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第百二十二話 竜殺しの勇者達

投稿が遅れてしまい、申し訳ありません。



第百二十二話 竜殺しの勇者達





『GGGGGGGGOOOOOOOOOOッッッ!!!』


 雄叫びを上げ、大地を疾走するラケルタ。


 ブレスによって融かされた雪が水蒸気となって辺りを包み、濡れた地面が勢いよく跳ね上げられる。


 対して、こちらも吶喊。彼我の距離が消えていく。


 相手の巨体に、遠近感が狂いそうだ。先程まで遠くだと思っていたのに、今はもう眼前へとその前足が振るわれていた。


 衝撃波を置き去りにする爪を、上体を前に倒すことで回避。しかし風圧で体が浮き上がり、あっという間に地上が遠のく。


「っ……!」


 地上から約7メートルの高さへと飛ばされてなお、怪物の顔は遥か上にあった。


 その口角がつり上がり、顎が開かれる。ずらりと並んだ牙は、1つ1つが家のように大きい。


 この身を噛み砕かんと迫る大口に、空中で体を思いっきり捻る。回避は不可能。巨体が近づくだけで発生する風圧を浴びながら、牙へと渾身の力で刃を振るった。


 顎が閉じられる寸前で、快音と共に両腕へとビリビリとした衝撃が伝わってくる。目まぐるしく変わる視界が、自分が思惑通り弾き飛ばされたのだと教えてくれた。


 罅の入った両腕の骨を魔力で修復しながら、回転する景色の中でラケルタを捕捉。その姿から上下を推察し、地面へと足を向ける。


 盛大な雪煙が視界を覆い、純白の大地にクレーターができあがった。


 衝撃と痛みに歯を食いしばる。しかし休む暇などない。既に舞い上がった雪煙が引き裂かれ、深紅の柱が横薙ぎに迫ってくる。


 否、これは尾だ。全力で後ろに跳躍し、どうにか回避する。またも風圧でバランスを崩すも、今度は上下に回転することはない。


 尻尾を横に振るったラケルタが、勢いのまま横回転。腰を捻り、上体を跳ね上げて左前脚を振りかぶる。


 上からの叩きつけに対し、再び剣を引き絞った。ギチギチと筋肉が音をたて、柄を握る指が軋みをあげる。


 前足が振り下ろされた瞬間、大剣を全力で振るった。今度は直接当てることはしない。


 切っ先が狙うは、巨大すぎる体躯故に一挙一動で発生する衝撃波。それに斬撃を合わせることで、自身を横方向へと吹き飛ばした。


 木の葉のように、と意識する。人間の中では大柄なこの肉体も、竜からすれば塵芥も同然。


 舞い上がる程に軽い存在を空中で殴りつける技量が、奴にはあるか?


『───GGGGGAAAAAAAAッッ!!』


 苛立たし気な雄叫びが響き渡る。空を切った前足が雪に覆われた地面を打ち砕き、ブロック状に雪の塊が土と共に浮き上がった。


 雪煙を上げながら、着地。そのまま足裏で滑走し、横回転することでエネルギーを逃す。


 ラケルタは止まらない。すぐさま黄金の瞳でこちらを捉え、次々両の前足を振り下ろしてきた。


 それに対し、ひたすら後ろへ跳んで回避する。時折飛んでくる大岩のような雪の塊を切り払い、避け続けた。


 一際強く叩きつけられた右前足が、そのまま地面を抉りながら振るわれる。茶色が僅かに混ざった白い粒子が飛び散り、月光を反射した。


 それもどうにか回避するが、視界が雪に覆われる。直後、現れる巨大な左前脚。


 雪煙を掻き分けて迫る爪に、自分から跳び込んだ。その下を潜り抜けるようにスライディングし、遅れてやってきた衝撃波で浮き上がるのを利用して立ち上がり疾走。


 跳ねるように白い地面を蹴りつけて、勢いのまま左後ろ足へと斬りかかる。


 ───硬い。そして、厚い。


 硬質な音をたて、火花が散る。奴の鱗には、確かに刃が入った。しかし振り抜いた切っ先に血はついておらず、目視で確認するまでもなくラケルタの足が健在であることがわかる。


 眼前でのたうつ尻尾を右に避け、そのまま走り抜けた。音で奴がこちらへと振り返り、右前足を振りかぶっているのがわかる。


 しかし、直後に爆音が響いた。


 艦砲射撃ではない。それよりも遥かに小さな音。視界の端で、雪上を疾走する影が自分以外にもう1つ。


 1頭の馬に2人乗りした近衛騎士達。ジェラルド卿が手綱を握り、その後ろでアリシアさんがグレネードランチャーを構えていた。


 彼女は馬上だというのに、器用に銃身を開いて廃莢。次弾を装填し、ラケルタの顔面へと発射する。


 あの巨体にとっては、何の痛痒もない攻撃。しかし眼球のすぐ傍で起きる爆発を、無視はできないだろう。


『───GGGGGOOOOOOAAAAAAッッ!!』


 背後から衝撃波に乗って、雪煙が津波のように襲ってきた。


 走っていたこともあり、僅かに前へつんのめる。視界を覆う雪煙を剣で切り払いながら、反転。ラケルタへと身体を向ければ、こちらではなく2人と1頭へと奴の視線が注がれていた。


 なおもグレネードを撃つアリシアさんの弾が、竜の鼻先に直撃。爆炎を散らす。


 やはりダメージはないが、ラケルタの瞳に怒りが浮かんだ気がした。


 咆哮と共に標的を切り替え、2人へと駆け出す()()。遠目には遅く見える動きは、しかし城程もある巨体でのこと。気づいた時には、既にアリシアさん達へと追い付いている。


 地面ごと抉り飛ばすように振るわれた前足が、馬を捕らえる刹那。ジェラルド卿が強く手綱を振るった。


 嘶きが、微かに聞こえた気がする。ぼさぼさとした体毛をなびかせ、魔物の血を継いだ馬は加速。緩急によって目測を見誤ったラケルタの爪は空振りし、ただ雪と土だけが舞い上がる。


 噴火のように降り注ぐそれらを器用に回避しながら走る軍馬。その背で、アリシアさんが大きく身を捻り再びグレネードを放った。


 挑発としか言いようのない攻撃に、ラケルタは再び前足を振り上げる。


 だが、それをただ眺めているつもりはない。自分も既に奴のすぐ傍へと駆けよって、左後ろ足へと剣を振りかぶっている。


 鱗を貫通できないのならと、爪の付け根へと全力で大剣を叩き込んだ。ずぐり、と鱗と爪の境目に刀身が入っていき、硬く筋張った肉を裂く。


 ワイヤーを何十本も纏めたような感触。それを強引に断ち切り、剣を振り抜いた。


 盛大に血飛沫が上がる。間欠泉でも掘り当てたような勢いだが、ラケルタの巨体にとっては軽傷とすら呼べまい。


 だが、痛覚はあるのだろう。



 ───GGGGGGGGYYYYYYYAAAAAAAッッ!!??



 脳が揺さぶられ、後ろへ吹き飛ばされる程の咆哮。


 初めて上げられたラケルタの絶叫に、返り血で真っ赤に染まりながら着地して剣を構え直す。


 血で濡れた刀身を睨みつけ、強大な竜は再びこちらを標的として捉えた。


 ただそこにいるだけで雪を融かす高熱を纏った怪物は、雄叫びを上げて疾走する。


 傷ついた左後ろ足を庇う仕草すらない。やはり、この程度では動きに影響はないか。


 憤怒で濡らした瞳で、執拗にこちらを狙う攻撃が続く。家が落ちてきたような爪の斬撃。土石流じみた尻尾の横薙ぎ。薙ぎ払われ、打ち据えられる度に人よりも大きな雪の塊が宙を舞い、こちらはその中を必死に駆け回った。


 さながら、猫とネズミの追いかけっこのようだ。もはや顔へ飛んでくるグレネードも気にならないようで、ラケルタはひたすら自分を追いかけてくる。


 息をつく暇がない。心臓が早鐘を打ち、肺が絞られるような痛みが神経を焦がす。


 舞い上がる雪と土のせいで、どちらが前でどちらが後ろなのか。砲撃じみた攻撃の嵐に、方向感覚が失われていく。


 直感と魔力感知を頼りに回避し続けていれば、長く響く黒色火薬の炸裂音が聞こえてきた。咄嗟に、それを頼りに足を動かす。


 ジェラルド卿がこちらを誘導してくれているらしい。上から横から迫る攻撃を避けながら、ひたすらに走る。


 だが、いつまでも回避し続けられるものではない。


「っ……!?」


 雪煙を引き裂いて迫る、巨大な前足。避けられないと判断し、どうにか剣を盾代わりに掲げた。


 ほぼ同時に、衝突。圧倒的過ぎるウェイト差に踏ん張ることなどできず、吹き飛ばされる。


 視界が真っ暗になったかと思えば、凄まじい衝撃に目を覚ました。視界は白く染まっており、状況がわからない。


「が……ごぼ……!」


 口から何か熱いものが零れ落ちる。ビチャリと鉄臭いものが落ち、そちらを見れば赤色が白い地面を汚していた。


 遅れて、左腕に激痛が走る。剣腹に添えた腕は歪に折れ曲がり、厚手のコートを突き破って白いものが突き出ていた。


 そうか。ラケルタに殴り飛ばされ、宙を舞い……地面に叩きつけられた、と。


 どこか他人事のように思考し、再び意識が落ちかける。だが、右手首に感じた重みで引き戻された。


 剣を手放すまいと、鍔と巻いた紐。反射的に柄を握りしめ、切っ先を雪の地面に突き立てて杖代わりにする。


 振動が足元から伝わってきた。ラケルタが、こちらへ迫っている。奴の歩幅ならあと数秒もない。


 立て。立ち上がれ……!


 歯を食いしばって膝を伸ばし、雪を踏みしめた。そして、倒れ込むように駆け出す。


 背後で轟音が響き、衝撃波に後押しされて加速。剣を担ぐような体勢で、必死に足を動かした。


 魔力を操り、千切れた神経と筋繊維を強引に繋げ治す。主な損傷は、内臓と左腕。その過程で突き出た骨を引き戻し、元の場所へと固定。


 傍目には逆再生に見える工程が、気が狂いそうな程の痛みを訴えてくる。涙が出てきそうな激痛だが、おかげで気絶せずに済んだ。


「はっ……はっ……!」


 呼吸を荒げながら、視線を動かす。


 目的の場所を探しながら、音を頼りにラケルタの攻撃を回避。左右へとジグザクに跳ねまわり、時には横へ体を大きく傾け剣を地面に突き立てながら急旋回。


 必死に視線を動かしていれば、掌の上に魔法で炎を灯した騎兵を見つける。


 ジェラルド卿が、数百メートル程先で腕を大きく掲げていた。


 ───あそこか。


 そちらへと一直線に駆け出した自分に、彼も遠くへと馬を走らせる。背後から地響きがする中、振り返らずに彼がいた場所へと駆けた。


 あと少し。あと、少しで……!


 ぐんぐんと目標地点へと迫る中で、ぞわり、と首の後ろに冷たいものを感じ取る。咄嗟に跳躍すれば、先程まで自分の足があった場所に巨大な赤い前足が突き立っていた。


 衝撃波で体が流され、そこに雪の塊がぶつかってくる。


 小屋程のサイズがあるそれは、まるで岩のように硬かった。それに殴りつけられ、大きく吹き飛ばされる。


 数メートル程いった所、雪上を転がりながら着地。すぐさま跳ね起きれば、眼前にラケルタの巨体がやってきていた。


 もう逃がさないと両の前足が自分の左右を踏みしめ、巨大な顎がギチリと開かれる。


 このまま噛み殺すと、視線と体勢で伝えてくるバケモノ。自身に痛みを与えた存在への制裁を加える為か、はたまた数千年前の『誰か』に封じられた雪辱を果たす為か。


 もはやこの身しか視界に映っていないラケルタを睨み返し、両手で腰だめに剣を構える。


 回避は不可能。迎撃は可能か、否か。受け流せる確率は正直低い。


 そんな思考をすぐさま脇に押しのけて、ある確信をもって行動する。


 回避も迎撃も不要。ただ、


 ───衝撃に備えよ。



 ドォォォォンンンン……ッッ!!



 間延びするような黒色火薬の音。それとほぼ同時に、轟音がすぐ近くで鳴り響いた。


 グレネードの音が、玩具のソレに思える『砲声』。だが、それさえかき消す様な。



 ───GGGGGGYYYYYAAAAAAAAッッッ!!!



 絶叫が、木霊する。


 衝撃で足元が大きく揺れ、僅かに遅れて滝のように血が降り注いだ。


 バラバラと砕けた鱗が散らばる中、遠くに硝煙の煙を見る。


 ───ボォォォォォ……!


 汽笛を鳴らし、存在を誇示する真っ白な軍艦。2隻の砕氷船がこちらに側面を晒し、合計12門の砲門をラケルタへと向けていた。


 川幅が特に広く、それでいてこのバケモノの移動ルートから1番近い場所。それが、ここであった。


 ゆっくりと倒れ込んでくるラケルタの巨体から逃れ、奴の下を潜り抜けてもと来た地面へと向かう。


 そうしている間も、次の砲撃が行われた。まったくもって、うちの婚約者は容赦がない!


 轟音が響き、再び絶叫が大気を揺らす。ある程度離れた所で振り返れば、ラケルタが倒れ伏す瞬間であった。


 雪煙が上がり、血の池が広がっていく。


 投石機すら防いだ鱗は見るも無残に打ち砕かれ、強大な竜の頭は左半分を失っていた。


 それ以外にも前足の付け根に、脇腹、後ろ足の関節が大きく抉れている。特に左前足の付け根は、骨だけで繋がっている有り様だ。


 間違いなく致命傷。血の通った生物がこれだけの傷を負って、生きていられるはずがない。


 ない、のだが。


『……GO……ォOOOOO……ッ!!』


 そんな常識は、通じないらしい。


 滝のように流れていた血が、止まる。ボコリと肉が盛り上がり、竜は四肢でもって再び立ち上がった。


 再び砲撃が行われ、その巨体を穿つ。当然のようにぐらつき、血を噴き出すバケモノ。


 だが、まだ倒れない。鱗の隙間から金色の光を放出し、体内の魔力を口腔へと集束させる。


 その瞳の先には、2隻の砕氷船。自身を殺しうる存在に、ラケルタは全神経を集中させる。


 砲撃が止まった。自動装填なんて機能はない為、今大急ぎで次弾を詰めている所だろう。


 それが間に合うかは、一か八か。いいや、恐らく間に合わない。


 127ミリ口径の砲撃ですら、即死しない怪物。なるほど。かつては神と崇められ、その後も化け物と呼ばれていきただけはある。


 ───しかし、ルベル・ラケルタよ。


 貴様は、あの馬に乗っていた()()()()が、今どこにいるかを少しでも考えたか?


 奴の発する熱量に足元の雪が蒸発し、その下にある物までが融けていく。


 そう、硬く厚い、()()()()さえも。


 遠く離れた場所で、親衛隊の少女が魔法で合図を出した。宙に上がった火の玉が炸裂し、それに合わせて真っ白な服を着たケネス達が一斉に走り出す。


 瞬間、幾つもの爆音が響き渡った。


 地面が、否。地面だと思っていた氷が、打ち砕かれる。ブレスを中断したラケルタが咄嗟に飛び退こうとするも、もう遅い。


 ゲーマウス伯爵がどれだけの時間を稼いでくれたのかは、知らない。


 だが、作戦開始直前に準備が終わったのは、間違いなく彼とその手勢のおかげであった。


 ───GGGGGGGGOOOOOOAAAAAッッ!!??


 ラケルタの絶叫が、大河へと飲まれていく。


 大渦を起こしながら沈んでいくバケモノの巨体。藻掻くように突き出された前足も、すぐに見えなくなった。


 奴を誘導したこの場所は、凍り付いた大河の上。その各所に穴を開けて火薬の入った鉄の缶を詰め、一斉に起爆させたのだ。


 ラケルタを圧倒的強者たらしめていた、巨体。それ故に、奴は水中へと引きずり込まれる。


 寒さに弱いあの『でかトカゲ』が、この極寒の大河の中に放り込まれて無事で済むものか。それも、いかに奴とて致命傷としか思えない傷を負っている。


 遠くから、喝采が聞こえてきた。船の上から、そしてケネス達から。


 彼らの歓声が響く中、自分の視線は自然と前方にある大河へと引き寄せられていた。


 ……まさか。有り得ない。有り得るはずがない


 そんな自分の内心をよそに、暗く冷たい水が、ボコボコと泡立っている。それは、ラケルタの酸素が漏れ出ているからか?


 ───違う。


 瞬間、熱線が天を貫く。猛烈な水蒸気が辺りを包み込み、視界を覆い尽くした。


 衝撃波と熱に、自分も目を開けていられなくなる。それでも火傷で死なずに済んだのは、魔力が浸透した肉体故か。


 どうにか踏ん張り、剣を薙ぎ払う。


 開けた視界の中、巨大な赤い前足が地面を鷲掴みにした。


 ズシリと、足元が揺れる。雪が散らされて露出した濡れた地面に、白い爪が深々と食い込んでいた。


 盛大な水飛沫を上げて、強大な竜が姿を現す。



 ───GGGGRRRRRRUUUUUUUAAAAAAAッッッ!!!



 流した血を凍り付かせ、今も吹きすさぶ冷たい風に滴る水を氷柱(つらら)に変えながら。


 ルベル・ラケルタは、かつて神と呼ばれた怪物は、雄叫びを上げた。


 金色の奔流が、鱗の隙間から発せられる。表面を覆っていた霜が瞬く間に消し飛び、口腔に膨大な魔力が掻き集められていった。


 狙う先は、砕氷船。片方の船から砲撃がされ、ラケルタの頭に1発が着弾する。


 飛び散る肉塊。雨のように降る血潮。今度は右側の頭を吹き飛ばされ、眼球も潰れたはず。


 だが脳みそを剥き出しにした竜は、未だ砕氷船へとブレスを放とうとしていた。


 奴は、もうじき死ぬ。だがその数秒前に、自身を討った存在を道連れにする気だ……!


 発せられる熱に肌を焦がされながら、走る。アレを撃たせてはならない。砕氷船には、彼女が乗っている。もはや家族と呼ぶべき、あの人が……!


「■■■■■■■───ッ!」


 雄叫びを上げて、ひたすらに足を動かした。


 だが……だが、間に合わな………ッ!?


 ラケルタが、僅かに()()()()気がした。発射されるはずの魔力が乱れ、コンマ数秒の猶予が生まれる。


 それが───自分を、間に合わせた。


「■■■■■■───ッッ!!」


 全力で、跳び上がる。勢いのまま剣を振り上げ、ラケルタの下顎に刀身を叩き込んだ。


 鱗が剥がれた顎へと大剣が食い込み、しかし止まる。まだだ、まだ!


 左の拳を握りしめ、刀身の背へと叩き込む。手袋は当然のように破れ、肉が裂け、指の骨が刃を殴りつけた。


 魔剣が、押し込まれる。


 下顎が、持ち上げられた。


 反動で地面に落ちながら、目撃する。


 上を向いた状態の竜が、口腔でブレスを炸裂させる瞬間を。半壊した頭部が内側から完全に打ち砕かれ、熱線がバラバラに乱れて空に向かっていくさまを。


 重力に引っ張られながら、全身から発せられていた激痛から現実逃避するように、ある疑問が浮かんできた。


 ───何故、あの時ラケルタはブレスの発射が遅れたのだろう?


 喉には砲弾を受けていなかったはずなのに、奴は魔力の流れを鈍らせた。


 ぼすり、と。思ったより衝撃が強かったのか、雪のある場所まで飛ばされ、背中から着地する。


 白い大地に横たわったまま、ある考えが浮かんだ。


 可能性としては、かなり低い。ただの妄想と言って良いだろう。


 だが不思議と、確信があった。


「……お見事です。ゲーマウス伯爵。そして、勇者達」


 あの老貴族と300人の手勢が、一矢報いたのだ。満身創痍となった竜が、土壇場で無視できない傷を残したのだ。


 上体を地面に投げ出し、地響きを上げるケモノの死体を遠目に。


 自分もまた、意識を投げ捨てた。







読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
てっきり、倒し切れずに帝都で伝説の武器を手に決戦になるかと思ってたらまさかの無観客のまま勝ちきってしまうとは。
急速再生は任意回復で咽喉の傷は傷と認識してなかったから放って置かれて、砕氷船へのビームはクロノに売ったビームより威力が高かったから砕氷船の時はえずいたのだろうか まぁ、とりあえずクロノの救出はよ
アカムトルム戦ぐらいのスケール感かしら
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