第八十四話 捕食者はどちらなのか
※今話は6割ぐらいちょっとエッチな話で、全体的に下ネタ多めです。そういうのが苦手な方は、読み飛ばしてください。それでも大丈夫な構成にしてあるつもりです。
『わたしは一向にかまわんッッ』という方は、どうぞお読みください。
第八十四話 捕食者はどちらなのか
浴場で湯浴みをさせられた後、バスローブ姿で連行された先。
そこは自分の寝室なのだが……いつもと違い過ぎて、そんな気がしない。
よく掃除された床に散らされた、バラの花弁。少しだけ暗くなるように調整された、燭台。
何より、ベッドの前でズラリと並んだ5人の女性。それぞれ色違いのネグリジェ姿なのだが、生地が薄くこの明るさでも普段見えてはいけない場所が見えてしまっている。
「では、ごゆっくり」
目を閉じた状態で笑いながら、そう言って扉を閉めるケネス。
そして扉の前に陣取ったグリンダが、ピンと背筋を伸ばし、その爆乳を張りながらニッコリと笑う。
「では若様。私は今回サポートに徹しますので、彼女らと貴族のお役目を果たしてくださいませ」
「ムードという言葉をご存じ???」
同じ部屋に雌雄いれたら繁殖するとか、ハムスターちゃうねんぞ?
いや、騎士達からしたら競走馬の交配かもしれんけども。
「若様」
「はいぃ!?」
ベッドの前にいた5人の女性から声をかけられ、肩を跳ねさせる。
それぞれ違うタイプの美人で、背の高さもまちまち。胸の大きさもまちま……いや、何を考えているのだ、自分は!?
中央の人、アリシアさんやクリス様並のをおもちだな、とか。右端の人、たしか10年近くうちの屋敷で働いているはずだけど中学生にしか見えないよな、とか。
それぞれの胸の大きさや形を、無駄に高い動体視力で測定している場合ではない!
代表するように、中央の人が1歩前に出てきた。というかこの人、たしかルーナさんだっけ?姉上と同い年で、アレックスのお孫さんだったはず。
名前と顔を薄っすら覚えているだけの、美女。そんな人の裸に近い格好に、顔が熱くなるのを自覚する。
というかこの人、隠れ巨乳というやつだったのか……思ったよりでかい。
ルーナさんは、長い黒髪を夜会巻きにし、柔らかく笑みを浮かべながらメイドらしく楚々とした仕草で一礼する。
それに倣って他の人達も頭を下げてくるのだが、自分からすれば谷間を強調しているようにしか思えない。
「本日は、若様の血を我らの家に分けて頂けると聞き、参上しました。我ら5人の内、特に気に入った者だけでも構いません。どうか、ご慈悲を頂きたく思います」
「よろしくお願いします」
揃ってそう頼んでくる彼女らに、頭を横に振って理性を引き戻した。
自分は、決して理性の強い方ではない。鉄未満紙粘土以上の理性である。たぶん木材。なんの木かは不明な理性強度だ。
しかし、父上から領主の座を継ぐ身。ここは毅然とした態度を示さねば。
なにより、今はこんなことをしている時ではないのではないか?アイオン伯爵領にいたという、謎の傭兵部隊。オールダーとの国境の状況。魔女裁判への準備。やることは山ほどある。
決して!『全員で、お願いします!』とか叫びながらダイブしてはならない!自分はお猿さんではなく、人間なのだ!
「最初にお伝えします。それぞれ、お家の為と家族から送り出されたのでしょう。しかし、自身の意志に反して僕と閨を共にする必要はありません。ご家族にはこちらの方から話をつけますので、心配しないでください」
「……私共では、興奮できないということでしょうか」
「そんなことはありません」
むしろやばいです。今魔力制御で必死に抑えているので、話を長引かせないでください。
土俵際です。今理性が土俵際なんです。本能のツッパリ連打で押し出される寸前です。
「全員、とても魅力的な女性です。だからこそ、御自分の未来を狭めないでほしい。思考を自動化せず、己の意思で決めてください」
「若様……」
「これからのストラトス家は、それができるよう変わっていきます。僕が、変えます。何年かかるかはわかりませんが、それでも───」
「若様」
がっちりと、肩を掴まれた。
ルーナさんに。
「脱げ」
「 」
僕、次期当主だよね……?
いつの間にか他の4人も近づいており、真顔でこちらを見ている。
「お気遣いはありがたく思います。しかし、余計なお世話です」
「私達は待っていたのだ!この日、この瞬間を!」
「ふぅぅ……!ふぅぅ……!」
「私の年齢知っていますか?知っていますよね?フラウ様と同い年なんですよ?遠方の友人や、有力商人や他家の騎士に嫁いだ人がですね。結婚の苦労話や子育てについて語るのを、どういう気持ちで聞いていたと思います?ねえ?」
「若様はお優しいのですね……。かまととぶってんじゃねぇぞ雄ガキが」
壊れたブリキ人形のように我ながらぎこちない動きで、グリンダに振り返る。
彼女は、それはそれは綺麗な笑みを浮かべていた。
「あの、グリンダ……?」
「若様。これが、騎士家の娘というものです。私が普段聞かされていた愚痴やプレッシャーが、お分かりになったでしょうか」
「いや、その」
「皆さん。私が保証します。押せばやれますよ、その人」
「グリンダ!?」
「では失礼して」
「大願が果たされる時!いざっ!」
「ふぅぅぅぅ……!ぬふぅううう……!」
「遂にこの時がきたのですね……!フラウ様にも春がきて、とうとう私だけが置いていかれると思っていましたが……やっと、あの疎外感と焦燥感から抜け出せる……!」
「きゃっ♡これが殿方の裸なんですね♡いやらしい体しやがって。誉はないのか?」
あっという間にバスローブを脱がされ、ベッドへと放り投げられる。
羽毛をふんだんに使った柔らかい布団に背中から落下。特に痛みはないが、展開の早さについていけない。
目を白黒させているうちに、5人の美女が広いベッドに上がってくる。
四つん這いで、まるで獣のような彼女達。その捕食者の瞳が、本能的な恐怖を刺激する。
だが、それ以上に『え、マジでエッチなことしていいの?』という思考と、美女達のあられもない姿に魔力制御が乱れた。
いかん、息子が!?
「あらあら、まあまあ」
「目指す先が見えた……!後は前進あるのみ!」
「ふしゅぅぅぅ……!むふぅぅぅ……!」
「うふふふふふふ……これでもう、誰も私を行き遅れだの、カビが生えていそうだの、女の幸せだけが人生じゃないなど、言えませんね……!フラウ様、お先に母とならせていただきます……!」
「まぁ!と、殿方の股間は、初めて見ました……!なんと勇壮な姿か。まるで無骨な大剣が如し」
がっしりと四肢を押さえられ、ルーナさんが正面を陣取ってくる。
視界の端で、グリンダがサムズアップをしてきた。
「じゃ、頑張ってくださいね!」
「……せめて、優しくお願いします……!」
文化が……違う……!
というかこれ。あちこちの貴族が『真実の愛』に走るのって、やっぱり勇者教だけが理由じゃないのでは?
* * *
朝がきた。
部屋の窓を開けると、秋が来て少しだけ冷たくなった風が、ひゅぅと体を撫でていく。
それが、火照った体にはむしろ心地よかった。
「……やってしまった」
「清々しい顔で何を言っているのですか、若様」
お湯の入った桶とタオルを手に、グリンダが部屋に戻ってきた。
真新しいメイド服姿の彼女に視線を向けるも、恥ずかしくなって再び窓の外に顔を向ける。
「いや……何というか、濃密な体験だったなぁって」
「でしょうね。気絶した人の体を綺麗にするのが、あんなに大変だとは思いませんでした。それも5人」
「なんか、すみません」
でも、彼女らがああなったのは、グリンダが『色々』したのも原因だと思うのだ。
僕のせいだけではないと、声を大にして言いたい。いや、言わないけども。
「あと、世の貴族達が『真実の愛』に走った理由が、少しだけわかりました」
「えっ。あれだけ大暴れしといて……?」
「いえ、僕はノーマルのままなんですけどね?こう、捕食される側の恐怖とか、種馬扱いとか。あとは、貴族の血の有用性と危険性とか考えると、妊娠とか考えなくて良い相手との関係に、惹かれてしまう人も多いのかなって」
「まあ、貴族の子供とかほとんど確定で魔力持ちですからね」
一般的な騎士でも、前世だったらオリンピックで無双できる肉体スペックをしている。優勝確実とは言わないが、ジャンルの異なる複数の種目で表彰台に上がるのは間違いない。
しかも、貴族程じゃないが魔法も使える。騎士の数だけで戦争が決まるわけではないが、それでも槍と弓が戦場の主力をやっている世界だ。彼らは人間兵器と言っても、過言ではない。
だからといって、下手したら精通してすぐこの扱いでは、そりゃあ『真実の愛』に走る貴族も出てくる。自分はもう15歳だし、なにより転生者だから『ご褒美では……?』感があっただけで。
……グリンダとの子供が生まれたら、ガードはしっかりした方が良いかもしれない。父上みたいにならない範囲で。
「勇者教だけが原因ではなく、騎士達のそういう所も改善していった方が良いんじゃないかなって、そう思ったのです」
「なるほど。つまり賢者モードなのですね」
「いやそういうことじゃなくって」
「なんと。まだしたりないと……?」
「それもちがっ……違いますよ?」
「……若様は本当にお元気ですね」
ちゃうねん。この体が、この体が悪いねん。
転生者ボディは、自分の想像以上にタフだった。それだけなのである。
僕は悪くない……!
「お義父様……ケネスさんが喜びそうです。いえ、彼だけではなく、他の家臣達も、ですが」
「だ、だからそういう所がですね……」
「騎士達だって必死です。自分達が特権階級側でいられるのは、平民よりも魔力が高いから。もしも子や孫が力を失えば、子孫は何の権限も持てず野垂死ぬ。主家というサラブレッドを大事にするのは、自らの一族の為でもあるのです」
「それは……はい」
「こっちも大変だったんですからね?色んな人の嫌味やら愚痴やら催促やらを聞くの。特に愚痴。もう、悲壮感に溢れていて……」
「……すみません」
深い、それは深いため息をするグリンダ。どうやら、自分の知らない所で随分と苦労していたらしい。
父上があんな感じなので、家臣達が不安になるのもわかる。
何があれって、あの人滅茶苦茶長生きしそうだし……。殺しても死ななそうなしぶとさなので、寿命で亡くなる頃には、自分もお爺さんになっていそうである。
僕は父上が120歳まで生きたとしても、驚かんぞ。何なら90歳まで現役で、悪魔みたいに笑いながら戦場で槍を振り回していそうである。
「まっ、その辺の問題も解決しそうですし」
グリンダが、キラリと白い歯を輝かせる。
「これからも『生産』に励んでくださいませ、若様!」
「生産って。子供を労働力や戦力としか見ないのは、ちょっと……」
『そういう所は21世紀の価値観だね、君……』
『貴女こそ、そういう所はこっちに染まりましたね』
2人しか起きていない部屋にて、そう苦笑を浮かべあった。
なお、この部屋から見て屋敷の反対側。庭の一角にて。
『若様の若様は超元気!』
『我らが人竜は夜の方もドラゴン級!』
『無限のタフネス!無限の可能性!ストラトス家は永遠なり!』
『おち●ちんランド開園!!』
などなど。頭の痛くなることを書いた旗を掲げたおっさん騎士達が朝からどんちゃん騒ぎしていたので、全員はっ倒した。
貴方達、本当にそういう所ですからね???
読んでいただきありがとうございます。
感想、評価、ブックマーク。励みになっております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。
ケネス
「え。だって、次期当主が騎士の娘を3人以上抱いた場合、どこの家でも祭りはやりますし……」
アレックスさん
「むしろ、戦争中でなければ領内の村々に祝い酒を振舞うのが通例ですから……」
作中大陸の一般騎士
「常識では?」
クロノ
「本当に……本っっ当に、そういう所ですよ……?」




