいじゃん、ほかにクランにとられるより全然マシだよ」
ミネーとアリスのアーマードスーツが純白のエリアルのもとに向かう。ほかのクランをけん制するようにピースコンパスの旗艦が進み出る。プライマルクランと戦闘していたヴィシブルクランもすでに壊滅状態、野次馬もピースコンパスほどの規模のクランはおらず、誰も手出しはしなかった。
こうしてピースコンパスはエリアルを確保、宙域を離れるのだった。
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貨物船に合流し、番犬を収容し終えたエリスは貨物船のブリッジにて、報告を行っていた。ディスプレイに映る報告の相手はプライマルクランのリーダーでありこのゲームで最強のプレイヤー、カガリだ。
「件のアーマードスーツはヴィシブル以外のクランに奪取されたものと思われます。私が出向きながらこのような失態を......」
気を落とすエレンに、画面の向こうにいるカガリは笑って慰めを言う。
「気にすることではない。君が相手したのはシンギュラリティだ。よく撃墜されなかったと褒めるべきだろう。今度は俺が直々に赴く」
「リーダーがですか⁉でしたら私も......」
エレンが言おうとするが、カガリが遮る。
「サコミズ、件のアーマードスーツを回収したクランの船の座標をりだした後、船を本隊と合流させろ。番犬の修理が必要だろう。本作戦に参加した別の艦にも本隊合流の通達を」
この貨物船の艦長であるサコミズというプレイヤーが頷く。彼はカガリと同じ時期にスペースウォーリャーズを始めたプレイヤーで、カガリと気楽に話せる数少ないプレイヤーでもある。
「とはいえ、件のアーマードスーツがどのクランの手に渡ったか分かっていないだろう?」
「いや、もうわかっているんだ」
「へえ、相変わらず仕事が早い」
サコミズが舌を巻く。エレンもパッと顔を輝かせる。
「流石です」
「あまり褒めるな、恥ずかしいから」
カガリは少し微笑むと、サコミズに軽く会釈して通信を切った。カガリは艦長席を立ってクルーに指示を出す。
「これよりデブリフィールドに向かう。総員配置につけ!」
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ターミナル《ファースト》からかなり離れた宇宙ゴミや小惑星の欠片が混在するデブリフィールド。その一角にあるターミナルの残骸にピースコンパスの旗艦は停泊していた。
旗艦の格納庫は喧騒に包まれていた。原因は無論、あのエリアルである。プレイヤーたちがパイロットを一目見ようと搭乗口に集結していたのだ。
コックピットハッチの前にミネーとアリスが陣取っている。
「いつになったら開くんだよ」
「まあまあ、焦らなくても。リーダーが来るまで......」
「ごめん、ちょっと通して」
人込みをかき分けて誰かがミネーとアリスのところへやってきた。
「噂をすればユカ艦長」
アリスがユカの腕に自身の腕を絡ませる。ユカはピースコンパスのリーダーかつ旗艦の艦長である。
「二人ともご苦労様。で、機体の方は?」
「だんまりだ。ちっとも開く気配がしない。というか、こんなの接収して大丈夫なのか?」
ミネーが呆れて言う。
「プライマルが番犬を使ってまで回収しようとしていたシロモノだぞ。絶対に目をつけられて面倒なことに......」
「その時はしゃーなしでプライマルに引き渡せばいいわ。ほかのクランがこれで暴れまわる方が私たちの活動方針に不都合でしょ」
ユカがエリアルを見上げて言う。
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俺は目を開ける。目の前にいっぱい人がいるのが見える。確か、このアーマードスーツで赤いアーマードスーツと戦って、やられそうになって......。どうも記憶がはっきりしない。
「ゲームなのに気を失ってたのか......?」
取り敢えずシートから立つと、全天周モニターが停止し、コックピットハッチが解除される。
外に出た途端、聞きなれた声が耳に飛び込んできた。
「ハナサギ⁉ハナサギじゃないか!」
「うっそぉ、ハナサギくんが操縦してたの?」
声の方を見ると、峰岡と有栖川が驚嘆の表情でこちらを見ていた。
「峰岡......?それに有栖川も」
「ミネーな。それとこっちはアリスだ」
峰岡、いや、ミネーが訂正をする。チャットでも同じやり取りをしたような気がする。
「どうしたの?顔に血がついてるけど」
アリスが俺の頬についているらしい血を見て顔を引きつらせる。
「スペースウォーリャーズって流血表現あったっけ?」
アリスが後ろにいる女に話しかけている。この人は誰だ?そもそもここはどこなんだ?
「あ、ごめんね。色々混乱しているでしょうし、場所を変えましょう」
アリスに話しかけられていた女がこちらに目配せする。
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旗艦のブリッジにて。
「えーと、ハナサギくんはミネーたちに誘われてスペースウォーリャーズを始めたのね。そして運悪くプライマルとヴィシブルの戦闘にかち合ったんだ」
目の前の女はピースコンパスのリーダーのユカ、という人らしい。どうやら行動不能になった俺とアーマードスーツを保護してくれたらしい。記憶もだんだんとはっきりとしてきてくる。
「そして逃げようとしたときにNPCに会ったと」
「ヒナタって名前でした。一緒に逃げてる時に死んじゃったんですけどね。あのアーマードスーツはヒナタに託されたものです」
俺は包み隠さずに話す。ユカは首をかしげている。
「NPCがアーマードスーツを託す?聞いたことがないわ、というか民間人のNPCを見たことがない」
「だよな、俺も軍人のNPCしか見たことない」
ユカの言葉にミネーが同意する。こいつ、なんか現実と口調違わないか?
「そのヒナタって子、何か言ってなかった?」
ユカの質問に俺は記憶をたどる。そういえば。
「死に際にエステアとの戦争とか言ってたような」
エステア、という言葉に反応したのか、ユカが目を細める。
「エステア、シナリオ関係のNPCの可能性があるわね。他には?」
他に?そうだな......。
「あ!なんか人の名前を言ってた」
あの時は焦っていたのもあって気にも留めていなかったが、約束がどうのと言っていた。
「カガリとの約束をって言ってました」
言った瞬間、ユカの表情が固まる。ミネーも同じく、興味なさそうに話を聞いていたアリスも自然と背筋が伸びる。
艦橋の空気が張り詰める。......何か言ってはいけないことでもあったのだろうか。
「カガリ......どうして彼の名が」
ユカが考え込む。
「カガリってさ、最強のプレイヤーだよね。NPCがプレイヤーを認識してシナリオを進行してるってこと?」
アリスが言うが、俺には何一つ理解ができない。このゲームのことも知らずにこんな状況に陥っているのだ。
「君が乗ってきたアーマードスーツ。あれは私たちの活動目標の達成に大きく貢献する可能性がある。私たちのクラン、ピースコンパスに参加してもらえないかしら。
私たちのクランの目標は、このゲームに存在するシナリオのクリアよ。まだ誰も進めたことのないシナリオを」
ユカの話も終わらないうちにブリッジで警報が鳴る。
「何が」
「貨物船です、自動航行の。おそらくNPCのトレジャー船かと」
レーダー監視員がユカに伝える。
「トレジャー船って?」
俺の質問にユカは簡単に説明してくれた。
「物資を積んだ、ランダム出現する貨物船のことよ。ランクがAからCまであるの。拿捕すれば何かいいものがあるかもね」
「あれはCランクです。どうせゴミしか出ませんよ。主砲でぶっ飛ばしますよ」
レーダー監視員が独断で旗艦の主砲を放ち、貨物船を撃沈する。その独断にユカが顔をしかめる。
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「主砲の発射を確認、奴らの座標が割れたな」
デブリフィールドの宙域にて。
サコミズがカガリの元へピースコンパスの旗艦のいる位置の座標を転送する。
それを受け取ったカガリはブリッジに指令を伝えると、旗艦のハッチから自身のアーマードスーツを発進させる。後ろに三機、マルチユニットアーマードスーツが続く。
「まあ、君は大学のVRゴーグルを借りてるわけだし、ピースコンパスの一員になるしかないけどね」
「えぇ、流石にひどくないすか......」
ユカの言葉に俺は顔をしかめる。今のところスペースウォーリャーズで楽しいと思えたタイミングがほとんどないのだが。モチベーションのない状態でこのゲームを続けるのは至難の業だろう。
と、その時、またもや警報が鳴り響く。外に爆発が見える。
「今度は何!」
ユカがいら立ちを隠さずに怒鳴る。




