第五十八話 デートの練習
※グリンダの容姿は長い栗色の髪に、金色の瞳の爆乳美少女です。その事を頭にいれた上で、どうか今話をお読みください。
第五十八話 デートの練習
「若様~!すみませ~ん、お待たせしました~!」
「いえ、僕も今来たところです」
そう返事をした後、あまりにもわざとらしいやり取りに思わず噴き出してしまった。
「ぶっ、くく……すみません。ちょっと……その無駄に間延びした声……!」
「なんだい?この100人が100人認める、スタイル抜群な美少女に何か不満があるとでも?───若様ったらぁ、ひっどぉい!」
「ぶふぉ……!」
ぶりっ子全開なグリンダに、腹筋がつりそうになった。
場所は帝城前広場。家族連れや老人の散歩コースであり、若者達の待ち合わせにも使われる帝都の中心。
そこで、自分とグリンダは待ち合わせをしていた。
「それにしても、わざわざ別々に宿を出る必要はなかったよね」
「しょうがないでしょう。ケネスがそうじゃなきゃヤダと、駄々をこねたのだから」
「アレは……ちょっとしたホラーだったね」
「はい」
『年頃の若い男女がぁ!2人で外出するのならぁ!待ち合わせでしょうがぁ!そうじゃなきゃヤダヤダヤダ!』
と、見た目ダンディな老騎士が全身を使って駄々をこねる姿は、もはや恐怖であった。
なにが1番怖かったって、すぐに頷かないと他の騎士達も同じく床を転げまわっていた事だろう。レオなんて『次は自分が行きます!』と、まるで戦の時みたいな真剣な顔でスタンバイしていた。
僕が言うのもなんだが、必死さが違うな。ストラトス家の騎士達。
「それで?私の義父があれだけ頑張って『デート』という形にしたわけだけど……まず言うべき事は?」
金色の瞳を細め、グリンダがニヒルに笑いながらそう問いかけてくる。
「……とても似合っています。綺麗だし、可愛いですよ」
真面目に言うと恥ずかしいので、あえて投げ槍にそう答えた。
今日の彼女は、メイド服でも騎士服でもない。
セーラー襟のついた、白い半袖のブラウスシャツ。自分と互角に殴り合えるとは思えない細く華奢な腕が、なんとも眩しい。
ベルトのように黒色のリボンが腰に巻かれ、彼女のスタイルの良さを強調している。その下には黒いスカートがふわりと広がっていた。裾には、白いフリルがついている。
被っている白のセーラーベレー帽には黒いリボンが巻かれており、彼女の長い栗色の髪に似合っていた。
膝までのスカートから覗く黒いストッキングに覆われた足と、こげ茶色のローファー。それもあってか、何となく全体的に前世の制服とゴスロリ衣装を混ぜたような印象を受ける。
コスプレ衣装にも見える格好だが、グリンダの美貌とスタイルもあって違和感があまりない。
「もしかして、照れてる?」
「照れてませんが?」
少し前屈みになって、こちらの顔を覗き込んでくるグリンダ。彼女からそっと顔を逸らし、誤魔化す。
「ふーん。ま、良いけどね。でも『本番』でそんな素っ気ない態度はいけないよ」
背筋を伸ばし、いたずらっ子のように彼女は笑いながら桜色の唇に人差し指を当てる。
その際に、たゆんと爆乳が揺れてつい視線がそっちに引っ張られそうになった。
「ケネスさん達のお願いでデートをするわけだけど、私と君はあくまで『友達』だ。だったら、せっかくだし将来若様がするだろうデートの『練習』にしないと」
「……それ、いります?」
「いる。だって君、女性をエスコートする事に慣れていないでしょ」
「そりゃあ、まあ……」
前回シルベスタ卿に街を案内してもらった時も、彼女に引っ張ってもらっていたわけだし。
それ以外だと、前世含めて女性と2人きりで外出した経験などない。
一応、クリス様に領都を案内したが、あの時は仕事だしアリシアさんもいた。デートとは言えない。
「というわけで。あえて今日は『こっちの言葉』でもため口でいかせてもらうよ。クロノ君」
そう言って、彼女がこちらの腕に抱き着いてくる。
薄い布越しに感じる胸の感触に、自分の顔が赤くなるのがわかった。
「……君、普段から私の胸で色々しているよね。なんでこれだけで真っ赤になるのさ」
「それとこれとは、別というか……!」
「ふーん。まあ、確かにそうかもね。でも、そういう初心な反応が好きな子もいるだろうから。精進するように」
「なにがですか……!」
「さあ?私もあんまり、デートの経験なんてないからねー」
ニヤニヤと笑いながら、グリンダがこちらを見上げてくる。
それを軽く睨み返して、小さく咳払いをした。
「じゃあ……行きましょうか」
「OK。君のデートプラン、見せてもらおうか」
* * *
「……初手美術館って、センスが童貞過ぎるか、枯れているのかのどっちかだよ」
「え、駄目なんですか。デートで美術館って」
やってきたのは、帝国1と言われる大きさの美術館。
ちょっとした宮殿かと思うほどの規模と、美しい白の柱と壁で作られた建物。その内部には、大陸のあちこちから収集された名画や彫刻が飾られている。
「そういうのが好きな子相手なら良いけど、普通最初のデートの序盤で行く所ではなくない?もっと映画館とか、遊園地とか」
「あるわけないでしょ、そんなの。サーカスはこの世界でもあるようですが、今日はどこでもやっていないみたいですし、行っても見世物小屋とかあるから、僕らはあんまり楽しめませんよ」
「それもそうか……悲しきかな。まだまだ娯楽施設は少ないね。というか、君って美術品にそれほど興味ないんじゃないっけ?」
「まあ、そうですが。でも、僕も貴女も楽しめそうなコーナーがありますよ?」
グリンダの手を握りながら、事前に覚えていた美術館の見取り図を頼りに歩く。
腕に抱き着かれていると落ち着かなかったので、手を握るだけにしてもらった。これだけでも、ちょっとドキドキするけど。
辿り着いたのは、戦争に関するコーナー。飾られているのは、実際に使われていた剣や槍。チャリオットや鎧である。
「へぇ……!」
グリンダの金色の瞳が、見開かれる。
自分もこの人も、実はこういうのが結構好きなのだ。領地にいた頃も、偶に家の武器庫を見学していたっけ。
そして、14まではケネスやアレックスに危ないからと、怒られていたものである。
「凄いねこの剣。フランベルジュかな?実際に使われていたのかな……」
「たぶんそうですね。綺麗に修復されていますが、先端の方に刃こぼれの跡があります」
「おお、本当だ!あ、あっちの盾。カイトシールドだっけ?格好良いよね」
「わかります。こういう無骨なの、なんか浪漫がありますよね……」
「だよね、だよね!……ん?隣のチャリオット、大きくない?もうこれ馬車でしょ」
「説明文によると、馬4頭で引っ張っていたらしいですよ。しかも魔物の血を引いた軍馬」
「うっわ、それは確かに『戦車』だ。でも操縦大変そうだよね」
「この国が王国だった頃に使われていた物らしいですけど、誰が操縦していたかは書かれていないんですよね……」
「あっ、見て見てクロノ君!あの鎧、君のに似ていない?」
「たしかに。……って、ああ。作っている工房が同じなんですね。初代皇帝陛下の親衛隊の鎧も、あそこが作ったとか……」
「よくお館様もそんな所に注文できたよね」
「昔の伝手を頼ったと聞きましたよ。グリンダも、注文してみます?」
「うーん……いいや。私は鎧よりも防弾チョッキ派だし」
「それ、暗に作れって言っていますか?」
「ばれた?」
最初は不評だったものの、楽しんでもらえたようだ。
クロステルマン帝国が軍事国家なのもあって、戦いに関する展示スペースは結構広い。
実物の展示だけではなく、戦いの様子を描いた絵画なんかも解説付きで飾られている。
「へー……初代皇帝陛下って、自分が先頭に立って突撃していたんだ。この世界だと、本当にそういう事しそうだよね」
「魔法がある世界ですからねー。先帝陛下も、前線で暴れていたらしいですし」
「案外、近いうちにクロノ君の戦いも描かれてここに飾られるんじゃない?オールダー撤退戦とか、ドラゴンとの戦いとか」
「えぇ、なんか嫌ですね。恥ずかしいし」
「いいじゃん。絶対何百年後かの歴史の教科書に載るって」
「なおさら嫌ですよ。書くにしても、数行でおさまるようにしてほしいですね」
そんなこんなで、午前中は美術館を楽しみ、昼食に。
と言っても、昼食に使えそうな店を自分は1つしか知らない。
「ここの料理は美味しいですよ。シルベスタ卿に教えてもらったのですが、絶品でした」
「君ねぇ……デート中に他の女性の名前を出すのは感心しないよ?」
「あ、すみません」
「まあ、私は良いけどね。怒っちゃう子も多いから、気を付けなよ?そう言えばシルベスタ卿と言えばさ……オッパイ、おっきいよね」
「突然なに言ってんですか貴女」
「いやさ。あの人武闘派だし、オッパイも固めかなって思ったんだけどさ。組み付かれてラーメン作らされた時にわかったんだけど、モッチモチだよモッチモチ!」
「オッサンですか貴女は」
「前世はねー。今はぴちぴちの10代の美少女だけど」
「うーわ。言い方がオッサンだ……」
「いいじゃん別に。それよりあの人、顔は綺麗系だけど、オッパイはゆるふわ系だよ。私の勘が告げている。彼女は、尻もモチモチだ……!撫でまわしたり叩いたりするより、鷲掴みにしたい系の尻だね!」
「飲食店で何言ってんですか、このセクハラメイド。ほら、料理運ばれてきましたよ」
ウェイトレスさんが、2人分のフィッシュ&チップスと果実水を机に置いてくれる。
そして、引きつった愛想笑いを浮かべてそそくさと奥へ引っ込んでしまった。
グリンダの発言内容が原因ではなく、どうにも自分が怖がられているらしい。美術館でもそうだったが、この店でも周囲の席がやけに空いている。おかげで、前世の話もできるわけだけど。
……あまり、人の多い所には行かない方が良いのだろうか。
そんな事はお構いなしに、グリンダは楽しそうに笑う。
「ほう。私は前世で本場イギリスに行き、なんとかという賞をとった店でフィッシュ&チップスを食べた事もある。あれは素晴らしかったよ。味以外は100点満点だった。それを超えられるかな?」
「それ、遠回しにけなしてません?」
「イギリスで何か食べる時はね……美味しい物を食べたかったら、伝統料理以外にするといいよ。もしくは、伝統料理だけど伝統を投げ捨てている店」
「はいはい。もう1回転生したら参考にしますよ。それより、冷める前に頂きましょう」
「それもそうだね。頂きますっと。……おおっ!」
どうやら、彼女の口にも合ったらしい。
初めてこの店に来た自分とそっくりのリアクションをするグリンダに、ニヤリと笑ってみせた。
* * *
「……デートの後半で人気のない所に行くとか、クロノ君。君の脳みそはチ●ポと直結しているの?」
「チン●言うな」
「いや、わかるよ?私も前世ではそうだったから。正直、やぶさかではないし。でも他の子には絶対にダメだからね?私ぐらいだよ。その欲望を『しょうがないにゃぁ』って許してあげられるのは」
「違いますよ脳内ピンクセクハラメイド。別に、そういう目的ではありません」
「なん……だと……!?」
「驚き過ぎでしょ。貴女の中で僕はどうなっているんですか」
街の中央から離れ、人気のない路地を進む。
こっち側はシルベスタ卿に案内されていない、自分で見つけた場所だ。アリシアさんを抱えて帝都を駆け抜けた時に、発見したのである。
「え?そりゃあ、オッパイ魔人?ほとんど毎晩人の胸を吸うし舐めるし、挟んでくるし」
「よし、この話はやめましょう」
「他にもお尻とか太腿とか、あと口」
「ふっ……土下座すれば許してもらえますか?」
「別に怒ってないんだけどなー。君と私の仲だし」
……どういう仲だと、ツッコミをいれかけてやめる。
彼女は友達だと言うが、その……本番こそしていないが、そこまでしておいて『ただの友達』は無理があるのではなかろうか。
だが、それを指摘するとこの関係が壊れてしまう気がして。
口を固く閉じて、視線を前に向けた。
「ほら、もうすぐ着きますよ」
「どれどれ。君は私をどこへ連れて行くつもりなのかな……っと」
辿り着いたのは、ごちゃっとした帝都の中で少しだけ広くスペースのとられた場所。
石畳もなく、所々に雑草が生えた庭の真ん中に、古びた教会が建っている。
シルベスタ卿に案内してもらった大聖堂とは違い、質素な外観をしていた。ステンドグラスもなく、建材も木と石をベースにしている。
だがこの素朴さが、妙な魅力を放っていた。
「……へぇ。意外とセンス良いじゃん」
「でしょう?」
少し悔しそうに、あるいは照れた様子で、グリンダが口を尖らせる。
「ただ、見学とか良いんですかね……ここ」
「そこは下調べしていないんだ」
「なんせ、初めて来たので」
「もー。『本当』のデートだったら、減点だよ?」
「すみません」
そんな事を話していると、教会の扉が開かれて年老いたシスターが出てきた。
「あら、珍しい。この辺ではあまり見ない方々ですね」
「あ、どうも。その、最近帝都に来たばかりでして……」
「まあ、では迷子に?」
心配そうに眉を八の字にするシスター。どうやら、この人は自分の事を知らないらしい。
考えてみれば当たり前である。写真なんてまだない世界だ。メイン通りから離れれば、この顔を見た事ない人がいるのは当然である。
少し、自意識過剰になっていたかもしれない。
「いえ。前に遠くからこの教会を見た事がありまして。興味本位で来てみたのですが……ご迷惑でしたか?」
「あらまあ。いいえ、迷惑などありません。神の家は誰にでもその扉を開いています。よろしければ、中にどうぞ」
「ありがとうございます。それでは、お言葉に甘えて」
ニッコリと笑うシスターに導かれて、教会の中に。
外観と同じく、中も古き良き教会という印象を受けた。
板張りの床と、古びた長椅子。入って正面にある木製の『勇者アーサーの剣』が飾られていなければ、前世のおとぎ話で見るような教会そのままであった。
「メイン通りにある大聖堂と違って、あまり見ていて楽しいものはないでしょうけど……」
シスターが、頬に手を当てて苦笑する。
「昔は、ここも人がたくさん来ていたのよ?今は、ご近所の人が週末に顔を見せにきてくださるだけだけど……」
「いいえ。何というか……僕は、好きです。この雰囲気」
「私も……」
なんというか、落ち着く。
街中なのに、街中ではないような。そんな区切られた空間。自分もグリンダも信仰深くはないが、不思議とこの教会は心安らかな気分になれた。
「まあ、変わっているのねぇ。若い子は、もっとキラキラとした場所が好きだと思っていたけど……」
「ははは……否定はしませんが、それでもこれはこれで良いなって……すみません。どう表現して良いのか」
「いいのよ。私も、この教会が好きだからずっといるんだし」
コロコロと老女は笑う。
「そうそう。これは私の前のシスターから聞いた事なんだけど、実は初代皇帝陛下もこの教会にいらっしゃった事があるそうなの」
「陛下が?」
「といっても、その人が言っていただけで何の証拠もないのよ?勇者アーサーが、妻の1人とここで結婚式を迎えたんじゃないかって。言っていたそうだわ」
「それは、また……」
「正直私も信じていないけど……なんでかしらねぇ。2人がやってきた時、不思議とその話を思い出しちゃったわ」
彼女の言う通り信じられない話なのだが、どういうわけか否定できなかった。
勇者アーサーの趣味は知らないが……もしもその話が本当なら、意外と似たセンスをしていたのかもしれない。
……これは、本当になんとなくなのだが。
渡すなら、今かもしれない。
「グリンダ」
「え?」
今の話を聞いて、何やら百面相していた彼女に声をかける。
いったい何を想像していたのやら。興味はわいたが、深く聞くと怒られそうなのでやめておく。
「これを。今日はつきあってくれてありがとうございました」
「え……え?」
懐から取り出した箱を、彼女に渡す。
「ネックレスです。その……もし良かったら、今つけますか?手伝いますけど」
「……うん。その、お願い……します」
箱を開け、中からネックレスを取り出す。
簡素な黒い紐が通された、木製の太陽。中央に金色の飾りが輝くそれを、グリンダの首にかけた。
「……今の話を聞いた後に、渡すとか。君、ちょっとキザ過ぎない?」
「いや、なんとなく……」
「まあまあまあ!お邪魔だったかしら!」
お互い耳まで真っ赤になる自分達に、シスターが頬に両手を当てて満面の笑みを浮かべる。
「そうだ!もしも帝都に引っ越すんだったら、結婚式はここでやってね?久々に間近で誓いの言葉が聞けちゃうかしら!」
「ちょ、ま、しませんから!結婚とか!わ、私と彼はあくまで友達です!」
「あら~!ま~!」
「な、なんですかその生温かい目は……!」
心底楽しそうに笑うシスターと、睨もうとするも顔に上手く力が入っていないグリンダを見比べて、つい声を出して笑ってしまう。
「く、ふふふ……!」
「ちょ、笑うな!き、君からも誤解を解く努力をしなよ、もう……!」
「すみません、つい。シスター。僕達はまだ帝都に越してくる予定はなくって……仕事の都合で、来ているだけなんです」
「誤解って、そっちじゃな―い!」
「あら、それは残念だわ。でも、2人の結婚生活が幸せであるよう、遠くから祈っているわね!」
「だ、だぁかーらー!」
頭を抱えてぶんぶんと長い髪を振り回す彼女をよそに、シスターへ銀貨を渡す。
「素敵なお話を聞けて良かったです。これは、ほんの気持ちですが」
「あら、いけないわ。こんなに。若いんだから、もっとお金は大切にしなさい」
「いいんです」
自分でも、理由はわからないのだが。
「この教会には、まだここにあってほしいから。どうか維持費にでもお使いください」
「まあ……!つまり、そういう事なのね!?」
「ちーがーいーまーすー!クロノ君!君ねぇ、ご、誤解を深めようとしない!減点!減点だからね!だいたい、今回出かけたのは君が『本当のデート』で失敗しないための練習なのに、『私が楽しめるコース』って!これじゃあ、練習にならないでしょう!?」
「それは……愛ね!」
「ちょっと黙っていてくださいシスター!」
「あっはっは!」
「笑うなぁ!」
デートの相手を怒らせてしまったが、まあ……。
個人的に、満点のデートだったと思う。
読んでいただきありがとうございます。
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