閑話 白の姫と青の騎士
閑話 白の姫と青の騎士
サイド なし
パレードは終わり、戴冠式が始まる。
クロステルマン帝国における戴冠式は、帝城前広場での演説、帝城敷地内にある礼拝堂にて教皇あるいはその代理の枢機卿により祈りの言葉と聖油が送られ、最後に玉座の間に皇帝が座るという流れだ。
クリス・フォン・クロステルマンが、広場に建設された舞台の上に立ち演説を行う。
「帝国は今、未曽有の危機に瀕している」
中性的な容姿をした少年──それが、実は少女だと知る者は少ない。
その端正な顔を引き締め、彼女は続ける。
「逆賊フリッツの裏切りにより我が父、コーネリアスは亡くなった。諸君らの親や兄弟の中にも、あの戦で命を落とした者がいるかもしれない。彼ら勇者達が、神の国に行き、良き来世へ転生する事を祈ろう」
数秒ほど黙祷した後、クリスは海の様な碧眼を開いた。
「失ったものは大きい。だが、我々はまだ負けていない。帝国が誇る精鋭の手により、逆賊フリッツは討たれた!奴がモルステッド王国より借り受けた竜がどうなったかは、皆も知っているだろう!」
大仰に両手を左右に広げたクリスに、民衆から歓声が上がる。
「帝国には力がある!この難局を乗り越え、明日を掴む力がある!その為に、帝国の臣民よ!私に力を貸してくれ!」
拳を振り上げ、クリスは精一杯雄々しく振舞う。
「父上を支えてくれていた、明晰な頭脳をもつ大臣達が!一騎当千の将軍達が!そして、帝国を支えてきた諸君らの力があれば!私はこの国を、大陸の頂点へと引き上げる事が出来る!」
彼女の細い喉が震え、魔法により拡声された言葉が広場に響き渡った。
「私に従え!私に続け!私と共に歩け!その先に、明るい未来は待っているぞ!」
民衆の雄叫びが、帝都を包み込んだ。
広場に集まった者達の中には、当然サクラも混じっている。だがそんなものは関係ない程の熱狂が、ここにはあった。
誰もが明日に不安を抱えている。ずっと、誰かに『どうしたら暮らしが良くなるか』『どうしたら平和に過ごせるか』を教えてもらいたかった。
そんな彼らの前に現れた男装の皇帝は、竜を打ち倒す程の戦力を従えている。
大衆は真の竜殺しは『どこの馬の骨とも知らない田舎者』ではなく、栄誉ある近衛騎士達だと考えているが、それでも新皇帝クリスが優れた戦力を保有しているのは紛れもない事実。
強者の庇護下にいれば、静かに暮らす事ができる。彼らはそうして生きてきた。
だから、それを保証してくれるクリスに対し、惜しみない喝采を送るのだ。
大歓声に見送られて舞台を降り、彼女は小さく息を吐く。
「御立派でした、クリス様」
「ありがとう、リゼ……」
シルベスタ卿に軽く額の汗を拭いてもらいながら、クリスは舞台裏から拍手をする貴族達の方を見る。
無意識に彼女はとある少年を探したが、前列は侯爵や伯爵、大臣達で埋められていた。身分の事もあって、彼の姿を見つける事は出来ない。
それに内心で落胆しながらも、クリスは表情を引き締め直す。
「クリス様。それでは礼拝堂に移動を」
「うん」
周囲の者達は、今日に限り彼女を『殿下』と呼ぶ事はない。
何故なら、これからクリス・フォン・クロステルマンは、皇帝となるのだから。紛らわしいのは、誰にとっても良くない。
帝城敷地内。居城のすぐ隣にある、礼拝堂。
ちょっとした館と言える大きさのそこだが、全ての貴族が入れるわけではない。高位の貴族から順に入り、礼拝用の長椅子傍に立つ。
彼らの間を、クリスは歩いていく。彼女が礼拝堂に入ってから、入り口に子爵以下の貴族達が集まり中を窺うのが伝統だ。
礼拝堂の奥から出てきたアンジェロ枢機卿が神への祈りと祝福について述べた後、王冠を被ったクリスへと聖油をかける。
これにて、神の名のもとに彼女は皇帝として認められた。
貴族達が割れんばかりの拍手を送る。その中には、ホーロス王国の国王夫妻もいた。
2人は、会談の時と同じ笑みを浮かべている。皆の拍手に対し彼女は笑顔を返しながら、礼拝堂を後にした。
ここからは、一旦クリスと貴族達は別行動である。
貴族達は帝城のホールに集められ、歓談の時間だ。皇帝はこの間に着替えを済ませる。
その後、貴族達は玉座の間に移動し、首を垂れて新たなる皇帝が玉座に座るのを待つのだ。
以上が、クロステルマン帝国における戴冠式である。
クリスはシルベスタ卿と他に親衛隊2人を連れ、帝城の一室に向かった。彼女の本当の性別を知る者達が、警備と着替えの手伝いをする。
黄金や宝石が施された、白い衣服に身を包むクリス。厚手のマントを肩にかけ王冠を被り直した彼女に、この場にいる3人の親衛隊が片膝をついた。
「……クリス様」
代表として、シルベスタ卿が口を開く。
「リゼ?」
「今日という日は、御身の生涯にとって一際重要なものでしょう。しかし、それがゴールではありません」
突然どうしたのかと、クリスは首を傾げる。
そんな彼女を、親衛隊は敬意と慈しみの目で見上げた。
「これからも長く続く『クリス陛下』の人生を……どうか、我らに守らせてください。我らは御身の盾、御身の剣、御身の馬。この命を捧げる事を、お許しください」
「……許さない」
拒絶の言葉に、シルベスタ卿が一瞬だけ目を見開く。
しかし、クリスの顔にはとても穏やかな笑みが浮かんでいた。
「命を捧げるって言い方だと、まるですぐに死んでしまうみたいじゃないか。皆には、ずっと一緒にいてほしい。近衛騎士としても、友人としても」
「……はっ!」
思わず顔をほころばせた親衛隊だが、すぐに彼女らは表情を引き締め直す。
そしてシルベスタ卿達3人は、クリスをエスコートしようと立ち上がった。
「では、玉座の間に──」
瞬間。
「クリス様!」
シルベスタ卿がクリスを突き飛ばしながら、剣を抜く。彼女が武器を構えた先には、壁しかない。
否。
それがただの壁ではないと、近衛騎士と『皇族』は知っている。
コンマ数秒だけ壁の一部が盛り上がった直後、爆散。石材が散弾となって室内を蹂躙した。
シルベスタ卿……隊長が飛び出したのとほぼ同時に、2人の親衛隊も動きクリスの上に覆いかぶさる。彼女らの鎧を貫通し、石くれがその柔肌を抉った。
「がっ……!」
「ぐぅ……!」
「皆!?」
部下達の苦痛の声と主の悲痛な声を背に、シルベスタ卿は左手で頭を守り他の石材は体で受けきった。彼女の鎧も穿たれたが、皮膚を軽く裂く程度のダメージに抑える。
痛みに怯んだ様子もなく、銀髪の麗人は剣を突き出した。狙うは、土煙に覆われている壁があった場所。
そこにいる者に刺突を放ったのだ……が。
「鋭いけどぉ」
「っ!?」
その刃が、無骨な指に挟んで止められる。
「太刀筋が素直過ぎるのよねぇ」
そんな野太い声の後、彼女の脇腹を丸太の様な足が襲った。
先程の石材とは比べ物にならない破壊力。遅れて、シルベスタ卿は理解する。
壁が炸裂したのは、この者がその剛力で成したのだと。
女性の中では長身で、鎧を纏った彼女の体が、いとも容易く浮き上がった。そのまま左手側の壁に叩きつけられ、めり込む。
「ごっ……ぁぁあああああ!」
小さなクレーターを背中で作った彼女は、しかし雄叫びを上げて剣を振り上げる。
鎧が脇腹に食い込んだ状態で、血反吐さえ口端から流しながらの咆哮。まさに執念と呼ぶべき一太刀は、しかし振り降ろす間すら与えられなかった。
「良いガッツね。ご褒美をあげる!」
土煙の中から姿を現した、身長2メートルオーバーの筋骨隆々とした人物。スキンヘッドの頭に入れ墨をし、分厚い唇には紫色の口紅が塗られていた。
一目で厳しい鍛錬の跡が窺える掌がシルベスタ卿の剣の柄頭を押さえ、至近距離からの膝蹴りが彼女の腹部を襲った。
悲鳴すら出ない。鎧が砕け散り、背後の壁まで粉砕して、親衛隊隊長は外へと放り出された。
石畳の地面に、約20メートルの高さからの落下。たとえ貴族でも、十中八九死ぬ。直前に人外じみた攻撃をされたのなら尚の事。
「リゼ!」
その光景に、クリスが悲鳴を上げる。幼い頃から共にいた親友に手を伸ばすが、当然それが届く事はない。
「貴様ぁ!」
クリスに覆いかぶさっていた2人の内、髪をサイドテールにした方の親衛隊が襲撃者へと斬りかかる。
袈裟懸けの斬撃は、やはり柄頭を受け止められて中断させられた。
直後に繰り出されるローキック。足首をへし折りにきたその蹴りを、彼女は跳躍して回避。同時に体を横回転させ、襲撃者の側頭部に剣を振るった。
「うっそ、もうアタシの動きを覚えたの!?」
驚きながらも、襲撃者は掌で鍔を受け斬撃を止めてみせた。
それに舌打ちし、サイドテールの騎士は相手の腹を蹴って距離を取る。鉄靴を履いた状態での重い1撃に、しかし襲撃者は小動もしない。
「クリス様……こちらに……!」
「っ、わかった……!」
もう1人の親衛隊。ボブカットの彼女に手を引かれ、クリスが立ち上がる。
しかし、襲撃者がそれを見逃すはずがない。
「あら、ちょっと待ってくれない?」
サイドテールの騎士が繰り出した突きを、刀身に裏拳を放って軌道を逸らした襲撃者。直後、槍の様に鋭い蹴りがクリス目掛けて放たれる。
ボブカットの騎士がすぐさま間に割って入り、左肩で受けた。鋼の鎧はべこりとへこみ、彼女の肩の骨が砕ける。
「ぎぃ、がああああ!」
その状態で、彼女は右手で剣を振るう。それを仰け反って回避した襲撃者へ、サイドテールの騎士が背後から斬りかかった。
2メートルを超える巨体とは思えぬ軽快さで、襲撃者はバク宙によりそれも避ける。
1人では足止めも出来ないと、親衛隊2人は肩を並べて剣を構えた。
「クリス様、ここは我らが」
「他の親衛隊か、クロノ殿と合流を。お早く」
「……すまない!」
葛藤は一瞬。このままでは足手纏いになると、クリスは親衛隊に背を向け走り出す。
廊下側の扉は襲撃者が背にしており、壁の大穴から逃げるのは、彼女の身体能力ではただの自殺だ。
しかし、この部屋にはもう1つ扉がある。隣の部屋に続くそこへ、クリスは駆け出した。走るのに邪魔だと、王冠もマントも放り出して。
「逃がさないわよぉ」
「通さないわよ!」
「死ね、この筋肉だるま!」
追いかけようとした襲撃者を、親衛隊の2人が阻止する。
クリスが向かった隣の部屋は、外交でも使われる場所だった。
長く広い室内の中央には白い布が被せられたテーブルがあり、その両脇に椅子がずらりと並べられている。
外の光を取り入れる為に、大きめの窓が壁の片側に幾つもはめ込まれていた。
そこに、彼女は跳び込んで。
「いらっしゃぁい」
直後に、背後で扉が閉められた。
「なっ……」
クリスが、ゆっくりと振り返る。
そこにいたのは、赤いドレスを身に纏った美女がいた。
「あね……うえ……!?」
「パレードと戴冠式、見ていたわよ?本当に立派になったのね」
真っ赤な唇が弧を描き、彼女はクスクスと笑う。
会談の時も見せた、家族としての笑み。それに、クリスは言い様のない恐怖を覚えゆっくりと距離をとった。
「貴女は……まさか……!」
「でも、演説の内容には少し文句をつけたいわね。酷いじゃない、『ホーロス王国は実は味方で、今後も共に戦う仲間だ』とか……言ってくれないなんて」
わざとらしく泣きまねをするサーシャ王妃に、クリスが怒声を上げる。
「貴女が!あの襲撃者を手引きしたのか!」
「そうよ?」
皇族と近衛しか知らない隠し通路を使った襲撃者に言及すれば、王妃はあっさりと頷いた。
まるで、今日の天気を尋ねられたかの様な自然さで。
「これが何を意味するのかわかっているのですか……!?ホーロス王国は、全ての信用を投げ捨てたのですよ!?帝国からだけではない。この様な騙し討ち、他の国からも……!」
「ああ、どうでも良いじゃない。そんな話」
面倒そうに手をひらひらと振るサーシャ王妃に、今度こそクリスは言葉を失った。
そして、こんな事をしている場合ではないと思い直し、視線を扉の方に向ける。
「……なら、何を話しに来たのですか?」
じりじりと扉に近づきながら、クリスは会話を続ける。
少しでもサーシャ王妃の気を逸らしたかったのだ。
「そうねぇ。そう言えば私って、貴方が小さい頃遊んでいた事があるらしいんだけど……覚えている?」
「3歳の頃ですね。あの時は、何度もお茶会に招いてもらってお菓子をもらいました。あと、貴女の演奏するヴァイオリンも聞かせて頂きましたよ」
「よく覚えているわね、そんな事。私、弟妹が多すぎてそんな事まで覚えていないわ。でも、貴方って昔から記憶力が凄かったわよね。聞き分けも良かったし。まるでそう……」
ニコニコと笑いながら、サーシャ王妃は続ける。
「伝説に聞く、『転生者』……貴方、実はそうだったりするの?」
「……いいえ」
扉の位置と道順、そして隠し通路の地図を頭に思い浮かべながら、クリスは首を横に振った。
「ボクは、違いますよ」
彼女の脳裏に、黒髪の少年が浮かぶ。
本人からそう聞いたわけではないが、もしやと……そう、思っていた。
「そう……なぁんだ。つまらないの」
サーシャ王妃は、心底がっかりしたという様子でため息をつく。
「貴方が転生者だったら、勇者アーサーの話にご執心だったお父様のお墓に、『この程度のものに拘っていたの?』と言えたのだけれど……」
「……?なにを」
「もういいわ」
サーシャ王妃が、ゆっくりと右手を上げる。
魔法が来るかと身構えたクリスが、詠唱の開始と同時に走り出そうとした。
しかし──放たれたのは、魔法ではない。
「死んでいいわよ、貴方」
爪だ。
サーシャ王妃の人差し指の爪が、信じられない速度で伸びる。深紅のそれは刃の様な鋭さで、クリスを切りつけた。
だが、血は流れない。胸を浅く切りつけたつもりだった王妃だが、予想外に硬い感触に阻まれたのである。
衝撃でふらついたクリス。彼女の白い衣服が引き裂かれ、その下に身に着けていたコルセットが弾け飛んだ。
───たゆん。
「……は?」
サーシャ王妃の口から、間の抜けた声が漏れ出る。
綺麗な曲線を描く、豊満な乳房。鮮やかなピンク色の先端。たぱん、と肉同士がぶつかる音を谷間からさせ、小さく揺れる。
その下の腹部もくびれており、見間違え様のない程『女性の骨格』であった。
「くっ……!姉上、その爪はいったい……!」
慌てて服の前を押さえ、胸元を隠しながらサーシャ王妃を睨みつけるクリス。
だが、その問いかけを無視し。
「……はっ」
彼女は、笑っていた。
「ははははははははは!」
心底おかしそうに。そして嬉しそうに。
赤の王妃は、腹を押さえて笑っていたのだ。
「貴女、女だったの!?ああ、そう!そうだったの!」
その様子に困惑と警戒を強めるクリスだが、サーシャ王妃の瞳に敵意はない。
むしろ、親愛さえ浮かんでいる。
「ああ……やっと、貴女を心から家族として愛せそうだわ……なんて良い日なのかしら」
声に喜色を多分に含んだ彼女が、優し気に目を細め、しかしドロリと濁った瞳をクリスに向ける。
「貴女も同じだったのね。貴女もそうだった……私と、同じ。辛かったわよね……気持ちが悪かったわよね……あの酒臭い息も、あの内側で脈打つ感覚も。あ、でも。時期的には道具か、それとも……」
「なにを……?」
「ねえ、クリス」
まるで、閨で愛を囁く淫魔の様な甘い声で、サーシャ王妃は問いかける。
「貴女も───お父様に、純潔を散らされたのでしょう?」
「……は?」
クリスの頭が、真っ白になる。
単語を1つずつ咀嚼し、言葉の意味を思考するが、しかし纏まらない。感情がサーシャ王妃の言葉を理解するのを拒絶する。
高貴なる者の義務として、望まぬ相手と閨を共にする事は彼女も知識として頭にあった。
だが、近親でなどと……勇者アーサーの教えにすら反する行為に、少女の脳には理解できない。
呆然とするクリスに、赤の王妃はその笑みを引っ込めた。
「……なんだ」
アンジェロ枢機卿の名を聞いた時と同じ、感情の抜け落ちた顔。
そして、無機質な声と共に彼女は人差し指をクリスに向けた。
「やっぱり、貴女は違ったのね」
クリスは、サーシャ王妃の言葉を理性ではしっかりと理解していた。
だからこそ、今度は頭を狙って爪が伸びてくると察知する。最初のなぶり殺しにしようという気配はなく、目障りな虫を一刻も早く潰してしまいたいという、生理的な嫌悪感を姉が抱えているのだと。
しかし、あの爪の伸縮速度はクリスの反射神経を大きく上回っている。自力での回避は、不可能。
それでも、命がけで逃がそうとしてくれた親衛隊の為に、彼女は避けようとする。
回避が成功する確率は万に1つもない。それを理解しながら、諦めはしなかった。
だから、というわけではない。彼女の足掻きとは、まったく無関係に、世界は動く。
部屋に陽光を取り入れる窓ガラス。それが、『外側』から砕かれた。
「っ!?」
「ぇ……」
動揺する2人の女性。しかし、それでもサーシャ王妃は咄嗟にクリス目掛けて爪を伸ばす。
だが、それは窓を割って飛び込んできた何者かに打ち払われた。
白刃が煌めき、深紅の爪から少女を守る。
黒髪に、青みがかった切れ長の瞳。青地に銀の装飾を施した服と、式典用の赤いマント。手には、親衛隊が儀礼用に佩いている剣。
「クロノ殿……!」
クリスを背中に庇い、剣を構えるクロノ・フォン・ストラトスがそこにいた。
彼は背後の少女を一瞥すると、素早く己のマントを彼女にかける。そしてサーシャ王妃を睨みつけ、低い声でこう告げた。
「お守りします。絶対に」
既に大人の男と言えるがっしりとした肉体に、まだあどけなさの残る顔立ちの少年。
彼に守られ、海の様に碧い瞳を潤ませる金髪の少女。
それはまるで、おとぎ話に出てくるお姫様と騎士の様であった。そう、この国の少女なら、1度は夢見る光景。
「……そう。やっぱり」
サーシャ王妃の、泥の様に濁った瞳に。
「何もかも違うのね。クリス」
初めて、憤怒の色が加えられた。
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