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第百十八話 目覚めの声

第百十八話 目覚めの声





「ふっふっふ……わかるぞ、人竜よ。突然このような申し出をされ、怪しんでいるのだろう?」


「それは……まあ」


 困惑するこちらに、不敵な笑みを浮かべるモルステッド国王。


 そんな中、アリシアさんが鎧を纏っているはずなのに音もなく歩いていく。


「だが、俺や俺の孫がいる時点で、どのような罠があっても関係ないはずだ。いかに今のモルステッド王国が王への畏怖と敬意を失っているとは言え、大ぴらにこの首が落ちるような真似はできん」


「……そう、ですか」


 余裕のある態度だが、彼の目には焦りが浮かんでいた。


 これでも父上から領主としての教育は受けている。だが気になるのは、悪意や敵意は感じられないことだ。


 どちらかと言うと……。


「故に!俺と俺の家族を拘束し、連れて行くが良い!何があっても俺を盾にすれば、罠など関係ないだろう!」


 溺れている人間が、藁にも縋る思いで手を伸ばしているようだった。


「若様……どうしますか?全員殺して首だけ持ち帰った方が楽ですが」


 後ろにいるストラトス家部隊の1人が、そう囁いてくる。


 この騎士の言う通りだ。自分達は王都の制圧ではなく、帝国への恐怖を刻み込む為に来ている。国王とその家族の首だけでも、十分のはずだ。


 だが……。


「じーじ?」


「おーよしよし……大丈夫だ……大丈夫だからな……!」


 舌足らずな声で、モルステッド国王を見上げる幼子。それを必死に元気づける姿は、ただの人間にしか見えなかった。


 倒すべき敵でも、立ち向かうべき怪物でも、戦士として敬意を払うべき英雄でもない。


 ごく普通の、家族の為に頑張る『誰か』であった。


 剣が、重い。指から離れてしまいそうな程に。


「……条件があります」


「聞こう。王冠でも渡せば良いのか?」


「いいえ。色々と聞きたいことはありますが、時間がないので必要最低限だけ質問します」


 城の前で退路を確保してくれている部隊を、長く待たせるわけにはいかない。質で勝っていても、ここは敵地のど真ん中。王都中の兵士が集まってくれば、ケネス達も耐えられないだろう。


 何故モルステッド国王がこんな決断をしたのか、謎しかない。それは、ハーフトラックの中で聞くとしよう。


「そこにいるシュヴァルツ卿と共に、あなた方は宝物庫に。どのような形であれ、王族をお連れするのなら生活に必要な物があるでしょう。それを持って行ってください」


 この遠征で、莫大な金額を消費している。かといって略奪をする時間もなければ、その味をストラトスの兵士達に覚えさせたくもない。


 故に、彼らの『生活費』を持っていく。その中から、ストラトス家やゲーマウス家への『手間賃』を報酬としてもらうだけだ。


「その間に、僕は罪人の確保に向かいます」


「罪人?」


「───フリッツ皇子のご家族。その所在をお教え願いたい」


 こちらの問いに、モルステッド国王は一瞬面食らった顔をした後。


「良いだろう。俺は今、どんな質問にも答えるぞ」


 力強く、頷いた。


「ところで、縄で縛るぐらいしたらどうだ?俺達はお前達に連れ去られるのだぞ」


「あ、それはもうシュヴァルツ卿がやりましたので」


「え?なぁ!?」


 モルステッド国王が、自分の体を見下ろして絶句する。


 当たり前だ。彼の両腕ごと胴に縄が巻かれ、手首もガッチリと縛られている。王太子妃も同様だ。


 本人達に気づかれず、こうして途中経過を見ていた自分すらもうっかり見落としそうだった程、自然な動きであった。近衛騎士の捕縛術は、随分と特殊である。


 抱えられていた赤子と、手を引かれていた幼子を連れて、アリシアさんが自分の隣に戻ってきた。


「行くんすね?」


「ええ」


 うちの兵士達に子供達を預けたアリシアさんに、頷く。


「修道院送りになる罪人達を、捕えてきます」



*     *     *



 モルステッド国王に教えられた場所へ、立ちはだかる敵兵をなぎ倒しながら進む。


 数分もせず、5階にある目的地へと到達した。


「失礼します」


 ノックもなしに扉を蹴破る。壁に誰かが背を張り付けて、待ち構えているのは魔力の流れで把握していた。


 入室した自分の顔面へと振るわれた燭台を屈んで避け、攻撃してきた人物の顔を視認する。


「……なるほど」


 下から顔を覗き込むこちらに、その人物は悲鳴を上げた。


 まあ、返り血まみれの鎧の男にそんなことをされたら、誰だって怖いだろう。


「ひ、ひいい!?」


 真っ青な顔をして、その男性は燭台を手にしたまま後ずさった。


 綺麗に後ろへ撫でつけられた茶髪に、恰幅の良い体つき。しかし、頬は僅かにこけている気がする。


 口髭もあって、実年齢より随分と上に見える青年。その姿は、フリッツ皇子を若返られせたようだった。


「こ、こ、この痴れ者めぇ!わ、わた、私が相手だぁ!」


「じゃ、『ジャクソン』!無茶は……!」


「母上は下がっていてください!わ、私とて、皇族……!多少の、剣の覚えは……!」


 素人でもわかる程、腰が引けているジャクソン様。その後ろには、フリッツ皇子の奥方と、彼の奥方。彼女は、2人の子供を自分から庇うように抱きしめている。


 ……なんでこう、剣が重くなるような相手ばかりなのだ。


 兜の下でげんなりとしながら、取りあえず燭台を彼の手からもぎ取る。


「ぬぁああ!?な、なんという手練れ……!し、しかし私は徒手格闘でも、その……強いぞ!」


「私はストラトス家当主、クロノ・フォン・ストラトスです」


「え?あ、どうも……」


 反射的に会釈してきたジャクソン様に、喉まで上がってきたため息をどうにか飲み下す。


「あなた方には、帝国への国家反逆罪の疑いがあります。よって、この場にて拘束。帝都にて裁判を受けて頂きます」


「な、なんと!?というか、え、何がなんやら」


「抵抗なされた場合、こちらも武力行使をしなければなりません」


 剣を床に突き立て、燭台を両手で捩じる。


 金属製のそれをボール状に丸めて、ジャクソン様の顔の横を通るように壁へと投げつけた。


 轟音が響き、子供達が悲鳴を上げる。


 ……罪悪感が凄いが、僕はストラトス家の当主だ。当主なのだ。


「ひぇ……」


「どうか、冷静な判断を」


 剣を引き抜いた自分に、ジャクソン様が腰を抜かしかける。彼の腰を左手で支え、刀身を首筋に近づけた。


「生憎と時間がございません。返事をお聞かせ願いたい」


「……し、従いまひゅ……!?」


 顔から出るもん全部出しながら、震えた声でそう告げるジャクソン様。


 彼をフリッツ皇子の奥方に預け、蹴破った扉の方へと向き直る。


「いたぞ!人竜だ!帝国の化け物だ!」


「人質を連れ去る気だぞ!諸共殺せぇ!」


 容赦なくクロスボウを放ってくる敵兵の攻撃を鎧で受け、踏み込む。


「子供達は!」


「ぎっ」


 正面の兵士を縦に両断し、続いて隣の兵士の頭を握りつぶす。


「目と耳を塞いでいるように!お願いします!」


「は、はいぃぃぃ……!」


 彼らにとって血生臭い里帰りになってしまうが、そこは勘弁してもらおう。


 こちらとて、本音を言えばフリッツ皇子の家族なんぞ助けたくない。だが、これもクリス様の為である。


 地獄への片道切符を強引に買わせてしまった少女の心が、少しでも救われる為に。彼らには無事に帝都へと帰ってもらわねばならない。


 仲間の死体を見て、逃げ出す者と立ち向かおうとする者がひしめく廊下。


 そこを進みながら、適当に近くの壁を粉砕しながら吠える。


「道を空けよ!今の自分は……かなり機嫌が悪い!」


 立ち向かってくるのなら是非もない。


 戦士相手なら、剣はいつも通り少し重い程度なのだから。



*    *     *



 正面玄関に戻れば、大量の金銀財宝をハーフトラックに載せているアリシアさん達がいた。


「おお、クロノっち。特に心配はしていなかったっすけど、無事で何よりっす。ついでに、『重要参考人』達も確保したんすね」


「ええ。参考人というか、普通に罪人だと思いますけど。さ、乗ってください」


 金貨やら何やらを載せたハーフトラックの荷台に、フリッツ皇子のご家族も押し込む。


「それで、そちらは……なんというか、随分とたくさん持ってきましたね」


 想定の5倍はある財宝に、ちょっと引く。普通の兵士や騎士では、これを抱えて戦闘は無理な重量だろうに。


「いやぁ、途中からまぁじで敵兵がいなくなっていたんで!つい欲張っちゃったっす!」


「……一応言いますが、貴女の懐へは銅貨1枚も入りませんからね?」


「にゃん……だと……!?」


 いや、だって貴女あくまでクリス様の面目の為に同行した親衛隊だし。この財宝はモルステッド王家の生活費から出される、自分達への『手間賃』という名目にこれからする予定だ。


 流石に、近衛騎士が他国の王族から『手間賃』を貰うのはまずいだろう。


 それがわかっているだろうに、無駄にオーバーリアクションする似非ギャル騎士。そんな彼女を無視し、縛られたままのモルステッド国王達に視線を向けた。


「ほれ。その財宝について、一筆書いておいたぞ。まったく、普通に略奪していけば良いものを……」


「申し訳ありません。こちらにも、事情がありますので……」


「まったく……床を机代わりに何かを書いたのは、子供の頃以来だ」


 呆れた顔のモルステッド国王から、1枚の羊皮紙を受け取る。


 迫る敵兵へ放たれる銃声が響く中、彼は視線を自身の家族に向けた。


「……この者達を頼む。どうか、帝都の安全な所へ連れて行ってくれ。モルステッド王国を支配する際に、重要な駒となるだろう。命を奪うような、軽率なまねはしてくれるなよ」


「……その判断は、自分にはしかねます。ですが、『手柄』として帝都へは慎重にお運びしますよ」


「そうしろ。俺は……ここに残る予定なのでな」


 国王が、小さく肩をすくめた。そしてこちらに一歩近づき、家族に聞こえないだろう声量で続ける。


「別にこの首を刎ねていくのは構わん。孫達の見えない所でならな。しかし生きて連れて行くというのなら、自害するつもりだ。これでも……王だからな」


 力のない、気の抜けた声。


 それでも不思議と耳に残る声で、彼は笑う。


「はは……まったく、親父もとんでもないものを遺していったものだ……」


「……貴方は」


「ストラトス伯爵!」


 城の中から、ゲーマウス伯爵達が駆け出てくる。


 しかし、ジェラルド卿がいない。この程度の戦場で彼がやられるとは思えないが……。


「ゲーマウス伯爵。ご無事でしたか」


「なんの……これしき……!」


 息も絶え絶えといった様子で、肩で息をする老貴族。


 彼はノロノロと縛られている国王やその家族を見て、剣を杖代わりにして項垂れる。


「ぬぅぅ……!最高の手柄は、ストラトス伯爵に持っていかれてしまったか……!」


「いいえ。これは我ら共同の手柄です。さあ、凱旋するとしましょう。モルステッドを殴り倒した、勇者として」


「……すまぬ」


 彼の手を取って、きちんと立たせる。そこへ、ケネスの悲鳴とも怒声ともとれる声が聞こえてきた。


「若様ぁ!そろそろ王都守備隊が体勢を整えて向かってきます!俺達だけでは抑えきれません!御身が暴れないのなら、撤退を!」


「……わかりました!」


 大声でそう返す。


 いっそ、このまま王都の兵を一掃してやろうか。


 そんな思考がよぎるも、すぐさま捨て去る。現実的な策ではない上に、どうにも嫌な予感がしてならなかった。


 何故、モルステッド国王がこのような決断をしたのか。何故、足元からずっと奇妙な魔力の流れを感じているのか。


 じわじわと滲み出る疑問が、形を成していく。


 ここにいれば、死ぬ。そう自分の直感が告げている気がした。


「各員、ハーフトラックに乗り込め!殿は僕が務める!ゲーマウス伯爵も、お早く」


「なんの!儂も一緒に……!」


「貴方はもう十分働きました。家名を守るには十分なはず」


「……すまぬ!」


 言葉を選ばないのなら、乱戦だと彼は足手纏いだ。ゲーマウス伯爵は、恐らく後方で魔法を使う戦い方以外を知らない。


「そうだ、ジェラルド卿!?」


「彼ならば、馬を確保しに行った。必要になるだろうと」


「……わかりました」


 ジェラルド卿ならば、1人でも大丈夫だろう。その戦いぶりはこの城で少し見ただけだが、立ち振る舞いからアリシアさん以上の実力者である可能性が高い。


 シルベスタ卿と同等か少し下程度の腕ならば、放っておいても生きて帰るだろう。


「モルステッド王家の皆様も、お乗りください。あまり乗り心地は良くないでしょうが」


「お前達。彼の指示に従え。さあ、あそこに乗るんだ」


 フリッツ皇子のご家族が乗るハーフトラックに、王太子妃やその子供達が乗り込む。


「じーじ?じーじは?」


「……じーじはな。ちょっとお仕事があるんだ」


「やだ!じーじ!」


 何かを察したのか、手を伸ばす幼子。それを、王太子妃が抱きしめる。


 義理の娘と孫達に縛られたまま手を振る彼の縄を、取り出したナイフで切った。


「……良いのか。俺の首は、そこそこの値打ちがすると思うぞ」


「手柄を上げ過ぎると、それはそれで面倒なことになりますので。貴方の首は、重すぎる」


「そうか。まさか、人竜にそこまで評価されるとはな!」


 豪快に笑うモルステッド国王から、目を逸らす。


 そろそろ防衛していた兵達もトラックに乗りこむはずだ。自分は殿に立たねば。


「……おさらばです」


「応ッ!もしもまた会ったら、俺の家臣にしてやる。その時を楽しみにしていろ!」


 彼のことは、全くと言って良い程に知らない。同情や善意で、戦場で何かをしてやろうと思える間柄ではない。


 ここで首を獲ってしまうと、ストラトス家の手柄が増え過ぎるというのは本当だ。これ以上は、いらない。功績もあり過ぎれば重荷になる。


 それでも敵国の王を生かして解放するのは、彼がもう……。


「すぅぅ……■■■■■■■───ッ!」


 溜まりに溜まった鬱憤を晴らすように、雄叫びを上げる。


 近くのハーフトラックが僅かに揺れるのを横目に、グレネードを放つケネスと入れ替わりで前に出た。


「殺せぇ!敵を全員殺すのだ!国王が巻き込まれても構わん!代えはいる!」


 そう叫び、部下達の後ろで剣を振り回す王都守備隊と思しき男。


 降り注ぐ矢の雨を蹴散らし、展開された槍衾を切り開いて、彼の眼前へと躍り出る。


「なっ」


 その口がこれ以上何かを言うより先に、掲げていた腕ごと首を切断した。


 続けて近くの騎士や兵士を、回転切りで纏めて切り刻む。彼らの腕や首が宙を舞い、血の雨を降らせた。


「ぎ、ぎゃあああああ!?」


「俺、俺の腕ぇ!?」


 絶叫を耳にしながら、がむしゃらに敵を切り裂いていく。


 戦車を先頭に撤退が開始し、壊れた城門の代わりに積まれていた土嚢を蹴散らして車両の列が進んでいった。


「お、追えぇ!逃がすなぁ!」


 城へと戻っていくモルステッド国王の背を気にした様子もなく、王都守備隊が叫ぶ。


 だが、そんな彼らは車両を追いかけるでも、国王の安全を確保しに行くでもなく、別の方向へと駆けて行った。


 厩舎に馬でも取りに行ったのか。その後、どこへ駆けていくのやら……。


 もはや彼らに用はないと、命令に従う敵兵のみに襲い掛かる。その首を刎ね、あるいは心臓へと貫手を放って絶命させた。


 連携も何もない反撃を鎧で受けきり、蹂躙していく。戦意を挫く為、敵の目をこちらに引き付ける為、雄叫びを上げながら。


 王都守備隊の騎士達とは違い、兵士達は優秀らしい。彼らは仲間の屍を踏み越えて、続々と槍を手に向かってくる。


「俺達の故郷を守れ!」


「人竜に王都を燃やさせるな!」


 そう叫びながら向かってくる彼らを、薙ぎ払っていく。


 頭上から打ち据えようとしてくる槍を切り裂き、胸へと突き出された穂先を胴鎧で受け流して、手近な者の首へと刀身を叩き込んでいった。


 狂ったように向かってくるモルステッドの兵士達。既に3桁を超える数切り捨てたが、途絶える気配はない。


 だが、そろそろハーフトラックやスチームタンクも王都を出る頃だろう。自分も脱出を……。


「───ストラトス伯爵!」


 そんな声と共に、向かってきていた敵兵の一部が蹴散らされた。


 モルステッドの兵士から奪ったのであろう槍を手に、毛がぼうぼうに生えた軍馬を駆ったジェラルド卿が現れる。


「後ろに!」


「感謝します!」


 すぐさま彼に頷き、駆けている馬の後ろに飛び乗った。


 鎧の分かなり重いはずだが、この馬はびくともしない。ろくな馬鎧もつけていないのに、突き出される兵士の槍を毛皮で防いでいる。


 前世でばん馬をテレビで見たことがあるが、それよりも大きい。冬毛に覆われた姿は、どこかガルデン将軍の愛馬を彷彿とさせる。


 かなり魔物の血が濃い軍馬だ。自分達を乗せていながら、あっという間に兵士達の包囲を突破して彼らを引き離してしまう。


「ジェラルド卿、この馬は!」


「厩舎から拝借しました!貴方が『余計な荷物』を持っていくと思っていたので、その分足が他にも必要かと思いましてね!」


 彼は答えながら、手に持っていた槍を立ち塞がろうとした兵士に投擲する。


 自分も大剣を振るい、前からやってきた兵士達が間合いに入り次第切り伏せた。


「俺、馬の扱いなら帝国で誰にも負けない自信があるんすよ!乗りこなせないのはコープランド卿だけっすから!」


〈ブルルル……!〉


 耳の後ろをカリカリとされて、気持ち良さ気に鳴くモルステッドの馬。


 初対面の軍馬を、こうも懐かせるとは……。


「って、コープランド卿を馬扱いしましたか!?先輩ですよね!?」


「あ、これは内緒でお願いしまーす!あの堅物クソ真面目に、蹴り殺されたくないんで!」


「……貴方、実はアリシアさんの従兄妹じゃなくって御兄妹だったりします?」


「それはマジで勘弁してください!俺は人類なんで!まあ、普通の従兄妹よりは血の繋がり濃いですけど!」


 そんな馬鹿な会話をしながら、王都の脱出を目指す。


 あっという間に、先に出発したはずの車列の最後尾に追いついた。


 大半の兵士は王城に向かっていたらしく、これ以上立ち塞がる者はいない。


 自分達は、モルステッドの王都を脱出した。


「…………」


 王都を出れば、すぐに雪で覆われた地面が出迎える。いつの間にか空は曇っており、今にもまた雪が降ってきそうだった。


 ちらりと、背後を振り返る。崩れた城門と、クレーターだらけの城壁。その奥に見える、罅割れた石畳の地面。


 人々が平和に過ごしていたであろうそこは、今はシンと静まり返っている。士気の高い兵士は王城で屍となり、そうでない者達は建物の中でじっと息をひそめていた。


 そんな静かな王都に。



 地響きが、轟いた。



 ───ズン……!


「っとぉおお……!?」


 慌てて手綱を握り直すジェラルド卿。前方の車両も、僅かに隊列が乱れる。


 地面が揺れていた。それは段々と強さを増し、誰も彼も走っていられなくなる。


 ハーフトラックの1台が、横転しかけて急ブレーキを踏んだ。それに合わせて、後方の車両が動きを止める。


 辺りに雪煙が舞う中、自分達も馬を止め揺れに耐えた。


 そうしながら、王都へと視線を向ける。


 ガラガラと、地響きの音に混ざり何かが崩れる音が聞こえてきた。それは王都を囲う城壁からであり、その内側の街からであり。


 遠目にもその姿を見ることができる、王城から響く音であった。



 ───GGGGGGGGOOOOOOOOOOッッッ!!!



 それら全てを掻き消して。



 強大な何かが、目覚めの声を上げる。






読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
飼ってたゴジラが目を覚ましたって感じかな? 国王は手綱を握るテイマー的な役目だったけど、もうその資格をなくしたとか? クロノ君がなんもしなくても国が滅びそう。
なんか新年早々リアルでもこんな感じのことが起きててなんも言えねぇ・・・
道産子じゃなくて、ばん馬じゃないかな。道産子は小さいよ。
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