十二話 動き出すシナリオ
第十一回クラン対抗イベントから三日がたち、ピースコンパスはハナサギとシンギュラリティを加えてシナリオを開始させるべく、様々な行動を行っていた。
シナリオが動き出したのは偶発的な戦闘からだった。戦闘に参加していたのはハナサギとミネー、ヴァリュートであった。ゲーム内NPCであるエステア軍との交戦後に地球連合軍が当該宙域に出現、やり取りののち、ピースコンパスは地球圏へと向かった。
チャットで送られてきた報告を読みながらカガリがフッと笑みをこぼす。彼はチーターにも勝ったようだ。見込みのあるプレイヤーがメキメキと力をつけることは喜ばしいことだ。このままスペースウォーリャーズのシナリオのすべてを見せてほしいものだとカガリは思う。
__________________________________
眼下に広がる広大な海。ピースコンパスは地球連合軍に連れられて地球へと向かっていた。現在は大気圏を降下し、フロンタル基地へと向かっている。
「海か、まさかゲームで行くことになるなんてな」
ヨッシーがポツリとこぼす。
「ヨッシーさんは海行ったりしないんですか?」
「海行くぐらいならハロワいくさ」
そうだこの人ニートだった。イベントの時は二日目だけ参加していたな、ほかは就職活動でもしていたのだろうか。
「ゲームするくらいなら就職しなさいよ」
ユカが軽口をたたく。全くのド正論にヨッシーはへらへらと笑っている。
そうこうしているうちに、係留場に到着したようだ。
〈停泊ののち、退艦せよ〉
通信が入る。連合軍の士官だろう、俺たちをここに連れてきたのもこの声の主だった。
どうやらピースコンパスは民間の傭兵集団だと認識されているようで、劣勢らしい地球連合軍はこちらを戦力に引き入れたいらしい。ユカと連合軍の士官の交渉を又聞きしたものを自分なりに解釈したものだ。
「係留確認、総員退艦して」
ユカが指示を出す。
__________________________________
フロンタル基地は自然豊かな土地に建設された地球連合軍の大規模基地だ。およそ千人の兵士が詰めており、エステア軍との戦争において、重要な役割を担っているという。
そんなことを仰々しく目の前の士官が語っている。彼はガルダ・リーマス准将と名乗った。
「地球連合軍は宇宙での拠点を失っている状態だ。まずはこれを奪還、ついでエステア軍の拠点へと総攻撃を仕掛ける。これが我々が勝利を......」
ガルダの言葉を流しながら俺は彼の後ろに控えている、パイロットスーツに身を包んだ若者たちを見る。俺も若者だろうというツッコミはさておき、歳は俺とそれほど変わらないであろう少年少女がこちらを見ている。その目線には包み隠さぬ興味とささやかな疑念が混じっている。
「ああ、彼らは徴兵から軍務について一年未満の新米だ。同時に地獄のような戦闘を戦いぬいた戦士でもある。正規のパイロット三十名と彼ら十五人が我々のアーマードスーツ隊の戦力だ」
俺の興味に目ざとく気付いたガルダが鼻高々に自慢する。
徴兵か、昔の日本みたいなことしてるな。俺と同い年位の男が昔も徴兵され、その魂を散らしていったことは常識として知っている。
「ユカ殿、軍に属するうえでいくつかすり合わせておきたいことがある。お時間よろしいかな?」
「こちらも聞きたいことがあります」
「ではブリーフィングルームへ。君たちは同席しないだろう?基地を見て回ると良い。衛兵にどやされん程度にな」
ガルダはそういうと、ユカと共にブリーフィングルームに行ってしまった。
「だとよ、どうする?」
ヨッシーが俺に訊ねる。
「とりあえず外に出ません?地面に建てるのが嬉しくって」
今までの戦艦の硬くて無機質な床を踏みしめ、ライトと爆発の光しか浴びられなかったのだ。太陽も俺に陽光を浴びせることができて喜ぶに違いない。
「良ければ、俺が案内しようか?」
その時、徴兵されたというパイロットの一人が進み出る。俺と同じぐらいの背丈で、どこかで見たような茶髪の天然パーマの男だ。彼は付け加えてファナリス・ゴッドガルディと名乗った。
「ありがたい、是非とも頼むよ」
ヨッシーが二つ返事でオーケーする。今俺に聞いてたじゃん。
そんな思いを置き去りに、一同は基地を巡ることになった。
「さっきいたところが指令室。この基地の中枢に当たる」
一同がエレベーターに乗り込む。
「皆さんってどこでアーマードスーツの操縦を覚えたんですか?」
ファナリスの質問に俺たちは返答に困る。
「どう説明したもんかな、育成機関があるわけじゃないし、実地訓練とでもいうか?」
「実戦をこなして習得したんですか?」
ファナリスが驚いたように言う。ほかのパイロットも本当か?という風に顔を見合わせる。
本当にこう言うしかないのだ。ゲームなので機体はある程度直感的に操作できる。NPCにはどうやっても伝えられないだろう。
エレベーターが開き、一同はまた歩き出す。
「ここが食堂です。なかなかオシャレでしょ」
カフェのような雰囲気の室内には、何人かの兵士が昼食を取っていた。そのうちの一人がこちらに気づいて手を振る。
「おーいファナリス!」
「あ、リクさん!」
ファナリスが手を振り返す。
「あの人はリク・オベールさん。正規パイロットで僕たちのことをいつもかわいがってくれてるんです」
「へえ、なかなか気のよさそうな奴だ」
ヨッシーが言う。
「食堂ってことは、私たちご飯食べられるんですかね」
ヴァリュートが疑問を口にする。
「確かに。味覚感知なんて機能あんのかしら」
アリスも頷く。
その様子を見たファナリスが怪訝そうな顔をする。
「健康な人間なら味は感じると思うが......」
「つ、次は外を案内してくれないか?」
俺がファナリスに頼み込む。というわけで俺たちは建物の外に出た。ちょうど俺たちのアーマードスーツが搬出されるところだったようで、次々に見覚えのあるアーマードスーツが格納庫に入れられていく。
「クレント・エレクトロニクスからエリアルアーマードスーツを買えるなんて、バックにどんなのがついてるんだ?」
そんなひそひそ話が聞こえる。
「クレント・エレクトロニクスって?」
俺はミネーに耳打ちする。
「知らん。シナリオ独自設定なんだろ」
ミネーがそっけなっく返す。
その時、大声が響いた。
「アーッ!そのアーマードスーツは!」
いきなりの大声に驚きながら振り返ると、小太りのおじさんがこちらに走ってきていた。
「何だあのおっさん」
ミネーが困惑している横をすり抜けて小太りのおじさんは搬入中のエリアルヘロンに向かっていった。
「無事に届いたか!あのリーディアス家の遺児は約束をたがえてはいなかった......!」
何だ、シンギュラリティを求めていたのか?あのおじさんは。
「フーズさん!何をなさっているんです!」
また大声がする。今度は黒髪の美女が大股でフーズと呼ばれた小太りの男のもとに歩いていく。
「アーマードスーツに熱を上げるのは結構ですが、やることやってからにしてください!」
「これはリーディアス家の遺児の言っていたアーマードスーツだ!」
フーズが怒鳴り返す。それを聞いて美女は足を止める。
「それが......?」
どうやら俺の機体はとんでもない代物らしい。シンギュラリティの概念はシナリオにも存在しているらしい。
「あの、それは俺の機体なんですけど......」
俺はおずおずと二人に声を掛ける。
「これで戦争に勝て......今なんと?」
フーズがゆっくりと振り返る。
「あなた、標準のパイロットスーツを着ていないわね。先ほど連絡のあった傭兵の人?」
「え、あ、そうです」
傭兵設定であることを忘れていた。......本当に傭兵設定なのか?
フーズが俺の前に立ちふさがる。
「信用はできん、いくつか話をしよう」
こうして俺は指令室に出戻ることになってしまった。




