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悪役令嬢をやめたいのに、シナリオ通りに進むから仕方なく完璧にこなしていたら、なぜか隣国の皇太子にプロポーズされました

作者: mimo
掲載日:2025/09/24



「こちらルシアナ! ターゲットを確認! 現在、東棟への渡り廊下を移動中です!」


「了解」


私は手に持った通信魔道具から、ターゲットがこちらへ移動している報告を受ける。

手に持った学園の見取り図で、ターゲットの位置を確認する。

そろそろね……。

その時、新しい報告が入った。


「こちら、カトリーナ。ターゲットが殿下と会話を始めました。長くなりそうです」


「了解。動きがあったら報告して」


そう答えて、通信用魔道具のスイッチから指を離す。

はぁ、と大きなため息をつく。


「もう! また長話? お昼休み終わっちゃうじゃない……!」


誰もいない教室に私の声が響く。

ヒロインと殿下の会話は、いつも長い。

まぁ、ヒロインと結ばれる予定の王子だから、仕方ないんだけど。


教室の時計を見ると、午後の授業まであと少し。

早くA地点まで来て欲しいのに――。


このままだと、私も手伝ってくれてる皆も、午後の授業に遅れてしまうわ……。

私は焦る気持ちを押さえつつ、昼休み中にヒロインがA地点に来ることを願った。


そして、午後の授業が始まる予鈴が学園に鳴り響く。

私は息を吐いて、通信魔道具を口元に持っていく。


「こちらアメリア。みんな、ありがとう。今日は撤収して」


魔道具から続々と「了解」の声が聞こえる。


「……今日じゃない、のかしら?」


この嫌がらせは初期のイベントだから、今日あたり起きると思っていた。

もし明日なら、また考え直さなきゃ……。

私は何度目かのため息をつく。


****


私の名前は、アメリア・ローゼンベルク。歴史あるローゼンベルク公爵家の長女だ。

この王立魔法学園で、悪役令嬢をしている。

している、というのは私の本心じゃないからだ。


――与えられた役割。


そう、私は小説の中の人物に生まれ変わっていた。

私の前世は日本という国に住む会社員で、小説を読むのが趣味だった。


家でも仕事の休憩時間でも、好きな小説を読む。

そして、あの日。信号を渡っていたら、車が突っ込んできて……。

そこからの記憶がない。


この世界は私の読んでいた『孤独な令嬢は、俺様第一王子に溺愛される』という題名の小説だった。

ヒロインであるリディアは幼少期に両親を事故で亡くし、親戚のブランシェット侯爵家に引き取られて過ごす。

けれど、そこにはその親戚の娘がいて、リディアへの愛情は、ほぼ無い。


愛されない日々を送るリディア。そして、14歳になったリディアは学園に入学する。

そこで、この国の第一王子セドリック・エーベルハルトに一目惚れされて――。


それを邪魔するのが、私――アメリアだ。

王子の妻の座を狙う悪役令嬢。

王子に気に入られた主人公が気に入らなくて、何かと嫌がらせをする。


前世を思い出すまでは、私も平和に暮らしていたと思う。

でも、入学した1年後にリディアを見た時、私は突然、前世を思い出した。

小説の役柄に気付いた時「悪役令嬢!? イヤよ! 私は自由に生きたい!」と、意気込んでいた。


けれど、学園生活はどうしても小説の通りに進んでしまう。

嫌がらせなんてしたくないのに、リディアの足を踏んでしまう、辞書を貸そうとすれば渡す時になぜか落としてしまう、授業中に水の魔法がいきなりコントロール不能になってリディアの持ち物を濡らしてしまう。その他にも、沢山ある。

つまり、この役から抜け出せないのだ。

ここまでくると、もう何か大きな力が働いてるとしか思えない――そう、シナリオ強制力だ。


嫌がらせが続けば、最初は「大丈夫」と耐えていたリディアも涙を流すようになっていて……。

そうれはそう!気持ちはわかる!私だってされたら嫌だもの!

でも、本当にわざとじゃない!

けれど……私が「わざとじゃない」と言っても、信じてくれる人はいなくなっていた。


王子からも「リディアに嫌がらせするのはやめてくれ。俺は君じゃなくてリディアが好きなんだ!」と怒鳴られる。「いやいや、あなたのことなんか最初から好きじゃありませんでしたけど」と言いたかったけど、強制力なのか、それは口に出すことが出来なかった。

それが悔しくて、悔しくて、その夜は枕をベッドに何度もたたきつけた。


私は「王子を取られまいと、リディアに嫌がらせをする令嬢」として、学園で孤立した。

この役や強制力に、私は散々悩んだ。

そして、ある決断を下したのだ。


ーーどうせ、嫌がらせしてしまうなら、もうこの役を完璧にやってやろうじゃない!


そう。開き直ったわ。

それから、「完璧な悪役令嬢になる方法」と題名を付けて、前世で読んだ小説の内容を思い出せる限りノートに書き記した。


・ヒロインの周りの登場人物

・ヒロインに起きるイベント

・ヒロインが悪役令嬢から受ける嫌がらせ

・そこで悪役令嬢が言うセリフや表情

・嫌がらせされた時のヒロインの反応


思い出しては随時書き足していってる。

嫌がらせは、上手くやらないと周りの人にも被害が及ぶことが分かった。

実際に水の魔法の時は、リディアの荷物の周りにいた人達もびしょ濡れになってしまった。

前世の小説ではリディアの荷物だけが濡れたはず。

つまり、やると決めて動かなければ、望む結果が得られない。


私は、確実に任務を遂行する為、学園の見取り図を描き、リディアの動向もチェックした。

家に帰ってからは、嫌がらせ成功のイメージトレーニング、セリフの練習、小道具の動作不良チェックと寝るまで忙しい。


それを見ていたメイドのエミリアが、演劇の練習とでも勘違いしたのか、ヒロイン役を申し出てくれた。

「アメリアお嬢様、そこの語尾は下げるよりも、上げた方が嫌味っぽいです!」とアドバイスまでくれる。

自分でも、ちょっと棒読みすぎるかしら?と感じていたので、これはとても有難かった。

執事も協力的で、部屋に黒板やチョークを用意してくれる。

いつの間にか、家のコックにも「応援してます」と言われるようになっていた。


みんな、絶対に勘違いしてるよね……?

でも本当のことは言えない。

応援の気持ちはありがたいけど、申し訳ない。

私は複雑な気持ちを抱えて、日々の任務に取り掛かっていた。


そして学園でも……。


ある日私は、嫌がらせを実行するための魔道具を準備していた。


「今日はここに魔道具を設置して――」


嫌がらせはリディアにするけれど、今設置しているのは、バリアを張る魔道具だった。

リディアの周囲にいる人たちが巻き込まれないように、配慮するのも大事な仕事だ。


「あの、アメリア様!」


振り向くと、1学年下のシャルロッテ・フィオレンティーナ男爵令嬢が立っていた。


「あら、フィオレンティーナ嬢。ごきげんよう。何か用かしら?」

私はさっと魔道具を後ろ手に隠した。


「あの、私……手伝います!」


「……え?」


「最近、アメリア様のことを見ていて、気付いたんです! 本当は優しい人なんじゃないかって。……それ、バリアの魔法を出す魔道具ですよね? 以前、それを使われるのを見ていて……。本当に酷い人だったら、周りのことなんて考えないんじゃないかって思ったんです。そうしたら、アメリア様がリディアに嫌がらせするのは、何か理由があるんじゃないかって……。だから、私、協力したいんです!」


(えぇ……、この子も何か勘違いしてるわ……)


実は周囲への被害を減らそうとするのは、みんなの安全のため――もあるけど、私自身のためでもあった。

嫌がらせの被害がリディアだけに集中すれば、王子の愛情表現は目に見えて大きくなる。

もしかして、リディアと王子が早く結ばれてくれれば、この物語も早く終わって、嫌がらせを全部やらなくて良くなるかも――。

そう思って始めた、私なりの“対策”だったのだ。


「気持ちはありがたいんだけど――」


そこまで口にして、止める。

確かにひとりでやるのは限界を感じていた。

朝早く学園に来て魔道具の設置、ヒロインを誘導して、嫌がらせして、魔道具も発動させて、放課後は後片付をして。

全部終わってから帰ると、いつも日が暮れている。

執事やメイドからも「一生懸命なのは良いのですが、もう少し早くお帰りになってください」と心配されていた。


「……本当に、手伝ってくれるの?」


「はい!喜んで!」


令嬢らしからぬ、まるで居酒屋の店員みたいな元気な返事。

いやいや、あなたが参加するのはリディアへの嫌がらせよ!?

と思わずツッコミたくなる。


……まぁ、直接手を下すのは私がやればいいか。

この子には準備を手伝ってもらおう。


こうしてフィオレンティーナ嬢が私の仲間になった。

そして驚いたことに、彼女は想像以上に優秀だった。


魔道具の在庫確認から、動作不良のチェック、必要な魔道具の提案。

当日のスケジュール管理に、ヒロインの心理分析。

さらには、私が疲れているとお菓子の差し入れまでしてくれる。

そして極めつけは――新たな嫌がらせの提案。


……いや、もしかして私より悪役令嬢に向いてるんじゃない?


それでも、真面目で仕事が早く、気も利くフィオレンティーナ嬢の存在は本当にありがたかった。

そして、そんな私たちの様子を見た令嬢が、なぜか次々と参加を申し出てきて……。

気がつけば『悪役令嬢チーム』が結成されていた。


――これきっと、小説でいう“取り巻き”ってやつよね?


****


参加メンバーが増えて、やることは多少減った。

でも、家で休んでいても次の任務(嫌がらせ)のことを考えてしまって――。


「ふぅ……こういう時は、外で体を動かした方が良いわね」


私はワンピースを脱いで、シャツにブラウンのズボン、黒のロングブーツという動きやすい格好に着替えた。

部屋を出て庭の花壇へ向かうと、しゃがんで作業をしているベテラン庭師のハロルドが見えた。


「ハロルド!」


声をかけると、ハロルドは立ち上がり、柔らかく微笑む。

40代だが引き締まった体つきで、年齢より若く見える。


「こんにちは、アメリアお嬢様」


「今日も手伝わせてもらえるかしら?」


「えぇ、もちろんです。今日は花壇の草むしりが終わったら、花の苗をプランターに植え替えようと思っているんです」

そう言うと、ハロルドは後ろを振り返って、花の苗と数個のプランターを示した。

その一生懸命に葉を伸ばす苗たちを見ると、心が和む。


悪役令嬢の役割から逃れられないことに落ち込んでいた時、私は庭に咲く花や力強く育つ植物たちに癒されるようになった。

強風や大雨に打たれても、その場所で再び立ち上がる姿に、私自身も励まされたのだ。


最初は遠慮していたハロルドも、私の真剣な気持ちを汲んでくれたのか、今では快く手伝いを受け入れてくれている。


「リアン! お嬢様に手袋とスコップをお持ちしなさい」


少し離れた場所で草むしりをしていた青年が顔を上げる。

彼は、半年前から屋敷で働き始めた庭師見習いのリアンだ。

肩まである銀の髪を後ろで一つに結び、麦わら帽子をかぶっている。

大きな瞳は目じりが少し垂れていて、笑うと人懐っこい印象を与えた。


「はい!」


元気よく返事をして、リアンは庭師小屋へ駆けていく。

やがて手袋と小さなスコップを手に戻り、私に差し出してくれた。


「どうぞ、アメリアお嬢様」


「ありがとう、リアン」


受け取った私は、ハロルドから指示された場所でしゃがみ、草むしりを始める。

日が高くなるにつれ気温も上がり、額にじんわり汗がにじんだ。

少し暑さがつらいかも……そう思った時、ふいに視界が陰で覆われた。


見上げると、リアンが麦わら帽子で私に影を作ってくれていた。


「お嬢様、こちらをどうぞ」


そう言って、そっと私の頭に麦わら帽子をかぶせてくれる。


「ありがとう。ちょうど暑いなって思っていたの。助かったわ」


リアンは誠実で、優しい青年だった。

この国では珍しい銀の髪を持ち、身寄りがなく施設で育ったと聞いている。

きっと苦労も多かっただろうに、それを感じさせない明るさがある。

私は、この心優しい青年が、どうかこの屋敷で幸せに働き続けてくれたらと願わずにはいられなかった。


リアンは私に帽子を渡すと、隣にしゃがみ、草むしりを始めた。


「お嬢様は本当に植物がお好きなんですね」


「そうね、好きよ。見てると、元気をもらえるの」


「……もしかして、学園が楽しくないんですか?」


思わず胸が跳ねる。

そんなことを聞かれるなんて、予想していなかった。


「楽しくない、というか……」


――私は悪役令嬢だから。

学園で嫌がらせをする日は気が抜けないし、ヒロインをかわいそうと思う気持ちもある。

王子がすぐにヒロインを助けてくれると、安心する。

言葉を探しながら、草をつまんで抜いた。


「もう少し……自分らしく過ごせたら、良いなって……」


悪役令嬢なんて、やりたくない。

込み上げてきた涙を必死にこらえ、無理やり笑顔を作る。


「あはは……こんなこと考えるなんて、変よね」


「いいえ、おかしくなんてありません」


リアンの真剣な表情が、まっすぐ胸に刺さる。

彼の境遇を思えば、言うべきではなかったのかもしれない。

それでも――真剣に返してくれたことが、嬉しかった。


「……ありがとう」


その後もリアンは黙って隣で作業していた。

不思議とその沈黙は心地よく、穏やかな時間は心を落ち着かせてくれた。


やがて作業は順調に終わり、苗の植え替えも無事に済んだ。


「今日植えた苗は、すぐに花を咲かせる種類ですので、近いうちにまたぜひいらしてください」


「えぇ、もちろん。楽しみだわ。ハロルド、今日は手伝わせてくれてありがとう」


リアンにもお礼と言って、手袋を返す。


「今日の苗、心を込めて育てます。お嬢様がもっと元気になれるように」


真剣な眼差しと、その言葉に心臓がどくんと鳴った。

(これは励まし、よね?)


ドキドキする胸を落ち着けるように深呼吸して、二人にもう一度お礼を言い、私は自分の部屋へ戻った。



「お嬢様、今日もセリフの練習をなさいますか? ここ数日、私もお嬢様の演技に応えるべく、自主練しておりまして――」


お茶を淹れながら、エミリアがやる気いっぱいの目で提案してくる。

でも――。


「ありがとう、エミリア。もう大丈夫なの」


「えっ……もしかして、練習をやめられたんですか?」


「いいえ、やめてないわ。実はね、手伝ってくれる人たちが増えたの。今はその人たちと一緒に練習してるのよ。エミリアに負けないくらい上手なの。だから、今までありがとう」


「お嬢様……!! お嬢様に協力してくださる方がいらっしゃるのですね。少し寂しいですが……、お嬢様のご活躍、これからも応援しております!」


感動しているエミリアに微笑みを返す。


(……きっと、今も演劇か何かだと勘違いしたままなんだろうな)


****


今日はリディアのクラスが調理実習でケーキを作る日だった。

そして『嫌がらせ』の実行日でもある。


リディアの授業内容は、劇団員、じゃなくて『悪役令嬢チーム』のメンバーからの情報だ。

小説には嫌がらせの内容は書かれていたが、詳細な日時は書かれていなかった。

つまり、リディアの行動を把握していないと、成功しない。

行き当たりばったりでは、また被害が大きくなるだけなので避けたい。


メンバーが増えてからは、授業内容の情報が手に入りやすくなり、計画が立てやすくなった。

……本当に、頼もしい仲間だ。


授業中、耳に付けた小型魔道具から、リディアと同じクラスにいるメンバーの声が届く。


「こちら、ベアトリス。現在、リディアが生クリームを作成中です」


「了解。そちらに向かうわ」


私は仮病を使って授業を抜け出した。

調理実習室の小窓から覗くと、リディアが一生懸命ボウルをかき混ぜているのが見える。


今だわ――!


呪文を唱えると、次の瞬間。


「きゃあああっ!」


教室の中からリディアの悲鳴が聞こえる。

小窓から中を覗くと、リディアの制服に生クリームがべっとりとついていた。

先生が慌てた様子で、駆け寄っていく。

周りで生クリームを被った生徒は、他にいないようだ。

よく見れば、メンバーが壁になり、リディアに誰も近づけないようにしてくれていた。


……よし、成功。


制服を見下ろして呆然とするリディア。

ごめんね、リディア。

でも、この後は王子との仲が深まる大事なイベントが待ってるから――。


その時、リディアの悲鳴を聞きつけたのか、王子が廊下を走ってくるのが見えた。

すれ違いざまに私を見て「チッ」と舌打ちをするが、何も言わずに急いで実習室に入っていく。


「リディア! あぁ、なんてことだ! 着替えよう。俺に付いて来て」


王子が先生に何かを言って、リディアの手を引く。

ここで、また私の出番。

教室から出てきた二人の前に立ちふさがる。


「あら、リディア、まるでデザートの妖精みたいね。可愛らしいあなたに、とってもお似合いよ」


リディアが悲しそうに目を伏せる。

その表情を見て、胸がズキズキと痛む。


「まさか、アメリア様が……?」


「さぁ、どうかしら?」


「君の仕業だろう! リディア、こんな奴は相手にするな。行こう!」


王子はリディアの手を引いて、更衣室へ向かう。

2人が行った後、私は壁に寄りかかり、大きく息を吐く。

今日の私の役割はここまで。


彼らが向かう更衣室には、既に着替えを用意してある。

王子も一緒にいる空間で着替える。

リディアにとって、ちょっとドキドキするイベント。

これは、リディアが王子をより意識する大切なイベントだった。


けれど、必要なイベントとはいえ、リディアの制服はダメになってしまう。

制服はオーダーメイドが基本で高価だ。


居候先とあまり仲が良くないリディアは新しい制服の購入を頼めない。

小説では、そんなリディアの為に、王子が新しく制服を注文してプレゼントする。


今回の嫌がらせでは、それを見越して、事前に彼女のサイズを調べて新しい制服を発注し、代金も支払っておいた。

お店には「王子から注文が来るはずだから、渡して欲しい」と伝えてある。

これで翌日には王子の手元に届き、彼がリディアに渡す流れになる。

リディアもすぐに新しい制服が手に入るので、親戚に言わなくてすむし、逆に何か言われることも無い。


みんなの協力があったからこそ、ここまで準備できた。

――これで、物語も少し早く進むだろう。


学園には、もちろん私のことが気に入らない生徒もいる。

一度、机の中に虫が入れられていたことがあった。


ある日、休み時間に教科書を取り出そうとすると、指先に柔らかい感触があった。


(何かしら……?)


柔らかい感触を不思議に思いながら、恐る恐る、取り出してみる。

すると、茶色くて、人の指くらいの太さで、ペンくらいの長さの――。


(これは……モゾミー)


前世で見たミミズにそっくりな虫だった。

普段、草むしりなどの手伝いをしている私にはおなじみの存在で、もちろんダメージは無い。

私が無言でモゾミーを持って立ち上がると、周りの生徒が一斉に距離を取った。


(……机に虫が入ってたことに、みんな気付いてたのね)


犯人は分からないけれど、私はモゾミーをそっと学園の花壇に逃がした。

その一部始終を見ていた生徒たちは、若干引いた顔でこちらを見ていた。



「君は、本当は良い子なのにね……」


屋敷の庭で草むしりをしている時に、モゾミーを見つけて、その時のことを思い出す。


「モゾミーがどうかしましたか?」

隣で作業していたリアンが首をかしげる。


「ほら、この子って土を耕して、柔らかくしてくれるでしょ? それなのに見た目だけで嫌われて……」


――私への嫌がらせの道具にもされてしまって。

心の中でそう付け足す。

私の言葉を聞いたリアンが、ふっと笑い出した。


「な、何よ?」


「ははっ。すみません。……そんなこと言うご令嬢は、アメリア様くらいですよ」


「悪かったわね、変な令嬢で」


「変じゃありません。むしろ、とても優しいと思ったんです。その虫が持つ役割や私達への恩恵も知らずに、見た目で判断して嫌う人の方が多いでしょうから」


「……役割も知らずに」


その言葉が胸に刺さって、私は涙がこみあげてきてしまった。

誰も私の役割なんか知らない。

私が苦しんでることも――。


そう思ったら、涙が頬に流れるのを我慢できなかった。


「お嬢様!? 何か、気に障ることを言いましたか!?」


「違うの。リアンは悪くないわ。モゾミーの話に、ちょっと感動しちゃったの」


「お嬢様……。もしかして、また学園のことですか?」


その一言で、抑えていた気持ちが決壊した。


「……学園に、行きたくない、っ」


そう口にしたら、涙がまた溢れてきた。

手袋をはめた手で涙を拭こうとしたら、リアンに止められる。

彼は自分の手袋を外し、ハンカチを取り出して、私の涙を拭いてくれた。


「たくさん花のある場所で、植物を育てながら、静かに暮らしたい……」


涙がおさまったあと、つい本音が漏れた。


「――僕が、その夢を叶えてみせます。約束します」


「ふふっ。ありがとう、リアン。えぇ、約束ね」


リアンの言葉に胸が温かくなった。

彼の前では、正直な気持ちを言える。

不思議だけど、彼の隣は心が落ち着く。

小説通りに進むこの世界では、その約束は叶わないかもしれない。

それでも、彼の言葉が嬉しかった。


……けれど、突然リアンは屋敷の庭師を辞めてしまった。

父やハロルドに聞いても、理由は分からない。


本当は、嫌だったのかもしれない。

庭師の仕事だけでなく、私の話し相手になることも。

私が庭に通わなければ、彼はまだ屋敷にいてくれたのかもしれない。

あんな「約束」も、言わせずに済んだのに。


落ち込む私を、ハロルドたちは心配してくれた。

けれど、庭に行けばリアンを思い出してしまい、しばらく手伝いに行くことができなかった。


****


そして――今日は、作戦決行の日。

悲しいけれど、リアンがいなくなっても物語は進む。

私自身、やるべきことがあるのは、リアンのことを忘れられて良かった。


仕掛けた嫌がらせは見事に成功し、王子がすぐにリディアのもとへ駆け寄った。

彼女を強く抱きしめ、真剣な顔でこちらを睨む。

私も役目を果たすべく、用意していたセリフを口にした。


「――リディア、身の程をわきまえなさい」


次の瞬間、王子の怒声が響き渡る。


「アメリア! もうこんなことはやめろ!」


胸の奥がずしんと重くなる。

さらに追い打ちをかけるように、彼の言葉が突き刺さった。


「リディアに嫌がらせをしても、無駄だ! 君なんか好きにならない!

嫉妬で醜い女性など、俺はいらない! 俺たちの前から消えてくれ!」


周囲の生徒たちが一斉に息を呑み、場が静まり返る。

……分かっていたセリフなのに、胸が痛い。


(私だって……こんなこと、早くやめたい!)


その時、沈黙を破る声が響いた。


「――アメリアを、これ以上傷つけるのはやめてもらえませんか」


誰もが声の主を探してざわめく。

王子が鋭く叫んだ。


「誰だ!?」


生徒たちが両脇に避け、自然と道ができる。

そこに立っていたのは――学園の制服を着たリアンだった。


「リアン……!? どうして……」


久しぶりに見る彼は、変わらず優しい笑みを浮かべていた。

驚く私の前まで歩いてきたリアンは、静かに私の手を取ると、甲に口づけを落とした。


「リアンではありません、お嬢様」

低く落ち着いた声が、耳に心地よく響いた。


「ローゼルナ国の第一王子、ユリウス・ヴァレンティス。それが私の本当の名です。事情があって庭師をしていましたが、今日から留学生としてこの学園に通うことになりました」


「……え?」


頭が真っ白になる。

リアンが……隣国の王子?


ユリウスは私の手を離し、セドリック王子を真っすぐ見据えた。


「アメリアは醜くなどない。自然を愛し、人を思いやれる心優しい女性です。これ以上、私の妻になる人を侮辱するのは許さない」


「妻!? リ……ユリウス、何を言っているの!?」


「すみません、順番を間違えたましたね」


彼はふっと息を吐き、私に向けてやさしく微笑んだ。


「アメリア、あなたが好きです。どうか、私の妻になってください。

私の住む『花の国ローゼルナ』で、これからも一緒に花を育てましょう」


突然の公開プロポーズに、頭が追いつかない。

そりゃ会いたいと思っていたけれど……

いやいや、こんな展開、小説にあった!?

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