第六話 11歳から12歳。エッチとは
第六話 11歳から12歳。エッチとは
伯爵の領都へ行く、少し前の会話にて。
「父上。奴隷を買うにしても……その、自分自身を買い戻せる様にした方が、モチベーションのアップが期待できるかと。作業効率や出来栄えに大きく影響します」
「ん~……採用。でも身分を買い戻した後も仕事や住居も用意しないとどうせ賊になるし、奴隷から平民になった後の流れも考えなきゃだな」
以上。
とまあ、そんな話があった事もあり、伯爵家お抱えの商人から買った奴隷達はかなり勤労意欲が高い。
無論、最初は口頭で説明しても全く信用されなかった。
しかし、グリンダが奴隷から騎士の養女になった事で、僅かに希望を見せる事ができたのである。
ただの偶然。顔が気に入られただけ。そんな風に考えつつも、『奴隷ではなくなるかもしれない』と数人が考えれば十分。
購入から半年後。比較的リーズナブルな価格だった『奴隷の少年』が、努力の末『平民の少年』になった。
彼は今も社員寮にて生活しつつ、うちの領で働いている。貯金ができたら寮を出て家を建て、家族を作るかもしれない。
これを皮切りに、奴隷達は元奴隷になりつつあった。
そんな彼らの仕事は、魔物を警戒しつつ領内の開拓、磁器やガラスの箱詰め作業、村々の公衆トイレの糞尿回収。
そして、『工場』である。
何を作っているかと言えば、メインは『布』や『紙』だ。
領内の人口がどんどん増えているので、衣類や寝具などの確保が必要である。よその領から足りない分全てを調達するのは関所などもあり割高なので、出来るだけ領内で済ませたい。
紙の方は、まあ未来への投資分もある。
考えている主な使い道は2つで、その内1つは『紙薬莢』だ。
この世界、製鉄関連が前世の中世より進んでいるとは言え、流石に軟鉄を大量に確保するのは非常にコストがかかる。
その為、その辺りの問題が解決するまでは紙薬莢を使う予定だ。
ストラトス家領都近くの、新しくできた村。そこでは、奴隷として買われた女性達のうち特に手先が器用だったり慎重さのある者達が弾丸づくりに励んでいる。
……まあ、銃弾を大量に使う機会はまだないので、普段は機織りとかしているが。
弾丸づくりは、基本的に以下の流れである。
薄い油紙をクッキーの型抜きみたいな刃を使い円形に切り取り、中心に『雷汞水銀』を糊で固定。紙が少し上からはみ出るぐらいの大きさをした、鉄で出来た筒状の型に押し込む。
そこへ木炭、硫黄、家畜小屋の土から作った硝石を混ぜた『黒色火薬』を投入。
どんぐり型の鉛玉の下半分にも糊を塗り、火薬に蓋をする様にセット。はみ出ている油紙で弾頭の下半分を覆う様にして、くっつける。
時間を置いて糊が固まったら筒から弾丸を取り出し、再度しっかりと乾かしてから弾薬箱にいれるのだ。
……うん。
1発作るだけでめっちゃ時間かかる……!機械化してぇ……!
出来るだけ黒色火薬に水を近づけたくないので、機織り工場と違ってベルトコンベアすら使えない。なお、ベルトコンベアの動力は現在『水車』である。
グリンダに言われて作ってみたが、有ると無いとでは随分と効率が違うものだ。ベルトの材料は厚手の布をつぎはぎし、木製の円柱を並べて張っただけだというのに。
他にも機織り機の構造なんかも知っていたので、あの人も十分知識チートをしていると思う。なんでも、お婆さんの家で見た事があったとか。
閑話休題。そんな弾丸を撃つための鉄砲だが。
『ボルトが……ボルトがムズイ……!』
『どんまい』
屋敷の3階にあるとある一室。元は物置だったそこは、現在自分達が日本語で語り合う憩いの場となっていた。
『まさか、ボルトアクションライフルがこんなにも難しいとは』
『私はそういうのに詳しくないけど、大変らしいね』
異世界転生ものが好きな人間なら、1回は妄想するはずだ。銃器作って『俺TUEEE!』って。
その例にもれず、自分もまた機関銃ぶん回して馬鹿笑いしたかった。魔物だろうと、近代兵器の前にはただの獣じゃい、って。
流石に金属薬莢すら用意できない環境で、機関銃は夢のまた夢である。というか、黒色火薬だと銃身にもう1本管くっつけてガスシステムしてもリコイルできちんと装弾が出来るか不安だし。でも火薬の量を増やしたらワンチャン?強度と重量がアレだが。
何ならコストもきつい。ガトリングガンなら作れる気もするが、紙薬莢だと事故が起きそうである。そうでなくとも、弾丸の消費量がえぐすぎて無理。アメリカの南北戦争で軍のお偉いさんが機関銃を毛嫌いした理由が、今わかった。
とにかく、ならば最初は単発式ボルトアクションライフルを、と思ったのである。
しかし、ダメだった。
試しに何丁か作ってみたのだが、1丁目は装填する際に紙薬莢が破れて火薬が漏れ、2発目で暴発。
2丁目は発砲後ボルトが後退しなくなり、次弾装填が不可能に。
3丁目は使っているうちにボルト内の撃針が動かなくなり、発砲できず。どうも、螺旋型のバネの方に問題がでたっぽい。
その他、様々な理由で試作品は軒並みスクラップに。実験につきあってくれた騎士に、念のため鎧を着てもらっておいて正解だった。でなければ、幾ら騎士が頑丈でも指がもげていたかもしれない。
『でも、一応ライフルは完成したんでしょ?』
『まあ、はい。本当に一応ですけど』
そんな失敗の結果、サブプランに変更。ウイルソンライフルに似た物を採用する事になった。
『ウイルソンライフル』
幕末でも使われたライフル銃であり、機関部上のカバーを右側に開いて薬室のロックを後ろにずらす事で装填可能になる。
ただし、撃鉄を後ろにつける為にストラトス家で作った銃は後ろにずれるのではなく蓋を開ける様に後ろへ開く仕組みだ。
機関部横にすると、ただでさえ黒色火薬で発射までにラグがあるのに余計それが長くなる。
なお、撃鉄は古いリボルバー拳銃の様に親指で撃鉄を起こすスパー付きだ。ハンマーが叩く機関部の撃針は、板バネを使い前後する。
『……クロノはさ』
『はい?』
『なんか……銃の事になると早口になるね』
『こふっ』
掘り起こされた前世のトラウマに胸を押さえる。
見た目だけは美少女な今の貴女に言われると、滅茶苦茶ダメージがあるのでやめていただきたい。
『ごめんごめん。好きな事があるのは良い事だよ』
『ど、どうも……』
苦笑を浮かべて両手をそれぞれパタパタとさせるグリンダに、曖昧な笑みで返す。
『私はほら。前世だと、仕事が趣味みたいなものだったから』
『はあ。たしか、色んな工場を回って営業していたんでしたっけ?』
『そうそう。工場機械を扱う会社にいてね。といっても私は技術職じゃないから、あんまり機械そのものに詳しくはないけれど。でも大きな機械が動くのを見るのは好きだったかな』
『いい趣味だと思いますけど。でかい歯車やシリンダーが動くのって、浪漫がありますし』
『だよね!いやぁ、飲み会でこういう事言うと、同僚や部下には変わった奴扱いされていたから嬉しいよ。周りは車やバイク好きばっかりだったし』
『あー。僕の同期にも多かったです。車好き。同じソシャゲをやっている人いなくて、結構寂しかったっけ……』
『あっはっは!わかるわかる。なんか疎外感凄いんだよね』
この部屋には、椅子が2つと小さな机が1つ。そして本棚とベッドしかない。
必然、机を挟んで彼女と対面に座る事が多いのだが……何というか、距離が近い。
グリンダは元男性なので、同性の友人感覚なのだろうが、今の彼女は文句なしの美少女である。
セミロングになった栗色の髪からは良い匂いがするし、肌は透き通る様に白い。金色に輝く瞳は猫の様にミステリアスだ。
あと胸がでかい。本当に11歳の肉体かと疑いたくなる。
まあ、ロリコンではないので胸を凝視する気はないが。
『趣味と言えばさ』
『はい』
『若い女の子も奴隷として結構入ってきたけど、君ってどういう子が好みなの?』
『セクハラぁ!?』
ニヤニヤと笑うグリンダに、思わず目を剥く。
『いいじゃん。この世界、そういった概念がまだないわけだし。フェアじゃないから私が先に言おう。ずばり、女体で1番重要なのは───お尻だね』
両肘を机につき、指を組んで細い顎をのせたグリンダ。
彼女の金色の瞳が、キラリと光る。
『安産型、という言葉がある。それはお尻の大きな女性の方が、骨盤の関係上出産が容易な事が多い……という考えからだ。比較的簡単に産めるという事は、出産のリスクが少ないという事でもある。ただ、実際の所どうなのかは私も知らない』
『なんか語りだした……しかも早口で』
『まあ聞いてくれ。私は前世1人身でね。風俗で童貞は捨てたが、恋人がいた事はない。いわゆる素人童貞というやつだ。だから子供はいなかった。しかし、この安産型という言葉には強く惹かれたよ……なんてエッチなんだろう、って』
『いや、まあボリュームのあるお尻は確かにエッチだと思いますが』
『純粋に揉みがいがあるから、だけじゃない。生殖に適した体という考え自体が、私はエッチなんだと思う。エッチとはつまり、生殖行為だ。ゴムをつけてのものでも、エッチには変わりない。つまり、よりエッチな女性とエッチしたくて私は風俗に通ってエッチをしていたと言っても過言ではないよ』
『あんたの趣味もはや風俗だろ』
なんなら結婚とか恋人できなかった理由それでは?
『酒と女を愛するのは趣味じゃなく、人生さ……タバコと賭け事は、性に合わなかったけどね』
『発言が昭和だ……』
『この世界だと未来的な発言という事だね。さあ、話を戻そう。より良いエッチとは何か。それは女性のデカ尻を愛でる事だと思う。無論、薄い尻も良いものだ。形やバランス重視の、美尻こそ至高という考えもわかる。試した事があるが、たしかに良いものだ』
『落ち着きましょう。人として』
『最後に言わせてほしい……それでも私は、デカ尻に押しつぶされて死にたかった……!』
『もっかい死んどけ』
物憂げな視線を虚空に向け、一筋の涙を流すグリンダ。
彼女の整った容姿もあって、儚さと美しさを兼ね備えた芸術の様である。発言内容が居酒屋のセクハラオヤジだが。
そんなオッサン少女が、黄金の瞳をこちらに向けてくる。無駄に真剣な眼をしていた。
『さあ、君はどう思う。やはりデカ尻か?いや、派生して尻から太腿のラインこそという考えも勿論良いと思うよ。私はそちらも語れる口だ』
『いや……まあ、お尻や太腿も好きですが、どちらかと言えば胸派ですね。僕は』
ここで恥ずかしがるのも揶揄われそうなので、あえてアッサリと性癖を口に出してみた。
『なるほど、胸派か。悪くないね』
『あ、否定とかしないんですね。こう、異教徒がぁ!みたいな』
『それは偏った考えだよ、クロノ。性癖は、エッチは法律にさえ触れなければ自由なんだ。エッチと人類史は切っても切れない関係になる。エッチな嗜好を受け入れる事から、人と人の理解は始まるんだ』
『何言ってんだこいつ』
『私も、出張先で入った店が実はSMゲイバーだった時は驚いたものだよ……』
『すみません。日本語で喋っていますか?』
『最初は戸惑ったが、アレはアレでエッチだった』
『見境ねぇな』
下の話を武勇伝の様に語るグリンダに、思わず口を『へ』の字にする。
『だが、そうだね……ならば語ってくれないか?君のエッチを』
『いや……語るほどもないというか……その、経験ないですし』
『なんだと!?君、前世は社会人で今生は貴族なのに童貞なのか!?真正の!?』
『大声で言わないでもらえます!?』
『あ、ああ。ごめん。流石に予想外だったから……私も今生は前も後ろも未使用だけど……クロノ。前世で会社の先輩や上司に、そういうお店に連れて行ってもらわなかったの……?』
『いや、ないですよ。僕が社会にでた時、もう令和直前ですからね。平成の終わりにそんなんあったら、普通にセクハラですって』
『そうか……そうだね。私も職場の新人を連れて行こうとしたら、上司からコンプライアンスについて本気で怒られたっけ……』
グリンダが、優し気な笑みを浮かべてこちらの肩を叩く。
『まあ、あれだよ。元気を出して。君はまだ若い。まだチャンスはあるよ』
『貴女の死因セクハラの報復だったりしませんよね?』
『安心して。私は言っても大丈夫な相手にしかこういう事は言わない』
『最低だ……』
『だけど……なるほど。あの父親では君が未だに童貞なのも納得だ。びっくりする程女の影がない』
『いや。まあそれは否定しませんけど、そもそも11歳ですからね?』
『でも精通はしているんでしょ?』
『なんで知っているんですか!?』
『家臣は全員知っているよ。お家の重要情報だからね』
『くそがよぉ』
言いたい事はわかる。貴族の家にとって、世継ぎを作る能力は重要だ。特にこの世界においては、よりその比重が大きい。
この世界の貴族と騎士の関係は、大雑把に言えば本家と分家である。
魔力のサラブレッドが貴族なのだ。当然、その血には戦力的にも価値がある。
故に騎士達は当主の娘を妻に迎えたり、次男三男を婿に迎える等して次代により強い魔力を残すのだ。
この世界というか、大陸において。魔法使いの数が戦争の勝敗を分けると言っても過言ではない。勿論騎士や貴族だって平民に数で潰される事はあるが、それでも魔法使いの有無はそれだけ大きいのだ。
戦争に強い領主が良い領主。父上は個人の武力でそれを成しているが、騎士達としては将来も見据えて貴族の子供は沢山いてほしいのである。
そういった面では、父上は最悪の領主と言えるかもしれない。こういった事情を考えると、家臣達が自分の生殖能力を重要視するのも頷ける。
だが、それはそれこれはこれ。デリケートな生き物なので、あんまり話題にしないでほしい……!
『正直同情するよ。まあ、父親を説得しやすい環境だと好意的に解釈もできるから』
いや、そういう行為の第一候補、貴女ですからね?
と、言いかけるも、それこそセクハラ発言なのでぐっと堪える。
家臣達にとって、グリンダの血は非常に魅力的だ。勇者アーサーが残した言葉には、『近親相姦は極力避けるべし。血を濃くし過ぎれば、数代後に呪いが訪れる』というのもある。
それゆえ、この辺一帯の貴族の家とは関係ない『遠い血』で、なおかつ私生児ではありえない魔力量。
自分と彼女の子供が沢山できれば、騎士達の家にも上質な魔力の遺伝子が行きわたる。それは、ストラトス家の繁栄に大きく貢献するだろう。
貴族と騎士は本家と分家であると同時に、雇用関係でもあるのだ。当主が各騎士の家に役職を割り振り、領地を運営している。
騎士と言っても、戦うだけが仕事ではない。代官や森番のまとめ役なんかもやっているのだ。騎士の家が存続しなければ、貴族とて危うい。
……マジで、父上はその辺りがなぁ。
『よし、決めた』
『はい?』
そんな事を考えていると、グリンダが突然立ち上がった。
かと思えば、こちらの隣にやってくる。
『私は子作りとか出来ないけど、君を女性慣れさせる事はできる』
『はぁ……』
つまり、更に下の話を語られると。
こちらも下ネタを気兼ねなく言えるというのは、多少のストレス解消になるので嫌ではないが。
そう思っていると。
『まずは、尻の魅力を教えよう』
『なんて?』
グリンダがこちらに背を向け、お尻を突き出してロングスカートを捲り上げたのである。
レースのついた白い布地が、申し訳程度に覆う臀部。同じく白いガーターベルトが線を引き、ストッキングと繋がっていた。
前世なら小学生をやっている年齢とは思えない、既に『女性』の丸みを帯びたお尻。それが、目の前に突き出される。
『幸い、今生の私は美少女だからね。さあ、撫でなさい。年齢的にまだ固めかもしれないけど、触り心地には自信があるよ』
『い……いやいやいや!?何やってんだあんた!?』
慌ててスカートを下げさせ、尻を隠す。
『僕、現在11歳!貴女、現在11歳!だめでしょ、色々!』
『中身は前世だけで計算してもアラサーとアラフォーだし。気にしなくて良いんじゃない?』
『気にするわ!?そういうのはもっとこう……あるでしょう!TPOが!』
『……クロノ』
ぽん、と。グリンダがこちらの肩に手をのせる。
『だから君は童貞なんだよ』
『やかましいわ!?』
やれやれと首を横に振るセクハラメイドに、声を大にして怒鳴る。
流石に何かあったのかと心配になったのか、扉がノックされた。
〈若様。いかがなされましたか〉
「あ、いや。大丈夫です!」
「申し訳ありません。私が若様に女体についてご享受しようとした所、少し興奮しすぎてしまい……」
「言い方ぁ!?」
〈───承知しました。アレックス殿には午後の授業を遅らせる様に伝えておきます〉
「いらんわそんな気遣い!?」
この後、座学の最中アレックスが期待に満ち溢れた目を向けてきたが全力で無視した。
それとグリンダの尻が頭に焼き付いてしまったが、決して僕はロリコンではない。ないったらない。
* * *
そんな、時折セクハラメイドのセクハラを受けつつもまた1年が過ぎた。
遂に領内の村々の過半数を水路で移動できる様になり、より人や物を移動できる様になった頃。
「フラウぅぅぅ!どこだ、どこに行ったんだぁあああ!?」
姉上が22歳になった翌日、とうとう家出した。
なお。
〈弟へ。暫く騎士達の家を転々とするので、心配無用。お見合いしまくってくる〉
家臣一同グルであった。
ガンバ、姉上……!
「ブラ゛ァァヴゥゥ~!うっぐ、ひっぐ……ヴォェッ」
父上が何か死にそうだが、頑丈なので大丈夫だと信じよう。
読んでいただきありがとうございます。
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Q.肉体年齢11歳の尻とパンツはまずいですよ!
A.中身は40越えのオッサンだからセーフ!!