十五話 イポスとバティンの始動
ハナサギたちが敵を食い止めている間、ヴァリュートとヨッシーは格納庫で待機していた。
「ハナサギさんたち、大丈夫かな」
心配そうに呟くヴァリュート。
「あいつらなら大丈夫だろ」
そう返すヨッシーの視線は、特殊兵装に換装されている自機に向いていた。
尖った黒い肩部パーツ、脚部を覆う追加ブースターと装甲、ヘッドセンサー拡張のためにつけられた二本のアンテナの様相はさながら黒騎士といったところである。
「ヨッシーさんの機体、騎士みたいな特殊兵装ですね」
「ああ、バティンスタイルとか言ったかな?増設されたブースターで従来の五倍の速度が出せるようになるらしい。ジェネレータも積んでるから、機体の性能も向上させられるんだとか」
ヨッシーの説明にヴァリュートが首をかしげる。
「そんな特殊兵装ありましたっけ?」
「ない。通常、特殊兵装はセットになっていて、ばらして好きに組み合わせることができないからな。シナリオ限定の装備なんだろ」
ヨッシーはそう言うと、エリアルゴーストに目を向ける。
エリアルゴーストも特殊兵装に換装されている最中だった。
背中を覆うように装着されたバックパックから、横に伸びたアームの先にクローがついており、敵機をつかむことができる。また、アーム部分と肩部を装甲を介して接続し、第二の腕のように扱うことができる。エリアルゴーストの腕部と脚部も増設されており、ブースター、ビームガトリング砲が増設されている。
「こっちはイポススタイルってんだ」
近くを通りかかった整備員がエリアルゴーストを見て言う。
「空戦機能が大幅に向上してる。そっちのバティンスタイルと同じでジェネレータを積んでるから、機体そのものの出力も上がってるんだぜ」
「へえ、なるほどね」
ヨッシーが肩をすくめる。こいつを使う出番は来るんだろうか。基地の沿岸部は既に正規部隊のアーマードスーツ隊や戦車が防衛している。
「ハナサギたちがやられるわけないし、これを使うタイミングなんかこなさそうだがな」
ヨッシーが言うが、それは間違いであったということを知ることになる。
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フロンタル基地からさほど遠くない位置の海面から無数のミサイルが打ち上げられる。そのミサイルは海面近くを蛇行しながら沿岸の防衛に当たっている正規部隊に迫る。
正規部隊はすぐさま迎撃態勢に移行したが、間に合わず、沿岸は爆炎に包まれた。海面からエステア軍の小型艦艇が数十隻姿を現し、上昇する。
フロンタル基地司令室にもその情報は伝わった。
「まさか海に潜っていたとは......動かせるもの全てで基地を防衛しろ!一発も喰らうな!」
ガルダがそういった瞬間、基地の一角にミサイルが着弾する。この防衛線が苛烈を極めることになると、誰もが悟った。
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沿岸から続々とブラックデスが上陸してくる。空中でハナサギたちと交戦しているのは囮だったのだ。
ブラックデスが地面を滑りながら基地に接近する。先頭のブラックデスがバズーカ砲で基地の防衛設備を破壊する。戦車が爆発し、周囲にいた兵士たちが炎に包まれる。
「基地の防衛設備が破壊されました!このままでは突破されます!」
士官の報告にガルダが怒鳴る。
「アーマードスーツをそっちに向かわせろ!」
その様子を見ていたユカはまた自分のコンソールに映っているレーダーを注視する。エステア軍の次の一手に確実に対応しなければ、全滅もあり得る。
「ホント疲れるわ......!」
ブラックデスの方に向かうアーマードスーツの光点を確認すると、基地全体を見渡す。沿岸方面に光点は集中している。ピースコンパスのアーマードスーツはすべて旗艦に退避させた。こんな所でやられては困るのである。今は出撃し、エステア軍のアーマードスーツを抑えてもらっているが。
大小さまざまな艦艇の停泊している港湾に光点が一つ現れる。表示ではエステア軍のアーマードスーツだが、たった一機で破壊工作をするとは思えない。十中八九偽装だろう。
それを裏付けるような報告が基地に飛び込んでくる。
「港湾に巨大なアームドシップが出現!」
「アームドシップ?なにそれ」
ユカが聞きなれない単語に困惑する。
「アームドシップだとぉ!連中、本気だな」
ガルダが指示を出す。
「第一陣のアーマードスーツ隊を戻せ!特にエリアルヘロンとかいうアーマードスーツは最優先にこちらに向かわせろ!」
正しい判断だろう。こちら側のアーマードスーツはじわじわと数を減らしている。プレイヤーならリスポーンできるだろうが、NPCはリスポーンは不可能。なら呼び戻して数を増やすしかない。プレイヤーでありユカならではの視点である。
「格納庫、だれか残ってる?」
〈俺とヴァリュートが残ってる。特殊兵装への換装がやっと終わったんだ〉
ユカの通信にヨッシーが答える。
「港の方にアームドシップっていうのが出現したらしい。そっちに向かって!」
〈俺は沿岸部の援護に行かなきゃならん、ヴァリュートに頼め!〉
そう言ってヨッシーは通信を切った。
〈ヨッシーさん行っちゃいました。あとアームドシップって何ですか?〉
今度はヴァリュートと通信がつながる。
「お願い、港に向かって。ハナサギ君たちが帰ってくるまででいいから」
〈わ、わかりました〉
ヴァリュートが了解して通信を切る。
ハナサギ君が帰ってくるまでの時間を稼いでくれればいい。でも本音はヴァリュート一人で完封して欲しい。あのかわいらしい子の成長した姿を見てみたい。血のつながりのない人間に母性を抱くのはユカにとってヴァリュートが初めてであり、この先もそれは変わらないだろう。
ユカは再びコンソールに向き合う。
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ヴァリュートが自機のコックピットに入り、シートに座る。コックピットの香り、吹き込む風。どれをとっても現実と遜色ないように思える。
時々自分がいる世界が現実なのかゲームの世界か分からなくなる時がある。『第二の人生』などと言われているが、あながち間違いではないだろう。
「ハナサギ君がくるまで、か」
ハナサギ君たちが帰ってくれば、敵は退けられるだろう。だがそれでいいのだろうか。
誰かにまかっせぱなしというのもあまりいい気分ではない。それに先輩として、彼がいなくてもなんとかできることを見せつけなくては。
小さな対抗心を燃やして、エリアルゴースト・イポススタイルを発進させる。その機動力は今までのそれを凌駕しており、飛び上がって天井を突き破った。
「よし、いこう」
ヴァリュートはユカの言うアームドシップのいる方に機体を向ける。そしてアームドシップの異様な姿をその目に焼き付けるのだった。




