一話 始まりの日
星たちの瞬く宇宙。そこに浮かぶ大きな筒状の建造物。ターミナル1『ファースト』と呼ばれるこの建物は、数多の汎用人型ロボット『アーマードスーツ』や戦艦の発着、プレイヤー同士の交流の場として運用されている。
そのターミナルの外壁に一機のアーマードスーツが張り付いていた。くすんだクリーム色の、一つ目のアーマードスーツ。全体的に丸っこいフォルムのその機体はライフルのようなものを装備し、待機していた。
「ったく、とんだ貧乏くじを引かされたぜ」
アーマードスーツのコックピットでプレイヤーの男がぶつくさ文句を垂れる。
「ここで敵を見張れって、初心者が集まるターミナルでのドンパチはご法度なんだから、敵もクソもねえだろ」
男がディスプレイを確認する。レーダーには何の反応もない。
『リーダーからの指令じゃ、絶対に気取られるなとあった。よっぽどの何かがこのターミナルにあるっていうのか?』
男がそんなことを考えていると、レーダーに反応が示された。高速で動く光点が三つ、こちらに真っ直ぐ向かってきている。
「お、俺のところに向かっているのか?」
男がうろたえる。がすぐに気を取り直す。
『俺の真上に入港口がある。そこに向かうんだろう、まさか絡んできたりするまい』
そう思いながらも緊張で操縦桿を握る手が震えている。ディスプレイを操作して、近づいてくるアーマードスーツを拡大する。手首の部分を赤く染めたアーマードスーツが画面に映る。
「赤袖......!トップクランの奴らが何でこんなところに......」
トップクラン『プライマル』、通称赤袖。前述の通り袖を赤く塗ったアーマードスーツを駆るプレイヤー集団。個々が凄まじい戦闘能力を有している、最強の集団である。そんなクランに所属しているプレイヤーが三人もこちらに向かってきているのだ。平静を保てるはずもない。
「流石に気取られてないよな......?あれを一人で相手は無理だぞ」
レーダーを注視する。二つの光点が左右に分かれる。その瞬間に男は足元のペダルを踏み込んで、機体のバックパックのスラスターをふかし、外壁を降りながら離脱する。
「リーダー、赤袖に見つかった!」
当然、赤袖はそれを目ざとく見つける。
「獲物を見つけた。撃墜する」
真ん中のアーマードスーツが銃身の長いライフルを構えて発射する。光線が真っ直ぐに逃げるアーマードスーツのコックピットを撃ち抜く。
「本隊に連絡。こちら偵察隊、敵機を撃破。例のアーマードスーツの情報はほかのクランもつかんでいるとみて間違いない」
プレイヤーが本隊に報告すると、返答がすぐに返ってきた。
「捜索部隊を送った。敵も同じだろう、到着するまでターミナルに敵を入れるな」
レーダーにいくつかの反応が表示される。
「了解、交戦を開始する」
三機のアーマードスーツがレーダーに示された敵の方へと向かう。
「自由度の高いキャラメイク!いや、アーマーメイク!」
「デブリ帯で採掘をするもよし、クラン戦争で勝利し、宙域を支配するもよし!」
これはどうしたものか。
俺は花鷺誠也、今年二十歳になったばかりの彼女なし大学生だ。友達がいるから彼女はいらない。
そんな俺は今、大学の空き講義室で同じゼミの友人たちから熱心な勧誘を受けている。マルチをするような情弱ではないので大丈夫だろうが、それでもこの熱量は危険性を感じさせるには十分だった。
「ちょ、落ち着けって」
俺の目の前で熱く語っているのは、峰岡英と有栖川夢歌。峰岡とは高校時代からの仲で、有栖川とは今年からの付き合いである。初めて名前を聞いたときはそういうキャラ付けをしているのかと内心ひやひやしたものだ。ツラの良さもあいまって、本当に物語の世界から飛び出してきたような人物である。
峰岡は典型的なオタクといった容貌をしている。性格はすこぶるいい。そして俺は容姿端麗なナイスガイ、と言いたいところだが、実情は中途半端な茶髪とクソでかピアスを付けた激浮きイキリ大学生である。
「それってあれだろ?第二の人生とか言って流行ってるやつ」
「知ってるんじゃないか。フルダイブ型VRゲーム『スペースウォーリャーズ』。僕たちが所属しているサークルに来れば遊び放題だよ」
「ゲーム内のクランに欠員が出ちゃってね。いい人いないかなってときにおぼろげに花鷺くんが思い浮かんだんだ」
「いや、俺VRゲームとかやったことないし......」
俺が言った瞬間、峰岡と有栖川がニヤッと笑った。
「大丈夫、操作は直感的にできるから!」
「百聞は一見に如かず、今から行こう!」
二人は俺の腕をつかんで強引に引きずっていく。
「ちょ、この後の授業どうすんだよ!」
こうして俺は『第二の人生』を歩むことになるのである。
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二人に連れられて俺はサークルの活動場所に来ていた。部室棟ではなく、使われていない講義室をわざわざ借りているらしい。
「えーと、宗教か何か?」
VRゴーグルを付けて椅子に座っている部員たちをみて俺は思わず口走る。
「みんなスペースウォーリャーズにログインしてるんだよ」
峰岡がゴーグルを強引にかぶせてくる。
「ゴーグルを付けると自動で電源がついてゲームが起動する。後はチュートリアル通りに進めればいい」
「分かった。でも、今後もやるとは保証しないからな」
俺は二人に釘をさしながらスペースウォーリャーズの世界へ足を踏み入れる。




