二話 運命の出会い
「これが......スペースウォーリャーズ」
気が付くと全く知らない、真っ白な場所に立っていた。
どこだここ?
あたりを見渡していると、どこからか機械音声が流れだした。
《次の四種のアーマードスーツから、プレイヤーの搭乗する機体を選択してください》
目の前にパネルが現れる。スクロールして情報を確認してみる。
・エリアルアーマードスーツ
機動性に優れ、火力と防御のバランスがとれた機体。火力、防御共に装備ユニットでの強化が可能。扱いやすく、初心者におすすめ。
・フルファイトアーマードスーツ
火力に特化した機体。高威力のライフル、バズーカ砲などを装備できる。防御と機動性は低いが、ある程度装備ユニットで補うことが可能。特殊兵器を搭載可能。
・フルディフェンスアーマードスーツ
防御に特化した機体。ビーム攪乱粒子などのサポート兵器を装備できる。火力と機動性が低いが、ある程度装備ユニットで補うことが可能。
・マルチユニットアーマードスーツ
高い拡張性を誇る機体。初期機体では能力は著しく低いが、パーツ次第では、上記のアーマードスーツを凌ぐ能力を獲得することができる。
「機体の説明か、ずいぶんざっくりしてるな」
長々と書いたところで全文に目を通すかと言われれば、怪しいところだ。
「初心者におすすめって書いてあるし、エリアルでいいだろ」
エリアルの項目をタップすると、パネルが機体デザインの選択に移った。
「へー、有栖川が言ってたアーマーメイクってこれのことか」
俺は凡庸な美的感覚を用いて、エリアルアーマードスーツの頭部、胴体、両腕、両足、背部に取り付けるエンジンバックパックを適当に組み合わせる。
機体の色は白一色。これも適当である。
パネルを下にスクロールし、登録ボタンを押すと、記入欄が目の前に出てきた。
《パイロットネームと機体ネームを登録してください》
「パイロットネーム、か。これは俺の名字でいいけど、問題は機体ネームの方だよな」
表示欄を見る限り、エリアルの後ろに記入欄が続いている。
「エリアルなんたらになるってことか。恥ずかしくない名前にしないと」
厨二心全開で名前を付けるか、それとも......。
「今更こだわっても仕方ないか」
キーボードを適当に打って、何文字か消す。
・機体ネーム 《エリアルヘロン》
・パイロットネーム 《ハナサギ》
これで大丈夫だろう。登録ボタンを押す。すると、何もなかった空間が、どこか空港を思わせる建物に変貌していく。
「また場所が変わった」
パイロットスーツに身を包んだプレイヤーたちが多く行き来している。初期リスポーン地点はここなのだろうか。あの二人、ログインさせるだけで何も教えてくれなかったからな。
ふとガラス張りの天井を見上げると、星の瞬く宇宙が広がっていた。
「おお、宇宙だ」
スペースウォーリャーズというくらいだし、宇宙が舞台だろうとは思っていたが、ここまで男心をくすぐられるものだとは。
ずっと向こう側にアーマードスーツ発着場と書かれた看板が見えた。俺が作ったアーマードスーツはあそこから乗れるんだな。
意外にも逸る気持ちを抑えながら歩きだしたとき、腹に響く低い音が響くとともに、大きな揺れが建物を襲う。
「な、なんだ⁉」
真上をアーマードスーツが猛スピードで飛んでいた。それを追うように、ミサイルのようなものも飛来する。
「ターミナル《ファースト》での戦闘行為は禁止だろ!」
「ルールぐらい守りやがれ!」
混迷を極めるファーストから逃げ出そうと、プレイヤーたちが発着場に駆け出していく。
「な、なにが起こってるんだ」
戦闘行為は禁止と叫んでいる声は聞こえてきた。パニックになったプレイヤーたちに揉みくちゃにされていると、ふと、女の子と目が合う。パイロットスーツを着ておらず、あずき色のカーディガンを羽織っている。髪の毛はブロンド、エメラルドのような瞳がこちらをまっすぐに捉えている。
女の子は人込みをかき分けてこちらにやってきた。
「何が起きてるんです⁉」
そんなことを聞かれても困ると思いつつ、無視するわけにもいかずに答える。
「何か戦闘が起きてるみたいです!みんなアーマードスーツに乗ろうとしてるんです」
プレイヤーたちが発着場に吸い込まれていくように消えて行くのを見る。俺も早くいかなければ。いきなり戦闘に巻き込まれるなどごめんだ。
走りだそうとした俺の手を女の子が掴む。
「今行けば戦闘に巻き込まれるでしょう!職員用の緊急脱出ハッチがあります。ひとまずそこへ逃げます」
女の子は思いのほか強い力で俺を引っ張って駆け出す。職員用の?プレイヤー用じゃなくて?この人はプレイヤーじゃないのか?
頭の中で疑問が渦巻く。一連の流れがチュートリアルではないことは明らかなのだが。
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ターミナル《ファースト》の周囲では大規模な戦闘が繰り広げられていた。トップクラン『プライマル』とゲーム内5位クラン『ヴィシブル』の戦闘。その余波はファーストに確実な影響を及ぼしていた。
アーマードスーツの放つレーザーやミサイルの爆発が外壁を照らす。
そんな戦闘のさなか、ファーストから少し離れた宙域に一隻の貨物船が現れた。パプリカのような形をした貨物船の船尾部分が開き、大柄なアーマードスーツが放出された。
ボディを左右と後で覆うようなバインダーウィングには大型と小型のブースターが五基ずつ搭載されており、大柄な機体の機動性を向上させている。また、バインダーウィングの内側には特殊兵装を内蔵でき、更にはその分厚さをもってシールドとして運用することもできる。
真っ赤なボディに特徴的な三枚のバインダーウィングを持った機体、マルチユニットケルベロス。プレイヤーたちはその機体をこう評した。『地獄の番犬』と。
〈敵の増援を確認した。エリアルが三機、うち一機は特殊兵装なのか足が速い。向こうのエースだろう〉
貨物船のブリッジからの通信に、マルチユニットケルベロスのパイロットのエレンが返事を返す。
「もう戦場に合流してるの?」
少しの間が開いた後、呆れ声がきこえてくる。
〈どうやら合流しているらしい。相手はヴィシブルのエースだ、なかなか骨が折れるだろうが......〉
「問題ないわ、エレン、マルチユニットケルベロス出る!」
地獄の番犬が貨物船を離れ、ファーストの方へ全速力で移動する。今回の作戦、こちら側の実働部隊は数が少ない。対してヴィシブルは総力を挙げてこちらをつぶしに来るだろう。いくら腕がいいとはいえ、数でのアドバンテージをひっくり返すことは容易いことではない。アニメのような展開になることは稀なのだ。
アーマードスーツたちがしのぎを削る戦場が迫ってくる。
レーダーに反応がある。三機のアーマードスーツ、うち一機は突出した速度でこちらに向かってくる。
向こうのエースはどうやら、番犬を真っ先に潰す判断をとったらしい。エレンが微笑みを浮かべる。
「そうするよね、私だってそうするし」
エレンが再度レーダーを確認する。両サイドの二機が進路を変更している。すぐに思惑に感づいた。
「船はやらせないよ」
番犬が静止しバインダーウィングから赤色で、小型の漏斗を十五基展開する。
Omnidirectional Remote Gun Array(全方位無線射撃砲群)、通称オルガ。漏斗のような形の超小型砲塔を十五基、無線制御で展開し全方位から射撃を行う特殊兵装である。そのオルガが貨物船に向かったエリアルに襲い掛かる。
二機のエリアルは頭部バルカン砲やライフルで応戦するも、あっけなくバラバラにされて爆発四散する。それを確認したエレンは最後の一機に向けて機体を向かわせる。
残った一機のエリアルが番犬に向けてバズーカを放つ。
エレンは機体に強い制動をかけて弾頭の直撃を避ける。爆発の余波でレーダーに乱れが生じる。
「拡散パルスか」
エリアルが両肩部にマウントされているミサイルランチャーを全て発射する。
自身の周りに集めたオルガの反応がいくつか消える。 番犬は致命的なダメージを受けないように避けながらエリアルに迫る。
「いけ、オルガ」
オルガがエリアルを撃ち抜こうと飛来するが、ヴィシブルのエースは推進器と追加装甲以外の特殊兵装をすべてパージする。
手首から飛び出したビームブレードを掴んで、オルガからの攻撃を追加装甲だけで突っ切って、番犬のもとに全速力で突貫する。
番犬の方もビームブレードを装備し、全速力でエリアルにぶつかりに行く。ビームブレード同士の衝突で電流が走る。二機が大きく円を描くように離れ、突貫。また激しくビームブレードをぶつけ合う。
二機が鍔ぜりあった状態できりもみしだす。エリアルが後退し、番犬のコックピットを貫かんと構えて突っ込む。その動きを読んでいたエレンは機体を後ろに倒し、バインダーウィングのブースターを吹かした。衝撃はエリアルを硬直させるには充分だった。番犬のビームブレードがエリアルの胴体を一閃する。
オルガをバインダーウィングに戻しながら、貨物船に通信をつなぐ。
「エースは片付けた。次の指示を」
〈ファーストに侵入して、例のアーマードスーツを捜索しろ〉
「本当にあるの?」
〈リーダーがそう言ってるんだからあるんだろう。発見したら乗り換えてもいいそうだ〉
通信が切れる。エースのいなくなったヴィシブルは総崩れだろう。私が戦うまでもない。番犬がファーストに向かう。




