コノミさんがくれた水
沼田 庄司の話し
はい! 完全に毒を入れられたんですよ! 多分、コノミさんの友達の町田に。
コノミさん、鈴木 コノミさんですよ。教育学部の一年生で小学校教諭を目指すコースにいて、黒髪のボブショートで背が低い女の子です。
俺とコノミさん、仲が良いんですよ。授業が終わったら、よく話しているし、時々飲み物をくれるんですよ。
それを嫉妬して町田があんな事をしたんですよ!
え? もっとコノミさんと町田の関係を詳しく話してくれって?
コノミさんとは町田より先に仲良くなりました。彼女が大学内で迷っていた時に俺が案内して、仲良くなったんですよ。
それからよく授業について分からなかったところを聞いたりして、仲良くなったんですよ。コノミさんすごく優しくて、可愛らしい感じ。でもちょっと天然と言うか、抜けている感じがあって守ってあげなきゃいけないって感じの子なんですよ。
それと俺とコノミさん、【白葉の天然水】が好きなんですよ。だけど俺が住んでいる場所のコンビニにその水が無いって話しになったんです。そしたらコノミさん、買ってきてくれるようになったんですよ。すごく優しいですよね。
でもしばらくしたら、町田って奴とコノミさんの友達が「コノミさんが迷惑している」って言いだして。でもコノミさんからそんな話しを聞いていないし。
それで、今日! コノミさんからもらった【白葉の天然水】をもらって飲んだんです。そしたら俺、突然具合が悪くなって……。
絶対に町田が何か毒を入れたんですよ! 俺がコノミさんと付き合おうとしているのが気に入らなくて! だから町田を早く退学処分にしてくださいよ!
町田 正樹の話し
はあ? 沼田に毒を入れた? 何言ってんですか? あいつ?
……えーっと、鈴木 コノミさんがあいつに好意を持っているのに気に食わなくて? 俺が毒を?
えー……、意味わかんねー……。
だって俺、鈴木 コノミさんの友達の麻美と付き合っているんですよ? まあ、でも彼女の事は麻美もかなり心配していましたからね。沼田に付きまとわれていて、可哀そうって。
詳しくお話ししてほしいって?
なんか麻美が言うには、入学してすぐの授業の時にコノミさんが麻美を待っていたのに沼田が無理やり教室に連れて行ったらしいんですよ。
コノミさんも「友達を待っている」って言っていたのにも、関わらずですよ。
でも麻美が言うにはコノミさんって押しが弱いって言うか、流されやすい子らしいんで強引な奴によく絡まれるらしいんです。まあ、可愛らしい子ですからね。
麻美もコノミさんを沼田から守るため、ずっと傍にいるんですけど、やっぱり学部が違うから、どうしても接触してしまうんですよね。……と言うか、沼田もコノミさんと違う学部じゃ無かったっけ?
そもそもコノミさんが優しすぎる、と言うか危機感が無いんですよね。いつも飲んでいる水が取り換えられているって気づいていなかったみたいだし。
ええ、そうです。【白葉の天然水】って言う水です。
はあ? 沼田はコノミさんにもらったって?
違いますよ、何でもらうんですか? え? 家の近くに無いから?
何言ってんですか? あいつ! 【白葉の天然水】は普通に大学の自動販売機で売っていますよ。コノミさんからもらう必要なんて無いでしょ!
沼田 庄司の話し 二回目
え? 町田が犯人じゃない? 嘘だ! あいつは嘘をついている!
あいつはコノミさんに好意を持っている俺を殺そうとしたんだ!
え? 事件の日、町田は別の校舎にいて、その人はコノミさんと接触していない?
……あ、じゃあ、コノミさんの友達の三ケ名 麻美さんだ! あの子が俺に毒を盛ったんだ!
あいつ、コノミさんにベッタリなんですよ。もう執着しているって感じで。幼馴染みたいらしいですけど、四六時中ずっと一緒なんですよ。
しかもあいつは学部が違うのにコノミさんと一緒に教室の送り迎えをしているし。俺を見るとものすごい形相で睨むんですよ。しかも町田も連れてきて、「コノミに近づかないで!」って圧かけてくるし!
俺は何も悪くないですよ、コノミさんと仲良くしているだけなのに。
ところで俺が飲んだ毒の事を聞きました?
塩素系漂白剤ですよ。台所で使う洗剤ですよね? ヤバくないですか? しかもちょっとじゃ無いんですよ。
原液全部、ペットボトルに入れていたんですよ!
三ケ名 麻美の話し
え? 私が沼田のペットボトルに毒を入れた?
何を言っているの? あいつ? 意味わからない。
毒云々は置いておいて、沼田って奴、ものすごくヤバいんですよ!
コノミに対してずっと付け回して怖いし。
コノミは小さい頃から大らかと言うか呑気と言うか、大雑把と言うか。外ではちゃんと綺麗にしているし、見た目が可愛いから、見過ごされちゃうんだけど、結構ずぼらなんですよ。
沼田のヤバさを理解していないから、「大丈夫だよー」って言っちゃう子だし。
だから沼田があの子の水を取り替えている事に気づかないんですよ。
はあ? もらった? 何言ってんですか? あいつは……。
初めに気が付いたのは一か月前ですね。
沼田を追い払った後、コノミがよく飲んでいるペットボトルの水の量がおかしいって思ったんですよね。
あ、【白葉の天然水】って言うんですか。大学の自動販売機にある奴ですよね。安いからよく飲んでいるんですよ、コノミ。
それで別の授業だから別れてランチを食べる頃に会ったら、明らかに水の量が増えているんですよね。
コノミにまた買ったの? って、聞いたら「買っていない」って言っていて。
でも水が増える訳ないし、また水を足す理由もない。
コノミに指摘したら「えー、そうかな?」と首を傾げるくらいで。
それでコノミに「それ、自分の水じゃないんじゃない?」って聞いたら、「授業中はカバンから出していないよ」って答えたんです。
だとしたら沼田が取り替えている? って思ったんです。だってあいつもあの水を持っているし、なぜかコノミにもらったって言っていたし……。
もちろん、コノミはあげていないって言うんですけど。
これだけヤバい奴なのに、本当にあの子は危機感が無いというか、大らかと言うか。
沼田 庄司の話し 三回目
え? コノミさんの友達も毒を入れていないって?
……いや、水はコノミさんにもらいましたよ。え? コノミさんはあげていないって言っているって? ……。えー、いや、勘違いしているんじゃないんですか? コノミさん。本当にくれましたもの。多分、コノミさんの友達は僕が飲みかけのコノミさんのペットボトルが取り替えいると思い込んでいるんですよ。はい。え? あげる理由なんて無いって? でも、本当に、もらいましたよ。自分のと取り換えている訳ないじゃないですか。
……。
もういいじゃないですか? コノミさんがくれた水って事で。
それよりも、その水に毒が入っていたことが不味いじゃないですか。下手したら死んでいたんですよ、僕。
そっちの方を気にしてください。
……え? だったらコノミさんが毒を入れたんじゃないかって?
はあ? 何でですか? 僕達、仲が良いんですよ! 何で僕に毒を飲ませようとしたんですか?
鈴木 コノミ
……私、沼田君には水をあげていません。
それは確かです。
沼田君が私の水を取り替えている? うーん、これについては分かりません。あまり量とか気にしないから。
え? ああ、私、結構大雑把なんですよ。
親とか麻美ちゃん達にも、よく注意されてしまうんですよね。色々と大雑把だし……、一人暮らしになった途端、部屋とか汚くしちゃって……。
年が近くて親しい親戚の子にキッチン周りを見たら「ちゃんと消毒しないといけないよ」って言われて、業務用の漂白剤をちょっともらったんですよ。
親戚の子は飲食店を経営しているから、漂白剤を業務用で買うんですよ。その帰りに私の家に行ったらゴミ屋敷になっているから絶句されてしまって……。
一緒に掃除してくれて特に台所回りを掃除してた後、漂白剤をちょっとあげるって言ってくれたんですよ。
でも容器が無くて……、近くにあった空のペットボトルに入れたんですよ。
だけど私、凄く忘れっぽくて、その漂白剤が入ったペットボトルがどこかに行っちゃったんですよ。
それで沼田君が毒を飲んだって話しを聞いて、私、不安になっちゃったんです。
もしかしたら私、お水と思ってその漂白剤入りのペットボトルを、昨日買った残りと思い込んで持って行っちゃったんじゃないかな? って思ったんです。
それで取り替えている沼田君の手に渡っちゃって……、飲んじゃったのかな? って。
あははは、そんな訳ないか。もっとちゃんと探さないと……。
だって普通、私のペットボトルを欲しがって取り替えるなんてありえないですよ。
え? 沼田君が飲んだ毒って、塩素系漂白剤なんですか? 台所で使う奴の……。
……あれ?
沼田 庄司の話し 四回目
あの、何で僕が咎められているんですか?
毒を入れていないって分かりました!
コノミさんが勘違いと言うか間違えちゃって、漂白剤入りのペットボトルを普通に買ってきた【白葉の天然水】って思いこんじゃって持って行ってしまった。それを僕が貰ってしまったって言う不幸な事故だったんでしょ! ヒューマンエラー的な奴! いやあ、コノミさん、ドジっ子ですねー。ちょっと古い言い方ですが……。
え? コノミさんは【白葉の天然水】をあげていないって言っている?
はあ? 俺がコノミさんのカバンから水を取り替えている場面が、監視カメラの映像で確認できた?
……。
いや、それよりも漂白剤を飲まされた僕が一番可哀そうでしょ! 責めないでください!
え? 問題を逸らさないでくださいって? コノミさん達が大学側に報告した? もしかしたら、何かしらの処分か警察案件になるかもって?
何で、そんな話しになるんですか? おかしいじゃないですか!
いやちょっと、僕が加害者みたいな感じで言うんですか! 意味が分からないですよ! まるで僕が気色悪いストーカー扱いじゃないですか!