第17話 レッドファミリーと呪い
レッドファミリーは、いわゆる高級住宅街に大きな屋敷を構えている。俺は屋敷の入り口で手続きをして広い庭を「馬車」で移動していた。
「やや、まさかお受けいただけるとは」
俺を出迎えたレッドファミリーのボス・ラウザーは品の良い紳士。貴族というくらいだから俺なんかよりもはるかに目上のはずなのに、年下の身分もわからないような男にもかなり腰が低い。
「状況を伺っても?」
馬車の中、簡単に聞いた説明は「娘が眠りの呪いにかけられたからその犯人を探して討伐して欲しい」だった。なんでも、お抱えの占い師が呪いの種別や特定をしたがそれを解除するためには術者を倒さないとダメだという。
まるでファンタジーゲームのクエストである。
「それで術者はかなり強いかもしれないと伺い、最近話題のマレンさんにお願いできれば確実だろうと踏んだのです」
「そりゃ、どうも。最善を尽くします。うわ……すごい」
馬車を降りて見えてきた正面玄関はまるで城のように広く豪華絢爛、観音開きの扉の先にはいくつものシャンデリアが揺れるロビー、あわただしく使用人たちが行き来している。
ゾゾスファミリーの屋敷もなかなか広いと思っていたが桁が違う。
「今から娘の眠る部屋にご案内しますが……その」
ラウザーは俺にそっと耳打ちをする。
「妻が少し気難しく……失礼な態度があるかもしれません。あらかじめお許しください」
と申し訳なさそうに言った。
その様子をみて俺はあの「娘を報酬」にした人間が誰なのか少しだけ想像がついた。
***
まるでお姫様の部屋、天蓋付きのベッドで眠っている少女はすやすやと眠っている。金色の長い髪、まつ毛まで金色。少し頬が赤く、額にはおかしな紋章が浮かんでいる。
広い部屋、ソファーには彼女にそっくりな貴婦人とラウザー、それから金髪の青年が腰掛けている。
「僕が頼りないばっかりに、申し訳ありません」
青年は美しい顔を悔しそうに歪める。男の俺が見ても綺麗な顔だ。そして、そんな彼を見る母親の目に違和感があった。息子を心配するものではなく、女の甘えるようなソレだったからだ。
「いいのよ、アイデン。貴方が危険を犯す必要などないの。貴方はレッドファミリーの跡取りなのだから」
「母上、僕は跡取りだからこそ大事な妹を救わねばならないのです。ソフィナは苦しんでいるのですから。マレンさん、お願いです。必ず妹を救ってください」
アイデンの王子様のような青い瞳にクラクラしつつ、俺は口を開く。
「あの、クエスト報酬について良いですか」
「ええ、なんなりと。足りなければいくらでも僕が用意しましょう。時期当主ですから少しくらい僕にも金は動かせますから」
「いえ、そうじゃなくて。この妹さんに関する『女中奉公または嫁入り』の件です。俺としては、ここに関しては娘さんの意識が回復したら彼女の意思を尊重したい。呪いから目覚めてすぐに知らない男と結婚、知らない家に奉公に来いなど……さすがに容認できません」
アイデンの顔色がスッと変わり、母親に強い視線が向かう。
「母上、どういうことですか。ソフィナを嫁? 女中奉公? どういうことです? まだ彼女は18ですよ?」
「あら、アイデン。あの子はもう18よ。私だって18の頃にはたくさんお見合いをしていたわ。それにあの子は不出来ですから優秀なゾゾスファミリーに嫁に行かせたほうがいいでしょう?」
「あの、ご婦人。御言葉ですが……俺は娘さんの意見を尊重したいと思っています。あと……流石に嫁も自分でしっかり選びたいです。ですから、彼女がうちのファミリーに入りたいというなら入れる。そうでなければ保留で」
ビリビリと感じる嫌な雰囲気。俺はどうしてこの母親のもとでアイデンがちゃんと育ったのが疑問に感じた。いや、アイデンが妹を大事にすればするほど母親にとっては邪魔な存在にランクアップしているのかもしれない。
「とにかく、さっさと術士とやらを倒してちょうだい。いいわね」
婦人は席を立つと部屋を出て行ってしまった。申し訳なさそうなラウザーは「自分は婿養子で権限がないのです」と申し訳なさそうに言った。
「あの、この呪いはいつから?」
俺の質問に答えたのはラウザーだ。
「ちょうど数ヶ月前です。ソフィナ……娘の18の誕生日でした。誕生日に部屋から出てこなかった彼女を心配になった妻が発見し、多くの呪術師や占い師に見てもらったものの……我々には術者を探し出すことしかできず」
「その術者は?」
「西にある海岸に砦があります。その中に術士グランというものがおり……占い師の話じゃ娘の呪いの糸はそこに繋がっている……と」
——術士グラン
初めて人型のやつとの戦闘か。少し楽しみな分、自分が人型の相手に非情になれるのか不安でもあった。
「わかりました」
「では、まずはここに行ってください。グランの居場所を突き止めた占い師です。彼女もきっと一緒に討伐に参加してくれるでしょう。アイデン、母さんのことはすまなかった。君には言わないように言われていてね」
「父上、僕にはわかりません。母上がどうしてこうもソフィナを嫁に出したがるのか。ソフィナは大学への進学を希望していたでしょう? なんで女中奉公なんか」
「母さんは自身がレッドファミリーの令嬢に生まれ、早くに結婚と跡取りを要求されて辛い思いをしてきたんだ。だから……」
「だからなんです? 自分がされて嫌だったことをどうしてお腹を痛めて産んだ娘にするのです? 僕には理解ができません。なぜ母上は僕と同じようにソフィナを大事にしないのか。同じ子供だというのに」
俺は前世で聞いた嫌な思い出が過ぎる。胸糞悪い話だ。
どんなに世界が違っても、人間という生き物がいる限り、同じようなことが怒るのかもしれない。
「アイデンさん、俺は必ず術士とやらを倒しますがソフィナさんについては彼女の意思を尊重します。俺だって目覚めてすぐに知らない場所に行けなんて言われるのはごめんですからね」
「あぁ、なんと言えばいいか。ありがとう、お願いします」




