十一話 PRIDE
「任された!」
巨大なメイスがエリアルバレルディに振り下ろされる。
〈ちいっ〉
エリアルバレルディはそれをスレスレで避ける。この大きさの実体武器にビームブレードは通用しないだろう。
〈君がシンギュラリティ?明らかに他のアーマードスーツと違うからすぐわかったよ〉
ユカがディスプレイを操作してエリアルバレルディに二振りの実体剣を装備させる。
「みんなはそう言ってる」
俺はとりあえず答える。オルガの反応が尋常じゃないな。オルガの補足を切ることってできるのか?
思った瞬間、オルガの補足が消え、視界がクリアになる。
〈私と手を組まない?君のその力があればカガリを倒せるかもよ〉
「アリスとのやり取り聞いてたけど、俺はカガリともう一回戦うなんてごめんだから」
俺の言葉にカナが疑問を感じたようだ。
〈一度戦ったことがあるんだ〉
「なんとか帰ってもらったけどな」
〈......は?カガリを退けたっていうの?〉
カナの声が怖くなっていく。
あれ、プライマルクランとやりあった情報はバレてるはずじゃ......もしかしてデブリ帯でのことはバレてないのか⁉
これって言ってよかったんだろうか......。
〈お前がカガリに勝てるわけがないだろうが!〉
激昂したカナが二振りの実体剣を振るう。
絶対に言っちゃダメな奴だった!
メイスではじきながら、この機体の攻略法を考える。
ユカさんが言うに、機動性はシンギュラリティに負けず劣らず、火力も無尽蔵。防御もレーザー系やミサイル系はすべて無効化されるだろうとのこと。
そんなものをほったらかしにしている運営は頭おかしいのか?
ただ、そんなチーター相手でも通用する攻撃があるかもしれない。それは重力下での運用を想定した実体武器だ。特にメイス。自機の胴体ほどもある武器で、あまりの重量にフルファイト以外が扱うとメイスに振り回されてしまうらしいのだが、シンギュラリティのパワーならそんなこともなくチーター相手に有効打となるのではないかと教えてくれた。
目の前のチーターはメイスを避けた。それは実体武器がチーターに対して有効であることを証明しているだろう。
実体剣とメイスがぶつかるたびに火花が散る。
〈なんでお前が勝てて、私が勝てない......!〉
「チートに手を出すなんて、ゲームを楽しむ人間としてのプライドはないのか?」
〈プライドだと?そんなもの、とっくの昔に棄てた!〉
エリアルヘロンとエリアルバレルディが激しく武器をぶつけ合う。衝撃が双方のコックピットを激しく揺らす。
「じゃあ、何のためにチート使ってるんだ。チート使ってシンギュラリティに勝って、それでいいのか?」
俺の言葉に反応したのかは分からないが、エリアルバレルディの動きが止まる。
〈......分からない〉
何のために、もう思い出せない。カガリに、シンギュラリティに負けたことだけがずっと頭から離れない。あいつに勝つために?プライドをへし折られた私にとってチートは全能と思えた。立ちはだかる敵をすべてなぎ倒し、その力についてきてくれる子も増えた。運営の男に取り入ってチートを黙認してもらった。全部カガリに勝つため?私は何がしたかったの?負けたイライラを手ごろに発散させたかった?
自分が何をしたかったのか見つけなきゃ。
目の前のシンギュラリティを完膚なきまで叩き潰してカガリに見せつける。次はお前だと。自分の持てる力全てでお前のいる場所へ上り詰めてみせると。
〈目が覚めたよ、チートも全て私の力でプライドだ!チートを使ってシンギュラリティに勝つ、それでいい!それが私のしたいことだ!〉
エリアルバレルディが全ての兵装を放出する。その激しさは自機の四枚羽根が消失するほどだ。迫りくるミサイルやオルガをメイスで弾きながら俺は撃破のチャンスをうかがう。
〈ハナサギ君、味方はすべて退避済みよ。敵も逃げ帰ってる〉
ユカからの通信が入る。
〈ただ、今の攻撃で基地に被害が出てる、出来るだけ早くケリをつけて〉
「出来れば!」
俺はそれだけ返事すると、迫る攻撃をはじくことに集中する。エリアルバレルディは最高速度でデブリ帯を飛んでいるようだ。止めるには自分もデブリ帯に突っ込まなくてはならない。
赫い軌跡がデブリ帯を切り裂くように走る。
〈あの速度、カガリと同じ......!〉
エリアルヘロンがバーストマグナムを放つ。
〈効かないわよ!〉
レーザーはエリアルバレルディをすり抜け、大きなデブリに直撃する。割れたデブリにエリアルバレルディが叩きつけられる。
〈ぐっ!なんの!〉
すぐに体勢を立て直し、迫るエリアルヘロンに突貫する。エリアルヘロンがメイスを構える。エリアルバレルディも実体剣を振りかぶる。
エリアルバレルディが剣を振り下ろすよりも速く、エリアルヘロンがメイスでコックピットを突き上げる。
〈ま、まだ終わって〉
とどめの一撃が肩からコックピットを斜めに潰す。エリアルバレルディが動かなくなる。
エリアルヘロンがS-Mode状態から通常状態に変形する。
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ブルーファイターズの旗艦の格納庫に転送されたエリアルバレルディのコックピットからカナが出てくる。
「......撤退だ」
声を震わせながらブリッジに通信を送る。自分のありったけをぶつけてもシンギュラリティに勝つことはできなかった。カナがログアウトし、その場から姿を消す。その様を見ていたロイがため息をついてブリッジに向かう。
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基地に戻った俺を皆は暖かく出迎えてくれた。
「良かったー、メイスが効いて。効かなかったら万事休すだったわね」
ユカが笑いながら言う。
「とにかくお疲れ様、ハナサギ君がピースコンパスにいてくれてホントに良かったわ」
ユカの言葉にアリスが不満を漏らす。
「私が戻った時は言ってくれなかったよね、私だって頑張ったんだから褒めて」
「分かってるわよ、偉かったわね~」
「子供褒めてんじゃないからさぁ」
アリスが呆れる。
「今回も俺は活躍なしか」
ミネーが遠い目をして呟く。
「ま、まあイベントはまだ続くので、挽回のチャンスはありますよ」
ヴァリュートがミネーを慰める。
そんな様子を見ながら俺はシンギュラリティの力に複雑な気持ちを抱いていた。すごい力が使えるのはいいが、その力で歪んだ人間に矛先を向けられるのはあまりいい気分ではない。
相変わらずシナリオとシンギュラリティの力がどう関わっているのかも分からないし、ヒナタの言っていたことが本当なのかも疑わしい。
「これからの作戦を伝えるから全員指令室に集合して」
ユカがそう言って歩き出す。
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その後のピースコンパスは目立つこともなく、三日間のクラン対抗イベントを二十六位という順位で乗り切った。ミネーが活躍するチャンスは当然訪れなかった。
だが、ここからピースコンパスはさらに激しい戦いに身を投じていくことになる。それはスペースウォーリャーズ全てを巻き込む戦火の前触れであった。




