魔王からラブレターが来たけど、どの魔王?
「おはよー」
「おう、おはよっす」
ある日の朝、仲が良いクラスメイトに挨拶して僕は自分の席に座った。
鞄から教科書や宿題を取り出して机の中に入れ、誰かと雑談でもしようかと思ったらあることに気が付いた。
あれ、机の中に何か入ってる。
それは薄いピンク色の封筒で、ハートマークのシールで封がしてある。
まさかこれは、古い漫画やアニメでしか見たことが無い伝説のラブレター!?
慌てて教室を飛び出し、人気の無い屋上付近の階段踊り場へと移動し、震える手でそれを開封した。
『倉知君って、いつも私のことを見てるよね。もしかして私の秘密に気付いちゃったのかな。知られたからには生かしてはおけない』
ラブレターじゃなくて脅迫状だったああああ!
『なーんちゃって、そんなこと無いから安心して。でもどうやって知ったのかな。なんてことを考えてたら倉知君のことを自然と目で追うようになっちゃって、いつの間にか好きになっちゃった。倉知君が良ければ付き合わない?』
と思ったらやっぱりラブレターだったああああ!
まったくもう、びっくりさせないでよ。
本当に殺されるかと思ったじゃないか。
だってラブレターの差出人が『魔王より』になっているから。
そしてこの学校には『本物の魔王が通っている』って知っているから。
「鑑定」
倉知 調
十六歳
男性
童貞
世界で唯一の鑑定スキルの持ち主
試しに自分を鑑定してみたら、目の前に僕しか見えない文字列が浮かんできた。
ごく普通の現代社会で、ごく普通に生きていたはずなのに、ある日突然鑑定スキルを使えるようになっちゃったんだ。理由は知らない。
スキルレベルが低いからなのか、そもそもこれ以上は見れないのか、鑑定しても大したことが分かるわけじゃない。だと思ったんだけど、とんでもないことが分かっちゃったんだ。
僕はクラスに戻り、入り口近くで友達と話していたショートカットで笑顔が眩しい活発そうな女子に鑑定をかけてみた。
岡田 美瑠
十六歳
女性
処女
大魔王の生まれ変わり。正体がバレたら世界を滅ぼすつもり。
どうして同じクラスに大魔王がいるんだよ!
しかも物騒なこと書かれてるから、本当かどうか聞くことも出来ない。
ラブレターの最初を読んだ時に、世界の終わりだと一瞬本気で覚悟しちゃったもん。
ではラブレターの差出人は岡田さんなのだろうか。
だったらとても嬉しい。
彼女は明るいだけではなく、物凄い美少女だから。
でも残念ながら確証は無いんだ。
「あれ、倉知じゃん。入り口で突っ立ってどうした?」
「前田さんおはよう。別に何でもないよ。気にしないで」
「ふ~ん、変な奴。まさかこん中に好きなやつでも出来て見つめてたか?」
「どうしていつも無理矢理恋愛に結び付けるのさ。本当に何でもないんだって」
「大丈夫だってちゃんと秘密にするから。お姉さんに教えてみ?」
「普通にクラス中に聞かれてるのに秘密も何もないじゃーん」
「ははっ、だな!」
サバサバとした性格で、恋愛ごとが大好きな前田さん。
鑑定。
前田 星那
十七歳
女性
処女
超魔王の生まれ変わり。正体がバレたら世界を滅ぼすつもり。
彼女も魔王の生まれ変わりなんだ。
しかも岡田さんと同じで正体バレたら世界が滅ぼされてしまうから、本当かどうか聞けやしない。
そして同じなのは前田さんもまた美少女だということ。
会話の相性も悪くないし、付き合えるとしたら最高の相手。
「あの……」
「あ、ごめん。山田さん、邪魔だったよね」
入口で会話するのは迷惑だったね。
クラスメイトの山田さんが教室に入れなくて困ってしまっていた。
眼鏡をかけていて大人しく、三つ編みで休み時間にいつも本を読んでいる文学少女。
鑑定。
山田 空音
十六歳
女性
非処女
極魔王の生まれ変わり。正体がバレたら世界を滅ぼすつもり。
お察しの通り、彼女もまた魔王の生まれ変わり。
そして当然、正体バレは世界の破滅。
あのさぁ。
そろそろ脳内で声を大にしてツッコミ入れても良いよね。
なんで僕のクラスに魔王の生まれ変わりばかり集まってるんだよおおおお!
しかも全員が正体を隠していて、バレたら世界を滅ぼすってどういうことなの!?
どうして鑑定スキルなんて覚えてしまったんだよ!
なければ余計なことに気付かず美少女の彼女達と楽しくクラスメイトとして仲良くやっていけたのに!
流石に山田さんはラブレターの差出人じゃないよね。非処女だから彼氏いそうだし。清楚な文学少女だと思ってたのに人は見かけによらないんだなぁ、ちょっと興奮しちゃう。
いやいや僕の性癖は今は置いといて、排除するのは早計かも。
非処女といっても今はフリーかもしれないし、非処女だからこそ恋愛に積極的で僕にアプローチしてきているのかもしれない。普段の雰囲気と文体の印象が全く違うのも、手紙だと性格が変わるパターンかもしれないし。
「うおおおお!」
「この声は?」
教室に入って入り口の封鎖を解除したら、廊下からすごい叫び声が聞こえて来た。
何だ何だと教室中が騒がしくなり廊下を確認する、なんてことはない。
毎日の恒例行事であり、慣れてしまっているのだ。
「セーーーーフ!間に合ったぜ!」
猛ダッシュで教室に駆け込んで来たのは、クラスメイトのスポーツ万能系女子。
朝が弱いらしくいつも遅刻ギリギリでダッシュで教室までやってくるんだ。
鑑定。
持田 のびる
十六歳
女性
処女
真魔王の生まれ変わり。正体がバレたら世界を滅ぼすつもり。
誰も魔王が三人しか居ないなんて言ってないよ。
そしてもちろん四人だけだなんてわけがない。
上田 天奈
十六歳
女性
処女
ギガ魔王の生まれ変わり。正体がバレたら世界を滅ぼすつもり。
新田 ケイト
十六歳
女性
処女
元祖魔王の生まれ変わり。正体がバレたら世界を滅ぼすつもり。
三田 芽菜実
十六歳
女性
非処女
裏魔王の生まれ変わり。正体がバレたら世界を滅ぼすつもり。
魔王多すぎいいいい!
しかも全員が美少女で、世界を滅ぼす気まんまん!
あまりにも美少女だらけなので、僕のクラスの男子は他のクラスの男子から羨ましがられている。僕も最初は大歓喜してたけれど、今では大恐怖でしかないよ。
でも今回のラブレターで少し安心した。
だって僕に正体がバレても世界を滅ぼさないでくれそうだから。
必ずしも正体バレが世界の破滅に繋がらないと思えば、多少は気持ちにゆとりをもって生活できる。
いや待てよ。
これって本当にラブレターなんだろうか。
そもそも平平凡凡で全く目立つところの無い僕なんかに美少女が惚れるだなんて不自然だ。
だとするとカマをかけられて、返事をした所で『やっぱりバレてたんだね』からの豹変滅亡エンドの可能性もありそうだ。
ああもうどうすりゃ良いのさ。
差出人が分からないから返事が出来ない!
『あなたが手紙をくれた魔王さんですよね』なんて聞いて間違ってたら魔王バレしたと思われて世界が終わる!
そもそも正解だったとしても『やっぱりバレてたんだね』の可能性は否定できない!
それならいっそのこと、差出人を探さないというのも手では無いだろうか。
美少女と付き合えなくはなるけど、失敗した時のデメリットがあまりにも大きすぎるから、退くのも手だと思う。
いや、やっぱりダメだ。
本物のラブレターだとしたら、どうして答えをくれないのかって怒られて世界ごと消されるかもしれない。
攻めてもダメ。
退いてもダメ。
これ詰んでね?
唯一の希望は差出人を絶対に間違えずに突き止めて、ラブレターが本物である可能性。
失敗したら世界の終わり。
ラブレター貰って嬉しいと思ったら、いきなり世界の命運を背負わされることになったんですけど!!!!
「はぁ……」
自分の席に戻った僕は、思わずため息を漏らしながら椅子に座った。
「倉知君、暗い顔してどうしたの?」
すると隣の席の女子が心配して声をかけてくれた。
鑑定。
上川 真緒
十六歳
女性
処女
一般人。最近気になる人がいるらしい
彼女は魔王たちに引けを取らない美少女であり、安心して会話できる癒しの存在だ。
穏やかな性格でとても優しく、清楚という言葉は彼女の為にあるようなものだと僕は思っている。
魔王のことで胃がキリキリ痛む時、彼女をチラ見することで気持ちを落ち着かせてもらっている。
あれ、鑑定の最後のメッセージが変わってる。
以前は『一般人。優しい普通の人』だったのに、最近気になる人がいるだって!?
そんなぁ。
上川さんみたいな裏が無い人が彼女だったら良かったのにって思ってたのに。
「別に何も無いから気にしないで」
「そうは見えないけど……も、もしかして、そんなに嫌なことがあった……の?」
彼女は何故か僕よりも不安そうな顔でそう聞いてきた。
「ううん。むしろとても嬉しいことならあったけど、どうすれば良いのかなって迷っちゃって」
美少女からラブレターを貰ったことは超嬉しい。
でも正確な対応が求められて胃がキリキリしてしんどい。
これが今の僕の状態だ。
「そ、そうなんだ、嬉しかったんだ!」
あれ、さっきまで不安そうだったのに、今度は嬉しそうになってる。
もしかして僕が不安そうにしてたから不安な気持ちになって、嬉しいって答えたから嬉しく感じてくれたのかな。
感受性が豊かな良い娘だなぁ。
「ということはチャンスはあるよね。大丈夫だよね」
「上川さん?」
「う、ううん。なんでもない!」
顔を赤くして小さな声でブツブツ言い出したけど、どうしたのかな。
でも悪いことがあったような感じじゃないし、触れて欲しく無さそうだから気にしないでおこうか。
はぁ……魔王からのラブレター、どうしよっかな。
書き終わった後『短く綺麗にまとめられたな』
校正終わった後『あれ、これって鈍感なまま魔王を探ってたら仲良くなって上川さんをやきもきさせる長編ラブコメになるんじゃね?』
書きません。